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「誰にも負けない最強のガチャ娘になるんだっていう私の想いを!!」

「グウゥ……ガアアアアア!!」


 悪鬼が動き出した。怒りをあらわにして咆哮する。

 やっぱり倒せていなかったか。確かにかなりの傷を負わせたが、致命傷かと言われたらそんな事もない。


「アリシアさん逃げてください!」


 膝を付いている彼女に悪鬼が拳を振り下ろす。それを間一髪で回避した。

 四肢の力で体を放り出し、転がるようにしてなんとか一撃を避ける。そうしてアリシアは立ち上がり、最後の力を振り絞って僕の方へと跳ねてきた。


「ぷはっ! ホントにもうダメ。動けない……」


 再び地面に倒れ込む彼女を僕は介抱する。今、ここに向かって突進でもされたら壊滅するかもしれない。

 しかし悪鬼はこちらを睨みつけるだけで襲ってこなかった。それどころか、クルリと背中を向けて林の奥へと戻っていく。


「はっ!? 逃げる気だぞ! みんな追えー!」


 エラッソが号令が響くと、他の二人も我に返るように動き始める。そうして、みんなで雄たけびをあげながら悪鬼の後を追いかけていった。


「ふぅ。どうなる事かと思いましたが、とりあえずは助かりましたね。お疲れ様です」


 僕はアリシアの体を起こして労ってあげる。そんな彼女は僕を見て、誇らしげに笑うのだった。


「う、うわあああぁぁ~退避、退避ぃ~!!」


 しかしホッとするのもつかの間。悪鬼を追いかけていった全員が必死に逃げ帰ってくるのが見える。いやいや、いくらなんでも戻ってくるの早すぎでしょうよ……

 みんなが逃げ惑う林の奥からは、なんと大木を抱えた悪鬼がこちらに向かっていた。

 もしかしてアイツは逃げたんじゃなくて、倒れた大木を武器にするために取りに戻ってた?

 悪鬼は散り散りになったメンバーには目もくれず、真っすぐ僕たちの方へと歩み寄ってくる。その巨大な大木を引きずりながら……


「も、もしかして私を狙っているの……? いけない、マスターは早く逃げて!」


 そう言われて見捨てられる訳が無い。僕はアリシアの後ろから、脇に自分の腕を通して羽交い絞めにする格好で持ち上げる。そのままズルズルと足だけ引きずりながら逃げようとした。

 お姫様抱っこでトコトコ走れたらいいんだけど、あいにく僕はそこまで力持ちではない。というか、人間の体重でアレが出来るのって漫画の中だけだと思ってる……


「ア、アリシアさん、自分の足で走れませんか?」

「……ごめん、足ガクガクでまだ立てそうにないわ……」


 あれほどの動きを見せたのだから疲労が足に来ても仕方がない。だけどこのままでは本当に追いつかれてしまう!


「後衛タイプの皆さん、悪鬼を止めてください!」


 僕の懇願に周りのガチャ娘が反応した。エラッソの指示が無くても、現状ではとにかく魔物を仕留めたいという気持ちがみんなにもあるからだ。

 しかも当の本人は最初に負傷したシーナの回復で遠くにいる。


「私に任せて!」

「わ、私も攻撃します!」


 ザコラスのガチャ娘とエラッソのガチャ娘が両側から武器を構える。まず初めに攻撃を仕掛けたのはビーナスだった。

 弓矢を放つと、風を切って真っすぐに悪鬼へと向かって飛んでいく。しかし体にぶつかると刺さる事なく地面へと落ちていった。

 アリシアの斬撃で傷だらけの悪鬼でも、矢はことごとく弾かれてしまう。ピンポイントに傷口へ当たらないと刺さらないようだ……


「こ、これならどう!」


 次に杖を持ったガチャ娘が杖を構えた。先端に光が集まると、それを弾丸のように放出する!

 悪鬼に命中すると小さな爆弾のように爆発するが、ただそれだけで怯むことさえ出来なかった。


「くっ……」


 僕が必死にアリシアを引きずるが、悪鬼の歩幅で距離を詰められる。周りの援護射撃なんて完全に無視をして、僕たちを攻撃できるほどのまで近づいて来た。


「グオオオオオン!!」


 悪鬼が大木を振りかざし、こちらへと狙いを定めた! こうなったらもう近くの木に身を隠すしかない。

 僕は急いでアリシアを放り投げるようにして木の陰に滑り込んだ!


「無理よマスター! アイツの攻撃は周りの木々を薙ぎ倒すのよ!?」

「もうこれしかありません! 頭を上げないで!!」


 巨大な物体が風を薙ぐ音が聞こえ、次の瞬間の木と木がぶつかり合う衝撃音が響き渡った。

 恐る恐る顔を上げてみると、僕たちが身を隠した木は折れていない。

 こんどは悪鬼の方を見てみると、振りかぶっていた大木は地面の転がり、その体からは血が噴き出していた。

 アリシアの付けた傷と傷が重なる十字傷。その中心から血が噴き出している。


「効いてる……。アイツはもう大木を振り回すだけの強度がないんだ!」


 悪鬼は落とした大木と自分の体を見比べて、どこか衝撃を受けたような表情をしていた。

 その時――


「今が好機だー!! 全員、集中攻撃ー!!」


 エラッソが大声で号令を出す。それと同時に、前衛を務めるガチャ娘たちが一斉に飛び掛かった!

 剣を振りかぶるエーコ。

 回復を終え、槍での間合いを図るシーナ。

 戦力は低いと自覚して、連携を狙うカーキー。

 ダガーを構えながら動き回って、相手の注意を削ぐアイ子。

 ようやく全員のガチャ娘が協力して悪鬼を討伐しようとしていた。


「一気に畳みかけるぞ! 全員スキル攻撃だ!!」


 取り囲んでいるガチャ娘の体から魔力が迸り、全員が一斉に飛び掛かる。そして各々のスキルを悪鬼に直撃させた!


「グギャアアアアア!?」


 効いている。間違いなく効いているのだが、それでも悪鬼は倒れない。

 遠距離攻撃型のガチャ娘も隙を見て攻撃を当てるが、それでも悪鬼は怒り狂うように拳を振り回していた。


「背中に当ててください! 背中の傷が一番深そうに見えます!」


 僕のアドバイスにエラッソが応える。


「エーコとどめだ! 背中に全力のスキル攻撃!」

「了解! スキル『爆裂発破!!』」


 最後の決めを狙っていたのか、温存していたエーコが背中に渾身の一撃を繰り出した。漁夫の利でも何でもいい。今はなんとしても悪鬼を討伐しないとダメだと、そう僕は感じていた。

 彼女の一撃は見事背中に命中して、爆音が轟く。その衝撃で悪鬼の体も大きくグラついていた。


「グウゥゥ……ガアアア!!」

「えっ!? ぐはっ!」


 エーコが吹き飛んだ。

 倒れずに踏みとどまった悪鬼が、裏拳を繰り出すようにして背後にいるエーコに拳を当てたのだ。

 エーコはなんども地面をバウンドしながら遠くの木に背中から激突をして、そのままズルズルと崩れ落ちる。


「グルアアアア!!」


 背中に無数の斬撃と爆発による火傷を負いながらも、悪鬼は未だ暴れまわる。それを恐れるようにガチャ娘たちの動きは防戦一方となっていた。


「マ、マスター。私も、もう一度戦うわ」


 体力を使い果たし、足に力が入らないはずのアリシアがそう言った。


「で、ですが、まともに動けないじゃないですか!?」

「いいえ。もう三分は休んだもの。一度くらいなら全力で距離を詰められるわ」


 未だに息を切らせて、額からは汗が流れ落ちている。それでも彼女は険しい表情で悪鬼を見つめていた。


「しまっ――いやああああっ!」


 悪鬼と交戦していたカーキーから悲鳴が上がる。僕もそちらに目を向けると、悪鬼の大きな手で鷲掴みにされていた。


「くぅ……うあああぁぁ……」


 ギリギリと握りつぶすように締め上げられて苦悶の声が漏れている。


「こいつ、離せぇー!!」


 後衛で杖を使い、光の魔弾を打ち出すガチャ娘が必死に攻撃をしていた。

 二人ともザコラスのガチャ娘なのでお互いに思い合っているようだった。


「ブンガーーー!!」


 悪鬼が掴んでいるカーキーを振り上げると、魔弾を打ち出していた子に向かって全力で投げ飛ばした!


「きゃあぁ!」


 二人は激突して地面へと転がる。そうしてどちらも動かなくなってしまった。

 まずい……。これで前衛が二人、後衛は一人だ。いつ壊滅しても不思議じゃない。


「このままじゃ全滅するわ。マスター、私をもう一度戦わせて!」


 それしかないか……

 こんな状態のアリシアをもう一度参加させないと勝ち目が見えなかった。


「分かりました。僕は何をしたらいいですか?」

「それじゃあ、私を抱き起してちょうだい」


 そう言って、アリシアは僕にしがみ付いて来た。なんと前から抱き着く格好で、首に腕を回してしっかりとしがみ付く。

 少し恥ずかしいけど、今は照れている場合じゃない。僕は足腰に力を込めて立ち上がった。

 アリシアはまだ体重のほとんどを僕に預けている。そうやって少しでも足を休めているようだった。


「私が合図を出すから、そうしたらマスターは道を開けて。全力で駆けるわ!」

「分かりました!」


 彼女は僕と抱き合いながら、奥で争う悪鬼の様子を伺っている。必然的に僕は悪鬼に背を向けている状態だ。


「まさか召喚されてから数日で、こんな死闘に参加するなんてね……」


 突然、アリシアが僕の耳元でそう囁いた。


「……すみません。もっと経験を積んでからの方が良かったですよね……」

「でも、マスターは言ったわよね。私を最強のエースにするって。だから私はその言葉を信じて全力で戦うわ。だからね、マスターも私を信じてちょうだい。レアリティがノーマルでも、誰にも負けない最強のガチャ娘になるんだっていう私の想いを!!」


 僕は黙って頷いた。

 信じるさ。だってキミは、初めて会った時からその覚悟ができていたんだから。強くなるから自分を使ってと、ひたすら訴えていたんだから!

 だから今は、この戦いが少しでも勝てるように道を示す!


「アリシア、迷うなよ。この一撃に全てを賭けろ! 後の事なんか考えたら仕留めそこなうぞ!」


 勇者のように、仲間を導くように、出来るだけ声を低く、威厳を持たせてそう助言する。


「……うん! 私ね、マスターのその声、好きよ。勇気が湧いてくるもの」


 声優志望の僕にとっては嬉しい言葉だ。だけど今は悪鬼を倒せなくては意味が無い。

 本当の本当にアリシアの事が心配で、成功を祈るばかりだ……


「今よマスター!」


 アリシアの合図が来た時には、もう彼女は自分の足で自分を支えていた。だから僕は彼女を離して、道を開けるように横へ飛び退く!

 ダン! と、地面を蹴る音が聞こえると彼女は閃光にように進んでいく。彼女が向かう先には悪鬼が無防備な状態で背中を向けていた。


「やああああああああ!!」


 少しだけ休んだ足で全力で駆ける。そのスピードはもはや残像が残るあの時と遜色がなかった。まさに、この一撃に全てを賭ける渾身の突撃!

 アリシアは音速を超える速さに体重を乗せ、悪鬼の背中に小太刀を突き刺した!

 無数の斬撃の残る背中に、エーコの攻撃スキルを加え焼け焦げた赤黒い背中。

 その切り傷が重なり最も肉が裂けている部分。そこへアリシアの刃は見事に突き刺さっていた。小太刀の根本まで深々と!

 アリシアはこれで本当に足の力が無くなったのだろう。フラフラと悪鬼から下がると尻もちを付いて立てなくなっていた。


「グオオオオオオオオオオン……」


 悪鬼の断末魔がこだまする。その後に、目から光が消えた悪鬼はその場に倒れて動かなくなった。

 誰も何も言わない。動かない。本当に倒したのか分からないため、喜んでいいのかが分からない。

 そんな静まり返った時間がどれだけ続いただろう。


「……倒した?」


 誰かがポツリとそう言った。


「ああ、倒せたんだ! 俺たち勝ったんだぁー!!」


 歓声が上がった。冒険者もガチャ娘も、みんながその勝利に跳び上がって喜んだ。

 こうしてようやく、僕たち初めての緊急クエストは成功を収めたのだった。

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