「こんなエンドなんて誰も望んでない!」
「カルル、私も素材集めに同行します」
「大丈夫か? 今日は休んだ方がよかったりしない?」
リキュアの体に入った私はこの体に慣れなくてはいけなかった。そう、つまり戦闘もやらなくちゃいけないからだ。だから調子が悪そうに見える今がむしろ都合が良い!
「休んでいたらお母様に小言を言われますから……だから行きます」
リキュアは私のお母さんを『お母様』と呼んでいる。そういう情報全てを頭に入れてリキュアを演じる。
大丈夫。私にはリキュアの記憶があるんだから!
「でも記憶が安定しないから、私の戦闘をサポートしてほしいんです。手伝ってくれませんか?」
「もちろんいいぜ! リキュアは私が守る! なんつってね♪」
私とカルルとリキュアは仲が良い。それはリキュアの記憶からもまず間違いなかった。
今の私にとって、それは何よりも嬉しかった。
「じゃあ、ちょっと戦ってみますね。危なくなったらちゃんと助けてくださいね?」
「分かってるって。今日のリキュアは弱気で可愛いな♪」
まぁ、私リアだしね。戦闘なんて初めてだからね……
そんな私の不安はすぐに消える事となる。
ガチャ娘としての強い体と、これまでのリキュアの記憶がすぐにリンクするような形となり、体が勝手に動くと言っても過言ではなかった。
「昨日よりかは多少ぎこちないけど、まぁ大丈夫だろ。どこか体がおかしい所とか無いか?」
「はい、問題ないみたいですね。カルル、付き合ってくれてありがとうございます」
「へへっ、よせやい!」
そうして私はあっさりとリキュアの体に馴染む事ができた。
そして今まで病気のため体を安静にする事を余儀なくされていた私にとって、このガチャ娘の体が魅力的だと感じたのは言うまでもない。体を思い切り動かす事が楽しかった私は、カルルと素材集めの度に興奮を押さえながら大地を駆け回っていた。
それはとても楽しいひととき。けど、家に帰ればお母さんの態度で心はキツく締め付けられた……
「今日は何の素材も集まらなかったですって!? そんな事で本当にリアを救えると思っているの!?」
半狂乱となるお母さんに、私もカルルもただ謝る事しかできなかった……
「ああリア。私の可愛い娘。早くあなたに会いたい……うぅ……うわああぁぁ……」
もはや情緒が不安定で、こんな状態のお母さんに何を言ってもダメだと思った。もとい、もはや私がリアだなんて言えるタイミングなんてとうに逃していた。
だから私はこのまま進むしかなかった。このままのプラン通り、次の星と星が重なる日にリキュアと意識を交換する。そうしてリキュアの口から、今までの自分がリアだったんだと伝えてもらうしかないと思った。
そうすればお母さんも自分の態度を悔い改めて、カルルやリキュアに優しくなるかもしれない。私達みんなが仲良しになって、みんなが笑顔になるかもしれない。……もう、このプランに賭けるしかなかった。
もちろんこれが正しい選択かは分からない。何が正しくて、何が間違いなのかも分からない。
誰にも相談できなくて、誰にも苦しいって言えなくて、もうどうしていいのか分からない。
誰か助けてよ。お願いだから、お母さんを優しいお母さんに戻してください。幸せな家族を返してください。そのためなら私はどんな罰でも受けるから……
そんなある日の事、アリシアと名乗るガチャ娘と、その主である冒険者がこの村にやってきた。
アリシアは私達がどちらもガチャ娘だと気が付いて、後日、尾行を行ってきた。
この時だった。もしかしたらアリシアが私達の状況を変えてくれるかもしれないと思ったのは。だからこのチャンスにすがろうと思った。
「後ろから付いて来るの、あれアリシアだろ? なんで私達尾行されたりしてんの?」
素材を集めながらカルルがそう聞いてくる。
「さぁ? けどこのまま逃げるのもつまらないから、ゲームをしませんか?」
「ゲーム? どんなの?」
「アリシアさんを全力で撒いて、先に家に帰った方が勝ちっていうゲームです!」
「へぇ~面白そうじゃん。やろうやろう!」
そうしてカルルは私の提案に乗ってくれた。
「それじゃあ……ゲームスタート!!」
私達は一斉に走り出す。するとアリシアも慌てた感じで追いかけて来た。
カルルは私のルートを外れて脇道に逸れる。よし。これでカルルは間違いなく家に向かった。あとはアリシアに私達に状況をやんわりほのめかす!
私が思いついたのはこんな感じだ。彼女には悪いけど、うまく誘導してカルルと戦ってもらう。そしてアリシアが勝ったら今日の儀式を中断して、カルルが勝ったらそのままプランは変更しない。
そうする事で、私から切り出せなかったこの状況を第三者であるアリシアから語ってもらうというもの。
うん。アリシアはしっかりと私に付いてきてくれている。
この体になって約一年。カルルと一緒に育成素材も集めてレベル200まで育て上げた。そんな私にちゃんと付いて来れている!
おまけにアリシアにはライバル視している仲間もいるから、割とカルルといい勝負をしてくれそうな気がしていた。
あとは私達の『どっちがガチャ娘かを当てるクイズ』を利用する。大丈夫。思考も、質問の内容も、全部が全部誘導できる範囲なのだから。
リキュアは頭がいいからね。そんな頭や記憶を使えば、私にだってこれくらいできちゃうのだ。
そうして星と星が重なる日、最後の最後で私達を助けてくれるかもしれないアリシアに全てを託す。
もちろん何がどうなっても恨みはしないよ。けどさ、期待してもいいよね? お願いだからさ、少しくらい期待させてほしいんだ。
どうか私の……私達の助け舟になりますように……
* * *
「私リアちゃんじゃありません! 今の私がリキュアなんです!! なのにどうしてリアちゃんが私の意識と交代しようとする記憶が永遠呼び起こされるんですか!?」
リキュアがそう叫んだ。
え、どういう事!? 今日までの間、ずっと私達と話していたのはリアちゃんだったの!?
「カルルはこの事を知っていたの!?」
「……知らなかった。ずっとリキュアだと思ってた……」
私の問いに、カルルは声を震わせてそう答えてくれた。さらにカルルはリキュアの肩に手を置いて問いかけた。
「どうしてリアが自分の意識を手放そうとした!? あの子だって私達がやろうとしている事は理解してたっしょ!?」
「……記憶を思い返すに、言えなかったみたいですね……」
リキュアが俯きながら、言いにくそうに話し出す。
「リアちゃん、話したくてもタイミングが悪くて言えなかったみたいです。言おうとしても、その……お母様がいつも怒鳴っていたので言い出せなかったんです」
「わ、私が……?」
リアちゃんのお母さんが目に見えて困惑していた。
「リアちゃんはこのまま意識を私と交代することでしか真実を伝えられなかったみたいです。そして私やカルルのために、自分が消える事でお母様のそんな態度を改めてもらおうとしたんです! うぅぅ……」
ついにリキュアが泣き出してしまった。
自分の両手で顔を覆って、体を小刻みに揺らし悲しんだ……
「そっか。だからあんなに気持ちが乗っかってたのね……」
リキュアが黙ってしまった代わりに、私は気になっていた事を口にする。
「私ね、リアちゃんと追いかけっこをした時に話を全部聞いたのよ。その時の話し方がさ、物凄くリアちゃんの気持ちを知り尽くしたような話し方だったのね。みんなの事が大好きとか、みんなが笑顔でいてくれる事だけが望みとか言ってたわ。私はそれをリキュアとリアちゃんがしっかりと話し合った事で気持ちを伝え合っているからだと思ってたんだけど、そうじゃなかった。だってあの時からリアちゃんは当の本人で、自分のありのままの気持ちを話していただけだったんだから! リアちゃんは自分の事よりも、みんなが仲良しでいてくれないのが我慢ならなかったんだわ!」
そう言い切った時だった。
「う、うわあああああぁぁ……」
リアちゃんのお母さんが泣き崩れる。両ひざから崩れ落ちるその体をお父さんが必死に支えようとしていた。
「わ、私が……私が今まで怒鳴っていたのが娘だったなんて……私のせいでリアがぁ。ごめんなさい。ごめんなさい。みんな許してぇぇ……」
泣き喚く母親と、体を震わせるリキュアと、何も言えずに拳を握るカルルと……
その場はやりきれない想いだけが残され悲痛な空気に包まれてしまっていた。
「……こんなの納得できない……」
だから私は声を上げる。
「こんなエンドなんて誰も望んでない!」
だから私は諦めない。
「今からもう一度儀式をして、リアちゃんの意識を引っ張り出そう!!」
そう提案した私に、その場の全員が目を見開いて注目するのだった。




