「ラヴパワー!!」
「とりあえず今日は次の街を目指しますよ」
元々昨日から他の街に移るつもりだったので、今日から旅を再開しようと思う。
「りょーかい! じゃあこれも持っていこう!」
そう言ってルミルは枝に引っ掛けてある魔石がはまった腕輪に飛びついた。
枝から外すと、何のためらいもなくそれを握りしめて僕の隣で並んで歩きだす。
「……え? ちょ……待っ……それ持ってくんですか?」
「だってこれに触ればいつでもあの地下迷宮に帰れるんだよ? ベッドもあるし快適じゃん!」
「いやいや、確かに寝床は魅力的ですけど誰かが住んでいる場所かもしれないんですよ!?」
「でも誰もいなかったじゃん?」
「いやいやいやいや、そういう問題じゃなくてですね……」
しかしルミルは全く引かない。
「じゃあこうしよう? あの地下の部屋を使ってて、誰かが戻ってきたらその時は謝って許してもらおう? ほら、昨日だって泊ったけど誰も来なかったし」
え、何その発想!? バレなきゃ何をしてもいいみたいな考え方。ちょっと怖い!
「ご主人だってさ、一日一日の宿代が大変だって言ってるじゃん? 毎日必死に魔物を解体して売りさばいてるじゃん? クナも仲間に加わって本格的に金銭面がヤバいんじゃない? これを利用しない手はないと思うんだよね」
た、確かにお金は切実な問題だ。なんならガチャ娘の育成にだってお金はかかる。
いつかはなんとかしなければならない問題ではあった。
「もしかしたもう持ち主は死んじゃってるかもしれないんだよ? だったらあたし達が使ってあげる方が喜んでくれるんじゃないかな? このままじゃああの部屋もほこりをかぶって可哀そうだよ……」
くっ……。何そのいい話に持っていこうとする流れは! 優しさに付け込もうとするんじゃないよ!
……でも、演技だと分かっていても悲しそうな表情をするルミルの目を見ていると否定しずらくなってくるぅ……
僕は助けを求めるようにアリシアの方を見た。するとアリシアが意見を出してくれる。
「まぁ、勝手に使うのは良くない事だけど、実際この転送装置は使えるわよね。ヤバい魔物に遭遇した時に緊急避難としても使えるのは間違いないわ」
ぐ……確かにそうだけど……
「旦那様の生存率を考えれば利用しない手はないですね。私、謝るのは得意ですからその時が来たら私が頭を下げますよ」
えぇ~……クナも持っていくのに賛成なのぉ!?
仕方ない。こう多数決で押されると僕は否定できない性格なんだよなぁ……
「分かりました。けど、もしも所有者に怒られた時はみんなも謝ってくださいよ?」
「「「は~い!」」」
みんなニッコニコなんだけど……
本当に分かってるのかな……
とにかく、今日の目的は別の街に移動する事。そしてさらに、クナの戦力を強化する事だ!
とりあえず目の前にクサフカヒの街があるので、今日の分のクエストだけは請け負っておく。こうする事で、次の街を目指しながら魔物討伐のデイリークエストを消化できるのだ。
「では本格的に移動を開始する訳ですが、クナさんは僕の指示に従って修行をしてもらいます」
「は、はい! よろしくお願いします旦那様!」
クナのステータスやスキルを見る限り、彼女は防御型の後方支援タイプ。レベルもまだ低いので、いきなり戦わせる訳にもいかない。
なので……
「クナさんには今から徹底的にスキルを使ってもらいます! あの巨大な盾を出現させるやつです」
「マ、マスターシールドですか?」
そう、防御型はなんと言っても守れてなんぼ。ならばそのスキルをうまく使いこなせるかで価値が変わるのだ!
「初めて使った時は十秒くらいで消滅してましたよね? あれをもっと長く維持できるようになってほしいんです」
「わ、分かりました。旦那様の指示は絶対です。何とか少しでも長く出現していられるように頑張ってみます!」
そうして、クナはスキルを使用する。
「スキル『マスターシールド!』」
巨大な盾が出現すると、クナは真剣な表情で両手をかざした。
「す、少しでも……長く……くぅ……や……ダメ……あん……た、耐えなきゃ……」
なんだかすごく色っぽい声を出して堪えている。
いや、うまくいってるよ? 十秒以上は出現してくれている。
けどさ……
「はぁ……はぁ……くぅぅ……んん……もう……だめぇ……」
いやエロいな! なんでそんな悶えるように体をくねらせて、艶めかしい表情になるんだよ!
スキルを使う度にこんな喘がれたらこっちの体がもたないわ!
僕の頭が熱くなっていると、ついにマスターシールドが消えてしまった。
「ふぅ……ふぅ……一分もしないうちに果てちゃいましたよぉ……」
言い方ぁ! そして息遣いがもうエッチな事されたソレと遜色が無いんだよ!
どうしよう。ぶっちゃけこんな展開になると思ってなかったからマジでどう声を掛けていいのか分からない!
するとルミルが眉間にしわを寄せながらクナに迫っていった。
「オッパイか!? このでっかいオッパイのせいでそんなにエロいのか!? なんか許せねぇ!!」
スパーン! ルミルの平手打ちがクナのオッペェに炸裂した!
ブルンと震える二つの巨峰。乳ビンタなんて初めて見たよ……
だけどそんな動きに僕は目が離せなかった。
悔しい……僕は太もも派なのに……
「な、なんで私怒られてるんですかぁ~……」
そして本人にエロい自覚は一切なかった。
この天然モノは中々厄介かもしれない。まぁ打たれたオッペェは関係ないと思うけどね……
「おっほん! クナさん、マスターシールドは一度使うとリキャストタイムに入って少しの間使えなくなってしまいます。だからまた使用できるようになったらドンドン使ってスキルに慣れましょう。それが魔力操作の訓練にもなるし、他の使い道が見えるかもしれませんから」
「わ、わかりました旦那様!」
そうしてクナに何度もスキルを使わせる事を指示する。
「リキャストタイムの間はアリシアさんから魔力の講義を受けてください。ルミルさんは周囲の魔物の気配に探ってください」
こうしてそれぞれに役割を与えておく。そうすれば次の街が見える頃には多少なりとも自分のスキルの扱いが分かってくるのではないだろうか?
「でね、自分の中にある魔力をいかに扱えるかで効果が大きく変わってくるのよ」
「な、なるほど……です」
そして今はアリシアから魔力について説明をされていた。
「ど、どうすれば魔力をうまく引き出せるんですか?」
「そうねぇ……なんかこう、自分が『今だ!!』って思うタイミングがあるから、その時にひねり出すのよ!」
「は、はぁ……?」
マズい。アリシアの教え方が想像以上に雑だ。
そう言えばアリシアって良く言えば天才型。悪く言えば物事を深く考えないアホの子タイプだから、教えるのは不向きかもしれない……
「あたしはテンションが上がると魔力も引き出せるよ」
先頭を歩くルミルがそうアドバイスをしてくれた。
「私はダッシュして体を動かしてると魔力が溢れてくるわ! 水を持って走ると零れちゃうような感覚ね!」
それは魔力を扱えているのではなくて強引に刺激しているだけでは……
まぁ本人がそれでうまい事やってるのなら別にいいんだけど。
「じ、自分なりの魔力操作……それなら私は愛の力を魔力に置き換えます!」
どういう訳か、クナがそんな結論へと行きついてしまった。
「私の持つ旦那様への愛! それを自身の力に変えて! いざ『マスターシールド!!』」
正面に巨大な盾が出現する。しかも今回は魔力が湯気のように立ち昇り、しっかりとした存在感を醸し出していた。
「ラヴパワー!!」
クナの体からも魔力が溢れ出る。それは盾とリンクするように繋がっていた。
「凄い! なんかめっちゃ安定してません? クナさん、それって動かせたりできないんですか?」
「や、やってみます! ラヴパワー!!」
「それいちいち言わないとダメなの!?」
ルミルのツッコミを気にする事も無く、盾がクナの意思で動き始めた。出現時間も伸びて大きな進化を感じる!
「凄いですよ! アリシアさんやルミルさんは魔力の操作に時間がかかったというのに!」
「えへへ、旦那様のおかげです♪」
「え、私が教えたのに!?」
軽くショックを受けるアリシアを他所に、クナは僕に抱きついて来た。
「褒めてください旦那様~」
「仕方ないですね、よ~しよし。よ~しよしよし!」
撫でわましてあげるとクナは嬉しそうにしてくれた。
「マスター、何デレデレしてるの!」
「ふぇ!? べべべべ別にデレデレなんてしししししてねーし!」
「駄主人、目ぇ泳ぎすぎ。口調もおかしな事になってるから」
そんなこんなと絶妙な温度差のある視線を浴びながら、僕達は少しずつ道を進んでいくのだった……




