表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王総統 ~最強の独裁者が異世界で戦争国家を生み出した~  作者: 結城 からく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/34

第17話 独裁者は帝国に攻め込む

 予定通りの七日後、私は王国軍を引き連れて出発した。

 目指すは帝国である。

 大陸内でも最強と名高い国で、魔王軍と最も熾烈な争いを繰り広げているらしい。


 王国から広大な森林地帯を挟んだ位置にあり、現状は明確な敵対関係ではない。

 ただ友好的とも言えず、微妙な距離感だった。

 歴史を遡ると、交戦していた時期も少なくないそうだ。

 様々な外交を経た結果、互いに消耗を恐れて冷戦状態に陥っている。


 もっとも一般市民の間では普通に交流がなされていた。

 往来を妨げるルールもなく、商業的にも結び付きが強い。

 冷戦から弛緩し、ただの隣国のような関係に落ち着いているのが実態だった。


 私がそこに戦争という火種を放り込む。

 表面上に出ていないだけで、双方で燻っている要素はあるのだ。

 僅かなきっかけで殺し合いが勃発する環境は整っていた。

 その先陣を切ったのが私だっただけである。

 危うい均衡の決壊が数年ほど早まっただけだと考えれば大したことではあるまい。


 実際、帝国のトップ――皇帝の心境は穏やかではなかった。

 話によると虎視眈々と王国を狙っているそうだ。

 近年でも何度か圧力をかけてきているという。


 帝国は成立から現在至るまで、戦いで領土を増やしてきた。

 いわば戦争国家の走りなのだ。

 国内の問題を解決するのに率先して武力を選んできた。

 外交でも同様に武力を使う。

 そうして今の立ち位置を確立したのである。


 これは負けてはいられない。

 王国も戦争国家として舵を切った以上、私としては是非とも競ってみたかった。

 皇帝の思惑など興味ないが、奇遇にも考えていることは似通っている。

 本当の武力とは何なのか知らしめる時であった。


 帝国には出発前に宣戦布告を済ませている。

 返答はまだ届いていない。

 王国の諜報部によると、帝国は大急ぎで軍備を強化しているらしい。

 まず間違いなくこちらの戦力を警戒しての動きだ。

 盗賊国の一件を知っているのだろう。


 張り切っているようで何よりである。

 彼らの期待を超えた戦争を見せるのが礼儀なので、力を尽くして侵攻しなければならない。

 此度の戦いは、周辺諸国にも波及するはずだ。

 だからこそ圧倒的な勝利を飾る必要がある。


 私は軍用トラックの助手席にいた。

 運転をするのはやはりシェイラだった。


 周囲を進む軍隊は盗賊国の時とは様子が違う。

 兵士は銃火器と戦闘服で完全武装し、そばを戦車や装甲車も走行している。

 空には攻撃ヘリや爆撃機の姿があった。


 国全体を掌握したことで軍隊も激変したのだ。

 各種乗り物は召喚した部下達に任せている。

 一部の兵士には操縦方法を伝えて、いつでも入れ代われるようにしていた。

 経験の差があるので召喚した部下の方がテクニックは優れているが、いずれは異世界の兵士にも乗りこなしてほしいものだ。


 何にしてもこの規模の軍隊は素晴らしい。

 この数カ月の集大成とも言えよう。

 元の世界のそれを再現……いや、実際は凌駕しているに等しい。


 それは軍の中にいる魔術兵が示している。

 入念な訓練により、彼らは一般兵と比べても遜色ない機動力を手に入れた。

 今や素早く動きながら術を放てるようになり、防御役だけでなく様々な局面に対応できる優れた力を発揮できる。

 オカルトを肯定しすぎるのは躊躇うが、その汎用性の高さは確かな事実だった。

 既に立派な兵科の一つとして認識されている。


(こちらの準備は万端だ。追加召喚も行使できる)


 私は装着した指輪に注目する。

 一見するとただの装飾品だが、王都の魔法陣に繋がる兵器だ。

 予備も含めて十個の指輪を所持している。


 これを使うと遠隔で召喚魔術を発動し、すぐそばに目的の物品を呼び出せるのだ。

 試作品なのでいくつかの制約や欠点は存在するものの、それでも申し分ない利便性を誇る。

 今回の戦争は指輪の性能を確かめるのが目的の一つだ。

 アップグレードに向けて課題点を洗い出さねばならない。


 ただし、指輪に頼らざるを得ない場面は皆無だろう。

 連れてきた軍隊だけで過剰戦力なのだ。

 そのため兵士の邪魔にならないタイミングで活かしていこうと思う。


 国境が越えて森林地帯を進むこと二日。

 その先に関所が見えてきた。

 遠目にも兵士が並んでいるのが分かった。

 弓矢や魔術による遠距離攻撃で牽制しているのだろう。


 軍用トラックを運転するシェイラは関所を眺めて述べる。


「憐れですね。閣下が率いる軍に勝てるつもりなのでしょうか。見るからに絶望的な戦力差ですが」


「仕方あるまい。彼らには選択の余地が無いのだ。上から命令されれば、命を賭しても戦地に向かわねばならない。我々のように戦いを好む方が少数派なのだ」


 私もシェイラも戦争が居場所で、平和を最も忌み嫌っている。

 この世界に召喚される直前、私は発狂寸前だった。

 戦いを味わえないことに絶望して自殺しようとしていた。

 勇者として選ばれなければ、確実に己の脳を銃弾で吹き飛ばしていたに違いない。


 大多数の人間は死ぬのが恐ろしく、戦いたくないと思っている。

 個人的には勿体ないと感じるが正常な感覚だろう。


 しかし、戦争には相手が必要だった。

 私は常に強大な敵を求めている。

 だから人々には付き合ってもらわないといけない。


「帝国軍にも戦争の満喫を強要しよう」


 無線機を手に取り、上空の攻撃ヘリと爆撃機に命令する。

 三十秒後、関所の帝国兵が連鎖的に爆発した。

 そこにヘリの銃撃も追加される。


 石の壁が脆く崩れて、弾け飛んだ兵士が巻き添えとなっていった。

 地上部隊が到着する頃には瓦礫の山ができていた。

 生き残った僅かな兵士は慌てて逃走しており、迎撃どころではなかった。

 王国軍は一人の犠牲も出さずに勝利を果たした。


 一部始終を目撃した私は車内でぼやく。


「あっけないな。もう終わりか」


 大規模な魔術による反撃を想定していたが、不発のままだった。

 おそらく発動どころではなかったのだろう。

 空からの圧倒的な攻撃に耐えられなかったようだ。


 王国軍はそのまま関所を占領すると、必要な物資を奪ってから侵攻を再開した。

 このまま中心地である帝都まで一直線に進むつもりである。

 戦争を加味しても二週間以内に到着する道程だ。


 急ぐことはない。

 むしろゆっくりと進むべきである。

 猶予がある分だけ帝国は対抗してくれるはずだ。


 追い詰めることで新たな反撃を期待できる。

 果たして帝国軍はどのような作戦を披露するのか。

 この絶望的な状況を覆す起死回生の一手をどこで切ってくるのか。

 今から大いに楽しみである。


(正攻法では敵わないと分かったはずだ。さあ、早く我々を止めてみろ)


 車内で寛ぐ私は、帝国領土の地図を眺めながら微笑する。


 最短で帝都に向かう場合、進路上に魔族の占領地があった。

 事前の侵攻計画でも話題になっていた。


 避けて通れないほどの広さではないが、あえて迂回する意味もない。

 現在の戦力ならば余裕で対処可能だ。

 帝国の動き次第では無視する選択も視野に入れていたが、せっかくなので叩き潰しておこうと思う。

 私は無線機で各隊に連絡を取った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ