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「ご主人様の求める、最強の攻撃力を身に付けてやる!!」

「こ、こんな分厚い壁、脱出なんて無理なんじゃ……」


 アリシアが弱気な事を言い始める。確かにこんな分厚い壁だと例えルミルが魔力を使えても壊せるかどうか……

 かなり詰みに近い状況ではあるけれど、絶対に諦める訳にはいかない!


「諦めるのは早いですよ! まずはリリー先輩と合流しましょう。さらにその後は僕達よりも早く調査に来た冒険者パーティーも探して、その全員で力を合わせればなんとかなるはずです!」


 そう信じたい。いや、もうそれに賭けるしかない……

 しかし――


「待って、この壁、動いてない!?」


 アリシアがまた不吉な事を言い始めた。その指さす所は壁と床の接地面だ。

 すると、確かに壁が床を滑るようにこちら側へとゆっくり動いていた。


「壁が迫ってきている!?」


 マズい! 内部の構造を変える事が出来るのなら、全てを石で覆いつくし、中に入った者を埋め尽くす事もできるんだ!!

 これじゃあリリー先輩を探している間に壁がどんどん分厚くなって、数人がかりでも破壊できない強度になってしまう!

 このままだと本気で詰みだ。なんとかしないと……


「――人……」


 どうする!? どこか別の脱出口を探すか? いや、出入り口を塞がれているのに他の所から出れるなんて考えにくい。何か弱点とかは……


「ご主人!!」


 ルミルの声で我に返る。かなり焦って周りの声が聞こえていなかったようだ。


「あたしのテンションを上げるような事言って!」

「……え、なんでですか?」

「あたしの魔力、感情とか気分とか、そういうのと一緒になって湧き上がるから。魔力が使えるようになれば、このくらいの壁も壊せるかもしれない!」


 え? マジで!? ゴーレムの体を破壊するのとはわけが違うと思うんだけど……?


「昨日はさ、あたしのせいでご主人が危ない目にあっちゃって、それでも『仲間は協力し合えばいいんだから』って言ってもらってさ、すごく嬉しかったんだ。でも、なんかそれだけじゃ気分が乗らないというか、テンションが上がらないというか、なんかためらっちゃってさ……あたしにもよく分からないんだけど……」


 つまり、ルミルが抱えているモヤモヤを解消するような事を言ってテンションを上げないとダメって訳か……。時間も無いし、とにかく思いつく事を言ってみるしかない!


「ルミルさんの気持ち、少し分かるような気がします」


 僕はルミルのそばにしゃがみこんで、目線を低くしながらしゃべりかけた。


「ルミルさんは迷っているんじゃないでしょうか。こんな小さい体で、岩石をも粉砕する攻撃力で敵に突っ込んでいく、その戦闘スタイルに。そりゃ端から見れば異様な光景かもしれません」

「う、うぅ……」


 俯くルミルの頭をそっと撫でる。そうやって少しでも安心させてあげたかった……


「でも僕的には最高なんですよ!」

「ふぇ!?」

「前も言いましたけど、小さくて可愛らしい女の子が凄まじい攻撃力を秘めているってロマンの塊ですからね! そのギャップがたまらないんですよ! ルミルさんはこのまま圧倒的な攻撃力で何もかも吹き飛ばせる力を身に着けてほしいです! それは僕にとっても嬉しいし、自慢にもなりますから!」


 僕はいつの間にか立ち上がっていた。この時だけは、ルミルではなく僕のテンションが上がっていたと思う。


「うちのルミルはこんなに凄い力を秘めてるんだって誇りになるんです! 何より、そんな圧倒的な力で敵を粉砕する姿を僕が見ていたいんです! 誰がなんと言おうと、僕はそんな戦闘スタイルのルミルさんが大好きなんです!」

「あ、あうぅ~……」

「壊せない物なんて何もないくらいの攻撃力を身に付けてくださいよ。誰のためでもなく、僕のために全てを粉砕してくださいよ。そんなカッコいい仲間を僕はずっと望んでいたんです! 全世界が否定しようとも、僕はそんなルミルさんを一生手放しませんから!!」


 って、僕は何を言っているんだ。これじゃあルミルのテンションを上げるというか、ただ単に僕の性癖を暴露しただけじゃないか……


「あ、あ、ああぁ~……」


 なんかルミルも震えてるし、逆にドン引きされたかもしれない。これは本格的にヤバいかも……


「う……うわああああああああああ!!」


 プシューーーー!! と、蒸気が立ち昇るように、ルミルの体から魔力が溢れ出した。

 あ、あれ? テンション上がった? うまい事アゲアゲにできた?


「ぜ、絶対だからねっ! 絶対あたしの事捨てないでよ! 最後まで一緒にいてよ!!」

「いや捨てませんって! 何を心配してたんですか!」


 沸き立つルミルの魔力は絶え間なく噴き出し続ける。

 そんなルミルは僕に背を向けて、壁に向かってハンマーを構えた!


「ちなみにさご主人。昨日、必殺技の名前を考えてくれたじゃん?」

「ええ。武器に魔力を付与して攻撃力を高める、『爆壊ばっかい』ですよね?」

「実はさ、昨日の大量ゴーレムを殴りまくったのって、別の技なんだよね」


 なんですと!? それは知らなかった!


「それの名前もご主人が考えてよ。上がったテンションと同時に溢れる魔力を全身に纏わせ、身体能力を向上させる技なんだ」


 なるほど。それなら張り切って命名しよう!

 僕はルミルのステータス画面を開きながら高らかに叫ぶ!


「ならば名付けよう! 魂を震わせつかみ取る最強のバフ。『震魂しんこん!!』」

「いいね。気に入った!!」


 溢れる魔力がルミルの体に纏わり凝縮される。そう言えばゴーレムと戦っていた時も魔力がルミルを覆ってたっけ。


「あたしはもう迷わない! ご主人様の求める、最強の攻撃力を身に付けてやる!!」


 さらにステータスにから甲高い音が鳴り響き、変化が現れた!


名前   :ルミル(覚醒) new

必殺技  :爆壊

     :震魂 new

推定戦力 :23万3000


「さらに……『爆壊!!』」


 今度は身の丈ほどのハンマーに魔力が纏わりつく。そのハンマーは魔力を帯びて艶やかに輝きだした。


「震魂と爆壊。二つの技の同時使用!?」

「というか私の戦力が超えられてるんだけどぉ!」


 アリシアが頭を抱えて嘆いている。けどそんなアリシアにルミルが小さくこう言った。


「アリシアごめん。ご主人の事、守ってね」

「あ、うん。任せて!」


 今はルミルに頼るしかない。しかも僕が指示するよりも早くアリシアに護衛をする旨を伝えている。前回よりは冷静にちゃんと周りが見えているようだ。

 そしてついにルミルが駆け出していき、魔力のこもったハンマーを振りかぶった!


「あたし達の道を遮るな!! 吹き飛べえええええ!!」


 壁に打ち付けた瞬間、爆弾が爆発したかのような光が目を焼き、続いて爆音が鼓膜に突き刺さる。僕はあまりの衝撃に目を閉じ、何が起こったかの一部始終見る事はできなかった。

 だけどゆっくりと目を開けると、そこにはとんでもない光景が広がっていた。

 僕達に迫るように浸食していた分厚い壁には大穴が空いていたのだ。しかもそれこそ、飛行機が通れるくらいの大きな穴が……

 それはまるでトンネルかと思うような穴だ。どうやったらこんな分厚い壁に穴が空くのかと考えた時、とっさには適切な例えは思いつかないだろう。

 トラックがアクセル全開で体当たりをすればこんな穴が空くだろうか? いや足りない。なら新幹線が最高速で突っ込んだ時? それも足りない気がする。

 そう、隕石だ! もしも隕石が衝突したとしたら、これだけの破壊力があるような気がする。あまりの破壊力に地面すら抉れているのだから。

 さらにその威力を物語っているのが瓦礫や破片だ。僕の正面にはアリシアがいて、飛んでくる破片から守ろうとしてくれていたのだが、そんなアリシアでさえ唖然としている。

 僕達のほうには一切破片が飛んできていないのである。

 つまり、瓦礫や破片が僕達の方へ跳ね返るような半端な衝撃ではなく、全てが外へと吹き飛ぶような、一瞬で貫通するだけの威力だったのだ。

 そんな巨大な穴の前にルミルは佇んでいた。ホームランを決めた野球選手のようにハンマーを振りぬいた格好のまま、ゆっくりと振り返りハンマーを床に突き立てる。


「これでよろしかったでしょうか? ご主人様♪」


 そんな、ちょっとおふざけのような口調で最高の笑顔を向けてくれる。

 そんな彼女に僕は自然と笑っていた。いやこれが笑わずにいられようか。こんなバカげた威力を持つ仲間が微笑んでくれた事が素直に心強かった。


「最っ高ですよ! グッジョブ!!」


 だから僕もそしてアリシアも、親指を立てた手を振り下ろし、そう答え返すのだった。

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