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「二人にはこの一帯に生息する魔物を軽く討伐できるようになってもらいます」

なかなか更新できなくてすみません。

「ただいま~」


 カルルとリキュアにアドバイスをもらうという目的を達成した私は、マスターの待つ宿屋に戻ってきた。


「ねぇ~ご主人。もっと遊ぼ~」


 そして目に飛び込んできたのは、ルミルがマスターの頭の上に顎を乗っけている光景だった。

 しかもオンブをする様に密着して、腕も足もガッチリとホールドしている……


「めっちゃ仲良くなってる!?」


 思わず声に出していた。

 だってだって、そんなしがみ付いていたら胸が押し当てられちゃうじゃない!! ……いや、ルミルは胸の膨らみが乏しいから、逆に気にならないのかしら?

 とにかく、ドキドキ恋愛シミュレーション格闘バトルで遊んでからやけに距離感が近くなってる気がする! 恐るべし、ドキドキ恋愛シミュレーション格闘バトル!


「あ、アリシアさん、おかえりなさい。散歩でしたよね。どうでしたか?」


 マスターが私に気付き、声を掛けてくれた。ルミルもマスターにしがみ付いた状態でパタパタと手を振ってくれている。

 そんな状況に私の頭はパニックとなり――


「マスターのエッチ!!」

「ええぇ~~!?」


 そう叫んで、マスターをあたふたさせてしまうのだった。

「実は私ね、散歩に行くと言いながらカルルとリキュアの所に行ってたのよ」


 マスターがお風呂に入っている間、私が例の二人と話した事をルミルに伝えた。

 修行の相手に断られた事や、魔石の使い方を考えろと言われた事。

 別に私はルミルを出し抜きたい訳じゃない。ルミルの事は大切な仲間だと思っているし、ルミルの戦力上昇はマスターの安全にも繋がる。

 ただ単純に、私はマスターに見限られないように努力をしたいだけ。そうした結果、エースを任せてもらうという信頼を得たいだけなんだ。

 あわよくば、マスターに褒めてもらえればなお良い!

 そしてあわよくば、マスターが私に好意を抱いてくれたら言う事なし!

 さらにあわよくば……ふへへへ♪


「ふ~ん。魔石の、ステータス上昇効果はおまけで本来の使い方は別かぁ。って事は、魔石の内部に溜まっている『魔力』を引き出せるようになれって事だよね?」


 ルミルの言葉に、私は目が点になっていた。


「え? 魔石の中に魔力? そうなの?」

「そうだよ。気付いてなかった? 意識を集中させるとなんとなく分かるんだけど、『魔石』って言うくらいだから結構な量がため込まれてるよ。これを自在に引き出す事ができれば、あたし達のスキルを何度も使えるし、効果の質も上がるかもしれないね」


 ……ごめんねリキュア。『考える力を養え』とか言われたけど、私が解き明かす前にあっさりと仲間に看破されてしまったわ……


「ルミルって意外と頭良いわよね……」

「意外は余計でしょ! なんでちょっと悲しそうな表情になってるの!?」


 そんなやり取りをしていると、マスターがお風呂から上がってきた。そんなマスターに私は真っ先に口を開く。


「ねぇマスター。明日はどうするの? もうこの街でのトレードは済んだから、また別の街を目指す?」

「いや、この辺の魔物は中々やっかいです。今日もリキュアさんとカルルさんが助太刀に入らなかったら少し危ないところでした。なので、しばらくは魔物をしっかりと討伐できるようになるまで滞在しようと思っています」


 それに関しては私も賛成ね。先に進むにつれて魔物が強くなっていくのなら、無理に進む必要はないもの。

 ……それに、なんとなくリキュアとカルルの事も気になっていたりする。


「二人にはこの一帯に生息する魔物を軽く討伐できるようになってもらいます。ギルドで調べたんですが、やっかいなのが次の三種類。地面の土を吸い上げて体を爆速で再生させる『ドルーパ』。この魔物はゴーレムに似た性質ですが、柔らかい代わりに再生能力が桁違いに早いです」


 子供達が襲われていた時に戦った魔物ね。私は倒すだけなら問題なかったけど、バラバラにしなくちゃいけないから凄く疲れるのよね……


「次に茂みから奇襲をかけてくる蛇のような魔物『トビヘビ』。息をひそめるのが上手いので、ここで奇襲を喰らうようではこの先が不安です」


 子供達が襲われた時、リキュアとカルルが瞬時に対処した魔物ね。探知に慣れてきたルミルでさえ襲われるまで気付かなかったという、かなりやっかいな相手……


「最後に空から襲ってくる魔物で『電光虫(でんこうちゅう)』。この魔物にはまだ会っていませんが、空中を自在に飛び回り、カミナリのような奇抜な動きで攻撃を避けるそうです。この三種類の魔物を苦戦せずに倒せるようになるまでこの街に滞在しますよ」


 これは中々いい訓練になりそうな気がする。私は毎日マスターが起きる前に朝練をしているけど、実際に魔物を相手にするほうが経験になるはず。

 魔力の使い方も含め、自分なりに強くなる方法を少しずつ見出していこう!


「ところでさご主人、寝る前にもう少し遊ぼ~」


 ……こうして私達は、明日の修行に向けて想いをせながら過ごしていく。

 少なくとも私は、マスターにこのパーティーでのエースを任せてもらうためのチャンスだと思っている。そんな意気込みを胸に掲げて、体を休めるのだった。


――そして、旅立ちから八日目の朝。


「では、魔物の討伐に行きましょうか」


 私達はマスターと一緒にギルドでクエストを請け負い、街の外の草原に繰り出した。

 まず最初に出くわしたのはドルーパ。地面の土を吸い上げて超再生を行う魔物ね。


「あの魔物は私なら高速で切り刻んで倒せるわ。だからルミルの練習相手ね」


 するとルミルは、フンスと鼻を鳴らして堂々としていた。


「な~に、昨日寝ている間にちゃんと対策を考えてきたから大丈夫だよ。見てて!」


 そう言って、ルミルは泥の魔物に突撃していく。


「地面の土を吸収しているのなら、ぶっ飛ばせばいいんだよ!!」


 なんだかよく分からない理屈を叫んでからハンマーを構える。そうして魔物の足元からすくい上げるようにハンマーを振り上げた。

 まるでアッパーカットを決める格闘家のように、下から上にスイングした打撃は魔物の体を天高く舞い上げる。そして落ちてくる魔物の下へ素早く移動すると、体に捻りを加えた渾身のフルスイングでぶっ叩いた!

 ルミルの一撃にドルーパは粉砕し、バラバラになって地面へ転がる。その後は再生する事もなく討伐が完了した。


「おお~、ルミルさんやるじゃないですか!」

「まぁね。昨日は慌ててたから対処を間違えたけど、魔物の特性を理解すればこんなもんよ。……けど、そう言うのも含めて的確な判断が必要って事でしょ。昨日だって、魔物との交戦からすぐに相手の特性を見極められるだけの機転が働けば、リキュアとカルルに助けられる事もなかった。そういった即興の戦い方を閃けるようにしていかないとね……」


 ……ふえ? ルミルがなんか難しいこと言ってる……

 昨日苦戦してた魔物に勝てるようになったんだから『わ~い♪』って喜べばいい気がするんだけど、『もっと早くこの事に気付いていれば……』っていう反省をしているのよね?

 やっぱりルミルって頭いいなぁ。何でもかんでも次の事を考えて行動してるって感じがする。私なんて考えるのが苦手だから、なんとなくこうした方がいいい気がするって感覚だけで動いてるもの……


「ルミルさん、素晴らしい意気込みですよ! ではアリシアさんもドルーパと戦ってみてください」

「ふえ!? そ、そうね。簡単に言うと、出来るだけ早く相手の弱点を見つければいいのよ……ね?」

「そう言う事です! 向こうにもう一匹ドルーパがいますよ。今度はアリシアさんにお願いします!」


 ……相手の特性を見極めて、素早く弱点を突く。言いたいことは分かるけど、正直私にはそれを考えたってピンとこない。ただ一つ言えるのは、ルミルの戦い方を見て、何となくこうすれば行けそうな気がする、というあやふやな戦法。

 それでも、今の私にはそういう戦い方しかできないから。とりあえずはこの攻撃を試す!

 地面を踏みしめ、ギュンと加速する。そうして一瞬で魔物の横を通過する際に、私はドルーパの足首の辺りを両断した。こうすれば再生できないんじゃないかしら? 根拠なんて何もないけど。

 ズババババッ!!

 そして魔物が崩れ落ちる前に続けざまに乱れ斬りを放つと、魔物はバラバラになって地面に転がる。幸いな事に再生はしないようで、無事討伐できたようだった。

 手ごたえも良かった。昨日よりも楽に倒せたから、これなら複数を相手にしてもスタミナが多く消耗する事は無い。


「おお~、アリシアさん凄いじゃないですか! 一瞬で倒してしまいましたよ!」

「流石アリシア! 頼りになるぅ~♪」


 二人が褒めてくれる。けど、これは別に私の頭で考えた事じゃない。ルミルの戦い方を見て閃いただけだ。

 リキュアも言っていたけど、今のうちから考える力を養っておいたほうがいいらしい。けど、私はそれが全然ダメダメだ。

 そう言った意味では、ルミルのほうがちゃんと考えて行動している。

 本当は私よりも、ルミルのほうがエースに向いてるんじゃないかしら……?

 そんな事を考えてしまった私は、なんとなく、気後れしてしまうのだった……

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