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魔王総統 ~最強の独裁者が異世界で戦争国家を生み出した~  作者: 結城 からく


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第19話 独裁者は召喚魔術の可能性を考える

 数日後、我々は最後の占領地に侵攻していた。

 帝国軍の屍が散乱する土地には、多数の魔族が我が物顔で居座る。

 そこに我々は現代兵器の洗礼が叩き込むのだった。


 彼らの強さと尊厳と命を愚弄する。

 何もかもを鉛玉で否定した。

 魔族など取るに足らないの存在なのだと引き金で主張する。

 いくつもの防衛策が張られていたが、こちらの想定内に留まっていた。

 故に足踏みすることもなく、懸命な努力を完膚なきまでに破壊する。


 そうして交戦すること暫し。

 街の中央では、岩の殻を纏う巨人が暴れ狂っていた。

 巨人は五階建ての建造物と比肩するサイズで、拳を振り回して攻撃を繰り返している。


 分厚い岩の殻は、銃弾や爆弾を弾いていた。

 たとえ損傷してもすぐに修復している。

 盗賊国の魔族と同様、再生能力を保有しているらしい。


 雄叫びを上げた巨人が瓦礫を鷲掴みにして投擲する。

 軌道上にいた攻撃ヘリが撃墜された。

 空中で爆発して建物に落下して押し潰す。

 そこから炎が噴き上がって火災が発生していた。

 パイロットは即死だったろう。


 撃墜を目の当たりにした他のヘリや爆撃機が距離を取る。

 常に動くことで投擲が当たらないように対策していた。

 彼らの爆撃でも岩の殻が突破できないのだから、相当な耐久力である。


 地上の戦車が砲撃で巨人を吹き飛ばした。

 巨人は苛立たしげに跳ね起きると、癇癪を起こした子供のように地上部隊を蹴ろうとする。

 咄嗟に魔術兵が結界を重ねて受け流さなければ、数百の犠牲が出ていたかもしれない。


 巨人は左右の拳を交互に振り下ろして攻撃する。

 なんとか結界は持ち堪えているが、破られるのは時間の問題だろう。


(大したパワーだ。さすがは魔族といったところか)


 遠目に観察する私は、味方の犠牲に顔色を変えずに感心する。

 都市内の他の魔族は殲滅しているので、あの岩の巨人が最後の難関だった。

 しかし、これが意外としぶとい。

 もう三十分は攻防を繰り返していた。


 岩の巨人は、足の裏から大地を吸収して岩の殻を修復させている。

 持ち前の回復力と併用することで、現代兵器にも対抗するタフネスを維持しているのだった。

 部下の魔術師に聞いたので間違いない。

 魔力の流れで仕組みを解いたらしいが、私にはさっぱり分からない。

 マインドコントロールができる目は他に機能を持っていなかった。

 魔術的な効果は洗脳だけに特化しているのだろう。


 私は指輪で対物狙撃銃を召喚する。

 空中に展開された小さな魔法陣から銃身がせり出してきた。

 軍用トラックの荷台で構えると、スコープを覗いて照準を岩の巨人に合わせる。


 巨人は王国軍の集中砲火に意識を散らされていた。

 こちらには気付いていない。

 そもそも距離があるので、たとえ視線が向いたとしても見つかりはしないはずだ。


 私は特に気負わず発砲する。

 戦車の装甲を貫く弾は巨人の顔面に炸裂した。

 岩の殻に亀裂が走って小さな窪みができているも、貫通にまでは至っていない。


(これで終わるなら、部下がとっくに仕留めているだろう)


 私は気にせず狙撃を続けた。

 弾をまったく同じ箇所に命中させることでダメージの蓄積を狙う。

 窪みが割れて穴が開き、小さな亀裂が太くなって広がった。


 修復が追い付いていないのだ。

 一点に絞られた破壊力が、岩の殻を破ろうとしている。


 巨人は顔を両手で覆おうとした。

 しかし、部下の集中砲火がそれを許さない。

 全身への断続的な攻撃は、顔だけのガードをひたすら妨害する。


 私は機械的な動作で狙撃を重ねた。

 二十発目の弾は、とうとう巨人の頭部を貫通した。

 脳を破壊された巨人は崩れ落ちて絶命する。


 私は狙撃銃を置いて荷台に腰かけた。

 運転席から降りたシェイラが称賛する。


「お見事です、閣下」


「たまには狙撃も悪くないな。腕が鈍っていないので安心した」


 狙撃は専門ではなく、近接戦闘ほど自信がない。

 それでも血の滲むような努力を繰り返した。

 猛吹雪の中でスコープ無しでの狙撃も経験している。

 この程度の状況なら連続して命中させるのは朝飯前であった。

 外す方が難しいくらいだ。


 とにかく、これで魔族が片付いた。

 戦闘後の処理は大部分を兵士に任せつつ、彼らに勝利を味わわせておく。

 これも重要な作業だった。

 洗脳以外の手段でも士気を制御できなければ軍を担う資格はない。

 戦って勝つことの喜びを知った兵は、率先して共犯者になる。

 そうして先鋭へと育っていくのだ。


 暇潰しに指輪の性能確認をしているとシェイラがやってきた。

 彼女はいつもの調子で私に報告する。


「街の掌握が完了しました。このまま出発しますか」


「いや、一旦休息を取ろう。区切りも良い。兵士達には自由に贅沢をするように伝えてくれ。出発は翌朝だ」


「了解しました」


 その日、王国軍は支配した街に宿泊した。

 解放された人々は、喜んで場所と食糧を提供してくる。

 そんな彼らも巻き込んで大規模な宴を開催した。

 兵士は交代制で見張りを行いつつ、時間の空いた者は宴に参加する。


 帝国領土に踏み込んでから戦いが続いていたのだ。

 たまにはこういった息抜きも必要だろう。


 私は魔族が支配していた屋敷の一室でワインを飲む。

 顔の前で指輪をつまんで見つめていた。

 同じ部屋に入るシェイラが抑揚もなく尋ねる。


「指輪が不調ですか」


「召喚魔術について考えていた。例のパラドックスについてだ」


 元の世界から呼んだ兵士の一人に、召喚直前の状況を尋ねたことがある。

 彼は戦争の真っ只中で魔法陣に呑み込まれたと答えた。


 私やシェイラがいなくなった後に戦争が起きたのか。

 そう思って質問を続けたところ、予想が外れていたことを知る。

 彼が召喚された暦は、私がこの世界に来る十年前だった。


 時系列がおかしい。

 つまり私は過去の人間を召喚したことになる。

 オカルトよりもSFに近い現象であった。


 研究者に尋ねると、いくつかの理論を伝えられた。

 曰く、世界同士の繋がりは一定ではない。

 物理法則もそれぞれ独自に存在し、時間の進み方がまったく違う。

 一方の世界から見ると、別の世界が逆行していることもあるという。

 すべてが曖昧で、解き明かせた者などいない。


 とにかく、世界ごとにあらゆる設定が異なるのだ。

 人間の尺度では正しく認識できず、そこに規則性があるかも定かではない。

 他世界に無理やり干渉する召喚魔術の特性上、時間軸がずれるのは何ら不思議なことではないのだった。


「私はこの特性を応用してみたいと思っている。上手く扱えれば、過去や未来の武器を自在に呼び出せるのではないか」


「素晴らしい考えです。是非とも研究してみましょう」


「君はそういった話に興味があるのかね」


「無論です。戦争に使える要素は積極的に学びたいと思っています」


 シェイラは淀みなく答える。

 彼女は誰よりも忠実な部下だ。

 私のために動くことだけに価値を見い出している。

 だからこそ信頼ができる。


 シェイラの言う通り、召喚魔術はさらなる研究をすべきだろう。

 時間を無視できる特性はきっと役に立つ。

 実戦レベルの技術に昇華するには手間暇がかかるが、完成させるだけの価値がある。


(タイムトラベル用の魔術を開発できるかもしれない)


 突飛な発想であるものの、この世界だと荒唐無稽とも言い切れない。

 オカルトの力ならば時すらも飛べるのではないか。

 既に空間を越える技術が確立できているのだから、決して不可能ではないはずだ。

 何に活用するかはともかく、王都の研究者に依頼してみようと思う。


 その時、窓の外から声がした。

 見れば私がマインドコントロールを施した魔族が路地を歩いている。

 彼らは虚ろな顔で彷徨っていた。

 現在は特に命令を出していないので、あのように意味もなく徘徊しているのだ。

 かなり強めの洗脳で自我を破壊したため、彼らは戦闘のための人形と化していた。


 魔族の基礎能力は人間より高く、体内の魔力量も豊富だ。

 今は使い捨ての兵士として運用しているが、帰還後は魔力工場に送るつもりである。

 人間よりも質の高いエネルギー供給を約束してくれるだろう。


(魔力工場のグレードアップをするなら、積極的に魔族を拉致するのは有効だな)


 今後の計画に書き加えつつ、私は支配した街で夜を明かすのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今話もありがとうございます! 戦車や軍用ヘリさえ返り討ちにする岩巨人、普通なら対物ライフルごときでどうにかできるわけがないが、まあ、その対物ライフルを持っていた者がよりにもよって人外魔境…
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