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白銀の魔女は今日も笑う

 あの夜は数多の星が輝いていた。


 しかし、脳裏に残るのは、紅く激しく燃える中、銀色の長い髪を振り乱し、まるで舞っているかのような妖艶な動きで、次々と仲間を圧倒的な力で倒していく化け物の姿だった。


 僕はその光景をただ隠れて見ていた。最近噂されていた『白銀の魔女』だと分かっていても、僕はただ見ることしか出来なかった。



------------------------------------------


「おーい、オロボ。ノルマは達成したか? 」


 トンロはしゃがんでいた僕の頭をわしゃわしゃ撫でるとそう声をかけた。


「えっと……、まだ……」

「トンロ!またラースくんをオロボ呼びするなんてリーダーにチクるよ!」

「だって、こいつ、まんまオロボじゃん」

「ちょっと、トンロ!」


 トンロは言い訳をしつつ、こちらに近づいてきたピノから逃げるように後ずさり去っていく。


 オロボとは図体はでかいが、攻撃力は皆無と言っていいほどなく、防御に関しても村の子供が束になれば簡単に倒せる魔鳥だ。食べても美味しくなく、空も飛べない。つまり、そういうことだ。


 トンロの言う通り、僕は弱い。男は僕以外みんなが狩りをしている中、僕だけ女の子達と混ざり、薬草を集めていた。


「ラース、気にすることはないわ。貴方の薬草の知識と技術は、おばあ様譲りの優れた能力よ。貴方のおかげで助かったことが何度もあった。あんなわからず屋のいうことなんて聞かなくていいの」


 ピノは僕をそう言って励ますと、次はトンロねと説教しに向かった。


 弱虫で非力な僕を救ってくれたのはおばあ様だった。おばあ様は僕が大きくなっても村に居場所があるようにと色々な知恵を授けてくれた。今、こうして味方してくれるのも一度ピノの家族が倒れた時に治療したからだろう。


次の朝でピノは満の季節を迎えるため、その翌の夜明けまでに他の集落へ嫁に行ってしまう。それは長の決定であり、覆すことは出来ないが、僕ら同じ時を過ごしたものとしてはとても寂しく思えた。いや、永遠の別れという訳ではないのだ。笑って送り出そう。


------------------------------------------



 痛みを感じるほどの熱風が僕の身体を襲った。けれど、この場から動いてはならなかった。僕は敵をよく観察して、他の集落へこの情報をなんとしても伝えるため、息を潜め、化け物が去るのを待っていなければならなかった。弱い僕ができることなんて、こんなことくらいしかなかった。


 ブオォォッと燃える空気を前から受け、僕は思わず、目をつぶってしまった。そんな一瞬のことだった。真横を何か通り、ドスッと何かが地面に落ちた音がした。今まで受けた風とは何か違うことに違和感を抱いた僕はおそるおそる目をあけ、物音を立てないようにその落ちた音のほうを見た。それは、ピノだった。けれど、首から下はなかった。つい、声にならない声を漏れ出てしまった。この燃え盛る中、そんな音はほんの些細なものでしかなかった……はずだった。ピノが飛んできた方向を確認しようとした僕は、仲間の血に塗れた『白銀の魔女』と目が合った。いや、そんなはずはない。恐怖で震える身体をなんとか押さえ込みながら、自分に言い聞かせる。


 だが、現実はそんな甘くはなかった。『白銀の魔女』は迷いなく、僕のいる茂みのほうへと向かっていた。顔はよく見えなかった。しかし、薄ら笑っているのはわかった。


 「■■■■■■」


 『白銀の魔女』は、その一方的な戦い方にはそぐわない、小鳥のような可憐な声だった。その何かが言ったかと思った瞬間、僕の身体の芯に激しい痛みが走り、意識を奪われた。











 それからどのくらいの時が経ったのだろうか。意識が戻ると身体の痛みはなかったが、視覚と四肢の自由を奪われていた。奪われたといっても、手足を何か冷たくて硬いもので何かに固定されているみたいで、目に関しても光を感じるところ、布か何かで覆われているようだった。そして、ここはかすかに感じる薬草の臭いと今まで嗅いだ事ない刺激の強い臭いの入り混じった、おそらく村ではないどこか違う場所のようだった。


 僕はどうやら、他の村への緊急時伝達という使命は果たせず、その上、何らかの目的で生け捕りになったみたいだ。僕をどうするつもりなのだろうか。そもそも、拘束しているのは『白銀の魔女』なのだろうか。


 「あぁ、やっと起きたのね。せっかくココまで上手くいっているのに気が付かないままだったらどうしようかと思っていたけれど、うん、良かったわ」


 僕はこの声に聞き覚えがあった。静かに頭をその声のする方へ向けた。


 「色々と聞きたいことはあると思うけれど、今はとりあえず、貴方に発言権はないわ。私がいいと言うまで黙って聞いていなさい」


 その声の主が言った瞬間、僕は何かを取られた気がした。不安になり、声を出そうとした。しかし、口から出そうとする言葉が、全く音を発せられなかった。おそらく、僕が意識を失っている間に隷属の魔法か何かを施したのだろう。昔、そのような魔法には気をつけろと教えられていたが、もう既にかけられているものに対しての対処法が分からなかった。


 「わざわざ確認するなんて、少し感心したわ。とりあえず、自己紹介をしてあげる。私はアリアナ・クラーク。魔法生物専門研究者であり、冒険者として活動しているわ。まぁ、こう言ったところで貴方には理解できないでしょうけど。さて、貴方の自己紹介はなくていいわ。もうすでに貴方のステータスの確認はさせてもらったわ。年の割にはレベルは5で低いけれど、高い運、知力、毒耐性を持ち、そして、この私でさえ確認できなかった称号スキル。私にとって、今までにない素材だったのよ、貴方は」


 素材と恍惚の声をあげて、そう僕に対して言った。僕はあの夜以来の恐怖にまた襲われていた。


 「さぁ、貴方は自分の称号を確認できているのでしょう?貴方の口から称号を聞きたくて、貴方にオーアリア語のスキルを付与させたの。教えなさい、私に、その称号を。貴方に発言を許可するわ」


 その瞬間、脳裏におばあ様の教えが頭をよぎった。『お前のその称号は何があっても言ってはいけないよ』と。僕は唇をぐっと噛み、何が何でも答えないように抵抗した。


 「あら、すごいわ。貴方、私の命令に逆らえるなんて!ほんと、いいものを得たわ。でも、私、そんな簡単に諦められないの」


 少しずつ、声の主が僕のほうに近づいてくるのを感じる。一歩、また一歩とその気配は大きくなった。そして、バッと視界が解放された。突然の光に躇いつつも、静かに瞼を開いた。ぼやけながらも、目の前にいる存在を確認した。


 「はくぎん……の……、まじょ……」

 「あら、私、貴方たちみたいな存在からもそういう風に言われていたのね。面白いわ」


 『白銀の魔女』は目を細め、あの夜と同じように表情を緩めた。


 「正直、貴方たちには興味なかったの。討伐依頼が指名で入ったから、仕方なく任務を遂行だけ。けれど、貴方みたいなのに出会えるとは思っていなかったわ。いままで、この実験を試したのはみんな身体が溶けちゃったりとか、破裂したりとかで、すぐに失敗しちゃってたのよ。貴方が初めてなの、私の実験が今のところ上手くいっているのは」


 そう言うと、僕の顎に優しく触れる。その手は酷く冷たく、恐怖心を駆り立てた。


 「貴方の存在が、この研究の、魔物を強制的に人化させる研究を成功させるための一例として、大事な素材だと私は思ったの。さぁ、教えて、私の悲願のために!豚頭族の、いえ、元豚頭族のラース。貴方のその称号は、何?言いなさい!! 」


 紅い瞳が僕の心をまるで抉るかのように見つめてくる。その瞳に映る僕は『白銀の魔女』と同じ種族の姿だった。もう、僕は、戻れない……。大切な仲間も、おそらく、もう、いない。なら、もういっそのこと、全て、どうなっても……、いや、だめだ、絶対に言ってはいけない。


 僕は再び、強く唇を噛んだ。血が出て、痛いが、僕は『白銀の魔女』の言いなりにはなりたくなかった。

 

 「私の魔眼にも抵抗するのとか……、かなり面倒くさいわね。まぁ、いいわ。命令や魔法が全く効かないわけじゃないみたいだし、貴方をとことん調べ尽くしてやるわ」

 

 『白銀の魔女』は再び口角を上げて、目を細めた。その余裕のある様子に僕はだんだん黒く燃えるような感情が湧き上がってきた。こんなやつに、日常を仲間を奪われたのかと。


 「ぼくは……」

 「あら、言う気になった?」

 

 まだ感触の慣れぬ自分の手のひらをギュッと強く握り、『白銀の魔女』の魔女を睨み付けた。


 「ぼくは、ぜったいにゆるさない。なかまのむねん、どんなてをつかってでも、ぼくがはらす」

 「そう、貴方、ちょっと抵抗できる力があると思って勘違いしてるみたいだけど、弱いし隷属魔法を受けているのよ?」


 勘違いはしていない。僕が弱いのも重々承知だ。けれど、僕は、『不死鳥の加護』で、レベルは振り出しに戻ることになるが、何回でも生き返ることができる。何回死んでも、僕は、『白銀の魔女』に復讐をする、絶対にしてみせる。


 「いいわ、その表情。最近、研究の成果が上手いこといってなくて、楽しくなかったけれど、貴方の存在は、少しはいい刺激になりそうね。ほんと、いいものを手に入れたわ」


 アリアナは、その日、一番の笑顔を見せた。

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