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宇宙の依子

「本日午前9時ごろ、江戸川区の住宅街に怪獣と思われる生物が現れました。怪獣は現場近くにいた3歳の伊藤いさむちゃんに噛みつき、駆け付けた警察官が救助のために発砲しました。しかし怪獣に銃弾が効かず、いさむちゃんを飲み込んだ怪獣はその場にうずくまり、完全に動かなくなったところを、要請を受けた自衛隊員によって捕獲されました。現場にはいさむちゃんの遺体の一部が残されており、その場で死亡が確認されたとのことです。えーただいま、事件発生時に現場にいた男性と電話がつながっています。植村さん?」


『はい』


「お忙しい中ありがとうございます。事件発生時の現場の状況をお聞かせください」


『突然子供の叫び声が聞こえて、何か起きてると思って走りました。そしたら、3メーターくらいの見たことない生き物がでっかい口で子供にかじりついてて、よく見ると子供の上半分がなくなっててもうダメだと思いましたね。とにかくお巡りさん呼ばなきゃと思ったら、近所の交番のお巡りさんが走って確認しに来てたんですよ。指さして説明すると、お巡りさんもこれはヤバいと思ったのか、すぐピストルを取り出して怪獣に向けて警告したんですけど、怪獣が持ってるのが子供だってわからなかったのか「それを地面に置きなさい!」て言ってました。私は怪獣が持ってるのが子供だって知ってたから、もうパニックになっちゃって、お巡りさんに「早く! 撃って撃って!」って叫んでましたね。それからお巡りさんピストルを何発か撃ったんです。でも全然効いてなくて、手に持ってた残りを口に放り込んでムシャムシャしたかと思うと、突然ビクッと驚いたみたいな反応をして、大きな鳴き声を上げたんですよ。あぁ次はこっちに来ると思って逃げようとしたら、そっから全然怪獣が動かなくなったんです。うなだれるみたいに。そのしばらく後自衛隊が来て、怪獣が動かないのを確かめたあと、金網で覆って大きな車に積んでいきました。その後やっと帰っていい事になったんですけど、まだなんか落ち着かないです。あの時の怪獣の悲鳴みたいな鳴き声が耳に残ってるんですよね、ずっと』


「ありがとうございました。では次のニュースです」



* * * *



「あれ!? ニュースに出てるの、これ依子ん家じゃねー?」


 俺は思わず母さんに向かって声を上げた。学ランにアイロンをかける母さんが手を止める。


「あらほんと、山村さんのお宅だわ。近所っていうのは聞いてたけど、ほんとにすぐそこじゃないの。あんた今日ヨリちゃんと出かけるって言ってなかった?」


「いや、そのつもりだったんだけど、これ依子行けるんか?」


 自宅前に謎の生物が現れて子供が食われたなんて、のんびり買い物に行く気分じゃないだろ。


「隆之、あんたヨリちゃんに連絡してみな!」

「もうかけてる」


 数回のコール音が鳴り、電話からでる音が変わった。サーっという空間の音がするけど、電話に出たはずの依子から返事がない。


『……』

「依子?」

『……』

「もしもーし。隆之ですけどー。聞こえますかー?」

『たか……ゆき……』

「いるんじゃん。なんかそっち大変みたいだけど、昨日言ってた買い物行く?」

『かい……もの……』

「なんか欲しい物あったんじゃないの?」

『ほしい……もの……』

「おい大丈夫か? なんか変だぞ? やっぱ事件の後で大変か? つらいならまた今度にしても――」

『ほしいもの……ある……』


 明らかに様子が変だけど、声は依子で間違いない。


 事件でショックを受けたのかもしれないから、あんまり触れない方がいいのかもな。俺の方は普段通りに接して安心させてやろう。


「じゃあ予定通りでかけるか。何を買いに行くつもりだったのか聞いてなかったけど? 何が欲しかったん?」

『……ちしき』

「チシキ?」


 チシキ……ちしき…………って知識か!?

 なんか周りくどい言い方……。


「本屋ってことか?」

『ちしき……は……ほんや?』

「まぁ図書館で調べられるならそっちがいいかもな、タダだし」

『……としょかん……いく……』

「わかった。じゃあ準備したら迎えに行くから、家で待ってろ」

『…………』


 受話器を置き、俺は出かける準備を始めた。



* * * *



 依子の家まで来ると、周りは警察官やらやじ馬でごった返し、近づくことができない。

 門の前はニュースで見たとおり血でべっとりしてるし。うへぇー。


 インターホンにすら近づけずにうろうろしていると、家の扉が開き中から依子が出てきた。


「依子ぉ! こっちこっち」


 そう呼びかけると依子がこちらを向き、ゆっくりと歩いてきた。道路の血や這いつくばる鑑識の人にお構いなしにまっすぐ歩いてくる。依子の膝が頭に当たった鑑識さんが「いてっ」と声を漏らした。


 おいおい。いくら自宅前でがやがやされてイラついてても、人の頭くらい避けろよ……。

 しかもその格好。


「依子。おまえその格好で行くの?」


 俺の問いに依子がこくりとうなずく。


 どう見てもパジャマのまんま上着羽織っただけなんだけど。短めの髪もぴょこんと跳ねて、さっきまで寝てました感丸出しだし。足元は左右で違う柄のサンダルだし。近所のコンビニですらもっとましなカッコで行くだろ普通。事件のショックは相当らしいな……。


 図書館への道中、依子は何を話しかけても生返事ばかりで、どうも心ここにあらずといった感じだった。


 クレープ屋の前も素通りしたし、ありえねぇだろ。

 行きと帰りで2つ食うだろ!


 でもホントにおかしかったのは、図書館に着いた後だった。


 俺は調べものに付き合う気は全く無かったから、到着するなり雑誌コーナーでゲーム雑誌を読み始めた。


 一時間ほど経ち、新作ゲームの情報を熟読し終え、なんとなく依子を探して辺りを見回すと、図書館の内部でひと際異彩を放つ机が目に入る。机の上に天井近くまで積まれた本の山。なんとなく嫌な予感がして近づいてみると、その中心にいるのは予感の通り依子だった。


「依子! 何やってんだよ! 注意書きに書いてあんだろ!? 机に持ち込めるのは一度に5冊までだって!」

「ああ、すまない。先ほどまで読めなかったのでな」


 俺の注意に対して、依子は読んでいた本をパタリと閉じ、悪びれた様子もなく言い放つ。


 なんだよ注意書きが読めなかったって、ヤンキーの言いわけみたいに……。

 ていうかお前そんなキャラじゃなかったろ?


 もやもやする俺を尻目に、すました顔で「片づけておいてくれ隆之」なんて言い放つ依子。


「片づけろって、読みたかった本なんじゃねーの?」

「もう読んだ」

「おまえなぁ、そんな量じゃねーよ! 俺にいやがらせする為だけに、こんなに持ってきたのかよ」


 いじめかよ!

 俺、依子になんかしたっけ?

 片すけど……。


 本を戻し終えると、依子が「もうここに用はないな」とさっさと図書館から出ていく。


 ホントに何しに来たんだよお前。


 帰り道、大通りを歩いていると、自衛隊の車をたくさん見かけた。例の怪獣騒ぎでかなりたくさんの隊員が来ているみたいだ。


 先を歩いている依子を追いかけ「おーい依子ー」と声を発したその時だった。


「ギュルルル」と車のブレーキ音が聞こえて後ろを振り向くと、俺のすぐ後ろで轟音と共に自衛隊の輸送車両が横転した。

 目の前で起こった事故に対応できずに固まっていると、横倒しになった車からガゴンガゴンと何かがぶつかるような音が聞こえてきた。

 あまりの状況に目を逸らすことができず、じっと音のする方向を見る。

「ギャリギャリギャリ」と聞いたこともないような不快な音がしたかと思うと、次の瞬間、横転している車両の屋根が弾け飛んだ。

 吹き飛んでいく屋根を目で追っていると「ヴオォォォ!!」という形容しがたい叫び声が車の方から響き渡り、屋根につられた視線が声によって引き戻される。


 かっ、怪獣だ!


 命の危険を感じた俺は、咄嗟に依子の方に向かって走った。依子に追いつき「おい! 早く逃げるぞ!」と肩をつかんで促すが、依子はじっと怪獣の方をを見ている。


 怪獣の様子が気になり俺も後ろを振り返ると、猛烈な勢いで怪獣がこっちに走ってきていた。

「うわぁ」と、依子に抱きつき、目をつぶって強張る。

 自衛隊の車を簡単に引き裂く爪なんて、俺たち二人はひとたまりもない。


 もう……だめだ……。


 そう思って固まっていると「じゃまだ」と依子にはたかれた。

 抱きついている手を離し、おそるおそる目を開けると、目の前には怪獣が立っていた。

 怪獣の息が顔にかかり、じりじりと熱を感じる。

 もう死んだふりをするしかないと思った俺はその場に倒れこんだ。


「ふんっ。軟弱なやつ。気を失ったか」


 おい依子そんな余裕見せてないで、お前も死んだふりしろ!

 と思ったが声には出せない。


 心拍数を抑えようとしてうずくまっていると、大きなもので包み込むように、何かが俺の肩に触れた。


 怪獣の手だ!

 食われる!


 俺は死を覚悟をしたが、なぜか怪獣は優しく俺の肩をなでるだけ。

 でも俺は疑問よりも恐怖が先に立ち、微動だにできない。


 時間が止まったかのような静寂の中、依子が口を開いた。


「この体は快適だな、食欲も大して湧かんし」


 その瞬間、俺の肩に触れる手にグッと力が入る。


 この体?

 誰に何の話をしてる?


 依子が話を続ける。


「空腹に意識を支配される気分はどうだ? さっそく一人食ったのだろう? なぁ山村依子?」


 依子は人食いの怪獣を自分の名で呼んだ。

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