表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王総統 ~最強の独裁者が異世界で戦争国家を生み出した~  作者: 結城 からく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/34

第27話 独裁者は決意する

 翌日以降も戦争の日々が続く。

 もはや誰にも止めようがない段階にまで至っていた。

 大陸全土で夥しい量の血が流れて、多くの死が蔓延している。


 相変わらずこちらの陣営が圧勝を重ねていた。

 銃火器と筆頭に数々の兵器が猛威を振るう。

 そこに魔術のサポートも加わったことで死角がなくなっていた。


 各国はいくつもの対策で我々を阻んできたが、損害は微々たるものに過ぎない。

 彼らのやることは想定できる。

 向こうの戦力や過去の戦闘記録を参照すれば自ずと浮かび上がるのだ。


 些細なイレギュラーなどに大局を変え得る力はない。

 ハプニングはむしろ嬉しいくらいだが、私の想定を上回る事態はそう簡単に起きるものではなかった。

 不明瞭な点が多い場合は私やシェイラが出向くようにしているため、敗戦や撤退に至る方が難しい。

 帝国と公国の他にはまだ占領していないが、各国は徐々に追い込まれていた。


 根本的に軍事力が違うのだ。

 我々は異世界から兵士と武器をそのまま召喚できるので、あらゆる消耗を気にしなくていい。

 だから強気な作戦を進めることができる。

 兵の不安や恐怖をマインドコントロールが取り除けば、ミスの発生も劇的に低下する。

 したがってこちらは常に最高のパフォーマンスを発揮できるのだ。

 余計なことを考慮せずに済むのだから素晴らしい環境と言える。


 このまま私は戦争を過熱させていく。

 ゆくゆくは大陸の外の国々も巻き込むつもりだった。

 巨大空母を召喚する計画も進めている。

 戦禍の拡大は近い未来に叶うはずだ。

 充実した毎日を送る私は、精神的に満たされていた。


 ある日の夜、城内の一室を訪ねる。

 そこには赤黒い角を持つ女が待っていた。

 魔王だ。

 いや、現時点では"元"と付けるべきだろう。

 現在の魔王軍は彼女の側近達が運営している。

 魔王の地位も別の配下が名乗っており、依然とは別の支配体制となっていた。


 私は空いた椅子を引き寄せて座る。

 元魔王はベッドに腰かけてこちらを見ていた。

 その眼差しには諦めの感情が揺らいでいる。

 数週間前までは絶望が色濃く出ていたが、もはやその時期を過ぎたらしい。

 この状況を受け入れつつあるようだ。


 私は手を組んで元魔王に尋ねる。


「平和主義に走った結果、すべてを失った気分はどうだね」


「後悔はしておらぬ。そもそも我は常に人間との和平を望んできた。一部の配下は支配と殺戮を掲げていたが、そんなものは決して実現できぬ。いずれ破滅が訪れる」


「私を揶揄しているのかな」


「どうとでも解釈しろ。我には関係のないことだ」


 元魔王は投げやりに答えた。

 まるで抜け殻のような有様である。

 ここで私に殺されようと構わない――言外にそう主張していた。

 私は微笑を崩さずに述べる。


「これでも私は君を評価しているのだよ。魔王軍という勢力を国家の一つとして落ち着かせようと尽力してきた。そのための努力は怠らず、各国への根回しも進めていた。結果として配下の裏切りで失敗したものの、君は十分によくやったと思うよ」


「慰めのつもりか?」


「ただの感想だ。私の主義とは対極に位置するスタンスだが、別に無価値だとは考えていない。むしろ立派な思想と言えよう。行き場のない魔物を統率し、魔族を種としてまとめ上げたのは君の功績だ。存分に誇るといい」


「……嫌味にしか聞こえん」


 元魔王が口元を歪める。

 彼女は私の目を見た後、ため息を洩らした。


「本題があるのだろう。早く用件を言え」


「我々はこれから魔王軍と戦う。占領が完了した暁には君に譲りたい。私の傀儡として魔王軍を運営するのだ」


「なんだと……!?」


「その地位に据え置くのに手頃な部下がいないものでね。敗北で恐怖を刻み込まれた魔族達にとって最も苦痛なのは、追放した平和主義の臆病者に支配されることだろう。いやはや、想像するだけで楽しみになる」


 私は静かに笑みを深めた。

 こちらからすると、洗脳した責任者を魔族のトップに配置できるのは都合が良い。

 元魔王にとっても返り咲ける最大のチャンスだ。

 自力では届かなかった地位を再び掴み取ることができる。

 それも今度は揺るぎない状態でだ。

 お互いにメリットしかない関係と言えよう。


 元魔王は暫し無言で考え込む。

 私の提案を何度も入念に咀嚼している。

 己の利を勘定した上で、何か落とし穴がないか探っているに違いない。

 やがて彼女は思考を止めて苦笑した。


「貴殿は相手の嫌がることをするのが好きなのだな」


「戦術の基本として心得ている。反応を見るのが愉快だ」


 私は懐を探り、紙とペンを取り出した。

 それを机に置いて部屋を出る。


「魔王軍の戦力や注意すべき者を記録しろ。君をすぐに元の地位に戻してやろう」


「断ると言ったらどうする」


「拒否権はない。君は君の役割を全うするのだ」


 私はそう言い残して扉を閉める。

 研究所に向かう途中、ダリルと女王に会った。

 女王は気さくに挨拶をしてくる。


「こんばんは、総統さん。また新しい戦争が始まるの」


「どうして分かる」


「あなた、嬉しそうに笑っているもの」


 女王は自分の頬をつまんで笑みを作った。

 このような少女が察するとは、よほど分かりやすかったらしい。

 ポーカーフェイスは得意だと思っていたが、思い違いだったかもしれない。


「気が付かなかったな。注意しよう」


「別にいいんじゃないかしら。無表情より素敵よ」


「……それはよかった」


 私は眉間に皺が寄るのを感じながら応じる。

 女王は傀儡の立場を満喫していた。

 こちらが不自由のない生活を提供しているのもあるが、それ以上に本人がポジティブなのだ。

 欲張らずに現状を謳歌しており、女王の仕事も欠かさない。

 文句のない働きをしていた。


 それにしても、親しい知人のような接し方をされると少々反応に困る。

 元の世界を振り返っても類似する立ち位置の人間は皆無に等しかったからだろう。

 やり取りを見ていたダリルが話に入ってくる。


「いよいよ魔王軍との対決かい」


「そうだ。全面戦争を始める。君はどうする。希望するなら最前線に向かってもらうが」


「勘弁してくれよ。俺は王都で贅沢三昧とさせてもらうぜ。黄金獅子の責任者として活動もしなきゃならんしな」


 ダリルは大げさに肩をすくめてみせる。

 彼の冗談を言っていない。

 暇を見つけては成金商人のような生活をしている。

 なるべく仕事をしないのがモットーらしく、幹部の中でも特に怠惰な印象が強い。


 もっとも、役立たずというわけではない。

 それどころか自分の仕事を最速で仕上げてから余暇を楽しんでいるのだ。

 効率面において彼の右に出る者は滅多にいないだろう。


 私は前々から思っていたことをダリルに告げる。


「君は変わり者だな。それほどの実力ならば多大な戦果を上げられるというのに」


「自分の才能を活かして金を稼ごうとしたら兵士になっただけだ。別に戦いは好きじゃねぇよ。あんたやシェイラの嬢ちゃんと一緒にしないでくれ」


 そう言い残してダリルと女王は立ち去る。

 聞けばこれから二人でゲーム機で遊ぶらしい。

 要望された攻略本を取り寄せたので、それも使うのだろう。


(……自由だな、色々と)


 私は気を取り直して今後の予定を考える。

 新たな魔王軍との全面戦争だ。

 準備は万端に近い。

 あとは細かな調整を終えれば軍を動かせる。


 ようやくこの時が来た。

 ある意味では、勇者として使命を果たそうとしている。

 私がこの世界に召喚されてちょうど一年が経とうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 今話もありがとうございます! >ダリル もしも彼が総統の出身世界で生まれていたとしたら、 たぶん敏腕ビジネスマンになってたんじゃないかな。 [一言] 続きも楽しみにしています!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ