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「強引に押し込んできて……そんな激しい攻めに、つい声が出ちゃって……」

「魔物発見! あれがドラゴロンってやつじゃないの?」


 ルミルのハンマーが示す先に、正に怪獣と呼べる造形の魔物がいた。

 トラックくらいの大きさで、恐竜と呼ぶべきか、ドラゴンと呼ぶべきか……

 爬虫類をそのまま大きくしたようにも見えるその魔物は、四つん這いで地面を這うように移動していた。

 背中が色違いの鱗で覆われており、上からの攻撃には耐性がありそうだ。

 自動車くらいの大きさで、アルマジロの顔をドラゴンにしたような魔物であった。


「あれがこの森で注意すべき魔物の一匹、ドラゴロンですか……」


 僕がどうすべきか考えている時だった。そのドラゴロンがこちらに気付き、威嚇するように地面を踏み鳴らし始める。


「う~ん……あたし、さっき魔力使いすぎちゃったから、今回は温存したいなぁ」


 そうルミルが申し訳なさそうに言った。

 確かにルミルの一撃は凄まじいけど、その分燃費が悪い。震魂と爆壊。これを2セット使うともう魔力がカツカツらしい。

 今はレベルも上がったので、もう1セットくらい行けるのだろうか? 魔石に蓄えてある魔力もあるので、実際はそれなりに数は撃てそうなのだが、なんにせよ消費は激しい。


「なら、私が相手をするわね」


 そう言ってアリシアが前に出る。するとドラゴロンはこちらに向かって走り出した!

 刀を構えるアリシア。次の瞬間、ドラゴロンはその巨体を丸めてボール状になった!

 ゴロンゴロンと平らな地面を激しく転がり、こちらに向かって突っ込んでくる。アルマジロが防御のために体を丸めるのだとしたら、ドラゴロンは攻撃のために丸くなるのだろう。

 アリシアはそんなドラゴロンに飛び掛かった!


「断斬!」


 カツン!

 巻き込まれないよう、すれ違い様に放った一閃は鱗に弾かれていた。

 その丸い形と転がる回転で、アリシアの斬撃がうまく通らなかったんだ。


「ありゃ、アリシアがしくじったね。こうなりゃあたしが止めるしかないか……」

「いや、ここはクナさんに任せましょう。ちょうど防御面もみたかった事ですし。クナさん、あの魔物の勢いを止めてください」

「は、はい~! スキル『マスターシールド!!』」


 転がりながら突撃してくる魔物の前に、人間をすっぽりと隠せる大きさの盾が出現する。その盾は魔物と激突すると勢いで後退するが、なんとか動きを止める事に成功した。

 ……しかし……


「きゃあん! くふぅ……た、耐えなきゃ……でも……ああん!」


 なぜかクナが喘ぎ始める……

 魔物は動きを止められても自ら回転しようと地面を擦り、こちら側へと進もうとしていた。


「そ、そんな激しく……ダメ! ん……それ以上は……あぁ……壊れちゃう~!」


 クナさ~~~ん!? なんて声を出してんの!? 僕だって可愛い女の子と旅をするにあたって色々我慢してる部分もあるんだから、ちょっとそういうのは控えてもらわないと困るよ!?

 クールなお兄さんを演じているけど、さすがにそんな悩殺ボイスは反則だから!


「くぉら~~でかオッパイ! 変な声出してご主人を魅了する作戦か!? このイヤらしいオッパイ族め!!」


 そしてなぜかルミルが半ギレしていた……

 そんな波乱の中、アリシアは再度飛び掛かる。そのまま動きの止まったドラゴロンを一刀両断にすると、倒れた魔物に目もくれずスタスタとクナの前まで歩み寄った。


「そういうエッチな誘惑、いけないと思うわ」


 いつもの笑顔で、それでいて圧を感じる雰囲気であった……

 というか、アリシアが珍しく怒ってないか?


「ち、ち、違います! 別にエッチな事なんて……ただ魔物が強引に押し込んできて……そんな激しい攻めに、つい声が出ちゃって……」

「だあああ! だからそういうところがエロオッパイなんだよ! 完全に実る前に収穫してやる!」


 なんだかオッサン臭い発言をしながらルミルがクナへ飛び掛かる。そんなルミルから逃げるようにクナは周囲を逃げ回っていた。

 ……なんだこの状況。僕は楽しんでいいのだろうか……?

 そんな時だった。

 ――ボコボコボコ!


「へ……? きゃあああ~!!」


 いきなり地面の中から触手が伸びて、逃げ回っていたクナへと絡みつく。そしてそのまま拘束されたクナは空中へと持ち上げられてしまった。


「な、な、なんですかこれぇ……体中を這い回られて……あん! 変なとこ触らないでください~……」


 またエッチな目に合ってる……

 しかし触手か~。魔物と戦う旅をしている以上、いつかはこういう触手に絡まれるシーンを見れるんじゃないかと若干期待していた自分がいた。不謹慎だがそれは認めよう!


「くっ!? クナさんが掴まってしまいました! 急いで助けないと!!」


 なんかこう、身動きが取れない状態で好きなようにされるっていうシチュエーション? そういうのがドキドキするんだよなぁ。


「くっ! 植物の魔物でしょうか。一体どこに!? 早く本体を見つけ出さないと!!」


 しかもなんか表情とかエロくなるのもドキッとするんだよね。なんだろう、必死に抵抗するんだけど、逃げられなくて、そんな疲労、焦り、困惑、恐怖が入り交じるような表情がエロいんだ。


「はっ!? 奇妙な顔が浮かび上がる巨木!? あれは奇面樹!? この一帯で注意すべき魔物ですよ! くっ!! みんな気を付けてください!!」


 そんな状況だからこそ、震えるような声もまた色っぽく聞こえてしまう。やっぱり触手には男の夢が詰まっている! ああ、一目見れただけでもありがたい!


「なんてエロい触手なんだ……」


 くっ! 早く助け出しましょう。皆さん急いでください!!


「駄主人、心の声が漏れてるよ。マジでその発言危ないって!」

「このままじゃマスターが太ももフェチから変態触手好きに進化してしまうわ! 早く魔物を倒さないと! 行くわよルミル。マスターを助けなきゃ!」


 なぜかクナではなく僕が心配されていた……

 人間の顔が浮かび上がる不気味な魔物、奇面樹。地面に触手を忍ばせて通る獲物を捕食するのか。

 この世界は植物まで食物連鎖の頂点に立とうとしていてビックリするなぁ。だけど触手自体はそこまで強度が高くないようだ。アリシアの高速から繰り出される剣技に触手は切断され、また触手の動き自体もそこまで速くない。

 アリシアの剣技でクナはあっさりと救出され、ルミルのスキルによって奇面樹は一撃で粉砕されてしまった。そして助け出されたクナは……


「クナ、エッチな誘惑は良くないって言ったわよね?」

「わ、私、魔物に掴まっただけなんですけど!?」


 またしてもアリシアに異様な圧をかけられるのだった……


「こうなったらルミル、クナにサーチをかけるのよ! 本性が分かるかもしれないわ!」

「なるほどがってん! 『サーチ!』」


 なんだか勝手に盛り上がる女性陣に僕も結果が気になってしまう。それでもここは紳士的に澄ましておこうかな……


名前   :クナ

体力   :ふつう

攻撃力  :低め

防御力  :まぁまぁ

素早さ  :トロい

精神力  :赤ちゃん

探知   :素人

推定戦力 :無理したら即お陀仏

総評   :防御特化のタンク。本人にその気はないものの、なぜかいつもエロい目に合う。それでも当の本人は「それで旦那様が意識してくれるなら別にいっか♪」と思っている。


「ええええええ!? ご、誤解です! そんな事……ほとんど思ってません!」

「本性を現したなこのエロおっぱい! アリシアどうする? 処す?」

「……えっと、まさかこんな結果になるなんて……なんかゴメンね……」


 むむぅ、一体何が表示されたんだ? 気になって仕方がない。よし、こっそり覗いしまおう!

 そうして僕が画面を見ようとすると、それに気が付いたルミルが素早く隠してしまった。


「駄主人は見ちゃダメ! いっとくけどね、今はクナに気を取られてたけど、同時に駄主人も変態触手好きの容疑がかけられてるんだからねっ!」


 そ、そんな……あんなに甲斐甲斐しく看病をしてくれた仲間達からそんな疑いを掛けられるなんて!


「くっ! 僕は悲しいです! 仲間達からこれほど信用してもらえないだなんて……くっ!」

「……あたし気付いたんだけどさ、駄主人が『くっ!』ってカッコつける時って大抵自分のやましい気持ちを隠す時なんだよね」


 ば、ばかな!? 僕にそんな変な法則なんてある訳が……


「くっ! まさかあの奇面樹、僕達を仲間割れさせるスキルを持っていたのでしょうか。なんて悪質な魔物なんだ! くっ!!」

「いや、だからそれやめい! 必死に悔しそうな顔作ってるけど、今そんなシリアスな話してないから!」


 ギャースギャース!

 なんだか変な方向へ話題が向かおうとしていたその時だった。


「……あれ? あそこにいるの魔物じゃない?」


 アリシアがふとそんな事を言った。

 僕達が正気に戻ってその方向を見ると、遠くに一匹だけ、中型の猿がこちらを見つめている。

 しかもその右手には、人が扱う剣を握りしめているのだった……

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