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魔王総統 ~最強の独裁者が異世界で戦争国家を生み出した~  作者: 結城 からく


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第18話 独裁者は戦禍を広める

 王国軍は数日をかけて魔族の占領地を目指す。

 その間、帝国軍から攻撃されることはなかった。

 不自然なまでに静かなのだ。

 途中にある村や街は降伏しており、抵抗のそぶりさえ見せない。


 正直、円滑に進みすぎて退屈だった。

 もう少し戦う気概を見せてほしいものである。

 とは言え、無力な一般市民にそこまで求めるのは酷だろう。

 我々は降伏を受け入れた人々には危害を加えず、兵站の補充だけしてから先へと向かう。


(帝国軍の兵士が少ない。どこかに集結しているのか)


 私はここまでの戦況から推測する。

 関所の戦闘模様が後方に伝わっているのだとすれば、彼らの判断にも頷けるものがあった。

 今の帝国軍ではまず太刀打ちできない。

 正面からのぶつかり合いになった場合、我々は圧倒的な火力で攻め潰すことになる。

 向こうが魔術師を大量に集めたところで拮抗できるはずもなかった。

 彼らの射程距離外からひたすら攻撃を仕掛けるまでだった。


 果たして帝国軍はどのような秘策を隠し持っているのか。

 それが今から楽しみで仕方ない。

 私の勘はこのまま終わらないことを確信していた。

 きっと何らかの反撃が来る。

 色々と想像することで、多少は退屈を紛らわせることができた。


 数日後、商業都市の一つで帝国軍と激突した。

 頑丈な外壁を使った籠城作戦を用いられたが、生憎と我々には通用しない。

 攻撃ヘリと爆撃機による蹂躙が敵兵にパニックを与えて、閉ざされた門を戦車が粉砕する。


 向こうからの魔術攻撃は、こちらの魔術兵が残らず防いでいく。

 訓練で何度も経験したシチュエーションなので、誰もが落ち着いて対処する。

 洗脳で叩き込まれた動きは実戦でも遺憾なく再現されていた。


 中盤からは私とシェイラも戦いに参加する。

 決死の抵抗をする兵士との市街地戦はなかなかに楽しめた。


 ちなみに戦闘中に指輪の性能を試してみたが、思ったよりも汎用性が低かった。

 遠くの敵の頭上に爆弾を召喚して落とそうとしたが不発し、やむを得ず手元に召喚したロケットランチャーで攻撃することになった。

 有効射程がかなり狭いのだ。

 個人用の武器を召喚して使うといった方向なら問題ない。

 しかし、かなり限定的な運用となってしまう。


 役に立たないわけではないが、改善が必須なのは間違いなかった。

 発動地点を遠くに動かせるだけで用途が一気に増えるだろう。

 早々に使い勝手を把握できたので、以降は普通に銃器とナイフで敵兵を殺していく。


 軍の中でもシェイラの活躍は目立っていた。

 散弾銃とククリナイフだけで大量の兵士を斬殺する彼女の姿は、洗脳した味方を震え上がらせるほどの迫力があった。

 何かの憂さ晴らしかのごとく突き進み、一個小隊を凌駕する殲滅力を披露してみせる。


 おそらくは対抗意識だ。

 異世界に来て、ダリルに敗北したことまだ引きずっている。

 シェイラは私と出会ってからほとんど敗北を経験していない。

 どのような形であれ、得意分野で相手に劣ったという事実が許せないのだろう。

 だからそれを上塗りする勢いで戦果を叩き出している。


 常人がここまで張り切っていると危うさを感じるが、シェイラならばそこまで深刻に捉えなくてもいい。

 彼女には私の教育をほぼ完璧にこなした過去がある。

 此度も自分なりに向き合って解決するだろう。

 私がシェイラに合った選択肢を提示することも可能だ。

 何にしても勝手に潰れることはない。

 さらなる成長の糧として消化することを願っている。


 ちなみにダリルは王都で女王の護衛をしている。

 以前から顔見知りだったので適任だろう。

 現在、王国の大部分はマインドコントロールで支配しているが、一人残らず味方になったわけではない。

 私の洗脳を受けていない人間の中で、反逆を目論む輩も少なからずいるはずだ。

 万が一にも女王が狙われた時の対策はしておくべきである。

 強めに洗脳した兵士がいるので問題ないだろうが、そこにダリルを配置すれば盤石な陣形となる。

 刺客が襲撃しようと突破されることはない。


 およそ一日で商業都市の制圧が完了した。

 私は捕虜の兵士を洗脳すると、彼らを引き連れてさらに移動を続ける。

 ゴブリンの時と同様、捕虜にはプラスチック爆弾を持たせておいた。

 それと追加で盾も所持させる。


 捕虜に先鋒を押し付けることで、王国軍の被害を抑える作戦だ。

 敵も味方には攻撃しづらいだろう。

 躊躇が生まれて突破しやすくなるに違いない。

 そこを突いた捕虜達が接近して自爆するという寸法である。

 新たな捕虜はいくらでも手に入る。

 どれだけ使い捨てにしても惜しくは無かった。

 もし有力な兵がいれば、その時に別で使い方を考えればいい。


 これだけ非道な作戦を考えても反対されることがないとは、非常に素晴らしい環境だった。

 誰もが戦争のための最適解を称賛する。

 モラルという名のまやかしに邪魔されずに作戦を選べるのは心地よい。

 私は異世界の戦争を心底から味わっていた。


 そうして良い気分のまま魔族の占領地へと踏み込む。

 風景が劇的に変わるわけでもない。

 明らかな変化を言えば、街にいるのが兵士から魔族に変わり、地形によっては奇襲を受けるようになったくらいだ。

 様々な種族で構成された魔族の部隊は、支配する土地を守るために私達に妨害工作を仕掛けてくる。


 対する我々の行動は一貫していた。

 ただ保有する兵器で魔族を殺し続けるだけだ。

 相手が何者であろうと、銃と爆弾で死ぬのは不変の事実であった。

 故にこちらが慌てる道理もない。

 ついでに生き残った魔族は新たな捕虜に加える。


 占領地を掌握するたびに、現地の人々から感謝された。

 よほど劣悪な扱いを受けていたのだろう。

 目に涙を浮かべた彼らにとって、私達は救世主なのだった。


 侵略行為を働きながら、その地の民に喜ばれている。

 なんとも矛盾している気がするが、戦争などそういうものだ。

 国の中枢同士がぶつかり合っているだけで、政治に関わらない人間からすると大した差ではないのだろう。

 結局、自分達の生活を守る者こそが正義なのだ。

 それが未知の兵器で武装した戦争国家の虐殺者でも同じらしい。


 私としては、彼らにどう思われても関係なかった。

 目的は戦争なのだ。

 非戦闘員の心境に興味はない。

 たとえ恨まれても同じ感想を抱くだろう。


 まあ、それでも不必要に邪険な態度を取ることもない。

 時間に余裕があったので、支配した街で演説をする。

 感動する彼らの心を揺り動かすことを意識して、言葉巧みに印象を高めておいた。

 マインドコントロールは使っていないが、十分な忠誠心を得ることに成功した。

 兵士に志願する者まで出てきたので、素直に受け入れておいた。


 帝国の民が、王国の総統を称賛しながら万歳をしている。

 その光景を見るシェイラが嬉しそうに言う。


「さすが閣下です。人心掌握の手腕は健在ですね」


「私は最高指導者だ。彼らが心酔するのも当然の結果と言えよう」


 辺りは異様な熱量に包まれていた。

 兵士も民も捕虜の人間も魔族も一体化して次の戦争を待っている。

 そこに正常な思考は存在しない。

 無責任な扇動と徹底した洗脳が蔓延る軍は、狂喜と期待を不気味に脈動させていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今話もありがとうございます! >これだけ非道な作戦を考えても反対されることがないとは、非常に素晴らしい環境だった。  誰もが戦争のための最適解を称賛する。  モラルという名のまやかしに邪…
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