「私が答えられる質問であるなら、なんでも教えてあげちゃいますよ♪」
「わりと本気で走ってるのに追いつけない~」
リキュアとカルルを追いかけている私だけど、スピードには自信がある分、追いつけない事がちょっとショックだったりする……
けれど私達の距離は付かず離れずといった感じで、見通しがいい分見失う心配はないと思った。
「結構遠くまで行くわね。帰り道よし!」
ぐにゃぐにゃ曲がったりはしない事と、だだっ広い草原であるためちゃんと方向さえ覚えておけば迷子になる事もないと思う。そうして走り続けていると、段々と木々が生い茂る森のような場所に着いた。
この鬱蒼としている場所、これはもっと近付かないと見失う可能性があるわ……
森の中に入っていくと、運良く二人は立ち止まっていた。私はなぜか木の後ろに隠れてコソコソと様子を伺う。
これは……そう、訓練! あの二人に見つからないように気配を消せるかの訓練をしているのよ!
自分にそう言い聞かせながら隠れていると、二人は何かを話しながら周囲の探索を始めた。しきりに草やら石っころやらを集めている様子だった。
素材集めのクエストでここまできたのかしら?
そうしてしばらく色々と集めていた二人は、目的を果たしたのか、お互いの顔を見合わせて頷いている。そして次の瞬間、また全力で駆け出し始めた!
私も慌てて二人の後を追うために走り出す。二人は草原を走っていた以上のスピードで森を駆け巡っていた。
これ絶対見つかったでしょ!? 私のこと撒こうとしてるでしょ!?
全力で走ると枝を踏みつける音、草に体が擦れる音など物音が鳴る。しかしそんな音を気にしていられる余裕なんてないほど二人は速かった。
まずいまずい、このままじゃ離されて見失っちゃう!
「スキル『韋駄天!』」
ここはなんとしても意地で付いていく! とてつもない速さで木々の間を縫っていく二人を懸命に追いかけた。
すると突然カルルの方が脇道に逸れる。そうして茂みの中へと入っていった彼女は一瞬で見えなくなってしまった。
二手に分かれた!? どっち追う!?
そんな選択肢を選ぶ暇もない。もう私はカルルを見失っているのでこのままリキュアを追うしかないのだから。
それに、なんとなくワイルドな雰囲気のカルルよりおっとりとしているリキュアの方がまだ付いて行けそうな気がした。
しかしそう思ったのもつかの間で、リキュアは崖とも呼べるような急斜面に飛び出していく。正気とは思えない行動に私の背中に冷たいものが走った。
けれどリキュアは木の枝を足場に、木と木を飛び移りながら移動を始める。しかもそのスピードは衰える事はなく、むしろ増していく気がした。
私も半ば意地になっているの、リキュアの動きを真似するように木の枝を足場に飛び移る。スピード勝負では負けたくなかった。
必死に喰らいつく思いでその背中を追っていると、次第にコツが掴めたような気がした。
……そっか。足場を先の先まで見通して動く事が重要なんだわ。ただ次の足場を見るだけじゃ反応に差が出てくる。もっと先まで見通さないと!
先の先の、そのまた先まで足場を見通しながらルートを選択すると追いかけるのが楽になった。そうしながらギリギリの追いかけっこをしていると、ついにリキュアのスピードは緩やかになる。
減速した彼女は地面に降り立つと、森の中でも少し開けた広場のような場所の真ん中で足を止めた。
私は木の陰に隠れながらリキュアの様子をコッソリ覗き込んだけど、その本人は私の方をジッと見つめている。ハッキリ言って完全にバレてるんだけど、どうしようかしら……
「アリシアさんですよね? もう出てきたらどうですか?」
ついに、ため息交じりでリキュアがそう声を掛けてくる。私は観念して出ていく事にした。
「あはは~、いつから気が付いていたのかしら?」
「私達が森に入る前から気付いてましたよ。誰かが猛スピードで付いて来るなぁって」
さ、さすが世界が認めるトップランカー。ほぼ最初からバレてたのね……
「ご、ごめん……。って事はカルルも近くにいるのかしら?」
「いえ、カルルとは『アリシアさんを撒いてどちらが先に家へ帰れるか』という勝負をしていたので、もう今頃は家に着いているでしょう」
そう言ってリキュアはイタズラっぽく笑っていた。
「それで、アリシアさんはどうして私達を尾行していたんですか?」
「いや、別に尾行するつもりじゃなかったんだけど、なんか二人の事が気になっちゃって……ホントにごめん……」
私が再度謝ると、リキュアは別に怒っている様子もなくクスクスと笑っていた。
「それにしても凄いですね。私、アリシアさんの事を引き離そうと全力で逃げたんですよ? それなのにここまでついて来れるだなんて思いませんでした。アリシアさんは足が速いんですね」
「ま、ま~ね! スピードだけが私の取り柄だし。でもリキュアだって凄く速くてビックリしたわ」
「私達はもう育成がマックスな上に、一年以上も修練を積んでいますからね。それでもサポーターなので、アタッカーと比べるとステータスは劣っているはずですよ」
ええ!? あの動きで戦闘向けじゃないの!? でも、だからこそ私でもなんとか付いて行けたのかしら?
そうした会話の流れから、私達はついつい雑談を始めてしまっていた。今日の訓練の事。新しく魔力の使い方を覚えた事。それによって戦力を上げる事に成功した事。
しかし話していると、やっぱり二人はガチャ娘なんだなと感じている自分がいた。先ほどの追いかけっこでもそうだし、今話していた自分達のステータスでもそう。明らかにリキュアもカルルもガチャ娘だと言っているようなものだった。
でも昨日は、二人がガチャ娘だと私が答えを求めた時、あえて正解とは言ってくれなかった。あれはなぜだったんだろう?
「ではせっかくなので、私との追いかけっこに勝ったアリシアさんにはご褒美です。私が答えられる質問であるなら、なんでも教えてあげちゃいますよ♪」
わぁ! それはとても魅力的なご褒美だわ! 何を教えてもらおうかしら……
もっと強くなるためのアドバイス? 魔力に関する裏情報?
う~んう~ん、何にしたらいいかしら……
悩む私だけど、それでも一つだけ、どうしても最初から気になっている事があるのを私は忘れていなかった。だから、私はそれを質問する事を決意する。
「じゃあ聞くけど、あなた達がやっている『どちらがガチャ娘か当てるクイズ』の答えを教えてちょうだい。私は二人共ガチャ娘だと思っているけど、それが正解だとは一言も言っていないわよね?」
そう聞いても、リキュアは眉一つ動かさずに冷静なままだった。まるで、私がそれを聞くのを察していたかのように……
「分かりました。ではそれについての全てを教えます。あんまり面白い話じゃありませんよ?」
そう言ってリキュアは、少し目線を落としながら静かに話し始めた。
* * *
この街の外れにはとある家族が住んでいました。お父さんにお母さん。そしてその一人娘のリアという名前の子供です。
家族はとても幸せに暮らしていました。しかしある日、リアは重い病にかかっている事が分かったんです。
その病気は決して治らないと言われていて、お父さんとお母さんはとても悲しみに暮れました。
唯一の救いはリア本人にその自覚が無く、またその病気もゆっくりと進行するため、今すぐに苦しむ訳ではなかったという事です。
とにかく薬を与えて病気の進行を遅らせて、その間に特効薬を完成させるしかありませんでした。
両親は裕福では無かったため、お父さんは朝から晩まで働き、お母さんはその間ずっとリアの看病をする事になります。お父さんは寡黙な人で、周りの人に家族の話は一切しなかったそうです。
リア自身はと言うと、外に出してもらえない日々が続き面白くありません。ですがその代わり、家の中でお母さんに構ってもらえて、それはそれで嬉しかったんです。
オモチャを買ってもらい、それでお母さんと遊びました。
大好物の料理を作ってもらい、美味しいものを食べるのはとても幸せでした。
誕生日にはお父さんもお母さんも祝ってくれて、リアはそんな両親に甘えていました。
……ですがある日の夜、トイレに起きたリアは両親の話を聞いてしまいます。




