第32話 独裁者は殺戮の化身となる
私は召喚した部屋の中を改めて確認する。
そこには素晴らしい武器の数々が並んでいた。
樽のようなドラムマガジンが付いたガトリング。
筒型の超小型ミサイル。
熊でも真っ二つにできそうな大型チェーンソー。
科学燃料入りの火炎放射器。
他にも多種多様な代物が取り揃えられている。
微笑んで見入っていると、部屋に一体の魔物が侵入してきた。
隙だらけな私を殺そうとしているらしい。
「やれやれ、変身中は攻撃禁止だと知らないのかね」
肩をすくめた私は、散弾銃を手に取って連射した。
その魔物はコンマ数秒で蜂の巣になって崩れ落ちる。
身体の前面が引き裂かれて、破れた臓腑が露出していた。
なかなかに惨たらしい有様である。
他の魔物達は怯えていた。
この部屋に侵入するのは不味いと悟ったようだ。
それでいい。
今は邪魔をしてほしくなかった。
「少し待っていたまえ。すぐに準備できる」
私は魔物達に告げながらロッカーを漁る。
そこから取り出したのはパワーアシスト用の装備だ。
チューブ型の疑似骨格と対ショック性に優れた簡易装甲である。
いずれも私の肉体を強化するためのアタッチメントであった。
これらと武器が揃うことで、凄まじい性能を発揮する。
私は疑似骨格を装着しつつ説明を始める。
「一連の装備をウォーモンガーと私は呼んでいる。個人の火力増強をコンセプトに設計した戦闘スーツだ。新部隊に実装するつもりだったのに戦争が終わってしまってね。実に不憫な扱いなので、いつか召喚しようと思っていたのだよ」
本当は専用の機械で分厚いアーマーも追加するのだが、残念ながら一人では装着できない。
そもそも召喚範囲から外れており、ここには存在しなかった。
さすがにすべてを揃えるには時間が足りなかったのだ。
やむを得ず必要最小限の装備に留めている。
アーマー抜きだと防御面が心許ないが、そこは私が立ち回りでカバーするつもりだ。
装着を終えた私は次に武器を吟味する。
背中に火炎放射器の燃料タンクを背負い、左手首に沿って火炎放射器の先端を固定した。
ガトリングは右手で保持して、トリガーに指をかけておく。
左右の腰には超小型ミサイル砲を備え付けた。
簡易装甲のベルトに固定する形で、他にも数種の武器を挿し込む。
欲張った結果、かなり無茶な量の武装となってしまった。
使いたい武器がたくさんあったのだ。
重量はあまり気にならない。
疑似骨格と自己催眠で膂力は大幅に上がっている。
色々と迷った末に、持ち切れない武器を鋼鉄製のロッカーに押し込んで小脇に抱えることにした。
片手が塞がるが戦闘に支障はない。
これから飽きるほど武器を使い潰すのだ。
すぐに捨てることになるだろう。
「秘密兵器で逆転する展開はあまり好まないのだがね。今回だけは許容しよう」
私が前に進み出ると、魔物達は自然と後ずさった。
そこに容赦なくガトリングガンを向ける。
「――さあ、虐殺の始まりだ」
期待に胸を膨らませてトリガーを引いた。
悪魔的な連射速度で弾が放たれて、魔物達が一瞬で肉片に変わった。
防御や回避など関係ない。
銃身を左右に動かすことで均等に抹殺していく。
ガトリングは十数秒で弾切れとなった。
あまりの連射速度で継続戦闘力に欠けるのだ。
本来なら弾薬箱を背負うのだが、今回は用意できなかったのである。
(まあいいだろう。今のでも結構な数を殺せた)
私はガトリングを捨てると、続けて超小型ミサイルを連射した。
大雑把な狙いながらも、最初の掃射で怯んだ魔物達を爆発で木端微塵にしていく。
魔術の結界で防ごうとする者がいたが、そんなもので止められるほど甘くない。
私は丹念にミサイルを叩き込んで圧殺してやった。
夢中で撃ち込んでいるうちにミサイルもすぐ空になった。
砲身を捨てて前方に飛び出した私は、火炎放射器を起動させる。
手首のホースから放たれる炎が舐めるように魔物達に捉えた。
肉の焼ける臭いと共に黒煙が上がる。
火だるまになった魔物達が阿鼻叫喚の大騒ぎとなった。
彼らは右往左往しながら炭化して倒れていく。
私は燃料タンクの横に吊るした大型チェーンソーを手に取り、嬉々としてスターターを動かした。
刃が超高速回転して甲高い音を立てる。
通常の数倍の回転スピードだ。
強靭な肉体を持つ魔物だろうとただでは済むまい。
私は炎で悶絶する魔物達をすれ違いざまに斬殺していった。
合間で銃弾と火炎の追撃も忘れない。
彼らの戦意を削ぎ落とすように遠慮なく攻め立てる。
魔物達はパニックに陥っていた。
逃げ惑う彼らは、自分達が狩られる側に回ったのだとようやく理解したらしい。
私はその無防備な背中を追いかけて焼き殺していく。
「何をしている! 敵はたった一人だろうッ! さっさと殺せェ!」
魔王ルベルが必死に何かを叫んでいる。
しかし、それに応じる者はいない。
誰もが自分の命を守るのに必死なのだ。
逃げ場のない闇の空間を駆け回っている。
私はそんな魔物達を惨たらしく殺すだけだった。
ものの五分ほどで、私は結界内にいた数百の魔物を殲滅した。
ウォーモンガーの圧倒的な火力のおかげだ。
心理的に追い込めたのも大きい。
最初のガトリングにそれだけのインパクトがあったのである。
タンクが空になった火炎放射器を捨てて、武器を詰め込んだロッカーを下ろす。
最初は重量感のあったロッカーもだいぶ軽くなった。
私は残っていた武器を適当に掴み取り、ただ一人残った魔王のもとへ向かう。
「配下はこれで殲滅したぞ。追加を呼び出すかね。私は大歓迎だが」
「――もう、いい。貴様はこの手で殺さねば気が済まない」
「最初からそうすればよかったのだよ。他人任せにするものではない」
私が嘲笑すると、ルベルの頬が痙攣した。
怒りが頂点に達している。
それを理性で必死に留めていた。
ルベルは殺意を押し殺した声音で述べる。
「貴様は知るまい。封印魔術の使い手とは、転じて封印の解除――つまり潜在能力の解放を得意とする。他者を弱くするだけではないということだ」
「ほう、面白い。見せてくれ」
私が促すと、ルベルはすぐさま力を発露させた。
彼は魔力のオーラを帯びて咆哮を上げる。
封印魔術の逆転による秘めたる力の全解放だ。
ここまで温存してきたということは、正真正銘の奥の手なのだろう。
ルベルの肉体が隆起し、骨格単位で変貌し始めた。
ものの数秒で彼は筋骨隆々な大男となる。
獣じみた顔になったルベルは、禍々しいオーラを発しながら高らかに笑った。
「フハハハハハハッ! これで貴様は終わりだ。外にいる王国軍も皆殺しに――」
「その程度か。興醒めだな」
鼻を鳴らした私は持っていた銃を発砲する。
大口径のライフル弾がルベルの肩に被弾した。
粉々になった骨と肉が飛び散った。
傷口からすぐさま再生が始まるも、ルベルは怒りに染まった顔で私を睨む。
私はライフルと大型チェーンソーを構えて告げた。
「死ぬ気で抗いたまえ。これが最終決戦なのだからね。あっけなく終わると困る」
「……よかろう。貴様を死に様をこの目に焼き付けてくれるッ」
怪物と化したルベルは、伸びた爪を振りかぶって襲いかかってきた。




