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「以前よりどれだけ強くなれたのか、試させてもらうわ!」

「悪鬼と戦うとしたら、アリシアさんと二人旅をしていた時以来ですね。どうです? 今は一人でも勝てそうですか?」

「ん~……大丈夫なんじゃないかしら。あの時より攻撃力も上がってるし、多分勝てると思うわ」


 相変わらず答えがフワッとしてるなぁ……

 そんな風に若干不安を感じる僕を他所に、クナがこの話に喰いついて来た。


「アリシア様は悪鬼という魔物と戦った事があるんですね。旦那様と共に激しいバトルを乗り越え深まる愛情! 羨ましいです~♪」


 クナは身体をクネクネとうねらせて悶絶している。良くも悪くも恋愛脳なのが彼女の特筆すべき個性だ。


「あ、愛情なんてそんな、えへへ♪ でもあの戦いでマスターともっと仲良くなれたのよね。マスター格好良かったんだから!」


 そう言ってアリシアは後ろから僕に抱きついて来た。腕を首に回して、全体重を僕に乗せてくるもんだからよろけてしまう。


「アリシア。ご主人に抱きつくと変態モードになって反撃されるからやめた方がいいよ」


 ジト目をしながらルミルがそう告げる。


「大丈夫! マスターは太ももフェチだから、そこを強調しなければ無害♪」


 おっとぉ!? ここにきて僕の性癖を把握されつつある! 確かに胸を押し当てられただけじゃあ特段何も感じたりはしない。

 ……ただ女の子に抱きつかれること自体、僕の理性を奪う行為だというのを理解していないな。

 恐らく多くの男性は、『女の子に後ろから抱き着かれて体重を掛けられながら耳元で話しかけられる行為』というのは憧れのシチュエーションなのだ!


「なるほど。旦那様は太ももフェチなのですね……私もスカート短くしようかな……」


 そしてクナが真剣な顔でスカートの端を持ち、何か考察を繰り返していた……


「アンタらふざけすぎ。ほら、魔物の気配がするからそろそろまじめにやって!」


 ルミルの一言でその場の空気が一変する。前方からは鬼の形相でこちらを睨みつける大男の姿があった。


「悪鬼ですね……」


 どす黒い肌。膨れ上がる筋肉。体毛で覆われている体。角の生えた頭。

 威圧感のある巨体に、ゴリラと鬼を混ぜたような凶悪な顔つき。

 久しぶりに見た悪鬼だけれど、そのインパクトに僕の体はブルッと震えるのだった。


「グゥゥ……ガアアアーーーー!!」


 悪鬼が吠える。そのけたたましい咆哮が森に響き渡った。

 威嚇しているのだろうか? それでも僕達は引くわけにはいかない。


「待って、後ろからも魔物の気配がするよ! もう一匹来る!!」


 ルミルの叫び声に僕達は後ろを見る。すると遠くからもう一匹の悪鬼がこちらへズンズンと向かってくるのが見えた。

 まさかさっきの雄叫びって……仲間を呼んでいた!?

 マズい! これで悪鬼に挟み撃ちにされた形となってしまった!

 落ち着け! 今はみんなの戦力は上がっている。決して挟み撃ちにされても戦えるだけの戦力は持っているはずだ。


「正面の悪鬼はアリシアさんが対処してください! 後ろの悪鬼はルミルさんに任せます! ただし無理はせず、厳しいようならすぐに退却をしますよ!」


 了解、と二人はそれぞれの悪鬼へ向かって走り出す。そしてその場には僕とクナだけが残された。


「クナさんは僕の護衛です。いいですか、クナさんは僕の指示をしっかりと守ってください」

「はい。私は旦那様の指示に従います。それしか出来ないけど、どんな言いつけも絶対に遂行します!」


 そう、状況を見ながらクナに適切な指示を与える。それが今の僕の役割だ。


「クナさんは基本的に僕を守る役目がありますが、もしもアリシアさんやルミルさんがピンチの時は、彼女たちも守ってください。そのためにマスターシールドをレベル10にしたんですから」

「わ、わ、分かりました! 私の役目は旦那様を守る事の他に、アリシア様とルミル様も必要に応じて守る事!」


 クナは自分に言い聞かせるように繰り返す。そうしているうちに、アリシアは悪鬼へと切りかかっていた!


「以前よりどれだけ強くなれたのか、試させてもらうわ!」


 そう言ってアリシアは刀を正面から振り下ろす。それをガードもしない悪鬼は体に斬撃を浴びていた。

 悪鬼の肉体にスッと赤い線が浮かぶ。ただその傷はあまりにも薄く、とてもダメージと呼べるものではなかった。


「グガァ!」


 自分への攻撃なんて気にもせず、悪鬼はアリシアを掴みかかろうとしていた。

 しかし、そこは流石のアリシアだ。攻撃直後でも俊敏な動きで悪鬼からすぐに距離を取っていた。


「やっぱり硬いわね。ならこれでどうかしら!」


 アリシアが大きく跳び上がる。そして高く振りかざした刀には魔力が集まり、異様な雰囲気を漂わせた。


「断っ斬っ!!」


 振り下ろすその刀に何を感じたのか、悪鬼は丸太のような太い腕でガードを試みた。しかし――

 斬!!

 アリシアの一撃は悪鬼の腕を切り落としていた。

 流石はアリシアの低火力を補うべく生まれた技だ。斬ると断つを同時に行うその技は、岩石でできたゴーレムすら両断するのだから。


「グギャアアア!」


 悪鬼が吠える。しかしアリシアは、怯んだ相手に畳みかけるよう飛び掛かっていた。


「もう一発! 断斬!!」


 ズバァ……!

 横薙ぎで首を狙う。すると一撃では首を落とせなかったものの、切り裂いた傷から大量の血が噴き出した。そのまま悪鬼は動かなくなり、地面へと倒れ伏せた。


「む~……断斬は武器が重くなりすぎて振り下ろす以外じゃ扱うのが難しいわ……」


 そうボヤキながらその場で素振りをするアリシア。もはや完全に悪鬼は彼女の練習相手という感じだった。

 それに対してルミルは……


震魂(しんこん)! うりゃあああああ!!」


 ドカドカズカズカドカドカズカズカ!!

 お互いに激しいラッシュで激戦を繰り広げていた。

 大きな拳で殴りつけようという悪鬼に、ハンマーでそれをはじき返すルミル。真っ向勝負の打ち合いが続いていた。


「んにゃっぴ!!」


 僅かな隙を見逃さず、悪鬼に一撃を叩き込むルミル。その衝撃でよろめく悪鬼だったが、特に表情も変えずにまた向かって行く。


「くっそ~……震魂だけじゃ火力が足りないかぁ。魔力を節約したかったけど、仕方ない!」


 そうしてハンマーを振りかざす!


爆壊(ばっかい)!!」


 魔力がハンマーを覆うと、不敵な輝きで彩られる。

 悪鬼は助走をつけてルミルに拳を振るい、ルミルもまたその拳に向かってハンマー振り抜いた!

 ――ズガアアアアアン!!

 大きな炸裂音と共に黒煙が広がる。爆弾でも爆発したのかと思える衝撃が駆け抜けると、そこに悪鬼の面影は残っていなかった。

 悪鬼の拳を狙った一撃は、その拳どころか上半身を全て吹き飛ばし、残った下半身は地面に転がるのみ……


「これだと今度は火力が強すぎるんだよねぇ……」


 こちらもぼやきながら、ルミルはポリポリと頭をかいていた。


「ア、アリシア様もルミル様も強いですね。いや、敵が弱かったのでしょうか?」

「いや、あの二人が強すぎるんですよ……」


 クナのバグりそうな感覚を修正する。そう、これは間違いなく二人が強いのだ。

 そもそもスピードタイプのアリシアは、その一歩で敵を寄せ付けない速さを持っている。それが高火力の断斬という技を習得する事によって穴がなくなった。

 仮にアリシアの剣技が通じない相手が現れたとしても、ルミルの超火力で補えばいい。

 この二人を負かそうとするなら、それこそカルルのようなステータスを持っていないと成しえないのだ。


「勝った勝った~! なんだ~今のあたし達なら楽勝じゃん♪」


 ルミルは上機嫌だ。本当に二人が強くなってくれて嬉しい限りなんだけど、その油断が命取りになる場合だってある。そこを僕が引き締めてあげないと!


「二人共お疲れ様です。恐らく二人の戦力なら大丈夫でしょう。ですが、気を抜かずに森の調査を続行します! くれぐれも油断しないでくださいよ」


 心に余裕が生まれた。あとは調子に乗らず、しっかりと見極めていくだけだ。

 そんな時だった。ルミルが急に後ろを振り返り、一点をジッと見つめ始めた。


「ルミルさん、どうしました?」

「……何か気配を感じたんだけど、もう分からなくなっちゃった。誰かに見られていたような感じだったけど、もしかしたら気のせいかも……」


 見られていた? 魔物に?

 とりあえずは様子を見ながら森を進んでいくしかない。


「このまま少しずつ森の探索を続けます。ルミルさんは引き続き魔物の気配を探ってください」

「了~解!」


 そうして僕達は再び歩き始める。このまま何も起こらずに調査が終わる事を願いながら……

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