「リキュアの記憶もあるし、リア本人の記憶もちゃんと受け継がれてる」
実は『リキュア』と『リア』の名前が似ている事に途中で気付きました。ややこしくてすみません。
これは別に伏線とかではなく、ただ作者が深く考えていなかっただけです。
「どうしたのルミル?」
「あたし達の魔力がアイツに塞がれて蓄積されてる! 川の水が塞き止められて溜まっていってるような感じ! このままじゃ臨界点を超えた時に爆発しちゃう!!」
私は自分が操作する魔力に意識を集中させる。するとルミルの言う通り、カルルの正面で行き場を失った魔力が膨れ上がっているのが分かった。
「爆発させたらカルルを倒せるんじゃないかしら? プラクティスモードで死ぬ事はないし」
「あたしの爆壊の威力を忘れたの!? あたし単体で地面に大穴開けるほどの威力なんだよ? 今はそれにアリシアの魔力を合わせて、さらに二人分の魔石を解放してる。そんな莫大な魔力が爆発したら近くの街が吹き飛ぶほどの威力になっちゃうよ! っていうか、それ以前にこの場にいるご主人が巻き込まちゃう!!」
そ、それはマズいわ……
私は魔力を上に昇っていくように操作して、空中へ持ち上げようとした。
けれど――
「ダ、ダメだわ! 方向を操作しようとしても、カルルの壁がなんか妙な引っかかり方して向きが変わらない!!」
「アイツどんだけ耐久力高いの!? 魔力包み込みすぎでしょ!!」
さすがルミル。敵にもしっかりとツッコミを入れてくれている……
って、今はそんな事に感心している場合じゃない!! カルルもそろそろ限界っぽいけど、なんかもう意地になっているのか中々諦めてくれない。
「アリシアなんとかして! あとどれくらいで爆発するか分かんないから!」
「ヤバいヤバいヤバい! 全っ然動かないんだけど!?」
放出している魔力をグニョングニョン動かすけれど、一向に改善されない。
なんと言うか、相手にロープの先っちょを掴まれているせいで、こっちが必死にロープを振り回しても真ん中くらいが荒ぶるだけ、みたいな感じになっていた……
「だあぁ~~爆発するぅ~~」
……こうなったら、回避する手段は一つしかない……
「ルミル、魔力の放出を止めましょ。攻撃を止めればいいだけの話だわ……」
「でも、そうしたらカルルを倒せない! せっかくここまで追い詰めたのに……」
「私達の目的は周りのみんなに迷惑をかける事じゃないわ。それにマスターを巻き込むのだけは絶対に避けたいもの……」
うん、とルミルも小さく答えてくれた。
そうして放出していた魔力を絞ろうとしたその時――
「……いや、この戦いはもう私の負けだだったりするなぁ……」
そんなカルルの声が聞こえて来た。そしてカルルの体を覆っていた魔力の輝きが消えた瞬間、塞き止められていた魔力が一気にカルルを突き抜けた!
――ゴオオオオオオオォォォーー……
轟音を響かせて私達の魔力は夜空に昇っていく。爆発してもいいように上向きに操作していたからだろう。
野太い魔力の竜巻は、まるで空に飛翔していく鳥のようにゆっくりと弧を描いて地上から遠くなっていった。
「カルル!!」
そんな私達の魔力を喰らったカルルは吹き飛んでいた。上向きに魔力が昇ったせいか、カルルは強力なアッパーカットを受けた程度に舞い上がり、そして落下して地面に倒れ込む。
私はそんなカルルに急いで駆け寄って抱き起した。
「ごめんカルル。ギブアップしてくれたのね……」
「……別に……あれはもう私の負けだったりしたからね……」
カルルはボロボロになりながらも、力の全てを出し切ったスポーツマンのように笑っていた。
「それに、アリシアの言った事、私も気になってしまったんだ。もし本当にリキュアが儀式を行う事を迷っているのだとしたら、私はずっと一緒にいたのに全く気付かなかった……」
そして、やりきれないような悔しそうな表情も見せていた……
「だから、私も連れて行ってくれ。リキュアの元に!」
「うん。分かったわ。一緒に行きましょ!」
そうしてようやく終わったカルルとの決戦を後に、私達はすぐにリキュアの元に向かう事にした。
カルルを背負うのは私達の中で一番攻撃力の高いルミルが担当する事になり、マスターも含めて一緒に移動を開始する。
私達はカルルの案内で、リキュアと両親が儀式を行っている場所へと急ぐのだった。
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しばらく進むと、遠くに神殿のような建物が見えてきた。けれどそこはよく見れば、あちこちが朽ちていて、とても人が住めるような所ではない建物だった。
屋根どころか外壁も欠けていて雨風もしのげないほどの吹き抜け状態。
等間隔に並んでいる柱も一部が欠損していて、折れた破片も周囲に散らばっている。
床も亀裂が走っていたり、砕けている個所があり、足元をよく見ていないと足を取られてしまいそうなほどだ。
一見して、昔に建てられた神殿が魔物の襲撃で破壊された事を連想するような状態だった。
そんな神殿だけれども、この中にリキュア達がいる。そう思ってさらに足早になったその時だった。
――スウウゥゥゥーー……
その屋根もなさそうな神殿から、一筋の光が天に昇って細く伸び始めた!
その光の先を目で追うと、真上の月は黒く染まり、周りの輪郭だけが白く縁取るように残っている。光の筋は、そんな黒く染まった月に向かって伸びていた。
「完全に星と星が重なりましたね。アレは儀式の最中って事でしょうか!?」
マスターの言葉に焦りが生じる。
せっかくカルルに勝って通してもらえたのに、間に合わなかったとしたらリキュアの納得いく結果にならないんじゃないかしら?
私達は急いで神殿に入った。
ゴツゴツとした瓦礫を乗り越えて必死に中心に向かうと、そこでやっとリキュア達を発見した!
闘技場かと思えるような広いリングの中央で、リキュアは祈りを捧げるような恰好で座り込んでいた。
そしてその様子を見守る両親もいる。一人はリキュアの家に行った時に、怒鳴って私を追い出した母親と思われる女性。もう一人は父親と思われる三十代くらいの男性だった。
リキュアの体からはやはり光が伸びていて、天井のない神殿から月に向かって伸びている。
「リキュア!!」
私は思わず叫んだけれど、こっちを見るのは両親だけで、リキュアは全く反応してくれなかった。
するとリキュアの光は次第に治まり、後には持ってきた火の明かりがユラユラと揺らめくだけになる。一時の沈黙。静寂。無音に私達の誰もがその場から動けなかった。
するとリキュアは力が抜けたのか、その場にパタリと倒れてしまった。
両親はそんなリキュアを心配そうに抱きかかえ、私達も急いで近くに駆け寄った。
両親は私達なんて気にも留めない様子でリキュアに呼びかけている。私も仕方ないのでそんな様子を黙って見守っていた。
「う~ん……」
リキュアが目を覚ました。両親が名前を呼んでみるけど、まだボーっとして何の反応も示さない。
だけど段々と意識が覚醒し始めたのか、リキュアは自分の力で起き上がった。
「私は一体……何がどうなっているんでしょうか……」
まだ混乱しているみたいで、額に手を当てて考え込んでいる。そんな間にも両親はリアの名前を呼び続けたり、儀式という言葉を使って状況を少しずつ伝えようとしていた。
「私は……リアちゃん……? でも……え? なんで!?」
リキュア……もとい、入れ替わったリアちゃんが目に見えて困惑し始める。両手で頭を抱えて、うずくまる様にして震えていた。
「な、なんでこんな記憶があるんですか!? 一体何が起こっていたんですか!?」
そんな困惑しているリアちゃんに、今度はカルルが呼びかけた。
「落ち着けって。一つの体に魂を二つ入れてるんだ。だからリキュアの記憶もあるし、リア本人の記憶もちゃんと受け継がれてる。だから何もおかしな事なんてない――」
「違います!!」
カルルの言葉を遮ってリアちゃんが叫んだ。
「私リアちゃんじゃありません! 今の私がリキュアなんです!! なのにどうしてリアちゃんが私の意識と交代しようとする記憶が永遠呼び起こされるんですか!?」
それを聞いた両親はもちろん、カルルも、私達も絶句して何も分からなくなってしまうのだった……




