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「それじゃあガチャを引きますね。せーの!」

 ――チュドーン! ズガーン! バコーン!!

 爆音やら破壊音が響く中、僕は石の上に座りながら空を眺めていた。

 次の街に行くのはいつにしようか? この後に出発? いやいや明日からでも遅くはないだろう。そもそも急ぐ旅って訳でもないし……

 そんな事を考えていると、フラフラとした足取りでルミルが近付いて来た。


「も、もう無理……死ぬぅ~……」


 そんな彼女に僕は『お疲れ様』とねぎらいの言葉を掛ける事しか出来ない。

 そう、お昼過ぎの今現在、ルミルとアリシアはリアちゃんの遊び相手として、追いかけっこという名の修行を行っていた。


「というか無理でしょ! いくらガチャ娘同士は死なないプラクティスモードとはいえ、あんな事があった後にリアを攻撃できるほど鬼じゃないから! ハンマー振り下ろすなんてできないから!」


 ルミルと追いかけっこをしているリアちゃんは容赦なくルミルを攻撃し、その凄まじい破壊力からルミルは幾度となく吹き飛ばされていた。

 このリアちゃんことリキュアの身体、そしてカルルは一年以上の時間をかけ、育成素材を使用してステータスをほぼカンストさせているらしい。その戦力差は一対一ではなかなか超えるのは難しいだろう。現にルミルとアリシアの二人がかりで、カルル一人に喰らいつくのがやっとだったのだから。


「でも、ルミルさんの防御面は良くなっていると思います。しっかりとガード出来てきたじゃないですか」

「ん~……まぁね。あたしとしてもこれからは攻撃一辺倒じゃなく、ちゃんと防御や回避で敵への反撃を狙える戦い方を覚えていかないとダメだからね。昨日カルルと戦ってそれを痛感したし」


 僕の前でうつ伏せに倒れ込んでそう答える。そんなルミルは相当お疲れのご様子だった。


「それにしてもアレで魔石なしとかステータスおかしいでしょ! こっちはレベル10の魔石で戦力10万以上増えてて、向こうは逆に10万以上減ってるのに勝てる気しないし!!」

「まぁ、元々戦力差が二倍ほどあるらしいので……10万くらいの増減じゃあまだまだ追いついていないんでしょうね」


 そう話していると、後ろからリアちゃんが笑顔で近付いて来た。


「ルミルさん、休憩早いよぉ。まだまだこれからが本番なんだからね♪」

「あああぁぁ~~……」


 そうして手を掴まれてズルズルと引きずられていく。僕はそんなルミルに手を振ってあげる事しかできなかった。

 そのさらに奥ではアリシアとカルルが武器を交えている。と言っても、猛スピードで攻防を繰り広げているため、僕からはもはや影が映る程度にしか見えない。

 そんなカルルは、アリシアに適切なアドバイスを送りながら相手をしているようだった。


「もっと体内の魔力を意識したりして! 今のアリシアは『精神力』の魔石を装備しているんだ。体でスピードを出そうとするんじゃなく、体内の魔力を操作して速さを調節するイメージで!」

「う、うん、やってみる!」


 そうして武器がぶつかる金属音と、地面を駆け巡る足音ばかりが響き渡る。うん、アリシア組はしっかりと修行になっているみたいだ。

 そうした午後を過ごす事によって、二人がまた新しい戦い方を学ぶことができたのではないだろうか。そう信じながらもこの日は過ぎていくのだった。


 ――そして冒険開始から10日目。


 二日もリアちゃんのお宅に泊めてもらったので、もう迷惑はかけられない。今日の午後にはこの街を出発する事を決意した。

 だがその前に、ついにこの日が来てしまった。毎日ギルドポイントを貯めてきたその報酬。ガチャチケットが無料で交換できるこの日が来たのだ!

 まぁ、僕達の旅は急ぐものでもない。午前中はしっかりとデイリークエストを消化して、新しい仲間を迎え入れてから次の街へ向かうとしよう。

 そうして、この日も魔物討伐のクエストをこなして報酬を貰いつつ、日々のギルドポイントでガチャチケットを手に入れた。


「なんか、ガチャチケ一枚手に入れるのに物凄く時間がかかった気がしますね……」

「ルミルを呼び出した時は緊急クエストのMVP報酬だったしね。懐かしいわぁ」


 アリシアと思い出に浸りながら、とりあえずリアちゃんのお宅へと帰宅する。そこでみんなの前でガチャチケットを使う事になっていた。

 なんだかんだでみんな、ガチャの結果は気になるみたいだ。まぁガチャ娘からすれば知り合いが召喚されるかもしれないしね。


「それじゃあガチャを引きますね。せーの!」


 僕がガチャチケットの『使用する』というボタンを押すと、正面には太鼓を鳴らすオッサンの画面が出現した。

 この演出も久しぶりで懐かしいのぅ。


「せいや! せいや! せいや! せいや!」


 オッサン達の汗がほとばしり、画面もより熱気がこもっている。


「熱い! 熱い! 熱い! 熱い!」


 あれ? オッサンのセリフが変わった!? 前にガチャを引いた時はこんなセリフじゃ無かった気がする。あれ? これもしかしたら高レア演出なんじゃない!?

 パアアァァッ!

 正面が輝き、その画面の輝きから一人の人影が飛び出してくる。

 ぶっちゃけ、この世界のガチャって現状ではSRが育てにくい状況なんで、最高レアよりも低レアの方が使いやすいのが正直なところだ。それでもソシャゲが大好きなゲーマーとしては、ガチャのレア演出に心躍るものがあったりした。


「あ、あああわわわわわ~~!!」


 人影が一人の女性として認識できた瞬間、その子はつんのめって地面にへばりつくように転んでしまっていた。


「あはは~、ドジっ子だ~♪」

「ま、ガチャ娘には色んな奴がいたりなんかするからなぁ」


 リアちゃんとカルルが面白がって見物している。

 僕もどうしたものかと考えていると、その女性はムクリと起き上がった。


「いたた……あ、あの、私、クナと言います。レ、レアリティはR(レア)。よ、よ、よろしくお願いします……」


 言葉が続くにつれて声が小さくなっていき、最後の方は聞き取れないくらいにゴニョゴニョしている。どうやらドジっ子というよりは気弱なキャラのようだ。

 少し垂れ目なその瞳は、僕をチラチラと見るだけで目を合わせようとはしない。身長は僕やアリシアよりも少しだけ高いといったところだ。

 髪は黒のロングだけれど、前髪やもみあげなど所々を金色に染めている。僕の世界で言うメッシュというやつだろうか? 少し俯くとその前髪で目元が隠れてしまっていた。


「よろしくねクナ。私はアリシアよ!」

「あたしはルミル。うちのご主人はSRじゃなくても使ってくれるから安心して」


 フレンドリーに挨拶をする二人に、クナは少し驚いた様子で見比べている。そうしながら立ち上がる彼女の格好は、良くも悪くも『村娘』という印象だった。

 上下が一つとなっている布の服を腰の帯で縛っており、そのスカートの丈は長い。

 胸元はその胸の膨らみのためか、余裕を持たせるように大きく開いていた。


「……おっぱい大きいね!」


 不意にルミルがそんな事を口走り、クナはビクッと震えながら両腕で自分の胸を隠した。


「でも大丈夫よ! マスターは胸に興味が無いから」


 アリシアの言葉にクナがホッしている。

 というか、僕をそんな風に紹介しないでほしい。他に述べる点は無いのだろうか?


「確かにご主人はおっぱいに興味ないけど、太ももは大好きだよ。だからご主人と仲良くなりたかったら、短いスカートをはけばいいからね。こんな風に!」


 そう言ってルミルは、クナのロングスカートをたくし上げた!

 その瞬間、僕の目には美しい脚線美が飛び込んでくる。太くなく、細すぎもしない綺麗な太ももは女性らしく内股であった。


「ぐわっ!? 胸が苦しい!!」


 僕は自分の胸を抑えて衝動を堪える。こんな魅惑的な生足を見たら、誰だって魅了されるに決まっている!


「きゃあああ!? 止めてください!!」


 クナがルミルの手を振りほどくと、スカートは元に戻る。当然、僕の鼓動も治まった。


「ほらね。……ってか、なんでご主人はダメージを受けたようなリアクションでカッコつけてるの?」


 そう言ってルミルは再びクナのスカートをたくし上げる。


「がはっ!? 心臓が破裂しそうだ! くっ……僕の体よ、耐えてくれっ!!」

「あはは~、面白~い♪」


 ルミルは完全に僕達で遊んでいた……


「も、も、もう止めてください!!」


 するとクナはルミルの拘束を振り払って僕達と距離を開けてしまった。


「そ、そ、そうやって私の体に欲情してもダメですよ! わ、わ、私には……夫がいるんですからっ!!」


 顔を赤くして涙目になったクナは、確かにそう言って僕を警戒するのだった。

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