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「マスターって胸よりも太もも派だって前に言ってたじゃない?」

               * * *


「はぁ~……」


 ため息を吐きながら僕は考える。ただひたすら考える……

 『僕って特に必要ないんじゃね?』っと……

 リキュアとカルルの、どちらがガチャ娘かを当てるクイズから始まった一連の騒動。アレはうちのアリシアが完全独断先行で行動した結果、いつの間にかハッピーエンドを迎えていた。

 そう、僕はひたすら地味な立ち位置だった訳だ。

 もうアリシアは僕がいなくても立派に判断ができるのだ。だとしたら、僕の存在ははっきり言ってお荷物だと言っても過言ではない。

 あれだ。部活でいう顧問の先生みたいな感じじゃなかろうか?

 みんなで気楽に部活動をしている時、顧問の先生がフラッと来たもんだから緊張で空気が重くなってしまうやつ。

 普段はいないんだから早く出てってくれないかなぁとか心の中で思われてるやつ……

 今の僕ってそんな立ち位置なんじゃないかな……?


「どうしたのマスター。ため息なんか吐いて」

「いやまぁ、今後の事を考えておりまして……」


 そうテキトウな事を言っておく。

 冒険を始めて九日目。このクサフカヒの街に着いてから三日目の現在、僕達は相変わらず討伐クエストをこなしている最中だ。

 というのも、リアちゃんの意識を戻してくれたお礼という事で、昨夜は彼女の家に泊まらせてもらっていた。そして今日、その日のクエストをこなしつつ、まだ午後からはリアちゃんの遊び相手をするという約束を交わしているという訳だ。


「そんな事よりさぁご主人。ちょっと肩車してよぅ」


 そう言ってきたのは僕やアリシアよりも背が低いルミルだった。


「別にいいですけど、どうしたんです?」

「いやさぁ、目線が高いほうが魔物を発見しやすくなる訳じゃん? ついでにあたしは歩かずに楽も出来て一石二鳥!」


 そうして跳び上がると、ロボットアニメの合体シーンのように僕の首にドッキングしてきた。

 プールの飛び込み禁止ならぬ、飛び肩車禁止だと張り紙を付けておくべきかもしれない。ジャンプして首に飛び乗ってくるだなんて、下手をしたら首も肩も痛めそうだ。


「おお~、楽ちん楽ちん♪」


 そう言ってはしゃいでいるルミルは機嫌が良さそうだ。どうやら僕の事は部活の顧問ほど煙たがっている訳ではないらしい。


「……ルミル、随分とマスターに心を許したのね」


 少し意外そうな顔をしてアリシアがそう言った。


「いや、別に心を許すとかそんなんじゃないし。肩車くらい普通でしょ?」


 そう、ちょっと言い訳っぽくルミルが答える。


「いやそうじゃなくてね、ほら、マスターって胸よりも太もも派だって前に言ってたじゃない? そんなマスターに肩車してもらうだなんて、かなり信頼してるなぁって……」


 一瞬、その場が無言となって静けさが訪れた。

 だがすぐに、その静寂をルミルが壊す。


「あ~……、あのさご主人、やっぱ自分で歩くからもういいや。そろそろ下ろしてくれない?」

「……」


 今、僕の首と耳の辺りにはルミルの太ももが密着している。そう、あの丈の短いミニ浴衣のような和装で、自ら僕に飛び乗ってきたのだ。

 それは幼いながらも綺麗な形で、見る者を引き付ける極上の脚線美。

 そう。足が綺麗な者に老いも若いも関係ない。

 そう、足が美しければそれだけで宝石のような輝きとなる!

 ギュウギュウ、ニギニギ。

 ギュウギュウ、ニギニギ。


「あ、あのねご主人様。ホントもういいから。お願いだから離して。ね?」


 太ももを魅せる事とは己を強調する事。

 その太ももを触らせてくれるという事は自分の全てを相手に捧げるという事!

 スリスリ。サワサワ。

 スリスリ。サワサワ。


「うわああああ離せぇぇぇぇこの駄主人んんんん!!」


 ついにルミルが暴れ出した。

 そんなルミルの足を僕は必死に押さえつける!


「くっ! 手が離れない! くぅっ、これはどういう事なんだ!? っく! 手がまるで言う事を効かない!!」

「何が『くっ』だぁ!! 必死に抗ってる感じ出してカッコつけんな!! ただ単にセクハラしたいだけでしょうが!!」


 くっ! ダメだ。離したくない! こんなチャンスはもう二度とないんだ!!

 絶対に離してなるものかぁ!! もっと堪能したい。もっと触らせてくれぇ~!!


「こんのぉ~!! 『震魂!!』」


 な、なにぃ!? 僕のような普通の人間から逃れるためだけにスキルを使用しただとぉ!?


「ぐぬぬぬぬ……負けてたまるかぁ~~!!」

「あ! いま本音出た! やっぱりただの太ももフェチだ!! さっさと離せぇこの変態駄主人!!」


 凄まじい力で僕の拘束を解き、地面に着地したルミルは脱兎の如く逃げていく。そうしてアリシアの後ろに隠れながら猫のように僕を威嚇していた。


「はっ!? 僕は一体何をしていたんでしょうか。くっ!? 思い出そうとすると頭がっ!」

「いや絶対嘘でしょ! そのちょっとカッコつけた『くっ』って言うのやめい!」


 そんな風にルミルとじゃれていると、アリシアがニコニコしながらこう言ってくれた。


「二人共、ほんと仲良くなったわね♪」


 そうまとめてくれるところがありがたい。こういった小競り合いもキッチリと締めてくれるのだから。

 こうして、僕達の討伐クエストを行っていた午前中はなんの問題も無く過ぎていく。

 ルミルがちょっと噛みついてきそうな唸り声をあげているけど、そのうち元に戻るだろう。そんな出来事を経験しながら、僕達はリアちゃんの家に戻っていくのだった。


「みんなおかえりなさい。待ってたよっ!」


 そう出迎えてくれたのは、もはや元気いっぱいのリアちゃんだ。リキュア本人の時は丸メガネをかけていたけど、リアちゃんに変わってからはメガネは外している。どうやらそういうのはファッション的な飾りで、好みで付け替え自由な要素らしい……


「実はね、アリシアさん達にはお世話になったから、改めてお礼がしたかったんだ。それでどうしようかってカルルと話し合ったんだけど、これをプレゼントする事にしたの!」


 そう言って、リアちゃんはアリシアに何かを手渡す。


「ほい。ルミルには私からな~」


 カルルも何かをルミルに渡した。

 僕も気になって覗き込んでみると、二人が渡されたのはなんと魔石だった。


「いいんですか? これ、お二人が装備してた魔石ですよね?」

「うんうん。これくらいしか渡せるのがないからね」


 と、リアちゃんが答える。さらに彼女はこう続けた。


「それにね、リキュアは魔力制御を優先するため上昇効果は精神力。カルルの上昇効果は防御力になってるんだ。二人は多分、スピードと攻撃力でしょ? ちょっと合わないかもしれないけど、きっと今装備している魔石よりも戦力は上がると思うんだ」


 次にカルルが付け足すように口を開いた。


「アリシアには前に教えたが、魔石の本当の使い道はステータス上昇じゃない。その内部に蓄えられている魔力そのものだ。確かお前たち、冒険を始めてから十日も経ってないんだろ? 絶対この魔石の方が役に立ったりするぞ!」


 確かアリシアが装備している魔石はレベル5。ルミルはレベル4だったはず。


「その魔石ってレベルはいくつなんですか?」

「レベル9だ。私達が一年かけて作り上げたりなんかした!」

「レ、レベル9の魔石!?」


 とんでもない代物に思わず大声をあげてしまう。そんな僕をアリシアもルミルもキョトンとしながら見ていた。


「レベル9の魔石ってそんなに凄いの?」

「魔石を装備した時の上り幅を見ていないんですか!? 僕の想像通りならとんでもない事になりますよ!」


 そう。魔石は同じレベルを掛け合わせると成長する。

 レベル4同士を一つにするとレベル5に。また1から作っていってレベル5を合わせてレベル6にする。それを繰り返してレベル9を目指す訳だが、そもそも魔石自体が入手困難な上に、デイリーで運よく手に入ってもレベル1だ。レベル9を二つ作るのに一年かかったというのも頷ける。


「……それじゃあさ、私達の魔石と交換しましょ?」


 なんとアリシアがそう提案した。


「私達の魔石はまだまだレベルが低いけど、無いよりマシだと思うの。だから交換してお互いの役に立てたらなって……」


 アリシアが自分の魔石を外してリアちゃんに差し出す。けれどリアちゃんは少し迷っているようだった。


「いいのかな? 私達はただ、アリシアさん達にお礼をしたかっただけなのに……」

「いいのいいの。これからは儀式のためじゃなく、この街のためにガチャ娘をやっていくんでしょ? 少しでも戦力の足しにしないとね。それに友情の証だと思ってくれればこっちもうれしいわ!」


 そう言うと、リアちゃんは大事そうにアリシアの魔石を受け取った。


「ありがとう。これ、最後まで育てて使うね!」


 そうしてルミルもカルルに自分の魔石を渡す。そうして二人は改めてレベル9の魔石を装備した。


名前   :アリシア(覚醒)

魔石   :素早さ上昇LV5 → 精神力上昇LV9

推定戦力 :35万5000   → 47万5000


名前   :ルミル(覚醒)

魔石   :攻撃力上昇LV4 → 防御力上昇LV9

推定戦力 :31万3000   → 43万7000


 やっぱりそうだ。魔石は同じレベルを合わせて育てるため、レベルが上がると上昇値が倍になる。

 レベル1が500。レベル2は倍の1000。レベル3はさらに倍。そういう計算だとレベル9だと12万8000も戦力が上がるんだ。

 僕はステータスを表示して、アリシアとルミルの目の前に弾いて見せた。


「……え? これ……戦力が10万以上あがってるんだけど~~!?」


 案の定、二人は目を真ん丸にして驚いて、そのリアクションを見ていたリアちゃん達はお腹を抱えて笑っているのだった。

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