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魔王総統 ~最強の独裁者が異世界で戦争国家を生み出した~  作者: 結城 からく


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第25話 独裁者は戦争を突き進める

 渇望してきた戦争がとうとう開幕した。

 殺し切れない喜びを示すため、私は元の世界の軍隊を大量に呼び出した。

 その数はおよそ二十万。

 全面戦争の果てに勝利を掴み取った私だけの軍隊である。


 私は混乱する彼らの前で演説を行った。

 マインドコントロールを込みで状況を説明し、再び戦ってもらうことになった。

 ちなみに彼らは私が行方不明になった半年後の世界から来たらしい。

 元の世界では、総統である私の後継者争いが勃発しているそうだ。

 無限の富と名声を求めて、候補者達が熾烈な戦いを繰り広げているという。


 なんとも面白そうな展開だった。

 私も参加してみたいが、こうして召喚されて行方不明になったからこそ発生した出来事だ。

 或いは私が自殺に成功した際も同様の展開になっていたに違いない。

 どのみち私がいなければ起こり得ない戦争であった。

 ここは我慢して目の前の戦争に没頭しようと思う。


 私は召喚した二十万の軍隊を公国に差し向けた。

 こちらを魔王に認定し、戦争廃止を掲げながらも攻め込んできた国である。

 別に恨んでいるわけではないが、力を知らしめる相手としてちょうどいいだろう。

 軍隊にとっても、この世界の戦い方を知る良い機会になる。


 結果は考えるまでもなかった。

 圧倒的な戦力を持つ二十万の軍隊は、公国の抱える兵を叩き潰してみせた。

 あらゆる作戦を捻じ伏せて戦線を首都へと押し込んでいく。

 公国は優れた魔術知識を持っているが、その程度で銃火器に対抗できるはずもない。

 射程街から爆発と鉛玉を浴びせられて終わりだ。


 軍隊が首都に迫る途中、公国の使者が降伏の旨を伝えてきた。

 私はこれを無視して使者を射殺した。

 命惜しさの降伏など聞き入れるはずもなかった。

 何よりここで中断するなどつまらない。

 やるなら徹底的に成し遂げるべきだろう。


 かつて私を勝利に導いた最強の軍隊は、ほどなくして公国を掌握した。

 後日、公国はいくつかの発言を撤回すると、王国と帝国を理想的な国家であると称賛した。

 さらには様子見を貫く国々を激しく糾弾して宣戦布告を行った。


 無論、これらの行動は私が指示したのである。

 首都の掌握後、直々に出向いて王を洗脳を施したのだ。

 今では忠実な傀儡と化している。

 私の言葉一つで喜んで自殺するほど心酔していた。

 もはや恐怖も感じないはずなので、本人にも感謝していることだろう。


 公国の豹変について、当然ながら他の国も気付いていた。

 この頃から私は第二の魔王として恐れられるようになっていた。

 女王が傀儡であることは公然の秘密に近い。

 総統という役職で様々な指示を出して、表舞台にも顔を出している。

 実質的な権力者が誰であるかは一目瞭然であろう。


 魔王と呼ばれることは別に構わない。

 むしろ都合が良い。

 私を敵視する者が増えるほど戦争ができるのだ。

 これほど望ましい展開はない。


 私は公国に二十万の軍隊を配置すると、彼らに国家の支配を任せた。

 通常召喚の魔法陣も設置して一連の使い方は伝えておく。

 無線で連絡も取れるようにした。

 これで公国も実質的に私の物になった。

 いつでも戦力の派遣と補充ができる。

 魔力工場や研究所と言った軍事施設も建設中なので、いずれは独立して運営できるようになるはずだ。


 久々に王都に戻った私は様子を確かめる。

 シェイラとダリルは特に問題なく国を回していた。

 傀儡の女王は、形式的な声明の発表に加担し、協力的な態度を続けている。

 普段は書庫の本を読み漁っているか、通常召喚で取り寄せたゲーム機やマンガを楽しんでいるらしい。

 最近は元の世界の言語を勉強して、既に日常生活で支障がないレベルに至っているそうだ。

 女王のことは傀儡として認識していたが、他にも使い道があるかもしれない。

 色々と考えておこうと思う。


 王国と帝国と公国が戦争のために連携し、他の国々は魔王軍と同等以上に警戒していた。

 一方で同盟と技術提供を要求してきた国があったので、即座にミサイルで黙らせた。

 臆病者を受け入れるほど私は優しくない。

 この戦争は私のものだ。

 興を削ぐような真似をされれば、十倍返しで対応するまでだった。

 何度かミサイルを叩き込むと、下らない交渉を持ちかける勢力はいなくなった。


(大魔術による反撃くらいしてほしいものだがな)


 私は王都の私室で戦果報告の書類を読みながら思案する。

 派手に攻撃しすぎたせいか、他国がすっかり委縮している。

 ミサイルの破壊力で好戦的な態度を削いでしまったようだった。

 夜鷹が活動を始めて、要人暗殺が好調なのも一因だろう。

 手を抜くのは主義に反するが、ここまで圧倒的だと考えものだった。


(今のところ期待できるのは魔王軍のみか)


 近頃の魔王軍はなぜか攻勢的な動きが目立つ。

 慎重派だった今までとは明らかに異なるので、指揮系統が大きく変わったのかもしれない。

 密偵に探らせたところ、魔王軍は内部争いが激しく実態が掴みづらい。

 最近はかなりまとまりが出来ており、故に攻勢に出られたのだろう。


 もっとも、こちらとの戦力には致命的な格差がある。

 個々のスペックでは人間が劣るも、装備と兵器の差で大勝しているのが現状だった。

 現在は迎撃に留めているが、魔王軍の支配地へと侵略を始めれば、あっという間に決着する予感がある。

 なんとかして起死回生の一手を打ってほしいものだ。

 それを木端微塵にする展開を私は望んでいる。


(魔王に降伏されないことを祈るばかりだ)


 このままだと十分にありえる。

 降伏続きの戦争など面白くない。

 死力を振り絞って戦うからこそ意味がある。

 せめて魔王軍には絶対的な悪として立ちはだかってほしかった。


 いっそ少数精鋭で魔王の暗殺に出向くのも手かもしれない。

 少し無謀ではあるが、戦略的には悪くないだろう。

 シェイラや夜鷹を引き連れて強襲するのだ。

 魔王との直接対決なら愉快な戦いを味わえる可能性は高い。

 順序を大切にしたいので即座に決行はしないが、手段の一つとして頭の片隅に留めておこうと思う。


 報告書を閉じた時、部屋の扉がノックされた。

 顔を覗かせたのは大臣だ。

 彼は顔面蒼白で助けを求めるように視線を送ってくる。

 只ならぬ雰囲気で大臣は口を開く。


「総統……」


「何だね」


「も、申し訳ありません……」


 泣きそうな大臣がおずおずと入室する。

 その背後から外套を纏う者が追従してきた。

 握られた刃物が大臣の背中に突き付けられている。

 どうやら脅されて私のもとまで案内したらしい。


 城内の警備を突破してくるとは、なかなかの隠密能力である。

 素直に感心していると、外套を纏う者がこちらを見つめてきた。

 影になって顔が窺えない。

 少なくとも殺気の類は感じられなかった。


「貴殿が総統とやらか」


「いかにも。君は侵入者だね。私に何の用かな」


 そう応じると、相手は外套のフードを脱いだ。

 晒された素顔は、白磁のような肌を持つ美女だった。

 真紅の髪と瞳を持つ女は、片膝をついて懇願する。


「我は魔王だ。この国への亡命を受け入れてほしい」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今話もありがとうございます! 総統転移後の元の世界の様子は案の定だが……ラスト1行で急展開! これは予想外! [気になる点] >女王は、形式的な声明の発表に加担し、協力的な態度を続けてい…
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