第13話 独裁者は傀儡を求める
その後、私は会議を続行した。
ダリルは直属の部下となり、黄金獅子の団長という肩書きはそのままにしている。
私が殺してしまった団員の補充は後ほど実施する予定だ。
せっかくなので一級の戦闘部隊にしたいと思う。
それこそダリルの才覚が霞むほどの集団になるのが理想だろう。
会議では他にいくつかの課題について話し合った。
ダリルは政治方面にも詳しく、国の重鎮が見落とすそうな観点から意見を述べてくれた。
おかげでなかなかに有意義な時間となった。
会議が終了した後、私は通常召喚の様子を見に行く。
その道中、シェイラと遭遇した。
ダリルに屋外へと投げ飛ばされたがやはり無事だったらしい。
特に大きな傷を負った様子もない。
彼女は私のそばを歩きながら話しかけてくる。
「閣下、よろしかったのですか」
「何がだね」
「団長ダリルの処遇です。忠誠心の欠片もないような男でしたが」
「構わないさ。あの男は利害関係だけを見て動いている。我々がメリットを提示できる間は信頼できるだろう。裏切るのならそれでもいい。見せしめとして殺すか、マインドコントロールで操るだけだ」
ダリルは分かりやすい人間だ。
あらゆる物事を損得勘定で考えている。
そして彼自身が有能で、一定の成果を示すことができる。
ならば私がするのは裏切りが起きない程度の旨みを与え続けることだけだ。
王国を所有する今なら造作もないことであった。
「マインドコントロールは便利だが、個人的には自由意志を尊重したい。洗脳によって潰えてしまう才能もあるだろう。だから無闇に使うべきではないのだ」
「分かりました。差し出がましい真似をして申し訳ありません」
「いや、気にすることはない。君が私のことを案じてくれているのはよく知っている。忠告自体も実に真っ当なのだから謝ることはない」
シェイラと話しているうちに、通常召喚の実施される地下に到着する。
そこでは研究者達が慌ただしく動き回っていた。
現在、王国の資金はこの場所につぎ込まれている。
戦力の要となるのだから当然だろう。
今はオーダーした各種武器を召喚していた。
特に弾薬は膨大な量を消費する。
多くて困ることは無いので常にストックできる数を召喚させていた。
次の戦争ではさらに多くの兵士に銃を持たせられるだろう。
私は数人の研究者と話す。
彼らからいくつかの進捗を聞いて、新たな要望や課題点を洗い出した。
ここでは召喚魔術の改良も行っている。
まだ形にはなっていないが、いずれ良い結果に繋がるだろう。
地下の研究所を出た私達は城の廊下を歩く。
「そろそろ他の部下も呼びたいところだね」
「優先して召喚すべき人間をリストアップしますか」
「ああ、頼む。彼らにも愛する戦争をプレゼントしよう」
「素晴らしい考えです」
これで王国軍の戦力はさらに強化される。
元の世界の兵士なら専門技能を要する特殊作戦を決行できる上、戦車や爆撃機の事前訓練無しに出撃させられる。
戦争における選択肢が大幅に増えるのは言うまでもなかった。
想像するだけで心が躍ってしまう。
高まる精神を理性で留めつつ、私は話題を転換する。
「ところで、これから王国の辺境に向かう予定だが君はどうする」
「閣下の許可がいただけるのでしたら同行したいです。今度はどこの勢力と戦うのですか」
「いや、今回は戦闘が目的ではない。スカウトだ」
私が答えるとシェイラが意外そうな顔をした。
彼女は何か考える様子で述べる。
「閣下が求める人材が辺境にいるのですね」
「求めるというより消去法に近い。しかし必須の人材には違いないのだ。王国の支配を盤石なものにするためにも協力関係を結んでおきたい」
「それほどまでに重要な存在ですか」
「我々が会いに行くのは次期国王――すなわち我々の傀儡となる者だ」
頷いた私は不敵な笑みで宣言した。
◆
数時間後、私は軍用トラックの助手席に座っていた。
青々とした草原を突っ切る未舗装の道をひたすら走行している。
運転はシェイラに任せていた。
後ろの荷台には数人の兵士を乗せている。
そこには団長ダリルも含まれていた。
我々が向かう辺境にいるのは、亡き国王の娘がいる。
その娘を新たな王にするのが今回の目的だった。
国の実質的な支配者は私であるが、それを公表するわけにはいかない。
ほぼ確実に民や貴族からの反発があるだろう。
マインドコントロールで封じるにしても、それまでに面倒な混乱が生じてしまう。
これまでは王が不在のままやってきたものの、さすがに限界がある。
ダリルによると、有力貴族の一部が怪しんでいるらしい。
いきなり盗賊国に攻め込んだのも知れ渡っているので、王都の動きを不審がっているのだ。
総統である私の声明を知る者もいるという。
ダリルがなぜここまで詳しいのか訊いたところ、私と接触するまでに王国内の情報を集めていたらしい。
それを交渉材料にすることも考えていたそうだ。
なんとも抜け目のない男である。
おかげで反乱の兆しを察知できたのだから感謝する他ない。
そこで私は、新たな王に声明を出させることにした。
不信感が完全に払拭されるわけではないが、少なくとも民の印象は誤魔化せる。
先代の王は病死したことにすればいい。
適当に金をばら撒いておけば、新たな王の誕生に喜ぶことだろう。
あとは何らかの名目で国内の貴族を集めて、マインドコントロールで不信感を取り除く。
かなり強引な手段だが、成功した時のメリットがかなり大きい。
細かな計画の流れはどうとでもなる。
洗脳でまとめ上げるのが、最も平和的な手段に違いない。
いずれ王国全土を掌握する予定だったのでちょうどよかった。
その際、有能な人間がいればマインドコントロール抜きで勧誘しようと思う。
肝心の傀儡は、当然ながら国王の血縁を理由に選んだ。
ただし候補者は他にもいた。
王の息子達や后などはその筆頭だろう。
手っ取り早く用意するならば、そこから選ぶだけでよかった。
しかし、彼らは民衆の間で悪評が立っていた。
日頃の高慢な言動や贅沢な暮らしぶりのせいで恨まれていたのである。
新たな王は民衆や国外へのパフォーマンスに使う。
最初から不人気の者だと些か都合が悪い。
王の娘達も既に嫁いでおり、後継者にふさわしい者がいなかった。
そこでダリルが推薦したのが、辺境に暮らす末娘だった。
なんでも塔に幽閉されているそうで、呪いの力を持つ姫らしい。
幽閉の事実は秘匿事項で、民衆からは単なる箱入り娘と思われているという。
面白いと思った。
人々の印象が悪くないのもいい。
そう考えた私は、呪いの姫を新たな王にするために出発したのであった。
これも理想の戦争を行うために必要な準備だ。
国家の象徴として王は欲しい。
私は権力者になりたいわけではない。
ただ戦争が楽しみたいだけだ。
立場的に上の者がいようと関係なかった。
(呪いの姫とはどのような人間だろうな。素直に請け負ってくれるといいのだが)
私は軍用トラックから外の景色を眺める。
たまのドライブは気持ちの良いものだった。
このままスカウトも滞りなく進むことを祈っている。




