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「カルルとリキュアはね、すっごく強くて最強なの!」

               * * *


「――さん? アリシアさん!」


 名前を呼ばれている事に気が付いて顔を上げる。するとマスターが私の顔を覗き込んでいた。

 私達は現在、ロック村を出発して北の新たな街へと向かっている。

 キングゴーレムとかいう前代未聞の魔物を討伐した私達はギルドで報酬を受け取り、その次の日にロック村を出発したのだった。

 ルミルの攻撃力と私のスピードがあれば、もっと北へと進めるとマスターは判断した。そうして私達は荒野を抜けて広い草原を進行している最中だった。


「どうしたんですか? 何か考え込んでいたようですけど……」

「……うん。ちょっとね……」


 どうしたも、こうしたもないわ。今の私が考える事なんてたった一つしかないんだから……


「簡単に言うと、後から来たルミルに私の戦力が追い抜かれてショックなだけよぉ! うわあああんエースの座を奪われるぅぅ~……」


 わかってる。分かっているわよ! ルミルはちょっと汚い言葉を使うだけで根はいい子だって。だから同じ仲間として頼りになる存在なのは認めるわ。けどここでのエースの座だけは譲りたくなかったのよぉ~~……


「あ、あのさアリシア。あたし別にエースになろうなんて思ってないから。ここのパーティーのエースはアリシアに決まってるよ」

「ルミルゥ……」


 そんなルミルは、ちょっと困り顔で眉をひそめていた。

 しかし今、心が荒んでいる私にとってはそれが強者の余裕に見えてしまっていたりする……


「戦力が高い状態でそんな事言われても全然説得力ないぃ~……」

「想像以上にアリシアのメンタルずたぼろになってる~!?」


 私だってこんな事でイジけても仕方がないのは分かってる。だから少しでも小さい脳みそを働かせようとマスターにお願いをしてみた。


「マスター、私とルミルのステータスをみせてくれない?」

「あ、はい」


名前   :アリシア(覚醒)

スキル1 :韋駄天LV10

スキル2  :状態異常付与LV1

必殺技  :無限刃

装備   :小太刀(ランク2)

     :皮の鎧(ランク2)

魔石   :素早さ上昇LV4

推定戦力 :18万7500


名前   :ルミル(覚醒)

スキル1 :サーチLV1

スキル2  :不可視化LV1

必殺技  :爆壊

     :震魂 

装備   :落雷のハンマー(ランク4)

     :玄武の鎧(ランク4)

魔石   :攻撃力上昇LV4

推定戦力 :23万3000


 うぅ……。この戦力差はどうやって埋めればいいのぉ~……

 武具にランク差があるからそれを考慮したとしても、やっぱりデカいのは技の存在よね。実際ルミルは爆壊と震魂を同時に使用すると鬼のような強さになるし……

 私も新しい必殺技とか編み出したいけど、そもそも魔力ってどう操っていいのか全然分からないのよねぇ。ルミルは感情と一緒に出てくるって言ってるけど、私の場合はそんな事ない気がするし……

 そんな事をモンモン考えている時だった。


魔物モンスターの気配がする。向こうに複数いるよ!」


 突然ルミルがそう言った。見ると、複数の魔物の中に人間の子供らしい人影が二つ見える。


「子供が二人襲われています! アリシアさん、速攻で助けに行ってください!!」

「了解よ! スキル、韋駄天!!」


 全力で地面を蹴ると、急激な爆速で空気の壁をぶち破るような感覚に陥る。

 風も音も、自分以外何もかも置き去りにするような感覚の中、自分の足と五感で相手の距離を測る。そうやって魔物の近くで地を踏みしめ、体の勢いを乗せるようにして小太刀を振るった!

 斬っ! と魔物の細い首は両断されて地面を転がる。どうもこの魔物は土で出来ている泥人形のようだった。

 その泥人形は地面から土を吸い上げるように、落とした首がポンと生える。その再生能力はとてつもなく速かった。

 子供は二人。兄妹のようで抱きしめ合いながらも怯えて口をパクパクさせていた。


「もう大丈夫よ。でも危ないからそこから動かないでね」


 そういうと二人の子供はその場で縮こまる。これで私は動きやすいし守りやすいくもある。

 この泥の魔物はゴーレムのように固くはないけど、どこを斬っていいのかわからなくて、再生速度も尋常じゃない。こいつ等を倒すには手数がいるらしい。


「なら、私の速さに再生が間に合うかしら? 必殺、無限刃!!」


 切り刻む。細かい破片になるまで何度も切り刻む。ついでに近くにいる何体かの魔物もみじん切りにしてやった。

 泥の魔物はさすがに再生が追いつかないのか、核となる急所をやられたのか、もう復活はしなかった。これで残ったのはもう半分といった所だった。


「お姉ちゃんすごーい!」


 子供から褒められた。嬉しいけど、そうそう安心してもいられない。

 まだ半分の魔物が残っているし、置いて来たマスター達も遠くで別の魔物と戦っているのが見えた。

 けどマスターにはルミルが付いている。だから大丈夫!

 ……と、そう思ってた。けど、遠目に見ても苦戦しているように見える事態に背筋が冷たくなっていった。

 ルミルの攻撃で粉砕するけど、すぐに再生して一向に数が減っていない。この手の魔物はルミルの一撃必殺じゃあ相性が悪いっていうの!?

 マスターも普段は戦わないのに、なんとか状況を良くしようと槍を取り出して応戦している。けれど当然、全然効いていなくて危なっかしい。

 これはマズいわ! 助けに行かなくちゃ!


「二人とも、ここから離れるわよ! けど心配しないで。私がちゃんと抱えるから!」


 そう言って、二人の子供を両脇に抱える。そうしてまだ残っている魔物を無視してマスターの所へ駆け出した!

 子供達に負荷がかからないようにするため全力では走れない。けれど出来るだけ静かに、素早くマスターの所へ走った!

 間に合ってほしい。間に合わせなくちゃいけない。そんな想いで足を動かしていると、突然大きな声が響き渡った。


「は~はっはっは! 今、助けちゃったりなんかするよ~!」

「もぉ~、基本的にそう言うのいいから、早く攻撃しますよ!」


 上の方からそう聞こえて、上を見ると高い位置に誰かがいる。そう思った時にはもう、光の雨が魔物に向かって降り注いでいた。

 そしてそれは一瞬の光景だった。マスター達に詰め寄っていた泥の魔物に光が触れると、そこから破裂するように膨らんで、魔物は跡形もなく爆散してしまっていた。


「あ~、超絶最強のカルルだぁ!」

「最強無敵のリキュアもいる~」


 私が抱えている子供達が大はしゃぎしている。どうやら知り合いみたいだけど、あの二人、かなり強いわ。

 触れただけで弾け飛ばすだけの攻撃力。

 それを降り注ぐだけの範囲攻撃ができる手数と射程。

 けれどマスターには一切当てず、敵だけを見事に射抜く命中率。

 どれを取っても超一流の洗練された技術に思える。あの二人、そうとうレベル高いんじゃないかしら?


「マスター無事? 怪我はない?」

「は、はい。誰かが助けてくれたおかげでなんとか……」


 私はマスターと合流してから二人の様子をすぐにチェックする。どうやらマスターもルミルも怪我はないみたいで一安心と言ったところだ。


「魔物は一掃できちゃったりするかな? と~う!!」

「待ってくださいカルル、張り切り過ぎです!」


 二人は高い所から飛び降りた。そして段差で勢いを殺しながら着地を決め、私達に近付いて来た。


「いや~、大変だったでしょ。私はカルル。この近くの街を守るのが仕事だったりするよ」


 そう言った彼女は原始的な格好の少女だった。ただの布を紐で縛っただけの、服とも呼べるか微妙な着こなしをしている。

 肩やら脇やら隙間が多くて露出が多い。しかも頭には魔物の頭蓋骨を帽子の代わりに被っていてワイルドさも垣間見えた。


「でも、基本的に子供たちを守る事を優先してくれたんですよね。足の速い人が抱えていたのですぐに分かりましたよ。あ、私はリキュアと言います」


 丁寧な口調でそう言ってくれたのは、フードを深く被っている大人しめな雰囲気の子だった。

 そのフード付きのローブは真っ白で純潔さが伺える。フードから恥ずかしそうに覗く瞳は、大きな丸メガネに遮られていた。


「よぉ~し、それじゃあ子供達は私らが預かっちゃったりするよ。ホント、助けてくれてありがとね!」

「街まで一緒に行きませんか? その方が基本的に安全ですので」


 私達も一通り自己紹介をして、みんなで街へ向かう事になった。

 子供達はカルルとリキュアに懐いていて、嬉しそうに手を繋いでいる。そんな子供達は、私の方を見て懸命に教えてくれた。


「カルルとリキュアはね、すっごく強くて最強なの!」


 ほほう。最強ときましたか! でもそう言われるのも納得かもね。実際にあの攻撃は相当なものだったし。

 するとマスターが首をかしげてこう聞き返していた。


「でも、どちらかが冒険者なんですよね? どっちがガチャ娘でどっちが冒険者なんですか?」


 すると子供たちは顔を見合わせてからはっきりと言った。


「どっちかぼーけんしゃかは知らないの。だっていつも二人で戦ってるんだもの」

「そうだよ。僕達も街の人たちも、どっちがガチャ娘かなんて知らないんだ」


 そんな返答に、私達こそ互いの顔を見合わせて困惑してしまうのだった……

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