「力を合わせるんです!!」
「ルミル、ここからは力を合わせて戦いましょう。カルルを倒すにはルミルの攻撃力が絶対に必要よ。だから私が抱きかかえてあげるわね」
私は刀を納めてからルミルのお腹に腕を巻いて抱きかかえた。
「ええ~!? でもそんな事したらアリシアが動きにくいんじゃ……」
「大丈夫! 風迷路でハンデを無くすから。それにカルルのスキルは人の守りを固める防御系や持続回復ばかり。スピードや攻撃力を上げるバフは持ってない!」
もう不可視化のスキルはリキャストタイムに入っていて使えないし、これでチャンスを狙うしかない……
「あっははは♪ 面白い事を考えるね。そんなんでホントに私から逃げきれたり出来るのかなぁ!」
そう言ってカルルが突撃してきた!
私は魔力を操作して、カルルを抑え込む風と自分の逃げる方向に突風を生み出した。
「風程度じゃ私は止められないよっ!!」
カルルが暴風をぶち抜いて私に迫る!
分かっていた。カルルほどのスペックなら、この程度の風なんてものともしないなんて事は……
それでもいい。ほんの少しでも動きを鈍らせられれば、それを活かして避けて見せる!!
カルルの攻撃をギリギリのところで躱して、逃げて、必死になって立ち回る。私はルミルを抱えたままの状態でもなんとか生存できていた。
と言っても、逃げているだけじゃ勝つ事はできない。スピードタイプの宿命でもあるスタミナ問題のせいで、このまま避け続けてもいずれは動けなくなってしまうのだから。
なら、どこかで攻撃に転じなくちゃ……
私は一か八か攻撃を仕掛ける事にする。カルルの攻めてくるタイミングで、こっちが先に行動を起こした。
「ルミル!!」
合図を出して、ルミルを思い切り振り回す。そのルミルはハンマーを思い切り振り回す!
「こなクソー!」
遠心力を使ったリーチのある攻撃はカカルを捉えていた。
――ガンッ!!
しかし、振り抜いたハンマーをカルルは片手で受け止めてしまっていた……
「まさかこんな踏ん張りの効いてないスイングで私を倒せるだなんて思ってないよねぇ!」
カルルが受け止めたハンマーを振り払い、錫杖を振り上げる。
マズい! 今私達は攻撃を受け止められて動きが止まってしまっている!
慌てて逃げようと地面を蹴るけれど、当然カルルが見逃してくれるはずも無く、私達はカルルの錫杖に薙ぎ払われてしまっていた。
「くぅ……」
思い切り吹き飛ばされた私は、ルミルをギュッと抱きしめながらバランスを戻す事に集中していた。
空中で身を翻し、足から地面に落ちるように体を回す。するとカルルが追撃をするために飛び込んでくるのが分かったので、勢いを殺さずに地面を蹴った!
私に振り下ろされた錫杖は地面を抉る。なんとか間一髪で直撃を避ける事に成功していた。
「……すげぇなアリシア。あの状態から私の追撃を避けるなんてさ」
地面にめり込んだ錫杖を引き抜きながらカルルがそう言った。
「はぁ……はぁ……ありがと。でも今は褒めてもらうよりもリキュアに会わせてくれるほうが嬉しいかな」
それは無理だ、と当然の答えが返ってくる。
私自身でもここまで粘っている事を褒めてあげたい。今の回避だって偶然みたいなものなのだから。
うまい具合に私とルミルの重心が嚙み合って、うまい具合に足から着地できる体勢に立て直せて、うまい具合に回避行動が間に合っただけ……
依然として勝ち筋が見えないのが絶望的だった。
「アリシアごめん。さっきの攻撃、爆壊を使った方が良かったよね……」
「いや、使ってたとしても倒せなかったと思う。カルルの防御力が予想以上だわ……」
そう。甘かったのは私だ。カルルの言う通り、踏ん張りの効いていないルミルの攻撃はたかが知れている。私が振り回しているだけの宙ぶらりん状態で抜けるほどカルルの防御力は甘くない。
一体、どうすれば勝てる……?
「ご主人ただ見てるだけじゃなくて何か作戦教えて~! このままじゃマジでなぶり殺しだから!」
「そ、そう言われましても……」
ルミルがマスターに助けを求める。けれどマスターにも突破口は見つかっていないようだった。
「う~ん困ったな。アリシアはヒョイヒョイと避けるのうまいし、私は攻撃スキルは持ってないし、このままじゃ決着がつかなかったりなんかしてねっ!」
そう言いながらカルルは再び突撃してくる。私は風迷路を使ってその一撃をうまく避けるが……
「これはどうかな!」
カルルが私達の方に手をかざしている。するとその手のひらに魔力が集まり、音速のような速さで撃ち出された。
ヤバいと感じた時にはもう遅く、私はその魔弾の直撃を許してしまっていた。
「ああぁ!!」
吹き飛ばされた瞬間に上下が分からなくなり地面を転がる。もはやルミルも投げ出されていて、どこに転がっていったかも分からなかった。
「これでようやく終わったりなんかするかもね!」
続けざまに光が見えた。カルルの放った魔力は上空に昇り、そこで弾けて無数に分かれて私達に降り注いだ。
それは光の雨と呼ぶべきか、夜空を流れる大量の流星群というべきか……
一つ言えるのは、もはやそれを避けるのは不可能だという事。その絶え間ない魔力の光に、私は全身を何度も打ち付けられて死すら覚悟した……
とはいえ、このプラクティスモードでは死ぬなんて事はなく、当然私は生きている。全身が死ぬほど痛いけど、なんとか意識を失わずに済んだようだ。
周りは空から降り注ぐ魔力のせいで土煙がひどい。そんな視界が効かない中で私は声を出してみた。
「……ルミル、近くにいる? まだ動ける……?」
「……まぁ、なんとか……」
予想外にもルミルの声は近くから聞こえて来た。それだけで少し安心してホッとする……
次第に煙が晴れると、少し遠くでカルルが私達を見下ろしていた。多分、もう勝利を確信している感じだった。
「攻撃スキルがないって言ったそばからこれは酷くないかしら……?」
私はなんとか体を起こしてそう言い放つ。
「嘘は言ってない。私は元々魔力操作に長けたサポーターだったりするからね。今のもスキルじゃなく、ただ魔力を凝縮させて飛ばしただけさ。まぁ防御力の低い相手になら有効ってくらいの威力かな?」
そう言えば初めて会った時もこんな風に魔力を使って助けてくれたっけ。なんだかすっかり忘れてしまっていた……
「さ、これ以上はもう戦えないでしょ。諦めたりなんかしたほうがいいよ」
そうカルルに言われた。確かに、もう全身が痛くてまともに動けない。
そんな時だった。
「そうだ……二人共、力を合わせるんです!!」
突然、マスターが私達に向かってそう叫んだ。
けど何を言っているのか私には分からない。さっきまでずっと力を合わせていたのに、どういう事なのかしら……?
「そ、そっか! ほらアリシア。もう一回抱っこして!」
「ふえ!?」
ルミルがヨロヨロと私に近付いてきて、自ら私のおなかに密着するように潜り込んで来た。そしてクイクイッと顔を動かして、『上を見ろ』と合図をしている。
よく分からないけどルミルの指示通りに上を見ると、そこには欠けた月が浮かんでいた。
丁度半分くらいに欠けた月。そっか、今夜は月食っていう、星と星が重なる日だっけ……
「……あ!」
それを思い出した私も、ようやくマスターが何を言いたいのかを理解した。
ルミルをまた抱えると、残りの力を振り絞って後ろに飛ぶ。そうやってカルルと少しでも距離を取った。
「んんん? まだやるの? ……でも、何か勝機を見出したような顔してたりするね」
再びカルルが構えを取る。錫杖を体の横に持っていき、そのまま腰を少し落とした戦闘態勢……
「ルミル、思いっきり魔力を放出していいから。私が感覚でそれに合わせるわ」
「オッケー! それが最適かもね。やああああっ!!」
ルミルが魔力を放出して私達は包み込まれる。さらに私もそれに乗せるようにして魔力を放出させた。
これが本当に最後の最後。私達の全身全霊を掛けたラストアタックだ。このマスターの作戦に全てを賭ける!!




