35■奇跡の雨
「小春、手を」
俺は魔力共有を始める。
あのペンダントが回復系の魔法回路が組み込まれたものなら、魔力共有と、合体技による魔力増幅で蘇生魔法の発動とその成功確率を上げられるかもしれない。
「チカホさん。その子を助けたいんですよね」
「はい?」
「俺を信じてくれませんか?」」
彼女は俺の顔をマジマジと見つめると「わかったわ。どうすればいいの?」と聞いてくる。
「俺の手に触れて、目を瞑って下さい」
彼女と手を繋ぐ。そして、魔力共有のイメージ。
繋がったら、アイテムに魔力を注ぎ増幅。
彼女の持つイメージなのだろうか?
『PerfectResuscitation』という単語が浮かび上がる
その文字に触れるイメージで、魔法を発動させた。
共有された魔力は光となり、俺たちを中心にそれは広がっていく。
それは目の前のシノちゃんだけではなく、どんどんと広がり、この敵拠点全体が金色の光で埋め尽くされた。
そして雨のような魔法が地上に降り注ぐ。
「ん?」
「ここは?」
「あれ?」
「僕たちはたしか……」
「え、私さらわれたはずじゃ?」
「グールはどこだ?」
「助かったのか?」
気付くと、檻の中にいた人たちが立ち上がって辺りを見回し、隣の人と「何があった」というような言葉を交わしている。もちろん、チカホさんの隣にいたシノという子も蘇生している。
「マジかよ」
気が緩んだ瞬間、合体技が解けた。俺たちは分離して、小春とチカホさんが両隣に現れる。
その姿を見たシノという子が不思議そうに「お姉ちゃん?」と呼びかけた。
チカホさんは嬉しそうに、彼女を抱き締める。その目には涙が浮かんでいた。
「主。終わりましたよ。あと、なんか金色の光にここら辺一体が包まれたようですが、何があったんですか?」
道世がこちらへ来る。
「フセっち。ビーなんとかいうボスは倒したぞ! チカホはどうなっ――」
続いてむっちゃんがこちらへと来る。が、チカホさんの姿を見ると、全力で彼女の元へ駆けつける。そして、涙ながらに「無事で良かった」と抱き合った。
「ダメ! ゲンは、お姉ちゃんから離れろ!」
シノって子がむっちゃんとチカホさんの間に入り、無理矢理引き剥がそうとしている。
「オレは、チカホさんと付き合ってるんだから構わないだろうが」
「あたしは認めてないからね」
「あー、もう。ゲンちゃんもシノも愛してるからぁ。喧嘩はやめてぇ」
むっちゃんとシノの両方を抱き締めようとするチカホさん。
えーと、痴話げんかじゃなくて、なんだこりゃ?
道世が気まずそうな顔をして小春に問いかける。
「ねえ、小春ちゃん。あれはどういうことなの?」
俺ではなく同性の小春に聞くってことは、本能的に男女仲に関係のあることだと気付いているのだろう。
「あれはねぇ……そう、ギャルゲよ」
「ギャルゲ?」
「そのうち妹の方は、主人公と禁断の恋におちいるのよ。これはルート分岐なの」
「主人公?」
「この場合は、六飼さんかな。あの人は場合によってはハーレムルートで姉妹丼というプレイが可能なのよ」
それエロゲだろ?
なんとなく察したのか、道世の顔がみるみる赤くなってフリーズする。
「おい、純粋な道世に変なこと教えるなよ」
俺は小春に軽くデコピンをした。
**
さらわれた15名すべてが救われた。
もしかしたら、聖光一掃で俺がゾンビたちを退散させていなければ、その者たちも復活できたのかもしれない。
今となっては奇跡のような出来事なので、検証しようがない。
というか、あのあと、俺の魔力量はたぶん10%以下になったという感覚だ。たぶん、小春やチカホさんもそうなんだろうと思う。
俺が、聖光一掃で退散させず、仮にゾンビたちがまだあの拠点に居た場合、どうなっただろうか?
蘇生魔法の魔力は半端ないほど大量に使われる。
通常の蘇生魔法で一人を生き返らせるのにも成功失敗に拘わらず昏倒してしまうほど魔力が失われるのだ。
だから、もし聖光一掃で退散させていなかったら、3倍以上の人間を蘇生していただろう。その場合の魔力消費がどうなるか?
足らない魔力は生命力を削って補われると言われている。もしあの時、ゾンビを含めた全員を蘇生していたら……たぶん、俺たち三人の命は失われていた。
「これは、むやみに使えるものじゃないな」
そう反省する。
でも、成功率が高く、本来なら単体にしか使えない蘇生が複数人に使えるという、超レアな魔法だ。
異世界でも使える奴はいないんじゃないか? そもそも魔力共有でのパワーアップがあちらの世界とは段違いである。
これはどういうことだ?
とはいえ、この手の魔法の構造については、専門家ではないので俺にはわからない。
もし分析できるとしたら、賢者シカガくらいだろう。
**
俺たちはその後、さらわれた人たちに同行しながら鎌ケ谷のシェルターへと向かう。
佐倉経由で成田に向かおうとしていたので少し戻ることになった。
さらわれていた人たちは疲労困憊だったようなので、密かに治癒魔法をかけて疲れをとる。そうして、歩き通しでシェルターについたのは夜中だった。
「やっと着いたな」
むっちゃんがほっとした顔で隣のチカホさんに微笑む。
シェルター民がいるので、内部に入るのは簡単な手続きで済んだ。
わりとセキュリティーの高い所のようなので、俺たちだけで行ったらもしかしたら門前払いをくっていたかもしれない。
鎌ケ谷のシェルターはカタカナ名称ではなく『PRF』と呼ばれていた。なんの略称なんだろうかと首を傾げる。
シェルター内部に入ると、その拠点のリーダーだという宮田さんが出てきて頭を下げる。30代前半くらいのメガネをかけた女性だ。
「私は宮田と申します。仲間を助けて下さりありがとうございました。PRFを代表してお礼を申し上げます」
「まあ、俺は友達のむっちゃんの手助けをしただけですからね。彼に感謝すべきです」
と、いちおう謙遜しておく。まあ、ぶっちゃけ、正義の味方には興味がないからなぁ。
異世界で魔王倒したのだって、自分の片思いしている子が望んだからだし……そう考えると、俺は昔からゲスな性格が直っていないのかもしれない。
「私たちのシェルターは、あなたたちを受け入れますよ」
「ありがたい申し出ではありますが、俺たちは目的地があるので、ここでの定住は考えていないんですよ。食糧を分けていただけるとありがたいですね」
「わかりました。それほど大量にというわけにはいきませんが、できる限りお譲りいたしましょう」
「ありがとうございます」
「では、疲れが癒えるまでこのシェルターでゆっくりとしていくといいですよ」
わりと人の良さそうなリーダーだった。
寝る場所も個室というわけにはいかなかったが、教室を一つ貸してくれて、そこで寝袋を敷いて休むことになる。
しばらくして、小春と道世と今後のことを話し合っていたときに扉がノックされる。




