第24話 独裁者は全面開戦を行う
翌日から一部の兵士を徴集し、能力付与を始めた。
そこから得られた結果を記録して、新たな部隊を編成するためのデータに役立てる。
数百人規模での能力付与はそれなりにコストがかかるが、今回は必要経費だろう。
材料と魔力はいくらでも補充が利くため、コスト面は度外視で実施する。
私とシェイラで協力して、寄せられたデータを参考に部隊の新設を進めていく。
途中からは付与される能力の方向性を洗脳で調整できると判明し、効率は飛躍的に高まった。
欲しい能力を予めて決めておいて、それを兵士に伝えながらマインドコントロールを発動する。
重度の洗脳は魂をも歪めるのか、希望に近い能力を発現するようになったのだ。
ただし非常に高いリスクを伴うため、使う人間は選ばねばならないだろう。
それでも便利なことには違いないので、使い潰してもいい兵士には遠慮なく使用した。
二週間後にはひとまず予定していた分の編成が完了した。
まず最初に編成したのは黄金獅子だ。
かつて私が団長以外を皆殺しにした国王直轄の部隊である。
実質的に凍結状態だったところを、せっかくなので再始動させたのだった。
現在は女王直轄で団長は引き続きダリルに任せている。
その他の人間は能力者だけで統一した。
とにかく派手で強く見えることを重視しており、自然と炎や雷といった自然現象を操るタイプの能力者が過半数を占めることになった。
ほとんど魔術師の強化版と言えよう。
私やシェイラのように独自性のある能力者は皆無だが、見栄えや総合力は悪くない。
洗脳を使った訓練も甲斐もあり、少なくとも以前の黄金獅子とは比較にならない戦力となっている。
新たな黄金獅子は、軍拡に向けたプロパガンダ部隊である。
民衆へのアピールと、華々しい勝利を飾るのが任務だ。
だから能力の派手さで選抜している。
ダリルはそのことについて文句はないようだった。
彼は気楽に過ごすことができればそれでいいらしい。
それなりの役職で給与も約束されているので満足なのだそうだ。
私なら所属がお飾り部隊になった時点で抗議するが、そこはスタンスが異なるので口出しはしない。
とにかく、黄金獅子には国内での積極的なアピールを頼もうと思う。
王国の主義主張が方々へ届くように尽力させるのだ。
次に新設したのは白豹という部隊である。
こちらは主に国内の反乱粛清を目的とした戦闘集団だ。
白い軍服と銃がトレードマークで、諜報部と連携させながら国内各所で活動させることを想定して編成した。
白豹には銃による戦闘を主軸に、それをフォローできる能力者を集めている。
特に魔力で武器を模造する能力は優秀だ。
模造した武器は時間経過で消失するため、消費を考えずに銃火器として非常に重宝している。
彼らには王都に近い地域から既に活動を始めさせているが、さっそく成果を上げていた。
未洗脳の反乱分子を捕まえることに成功し、私のもとに連れてきたのである。
隊の中に相手の思考を読む能力者がいるので、不審な人間を簡単にピックアップできるのだった。
これで国内のトラブルは劇的に低下するだろう。
黄金獅子との連携で治安向上に貢献してくれるはずだ。
今後も上手く機能すれば、戦争に注力しやすくなるので非常に助かる。
二つの組織が国内向けならば、夜鷹は国外特化の部隊だろう。
彼らの任務はただ一つ。
すなわち暗殺である。
夜鷹は今後の戦争において不都合な人間を消すのが目的だった。
能力を使ったホットラインの通話が可能で、常に私と連絡が取れるようにしている。
移動能力に優れた能力者もいるため、距離を考えずに暗殺の指示を送れるのが強みだ。
夜鷹に所属する兵士には暗殺に関する専門技能も学ばせている。
銃による狙撃や暗所でのナイフ戦闘、変装した状態から毒殺する方法も伝授した。
基本的に少数精鋭で、一般には知られていない秘密部隊として運営している。
まだ各種技能を教え込んでいる最中なので始動は先になるが、こだわり抜いた暗殺部隊が完成する予定だ。
その際は満足のいく結果を出してくれるに違いない。
元の世界の部下も何名か在籍しており、彼らも指導役として隊の育成を促している。
戦争が本格化すれば、昔の部下を増員して世界一の暗殺機関にする予定だ。
他にも指揮系統を整理を進めつつ、独立部隊などの大胆な改革を進めたが大きな変化はこの三つの部隊だろう。
国内での喧伝と粛清、そして国外での暗殺。
良い具合に役割分担ができたのではないだろうか。
もちろんこれで万全とは考えていない。
特殊部隊が機能するのは、メインの部隊が存在しているからだ。
能力付与に気を取られて基礎戦力が低下しては本末転倒であった。
合間を縫って私も一般兵の訓練に参加し、来たる戦争に向けて徹底した強化を実施する。
ある程度の形になったところで帝国の統一戦争に出向いて、訓練を施した軍を以て貴族の連合軍を壊滅した。
勝利に浸る彼らをよそに敗残兵と首謀者の貴族を洗脳し、帝国全土を王国の支配下に置いた。
(これで大陸の勢力図は一変した。各国は焦っているだろうな。もはや取り返しのつかない状況なのだから)
数日後、帝都の城で寛ぐ私は、世界地図の上で駒を動かしながら微笑する。
密偵によると複数の国が同盟を結び、王国を共通的に認定したらしい。
彼らは力を合わせて戦おうとしている。
魔王軍もようやく活発化し、現在は帝国領の辺境にて交戦していた。
占領地を潰された腹いせなのか、一撃離脱を繰り返して防衛戦力を削ごうと企んでいるようだ。
(王国軍の次は帝国軍を鍛え上げるか。ノウハウは既に掴んでいる。最高効率で銃火器を使った軍隊にできるだろう)
現在の帝国軍の装備はこの世界の典型である。
王国軍の強化を優先しており、まだ銃火器まで持たせていなかったのだ。
場合によってはプラスチック爆弾を使った自爆は命じていたが、いつまでもそれを続けるわけにはいくまい。
幸いにも帝国軍に配備できるだけの銃が揃っていた。
ここからさらに量産ペースを増やすこともできる。
辺境ながらも魔族の標的にもされているようなので、さっさと軍備を整えてしまうに限る。
そう思い立った私は、王国の運営をシェイラとダリルに任せて帝国に移住した。
毎日のように領内各地を巡って洗脳を広めていく。
合間で兵の訓練を進めつつ、王国から運ばれてくる銃火器を配備していった。
三週間後には研究者を呼んで帝都に通常召喚の術式を構築する。
これでいちいち運搬する必要性もなくなった。
潤沢な資源を用いて軍拡を加速させて、迫る戦争に向けた準備を整える。
そうして帝国軍の戦力強化が佳境を迎えた頃、とうとう王国への宣戦布告が為された。
相手は戦争廃止を唱える公国だ。
公国はあろうことか、王国と帝国を陰で支配するのは魔王であると断定し、既に民は魔族になったのだ定義した。
彼らの掲げる戦争廃止は人間同士を対象としており、悪しき魔族は含まれていなかった。
つまり公国は戦争の大義名分を拵えて攻め込むきっかけを作ったのである。
この出来事をきっかけに、世界規模の大戦が始まったのだった。




