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「テヘペロ♪」

「……魔力、解放!」


 ルミルの体からモヤみたいなものが湧き上がる。しかしそれはすぐに消え、また昇るといった不安定さが目に見えた。


「あ、あれ……?」

「ルミルさん? どうしました?」

「ごめんご主人、あたし、昨日みたいに必殺技が出せなくなってる……」


 ええ~~!? それは困る! 非常に困るよ!! ゴーレムのあの硬さを破壊できるのはルミルしかいないのに!


「ふっふっふ! どうやらここは私がなんとかするしかないみたいね!」


 そう言ってルミルのさらに一歩前に出たのはアリシアだ。

 しかしアリシアはスピードはあるけど攻撃力が高くない。ゴーレムを切断する事はできなかったはず!


「レベルが100を超え、パワーアップした私の力を見せてあげるわ!」


 そう言ってなんの迷いも無くアリシアは突撃していく。そうして思い切り小太刀を振り抜き、煌めく一閃が宙に輝く。そしてそのまま綺麗なフォームで刀を鞘に納めるのだった。

 まるで居合の達人のような攻撃だ。しかし攻撃を受けたゴーレムのボディには、十円疵のような細い疵しか残っていないかった。

 それにも関わらず、何食わぬ顔でアリシアはスタスタと僕達の所へ戻ってくる。


「……あの、アリシアさん? イタズラをする時にコインを使って疵を付ける程度にしか削れてないんですが……」

「……」


 すると彼女は舌を出し、自分の頭をコツンと小突いてこう言った。


「やっぱりダメだったわ。テヘペロ♪」


 可愛らしく、ぷりっこをするような声だった事を付け加えておく……


「あんだけ自信満々に飛び出しておいてコレですか!? ちゃんと攻撃の修行したんですよね?」

「いいえ、私の強みはスピードよ! 今日の朝練もスピードの訓練だったわ!」

「ダメじゃないですか! いくらレベルを上げても、攻撃方法を見直さないとレベルだけじゃ伸びませんよ!?」

「えぇ~!? それじゃあ今日の夜は筋トレをメインにするわね!」


 いや遅いから。ここから出れる事前提にメニュー組むのやめてくれない? 何、この子には無事に脱出できる未来でも見えてるの? 絶対深く考えてないでしょ!?

 まぁ僕もそういう自主トレには口を出さず、好きにやらせているだけだから文句は言えない訳だが……

 そもそも攻撃力に関しては完全にルミルをあてにしていたので、こんな事態は想定外だった。

 そんなルミルの方をチラ見すると彼女自身もまた困惑しているようで、曇った表情のまま自分の手のひらをジッと見つめていた。


「こうなったら初めてゴーレムを倒した時みたいに、私とルミルの合体技でいくわ! ほら、私がルミルを抱えて勢いよく突撃するやつ!」


 そう言ってアリシアはルミルの事を抱きかかえる。

 しかし――

 ズシン、ズシン、ズシン、ズシン。

 迫りくるゴーレムの後方から、さらに数体のゴーレムの姿があらわになった。

 これじゃ二人の合体技で一体は倒せても、すぐ後ろのゴーレムに反撃を喰らうんじゃないか?


「……やっぱここは逃げた方がいいみたいね。大丈夫よ。私のスピードなら追いつかれる事なんてないんだから」


 ――ズシン、ズシン、ズシン、ズシン。

 逃げようと後ろを振り返ると、その方向からもゴーレムが迫って来ていた。


「あわわわわ、どうしようマスター! 逃げ道がなくなっちゃったわ!」


 さすがにこれはマズい。こんな狭い通路じゃゴーレムを潜り抜ける事は難しい。それなら……


「ルミルさん、さっきみたいに横の壁を破壊してください! 隣の通路に逃げます!」

「え、隣に通路なんてあるの!? でもやってみるね!」


 ルミルが壁にハンマーを打ち付けると、狙い通り隣の通路に繋がってくれた。


「凄いわマスター! なんで分かったの!?」

「さっきの中央ホールを見渡した時、なんか迷路みたくなってたじゃないですか。だからあちこちに通路や部屋が通っていると思ったんです。さぁここから逃げますよ!!」


 そうして僕達おは隣の通路へ移る事に成功する。


「とりあえずゴーレムがウロウロしているのならこの城は危険です。さっきの中央ホールに戻りましょう!」


 歩いて来た方向は分かるので、出口に向かって走り出した。

 途中、またしてもゴーレムが迫ってくるので同じように壁抜きを行い、強引に逃げ道を作り出す。この城の主には悪いような気もするけど、こっちだって必死だし、何よりこの城はやっぱりおかしい。だから遠慮する必要なんて無いと判断した。

 何枚の壁をぶち抜いたか分からないが、僕達はようやく狭い通路を抜けて最初の中央ホールへと出ることが出来た。しかし僕達が出た場所はなぜか二階で、一階へ降りる階段が見当たらなかった。


「あれ? なんで私達二階にいるのかしら? 一階の通路から入らなかったっけ?」


 そう、間違いなく僕達は一階を探索していた。テキトウな扉を選んだけど、二階へ上がるような階段も坂も存在しなかった。

 だとすると……


「そうか。多分ですけど、宝箱の部屋に閉じ込められた時リリー先輩の気配が消えたじゃないですか。あれって僕達が二階に飛ばされたんじゃないでしょうか?」


 エレベーターのように部屋が動いたのか、何らかの魔力が働いたのかは分からない。けどそう考えると納得がいく。


「ルミルさんの探知はまだ完璧とは言えません。恐らく上下の気配までは察知できなんだと思います。だから扉が消え、一階から二階へ飛ばされた瞬間にリリー先輩の気配が突然消えたように錯覚した」

「な、なるほど。確かにそんな感じだったかも……」


 だとすると、この城はかなり危険だ。誰が関与しているかは分からないが、明確な意思で僕達とリリー先輩を分断しようとした。そしてその後、この城から逃げられないように閉じ込めたり、城の奥に入ってから魔物を使って退路を断とうともしている。恐ろしい事に、本気で僕達を殺しにかかっている訳だ。

 今も二階から一階へと降りる階段が見当たらない。絶対に出口へ向かわせたくないという意思を感じる……


「アリシアさん、僕を抱えて一階まで飛び降りる事は出来ますか?」

「もちろんできるわ。とにかく最初の出入り口に向かえばいいのね」


 そうして僕はアリシアに抱えられたまま二階から飛び降りる。ルミルも一緒に着地を決めて、入ってきた出入口の通路までたどり着いた。

 ……しかし――


「あ、あれ? 出入口の通路が消えてるわ!」


 外から中へと入った長め通路が完全に塞がっている。いや、塞がるというか最初から無かったかのように消えていた。

 ……そうか。これはもうそういう事なんだと思う……


「……ルミルさん、サーチのスキルを使ってくれませんか」

「いいけど、どの魔物に使うの? 今はゴーレムも追いかけてきてないけど……」


 考えてみれば変ではあったんだ。このお城は石造りで、通路と繋がる扉も石製。宝箱も石でできていて、その中身も綺麗な石だった。


「そうですね。真上の天井に向かってサーチを使ってください」

「何それ? 別にいいけど。スキル『サーチ!』」


 このお城の周辺に魔物がいなかったのも、警戒心を出来る限り無くすためだ。少しでもここに入ってもらえる可能性を高めるために、魔物というリスクを頭から消そうとした。


「な、何コレ!?」

「マスター、これって!」


 二人がサーチの結果に驚いて、僕にその表示を見せつけてきた。


名前   :キングゴーレム

レベル  :たぶん高い

体力   :たぶん多い

攻撃力  :たぶん普通

防御力  :たぶん高め

素早さ  :たぶん動けない

精神力  :たぶん低め

探知   :たぶんそこそこ

推定戦力 :たぶんヤバめ

総評   :これまで確認された事が無い新種のゴーレム。

      城に擬態して獲物を待ち伏せする。


「やっぱりそうでしょうね。この城そのものがゴーレムであり、僕達は今、ゴーレムの腹の中にいるって事ですよ!」


 恐らくこの体内では自由に構造を変えられるんだろう。だから部屋にいるだけで一階から二階へと移動させられたし、扉や階段。そして通路さえも消す事が出来る。

 内部に宝箱や通常のゴーレムを沸かせて出口を塞ぐまでの時間稼ぎをすれば、もう逃げ出す事はできなくなるという算段だろう。


「ちょっと待ってよ。確か外から中央ホールに着くまで十メートルくらい歩かなかったっけ? その通路が埋められたら……」


 アリシアが青ざめながらそう聞いた。


「……はい。外に出るには厚さ十メートル以上の壁を破壊しなくてはいけないという事です……」


 そんな僕の発言に、ゴクリと息を呑む音だけがはっきりと聞こえてくるのだった……

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