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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
後日談

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果たされた誓い

「――――おっ、街が見えたね。予定より早く着いたみたいで良かったよ」


 帝国の首都に程近い街。

 国の中心に近いという事でそれなり以上に大きな街だが、今回の僕たちは物見遊山で訪れた訳ではない。この街には犯罪集団の撲滅の為に訪れたのだ。


 ちなみに諜報組織の調べによると、今回のターゲットは殺人や強盗を犯しているような重犯罪者の集団ではない。


 僕たちと同年代くらいの若い集団で、警察が動きにくい微妙なラインの犯罪を繰り返している迷惑集団との事だった。ある意味では看板を掲げた反社会的組織より厄介と言えるだろう。


「さて皆さん、もうすぐ目的の街に着くわけだけど…………その前に、僕が旅立ち前に言った事は覚えてるかな?」

「うむ! キャラメルクリームドーナツが――」

「――――違います! 間違っても、まかり間違っても、ターゲットを殺さないようにしようという話です!!」


 いくら腹立たしくとも異国の地で私刑に及ぶわけにはいかない。いやホームでも私刑で死刑にするのは言語道断の蛮行だが、それが異国となれば国際問題にもなりかねない。王子のカザード君に迷惑を掛けない為にも節度は保つべきだった。


 それになにより、ともすれば『殺して解決!』となりがちな仲間に平和的解決のクセ付けをしておきたい。今回の件が上手くいけば安心して世界旅行に発てるというものだろう。


「…………ところで、キャラメルクリームドーナツとは何の事かな?」


 完全に聞き流していたアイファの回答が遅れて気になった。例によって『うむうむ』と正答を出したかのように頷いている事も気になるが、これまで聞いた事がない単語だったので時間差で好奇心を刺激されていた。果たして、僕の疑問を受けたアイファはごそごそと冊子を取り出す。


「ふふん、不勉強だぞアイス。キャラメルクリームドーナツとは、キャラメルクリームのドーナツの事だ!」


 そう言いながらバーンと突きつけてきたのは『帝国ドーナツ特集』の一ページ。そこには見るからに高カロリーそうなドーナツの挿絵と、そのドーナツが眼前の街で売られている旨が記載されていた。


「……ははぁ、なるほど。いつの間にかグルメガイドブックを買ってたんだね」


 見れば食いしん坊仲間のフェニィの瞳も輝きを帯びている。昨日の街で購入したと思しき本で知識マウントを取られるのは引っ掛かったし、フェニィまでポッチャリ沼に引きずり込もうとしているのも気になったが……しかし、あのアイファが事前計画を立てているという事実には感激を禁じ得なかった。


 行き当たりばったりの筆頭格だったアイファですら成長している。此度の作戦では殺人癖のあるメンバーも成長を見せてくれるに違いない。


 しかして、僕は期待を胸に抱きながら街に入った。門衛さんから引き攣った表情で両手を上げて迎えられ、街の住人から悲鳴を浴びたり握手を求められたりしたが、僕たちは愛想良く対応しながらも早足で現場へ向かった。


 この騒ぎが街中に広まるのは時間の問題なので、万が一にもターゲットに逃げられないように一辺倒に邁進する必要性があったのだ。


「……っと。あそこかなルピィ?」

「ふふっ、そうだよアイス君。この時間は大体ここに居るって話だったけど…………六、七。うん、上手いこと全員揃ってるみたいだね」


 そこは客が訪れなくなって久しい廃墟、何年か前に潰れた酒場だ。件の犯罪集団は酒場跡を根城にしていると聞いていたが、店内の気配からするとフルメンバーが揃い踏みのようだ。どうやら僕たちが現地入りした事はまだ知られていないらしい。……さて現場に入る前に、と僕は仲間たちに向き直る。


「何度も言ってるけど、いきなり殺すような真似は駄目だからね? とくに……ジーレとブルさん!」


 前科が多過ぎる王女とクマさんに改めて釘を刺しておく。相手は軽犯罪を繰り返している迷惑集団だが、それでも問答無用で一方的に殺戮するような真似は許されない。そんな事をしていたら僕たちの方が犯罪集団呼ばわりされてしまうのだ。


「は〜〜〜いっ!」

「分カッテイル」


 ニッコニコで元気良く返事を返すジーレと、言われるまでもないと言いたげなブルさん。とりあえず言いつけを守ろうとする意志は見えるので一安心だ。僕は警戒対象の二人にうんうんと返しつつ、いくらか楽観的な気持ちになって扉を開ける。


「――――皆さん、こんにちは! 命が惜しくば口を閉じてその場から動かないで下さい!!」


 店内に入るなり慈悲に溢れた言葉を届けておく。

 僕たちに暴言を吐けば死。僕たちに剣を向ければ死。一つの選択ミスが死に繋がるので平和主義者として忠告せずにはいられなかったのだ。……しかし、残念ながら僕の善意は伝わらなかった。


「あっ、アイス=クーデルンだぁぁぁっ!!」

「に、逃げろ、皆殺しにされるぞっ!」


 酒場跡で思い思いに駄弁っていた若者集団は、僕たちの来訪を受けてパニックに陥っていた。七人の男たちは我先にと狂ったように裏口へ殺到していく。


 もちろん、それを黙って見過ごすはずがない。

 悲鳴を掻き消すようにルピィの手がサッと横に振られ――――「ぎゃあああッ!?」と先行組の足を鉄球で砕いていた!


 対話で自首を促すつもりだったのに、早くも二名の足を砕いてしまったか……。敵意を向けられたのなら言い訳も立つのだが、これはセーフかアウトか判定が難しいところだ。


『――――ギリギリダゼ!』


 よかった、心のロブさんがセーフ判定を出してくれた。何かとギリギリなロブさんの言葉だから間違いない……!


「ハハハッ! 人間狩りのアイス=クーデルンから逃げられると思ってんの? ちゃんちゃらおかしくてヘソで茶を沸かしちゃうよ!」


 今日も今日とて僕の悪名を広める事に余念がないルピィ。ミンチ王子、ハーレム王、人間狩り……春の新作の如く不穏な通り名が増えていくのでハーレム王がまともに思えてしまうのが複雑だった。


 とりあえずルピィを窘めないわけにはいかない、と不毛を承知でちょっとちょっとと止めていると、無傷で済んだ男が意を決したように口を開いた。


「ま、まってくれ、ください。じ、地上げの件が気に障ったんすか? だ、だとしても、オレたちは帝国民だ。オレたちを裁くなら帝国の法であるべきだっ!」


 む、むむっ、正論……!

 このままでは帝国法を無視して処断されると思ったのかも知れないが、この男が開き直ったように叫んだ主張には確かな正当性があった。さりげなく自白した悪事が気になってもその点は認めざるを得ないだろう。


「――――えいっ!」


 それは、一瞬の油断だった。思いの外に真っ当な言い分だったのでモヤりながらも頷きを返そうとした刹那、僕の意識の間隙を突いたようにミンチ王女が本領を発揮していた。


 帝国の法など関係無い、暴力こそが絶対的な法! と言わんばかりに発動された重術は――――あっという間に被告をミンチに変えていた!! 


「ぅあ、あああああッッ!?」


 恐怖と絶望の叫びを上げる非ミンチ民。

 目の前で仲間がぐっちゃりされたので無理もない。しかも犠牲者は一人ではない、裏口に殺到していたのが仇になって巻き添えで二人ほど亡くなっていた――――『我ら生まれた日は異なれど、同じ日同じ時に死ぬことを願わん!』


 彼らの誓いは正確に果たされてしまった、と現実逃避ぎみに考えていると、生き残った若者が蒼白な顔でがたがた震えながら声を絞り出した。


「あ、あっ、こ、こんな事が許されると思っ……」

「――――グォォォッ!」


 そして若者の首は消失した。

 反抗的な言葉が気に入らなかったのか、純粋に人間を殺したかっただけなのか、ブルさんの殺人光線は首を消し飛ばしていた。しかも後ろに立っていた男も巻き添えを受けて一撃でニキルを叩き出している!


 ああ、なんという事だろうか……。


 ジーレが三キルでブルさんがニキルという事で、気が付けば足が砕けた二人しか生き残っていない。あっという間の五キルには呆然とするばかりだった。


 しかし、未だ脅威は去っていなかった。仲の良い友達同士でキルスコアを並べようとするかの如く、ブルさんは失禁して震えている生き残りに目を付けていた。


「グォォォッ!」

「――ッ、くっ!?」


 そこに割って入ったのはレット。殺意の塊のようなクマビームが放たれる直前、対ブルさん用に持参したミラーシールドを構えて滑り込んでいた。それはまるで、魔王に立ち向かう勇者を思わせる浪漫的な光景だった。


 だが、魔王ブルさんは一筋縄ではいかない。

 難攻不落のガードを破るべく殺人光線を連射し、埒が明かないと判断するや距離を詰めてツメを――――いや、呑気に観戦している場合じゃない!


「ちょっとちょっとブルさん! レットを殺そうとしちゃ駄目じゃないですか!」

「ッ、グゥゥ……」


 僕の親友を亡き者にしようとするブルさんを慌てて止める。少し熱くなると殺意に塗れてしまうのはブルさんの悪い癖なのだ。


 しかし、しっかり仕事を果たしてくれたレットには感謝しかない。突然の惨劇から現実逃避していた僕とは大違いだ。……いや、まだ終わった訳ではないか。


「――――ジーレ、君の無法はそこまでだ!」


 僕も自分の仕事をしなくては、という事でジーレをがしっと拘束する。今度こそは無法の蛮行を見逃さない。


 動きを止めたブルさんの代行殺人を務めるつもりだったのだろう、自然な足取りで生き残りに近付こうとしていた被疑者を強制確保だ。


 その被疑者は捕まえられて「わぁーっ」と嬉しそうだが、とりあえずミンチ犯とビーム犯はおやつ半減刑が確定である。


 まぁなんにせよ、これで大本命のジーレとブルさんは抑えた。最初から拘束してなかったせいで少々の犠牲を生んでしまったが、最終的には事前の取り決め通りに僕とレットが抑えたという形だ。


 ちなみに、切断王のフェニィと元狂犬のシーレイさんに関しては問題無い。こんな事もあろうかと、前もってレオーゼさんと手を繋いでもらって物理的に抑えていた。どちらも近距離戦向きなので単純ながら効果的な作戦だったようだ。


 当のレオーゼさんは惨劇に三つ目を揺らしているが、それでも年長組の手をぎゅっと握って放していない。いつもいつも良心の塊のようなお姉さんを巻き込んで申し訳ないと思いつつも有難かった。


 良心という概念が存在しないルピィは惨劇に大爆笑しているが、こちらはもう手遅れなので仕方ない。積極的に殺害加担していない分だけマシだろう。


 残された問題は、ジーレとブルさんによる犠牲者。二人の自主性を重んじたばっかりに五名ほど亡くなってしまったが、このままでは国際問題になりかねないのでスマートに片を付けるとしよう。


「フェニィ先生、死体処理をお願いします!」

「……いいだろう」


 そう、ここで殺人事件など起きていない……! 

 この場には最初から二人しか居なかった。僕たちは二人組の犯罪コンビを改心させるべく帝国を訪れたのだ。


 いやはや、あと一人殺されていたら単独犯になっていたので危ないところだった。流石に犯罪集団の罪状を一人で背負うのは不自然感が否めないのだ。……さて、あとは生き残りの二人に守るべき倫理を説くのみだ。


「…………自首します。洗いざらい罪を告白して被害者に償います……」


 うむ、よかったよかった。

 懇切丁寧に倫理を語ったおかげだろう、生き残りの二人は深く反省してくれた。喪った仲間の想いと罪状を背負って生きていく事を約束してくれたのだ。


 振り返ってみれば、今回の結果はベストではないがベターな結果だった。ジーレとブルさんという爆弾を抱えてベターな結果を出したという事実は大きい。この調子なら、来るべき世界旅行でも平穏無事な旅を楽しめる事だろう。


という訳で、カクヨムで新連載を始めました。応援していただければ幸いです。。【死にたがりの覇王譚~世界を制するリアルタイム放送~】(https://kakuyomu.jp/works/16818093088784197283)

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