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43■千谷定昌


「それは見て判断して。さすがにあの子には見せられないの。だから、あなただけ呼んだの」


 彼女は動画アプリで何かの動画を再生する。


 そこに映るのは二人の人間だ。一人は白髪の60代くらいの男性、もう一人は50代くらいの長身の男性だ。


「白髪の男が所長の千谷定昌。研究所のリーダーよ。そして、長身の男が七塚信雄」


 三好さんが指を示して説明してくれる。


 これは監視カメラのような天井付近に取り付けられたもので撮影されたようだ。研究所内は赤色灯が点滅し、警告音のようなブザーが鳴り響いている。


「大丈夫か?」


 白髪の男性が、長身の男にそう聞く。


「大丈夫ではありませんね。私も寄生されてしまったようです」


 彼は苦笑いをしながら、左腕にある噛まれた痕を見せる。白髪の男も嗤いながら、左肩にある噛み痕を見せ「私もだよ」力無く呟いた。そして、話を続ける。


「やつらが脳に達するまで、24時間。それまでの命だな。まるで死刑宣告を受けたようだよ」

「余命宣告される場合は、そこまで短くありませんからね」

「もう少しで薬は完成したのにな」

「せめて、あと半年は猶予がほしかったですね」

「そうじゃな。あと半年あれば、反社会性パーソナリティ障害に関してはクリアできたというのに」

「悔いが残ります。私は娘に、もう一度会いたかった」

「わしも孫の顔がもう一度見たいな……いや、方法はあるか」


 白髪の男が、研究所の奥へと行こうとしている。


「待って下さい。何をするんですか?」

「万に一つの可能性を掴むのだ」

「まさか、あの薬を使うのですか? あれは人格そのものを変えてしまいます。所長が所長のままでいられなくなるのですよ」


 長身の男は白髪の男の腕を掴み、必死に止めようとしてる感じが伝わってくる。


「被験者で一人、症状を抑えられたものがいただろう」

「いえ、彼女はそれでも1週間後に命を落としています」

「止めても無駄じゃ。ここで黙って死を待つよりはいい」

「やめてください。拘束されていない所長があの薬を打ったら、残虐性を持ったまま世の中に解き放たれるのですよ」

「それがどうした? 今のようにあの寄生体が闊歩する世界を許すのか?」

「……」

「君も娘に、もう一度会いたいのだろう?」

「……待って下さい。所長――」


 ここで映像は途切れていた。


「この先の映像は?」

「これでも壊れていたデータを復活して、ここまで再生できるようにしたのよ。これが半年前の出来事」」

「二人はどうなったんですか?」

「わからないわ。でもこれだけは言える。1ヶ月前に千谷所長は鹿島で目撃されている」

「生きているんですか?」

「あれが生きていると言えるかわからないけどね」

「……」


 なんとなく想像はつくが、それは俺の中のものでしかない。


「二人の言っていた薬っていうのは?」

「寄生体を体外に排出する薬よ」

「完成してたんですか?」

「いえ、副作用が酷くて使い物にはならなかったわ」

「でも、彼らは飲んだかもしれないんですよね?」

「副作用の一つとして、メラサイトの働きが低下するの」

「肌や髪の毛が白くなるってことですか?」


 日焼けと反対の効果だってのは、感覚的にわかる。


「そうよ。さらに、その影響で目も赤くなる」

「アルビノみたいな感じですよね」

「だけど、副作用はそれだけじゃない。過度の食欲増進と、それに伴うカニバリズム衝動」

「……!」


 思わず息を飲む。カニバリズムって、人肉を食べるあれか。


「さらに反社会性パーソナリティ障害を発症するわ。性格は残虐性が増すの」

「それって……」


 髪が白くて目が赤くて残忍で人肉を食う。そんな奴らと俺たちは戦ってきた。


「そう。グールよ」

「まさか、その開発薬がグールを作りだしていると?」

「ええ、実際に出回っている薬をいくつか入手しているわ。設備がないから、きちんと解析できていないけど、あれはグールを作り出していると言ってもいい」

「それに七塚さんも協力しているのか」

「その可能性が高いわ。研究所には二人の遺体はなかったの。そして、ゾンビ化したあの人たちの肉体も」


 グール化した可能性が高いってことか。


「……」


 だから、三好さんは七塚さんに対して激しい嫌悪感抱いているのだろう。さすがにこの件は、信乃ちゃんには話せないな。


「ただ、それでも不自然……というか、腑に落ちないところがあるのよ」

「どういことですか?」

「アルビノのような見た目や、残忍な精神障害は、たしかに薬の副作用ではあるの。けれど、グールが持つ超回復能力は私たちが開発していた薬の影響ではないわ。そんなものは、今の医学で作り出すことができないの」


 そりゃそうだ。俺も同じ結論に達していたのだから。


「俺もこの目で見ましたけど、あれは医学ではなく魔法のような超常現象に近かったです」

「千谷所長の論文も読んだ事があるけど、超回復に関する記述なんてどこにもないわ。考えられるとしたら、彼以外の頭脳が関わっているということ」

「つまり協力者がいると?」

「そうとしか考えられないの。それも、私たちと同じ人間ではない。宇宙人とまでは言わないけど、人体の構造をよく知っている別世界の人間」

「……」


 異世界人。


 俺が異世界へと召喚され、転移できたとするなら、その逆もできるだろう。異世界人がこちらに来て、千谷所長に協力している可能性もあるのか。


 あの超回復は異世界の魔物のトロールの因子を組み込めば、キメラ的に作り出すことも可能だ。実際、魔王軍との戦いでは、雑魚と思われたゴブリンに組み込まれて、苦戦を強いられたこともあったからな。


「これが私の知っている七塚信雄の情報よ。あの子に伝えるかどうかは、あなたに任せるわ。私としては、黙っているのが優しさだと思うけど」


 三好さんの言う通りだ。あの子に残酷な現実を突きつけるのは酷である。


 だからといって、黙っていられるだろうか?




**



 その日はシェルターに泊めてもらうことになる。


 三好さんからは、信乃ちゃんを引き取ってもいいと言われたが、彼女はそれを断った。あくまでも姉と一緒に行動したいとのこと。


 何も知らされていない彼女は不満のようで、あの後ずっと俺に絡んできた。


 最初は無視していたが、ついには俺の腕を引っ張ってくる。


「ねえ、サトミさんはお父さんの居場所を知っているんですよね?」


 とりあえず無視しているのもかわいそうになってきたので、何か答えることにする。


「知ってはいない。たぶん、三好さんでさえ、今いる場所を把握していないよ」

「でも、どこかで見かけたんですよね? なんで隠しているんですか?」


 彼女の顔を見るのがつらい。だから、それ以上は答えないでいると、親帆さんが助け船を出してくれる。


「信乃、もうやめなさい。サトミくんも困ってるじゃない」


 彼女は大人だ。俺と三好さんの話の詳細まではわからなくても、何かショッキングな事実があって、信乃のためにそれを黙っているのだろうということを理解しているのだ。


「だって」

「約束したわよね。この旅に同行するなら、サトミくんの指示に従うって」

「お姉ちゃんも何か知ってるの? みんなで私に何か隠しているの?」

「お姉ちゃんは何も聞いていないわ。でもね、なんでも話せるわけじゃないってわかってるわ。だから、あえて聞かないようにしているだけよ」

「お姉ちゃんはお父さんのこと心配じゃないの? そうよね、お姉ちゃんとはお父さんは血が繋がってないから――」」


 親帆さんの平手が、信乃ちゃんの頬を直撃する。


「そんなこと言わないで。私だって信雄さんのことは嫌いじゃなかった。私たちにとっても大切な肉親よ」

「嘘よ! お姉ちゃんなんか、もう知らない!」

「信乃!」


 かけだしていった信乃ちゃんを親帆さんが追いかけていく。


 はあー、とため息を吐いた。この姉妹、仲が良いと言っておきながら結構喧嘩するんだよな。


「むっちゃん、どうするの?」

「あの姉妹は放っておいても大丈夫だよ」

「なら、いいけど」

「ふせっちさあ。三好さんとの話はオレたちにもできないのか?」

「うーん、おまえらに話して、信乃ちゃんに伝わったら意味ないからなぁ」

「まあ、オレは……話しちゃいそうだな」

「あたしは口堅いですよ」


 と、脳天気に小春が入り込んでくる。


「おまえが一番信用できないよ」


 小春への対抗意識なのか、道世まで質問してくる。


「わ、我はどうですか?」

「あー、道世はなぁ……」


 開発していた薬が原因でグールが発生したなんて、中二病心をくすぐるような内容だからなぁ。こいつ、興奮してえらいことになりそうだ。


「どうなんですか?」

「おまえに話すと不謹慎な方向になりそうだから、絶対言えない」

「ええええええ!?」



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