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魔王総統 ~最強の独裁者が異世界で戦争国家を生み出した~  作者: 結城 からく


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第33話 独裁者は死闘を演じる

 私は爪の軌道を見切ってライフルを三連射した。

 ルベルの右眼球から額にかけて穴が開き、後頭部を突き抜けて脳が散る。

 それでもルベルは速度を落とさずに突っ込んでくる。


「怪物め」


 右手の爪に合わせてバックステップで回避する。

 切っ先が軍服を掠めて、薄紙のように切り裂いていった。

 かなり鋭利だ。

 魔力が込められているのだろう。

 オカルトの力が武器や身体を強化するのは知っている。


 今度は左手の爪が来た。

 私は躱しながら間合いを詰めると、チェーンソーを鳩尾に捻じ込んだ。


 回転刃が肥大化した筋肉を抉って潜り込む。

 モーター音と共に血飛沫が舞った。

 深く突き込むほど、傷口から臓腑の破片が噴き出す。

 骨を削る硬い感触が指にまで伝わってきた。


 しかしルベルは怯まない。

 彼は血を吐きながら笑みを作った。


「ぐ、きひっ……その、程度か……!」


 両手の爪を振り下ろされた。

 私はチェーンソーを離して飛び退く。


 着地の際によろめいた。

 見れば膝の簡易装甲が陥没している。

 爪が少し当たってしまったらしい。

 骨にヒビが入ったようだ。

 簡易装甲がなければ切断されていたかもしれない。


 ルベルは腹に刺さったチェーンソーを引きずり出して放り投げる。

 大きく開いた傷口が徐々に再生し、数秒で完治した。

 相当な回復スピードである。


 経験上、無限に再生できるわけではないのは知っている。

 魔力というエネルギーで成立しているのだ。

 何度も傷を受ければ再生速度は鈍り、やがて治癒が働かなくなる。


 ルベルにはまだ明らかに余裕があった。

 潜在能力の解放は伊達ではない。

 再生を封じるにはさらなるダメージを与えねばならなかった。


(先は長そうだな)


 私はチェーンソーの代わりにナイフを握る。

 ライフルの弾はまだ残っている。

 武装は十分だ。

 いざとなれば肉弾戦も可能である。

 疑似骨格と自己催眠で底上げされたパワーなら魔王にも通用する。


 私の構えを見たルベルは含み笑いを洩らした。


「ふ、くふふふ……まだ勝つ気でいるのか」


「当然だ。ここまで追い詰めて諦めるはずがないだろう」


「追い詰めたつもり、になっているとは……憐れな、奴め。貴様に、真の絶望を、教えてやろう……」


「真の絶望か。興味があるな。早く見せてくれ」


 私は挑発を込めて手招きする。

 表情を消したルベルは瞬時に仕掛けてきた。


 そこから壮絶な殺し合いが始まった。

 中距離から攻撃を仕掛ける私に対し、ルベルは至近距離で爪を振るおうとする。

 互いに有利な間合いを維持するために攻防を展開した。


 ほんの一瞬のミスが命取りになる。

 そのやり取りがどうしようもなく心地よい。

 私は感謝を込めて魔王を殺しにかかった。


 そうして体感で数時間が経過した頃、戦いは佳境に至った。

 満身創痍の私は片脚を庇って立っていた。

 疑似骨格はほぼ全壊し、簡易装甲もとっくに壊れている。

 全身が血みどろで骨も折れているだろう。


 いくら白兵戦が得意と言っても、相手は再生し続ける化け物だ。

 単純な身体能力でこちらが劣っている。

 加えて爪は掠めるだけで重傷だ。

 死んでいないだけ奇跡に近いかもしれない。

 技術面でこちらが圧倒的に優れていたのが功を奏したようだ。


 一方でルベルも瀕死だった。

 度重なる銃撃と爆破で、再生能力はとっくに限界を迎えていた。

 焼け爛れた顔は殺意に歪んでいる。

 こぼれ出た内臓は、破れて引きずられている状態だ。


 肉体は肥大化したままで、依然として怪力と爪は脅威である。

 それでも死にかけには違いなかった。

 激しく吐血したルベルは憎々しげに呻く。


「こ、この……まさ、か魔術も使えぬ、人間に……追い込まれる、とは……」


「敵を過小評価するからそうなるのだよ。人間の可能性は無限大だ。見くびらない方がいい」


 私は折れたナイフを捨てて述べる。

 所持していた武器は使い切っていた。

 医療用スプレーも空なのでこれ以上の負傷は不味い。


 しかし、精神面は充実している。

 己を死の目前に晒して戦う感覚に酔い痴れていた。

 戦いの苦痛も活力に変換されている。

 五感はひたすらに研ぎ澄まされて次の一手を狙っていた。


 絶好調の私はルベルに要求する。


「遺言はあるかね。よければ私が憶えておこう」


「グ、ゥ……どこまでも、ふざけた男だな」


 ルベルが巨躯を揺らして呟いた。

 次の瞬間、最後の力を振り絞って疾走してくる。


「死ぬのは貴様だァッ!」


 私は無防備な姿勢で待ち構える。

 刹那、傍らの空間に魔法陣が生まれた。

 時間差での遠隔召喚だ。


 そこからせり出してきたのはロケットランチャーだった。

 私は肩に担ぐようにして構えて、照準を定めながら告げる。


「魔王ルベル。君はそれなりに楽しませてくれた。礼を言おう」


 ロケットランチャーを発射した。

 勢いよく飛び出した弾はルベルに直撃して大爆発を起こす。

 闇の空間に大量の煙が舞い上がった。


 私は空の本体を捨てて注視する。

 煙の中にルベルの足が覗いた。

 それは覚束ない足取りで歩いてくる。


 煙を切って現れたルベルは、腰から下だけが存在していた。

 上半身は消失している。

 焼け焦げた境目から察するにロケットランチャーの直撃で消し飛んだらしい。


 ルベルの両脚がくたりと崩れ落ちた。

 それきり動くことはなかった。

 さすがにここから再生する力はないようだ。


 魔王ルベルは死んだ。

 裏切りで覇権を握った王は、その短い全盛期を終えたのである。


 周囲の闇が薄れていく。

 内部の魔族がすべて死んだことで結界が解除されたのだろう。

 気が付くと、隔離される前にいた魔王軍の首都にいた。

 遠くからシェイラが走り寄ってくる。


「閣下!」


 シェイラは見たこともないほど動揺した顔をしていた。

 私の前まで来た彼女は安堵した様子で息を整える。


「ご無事でしたか……」


「すまないね。敵の罠に閉じ込められていたんだ」


 私は破損した疑似骨格を外しながら応じる。

 シェイラはそれを一瞥する。

 ウォーモンガーの存在は知っているので、苛烈な戦いがあったことを察したはずだ。

 早くも平常時の調子を取り戻したシェイラは、背筋を正して私に報告する。


「魔術師によると、魔王の反応が消失したそうです。形勢の不利を悟って逃亡した可能性があります。すぐに行方を捜索して――」


「その必要はない。魔王は私が殺した。一年越しに勇者の使命を果たした形だね」


「えっ……」


 シェイラの鉄仮面がまたもや崩れる。

 聡明な彼女でも、さすがにそれは予想外だったらしい。

 私は意地悪く笑って指摘する。


「何を呆けているのだ。戦争はまだ終わっていない。一気に占領するぞ」


「了解。残党を速やかに殲滅します」


 我に返ったシェイラは敬礼と共に動き出す。

 私もそれに続いた。


 その後、我々は魔王軍の首都を占拠した。

 さらなる蹂躙で周辺地域の一帯を支配し、連れてきた元魔王を責任者に置いて運営を始めた。

 首都には私の治療も兼ねて二週間ほど滞在した。

 運営に滞りがないことを確かめてから王国に帰還する。


 これにて魔王軍との戦争は終結した。

 一連の出来事はほどなくして他国に広まるだろう。

 その時の反応が非常に楽しみである。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今話もありがとうございます! アーノルド vs. ルベル、 ダークドレアム vs. デスタムーアほどの圧倒的な差こそ有りませんでしたが、 まあ、ルベルにとっては相手が悪過ぎた。 [一言]…
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