「クナさん、外でそんな事をしてはいけません。はしたないですよ!」
* * *
「はぁ~~……めっちゃ恥ずかしかったぁ……」
宿屋に戻った僕は、一人でトイレにこもり気持ちを落ち着かせていた。
アリシアがスライム戦で告白をして、その後生き残った事で気まずさを感じているのは想像できた。だから僕の方からちゃんとした返事なり、答えなりを伝える必要があったのだ。
そう、僕は女性に恥をかかせてはいけないという信念を持っている。なぜかと言われたら、これまで見てきたマンガやゲームのセリフに感銘を受けたからだろう。
だから必要以上に返事を先延ばしにして、なぁなぁの関係にしてしまう事やアリシアにいつまでも恥ずかしい想いをさせる事は避けたかったんだ。
クナから仲間全員を等しく可愛がってほしいという提案を受け、アリシアにも自分の気持ちを伝えやすくなったのは渡りに船だった。いや、それら全てがアリシアの憂いを解消させるためだったのだろう。
なんにせよアリシアには僕の気持ちを伝える事で、気まずさを払拭する事ができたはずだ。その代わりめちゃくちゃ恥ずかしかった訳だが……
「今まで彼女どころか女友達さえ作った事がなかったのに、とんでも無い事になっちゃったなぁ……」
とはいえ、僕ももう子供じゃない。ギャルゲーやらラブコメ物やらで知識や倫理観では後れは取らないはず……
とにかく今は、現状でやれることをやりながら少しずつ慣れていくしかない。
そうして気持ちを落ち着かせてからトイレを出ると、そこにはいつの間にか戻って来ていたルミルと鉢合わせた。
「あ、ご主人だ! 今から何すんの? 遊ぶ?」
そう言って僕の周りをグルグル回り、背中に飛びついてきた!
こんな関係になって一番戸惑ってそうなツンデレ娘のルミルだと思ったけど、意外と懐いてきている事に驚いた。
まぁ、ルミルは機嫌の良い時と悪い時で温度差が激しいからなぁ。今はどうやら機嫌がいいらしい。
「今から宿屋を出て地下施設へ行きますよ。ショウさんに森の調査を依頼されていたじゃないですか。その報告に行かないと」
「ああ、そういえばそうだったね♪」
僕の背中でゆっさゆっさと体を揺らして落ちるかどうかのスリルを楽しんでいるルミル。僕はそんな彼女を落とさないようにオンブの格好で足を掴んだ。
……ん? これは……ルミルの生足!? そうか、オンブも生足を堪能する正当な理由になるんだ!
はぁ~~ルミルの小さくて華奢な足も可愛いなぁ~
「はっ!? ご、ご主人? もう宿屋を出るんだよね? あたしも準備するから、そろそろ降りようかな……?」
「……」
ワザとよろめいてから、ルミルを落とさない感じを装いつつ足をガッチリと掴む。手触りはすべすべだ!
「ね、ねぇ、ほんともう降りるから……ね? 脚放そ?」
「……」
あたかも体勢を直すフリをしてルミルを背中の上へと浮かせるように持ち上げる。そんな動作を二、三回繰り返しながら足をさりげなく触っていく。
「うわあああああ放せえええええこの駄主人んんんんん!!」
ば、ばかな!? 僕のさりげないお触りに気が付いただと!? ただオンブをするという行為のはずだったのに!?
「くっ!? ぜってー放すものかあああ! 僕の生足だあああああ」
「こいつ本性表しやがった~~!! 『震魂!!』」
な、なにぃ!? スキルを使用しただとぉ!? だが、この展開は以前にもやったので想定済みだ!
流石にスキルを使われたら抑え込むのは不可能。ならば……くすぐる!
ルミルが僕の背中から逃げるまでの一瞬で、僕は彼女の足をこちょこちょとくすぐった。
「きゃあん!」
「ふっ……どうせ逃げられるなら一矢報いるのみ! 可愛い悲鳴いただきました!」
ビシッと人差し指中指を立てて額の辺りでポーズをとる。
「バカ! 変態! 死ね! 覚えてろぉ!!」
顔を赤くして逃げていくルミル。
う~ん、ルミルとの距離感は以前とあんま変わらない気がする……
まぁいいか。こういうスキンシップで仲良くなっていくんだから。……マジでキモがられてなければいいが……
そんなコミュニケーションを取りながらも僕達は全員で宿屋を出る。いい加減出ないとその分お金がかかるからね。
とりあえず地下施設へ行ってショウさんに依頼報告をしなければならない。そのためにノビリン村を出ようとしていた。
「それでね、この駄主人がまたあたしの足を放さなくてさ! ほんと油断も隙も無いんだから!」
僕の後ろでルミルがさっきの出来事をみんなに愚痴っていた……
「なるほど。旦那様は足を触りたいのですね。では私の足を触らせる事にしましょう!」
そう言ってからクナは僕の前に立ちはだかり、そのスカートをたくし上げた!
「旦那様、私の足で良ければいくら触っても構いませんよ♪」
「ク、クナ!? やめときなって! 変態駄主人にペロペロ舐めまわされるよ!!」
ルミルの声のトーンが本気で心配するソレなんだけど、あいつは僕をなんだと思ってるんだ?
「さぁ旦那様、好きなだけ触ってください♪」
そう言いながら頬を染めるクナに僕は近付く。そしてクナの手首を掴み、そのたくし上げるスカートをそっと降ろさせた。
「クナさん、外でそんな事をしてはいけません。はしたないですよ!」
「!」
「!!」
「!?」
おそらくその場の女子全員が感嘆符を浮かべたであろう。そんな表情となった。
「もう少し慎みを持ってください。欲望に身を任せるほど僕達は子供じゃないんですから」
「え……あ、はい……ごめんなさい……?」
クナは謝りながらも困惑して首をかしげている。
「マスターが生足に惹かれないなんて……おかしくなっちゃったのかしら?」
「っていうか散々やりたい放題やった後でその発言は怒りを覚えるんだけど……」
アリシアとルミルはヒソヒソ話をしているが、ぶっちゃけ全部聞こえてるんだよなぁ……
「ゴホン! いいですか皆さん! 確かに僕は全員を等しく愛すると約束しました。けれどこういう外ではベタベタする気はありません。なぜだか分かりますかクナ君!」
「ふぇ!? え、え~と……ムラムラしちゃって野外プレイに発展しかねないから……?」
んな訳あるかー! マジで僕をなんだと思ってるんだ!!
「全っ然違います! 人目も憚らずにイチャイチャするのはバカップルのする事だからです!」
するとアリシアが「はい!」と手を挙げた。
「バカップルってなんなのかしら?」
「いい質問ですねアリシア君。バカップルとは人目を気にせず見せつけるようにイチャイチャする頭がお花畑の連中の事です。僕はこのバカップルを犯罪者だと思っているので覚えておいてください!」
「そこまで罪深い行為なの!?」
ルミルが驚いているが当然である。あの見せつけ行為はもはや人の心を見失っていると言っても過言ではない。
「いいですかルミル君。世の中には恋人を作りたくても作れない人だっているんです。もしそんな人の前でイチャイチャしたらどうなると思います? その人、自殺したくなりますよ。こちとら殺人未遂で有罪判決ですよ?」
「大げさすぎない!?」
「大げさじゃありません。少し前まで僕がそうでしたから」
「あ……」と、みんな表情が哀れみに変わる。
やめろぉ! そんな目で僕を見るなぁ!!
「自殺を考えない人もいますけど、そういう人は大抵殺意を抱きます。バカップルは常に周りから死を願われている事も忘れないでください」
「絶妙な説得力で笑うところなのか本気にするところか分からないんだけど!?」
もちろん本気で言ってるんだよなぁ……
「さぁ皆さん、バカップルと見なされて周りから暗殺を企てられないように、平常運転のまま村を去りますよ!」
「これはマスターが極端なのかしら? 私達が無知なのかしら?」
「多分、半々じゃないかな……」
アリシアとルミルが困惑しているが、僕は気にせずに前に進んだ。そして村の出入り口に差し掛かった時だった。
「お待ちくだされ、冒険者ジン殿!」
後ろから初老の男性に呼び止められた。
さらにはその周りにゾロゾロと村人が集まって来る。
「先日は近場の森にて凶悪な魔物を退治していただき、誠にありがとうございました。感謝の気持ちが遅くなってしまった事は許容してもらえると助かりまする」
そう言って頭を下げてきた。誰なのかを尋ねると、彼はこの村の代表者らしい。いわゆる村長さんのような立場なのだろう。
「気持ち程度でしかありませんが、村人から少しずつ集めました。お納めください」
村長さんが渡してきた袋にはお金が入っていた。なんと十万くらいはある。
「そんな、こんな大金受け取れませんよ……」
「いえ、我々はこの暮らしに慣れ始め、魔物の脅威というのを忘れかけておりました。ジン殿があの魔物を討伐してくれなかったら村の壊滅に繋がっていたと考察する冒険者もいるほどです。これでもまだ足りないとは思いますが、ぜひこれからの活躍の足しにしてくだされ」
僕も仕事を経験している成人男性だ。あまり断り続けるのも失礼だろう。二回ほど遠慮して、それでも引き下がらない村長さんに感謝をしつつお金を受け取る事にした。
「そうだ。それなら一つ、僕の主張も聞いてください。この村の冒険者にガチャ娘ノーマルを使っている人はいませんか? いないのなら、ぜひ使ってみてほしいんです!」
そうして低レアリティの現状を伝える。決して弱くなんてないし、大切なのは絆だという事。使ってもらえなくて不憫な想いをしているという事。
周りの村人は嚙みしめるように聞いてくれていた。
「ジン殿のガチャ娘はみなレベルが100を超える猛者と伺っております。恩人でもあり達観した人物の貴重なアドバイスは、きっとこれから村を守るのに必要な信託となるでしょう。ずっと語り継いでいく事にしますぞ!」
なんだか大げさな気もするけど、今回はマジで全滅しかけるくらい頑張ったし別にいいか。
そうして僕達は大勢に手を振られながら村を出る。結構ヤバい依頼だったけど、こうして終わってみれば得る物は大きかったと思える内容だった。
そんな清々しい気持ちで旅立てることに感謝しつつ、僕達は村を出るのだった。




