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夢渡りの少女に教えたいこと

 天気予報はハズレ。

 雲間から陽の光が差している。

 アスファルトの照り返しが強いので、今日は駅前じゃなく林を抜ける道にした。

 ニセアカシアとミモザに覆われた小径は、程よく日差しを遮ってくれる。

 いつもだと色々と話をしながら帰るけど今日は二人して黙ったまま。


「鈴菜に、話さないといけない事がある」と親友の和美が言い出したのは、放課後の事。

 彼女の希望で、路地からは少し奥まった場所にある私の家に行く事になった。

 付き合い長いけど、和美が来るのって初めてだね。



「お帰りなさい。今日は早いのね」

 玄関を開けると、母さんがキッチンから顔を出した。

 エプロンを着けてるって事は、今日もお菓子作りかな。

 甘い香りはしないから、クッキーとかケーキじゃなくて和菓子かも。ちょっと楽しみ。

「和美と一緒にテスト勉強しようと思って」

「あら、珍しい」

 母さんがくすくすと笑っている。

「ひどいなあ。勉強しなさいって言ってたの、お母さんじゃない」

「はいはい。後で、お茶を淹れてあげるわね」

 他愛無い会話を、和美は眩しそうに見ていた。

「変わってないのね、懐かしいな」

 そんな、親友の反応は予想外でした。



 少し前、私は女神様から破魔と夢渡りの力をもらった。

 何日も続けて変な夢を見ていて、相談に乗ってくれたのが和美なんだ。

 怪しい存在をあっさり信じた私に呆れつつも、アドバイスをしてくれた。

 ちなみに悪霊浄化には、相手の夢の中で悩みを解決して敵を追い出す事が必要で。

 そっちでも相談していたりする。


 夢の中が舞台だったはずが、今日は現実世界で敵が現れた。

 何とか退治できたのは良いけど。

 その後、自室で水出し玉露とわらび餅を前に向き合う私達。

 どうしてこうなった。


「色んな事が起き過ぎて、もう驚く元気もないよ」

「ごめんね。これから話す事も突拍子無さ過ぎるけど、やっぱりやめとく?」


 ここまで来て、それはない。

 私は黙って首を振った。


「そうね。何から話せばいいのか――まずは、これを渡しとくよ」


 手渡されたのは『家内安全』の朱色の御守り。

 開けてと言われて紐解くと、中から三角の石が転がり出し、私の手のひらで紅く輝いた。

「嘘……」

 夢の中で女神様から託された封印石の一つ紅石そっくりだ。


「私のお母さんの旧姓はね、藤葉って言うの。結婚して苗字は変わったけど繋がりは続いてる」

 ん? 何の話だろ。

「藤葉家はね、邪神の封印を守ってきた一族なんだ。

 封印石の使い手は何人も出ているし、過去の知識も受け継がれているみたい」

「和美のお母さんて、3年前に亡くなったって言ってなかったっけ?」

「そうだよ。一般的な意味では生きてない。

 ただ、聖鏡を通じて話す事は出来るから、指示をもらったり相談したりはしててさ。

 離れて暮らす家族とネットで繋がってる感じなんだ」

 ラノベで読んだ、魂を鏡に封じ込めたみたいなイメージかな?

 尋ねると和美は肯いて見せた。


 それからも、話は続いた。

 聞いた事には、何でも答えてくれる和美。

 だけど、本当に聞きたい事からは遠ざかっている気がした。

 言ってる内容に嘘はないと思う。

 夢の中で知った内容と比べてもおかしなところはない。

 でも。封印を守る一族としての義務とか、過去の石の持ち主達の思いは語るのに、そこに和美自身の姿が見えない。


「和美、あなたは、いったい何なの?」


 気が付くと、そんな問いかけをしていた。


「それは、どういう意味? 鈴菜には、私が、私以外の何かに見えるの?」


 自分でも変な質問だと思う。和美は和美だ。女神様が身体を借りて話しているわけじゃない。

 でも、一度湧き出た疑問は止まらなかった。


「そういう意味じゃない。

 私が和美と出会ったのって、中学の初日だったよね。

 本の趣味が合って、すぐに仲良くなって。まるで昔からの知り合いみたいに居心地が良くて。

 親友ってこんな感じなんだって思ってた。

 今だって、こうやって正直に包み隠さず話してくれてる。

 でもさ。いくらなんでも都合が良すぎるよ。

 まるで、私が選ばれるのを知ってたみたいじゃない!」


 和美は、ちょっとびっくりしたあと、くすりと笑った。

 かなり核心を突いたつもりだったんだけど、的外れだったのかな。


「普段ぼーっとしてるのに、いざとなると勘が鋭くなるとこ同じなんだね。昔も今も」

「ごまかさないで!」

「そうだね。私は知ってる――正確には知ってた、だね」

「どういうこと?」

「今日、敵と戦った時、アドバイスが聞こえたって言ってたでしょ?

 あれは御守りに宿っていた鈴菜の心の欠片。今のあなたに触れた事で眠りから目覚めたんだと思う。

 あの子が全てを伝えて欲しいと望んだから、私はここに来たの」


 私が私に残した思い? 言葉にしてみても意味不明です。

 そもそも、和美が言う『鈴菜』って、私じゃない他の誰かの話に聞こえる。


「私さ、未来から来たんだよ」

「はいい?」


 あっけにとられた顔が知りたい人、今の私を見に来て下さい。

 言葉の意味が分からないわけじゃない。

 ゲームとかラノベで時間遡行の話が出てくる事はあったし。

 でも実際に聞くと、まるで現実感がない。


「その顔は、信じてないわね。突拍子もない話だって言ったでしょ」

 だめだ。心の声が漏れないようにしても、全部伝わっちゃってるよ。


「時間遡行って、アニメの見過ぎじゃないよね?」

「本当に架空の物語だったら、どんなに良かったか」

 寂しげに笑って見せる。

 その顔は、私に紅石を渡した女神様によく似ていた。


「ホントの話なんだ……未来って、いつから来たの?」

「2ヵ月後。

 9月13日に、この家は焼け落ちるの。そして、私はタイムリープで3年前に戻った」

「うち、火事になるの?!」

「うん」

 和美は肯いた。

「何で、そんなに落ち着いて話してられるのよ。自分が、どれだけ酷い事を言ってるのか分かってる? 母さん達が死ぬかもしれないって事だよね!」

「たぶん大丈夫。私の知っていた未来とは、もう違っているから」

「そんな事、急に言われても、訳わかんないよ!」


 本当。訳が分からない。

 自分の未来に悲劇が待ち受けると知った直後に既に解決済みだと言われて、私はどう反応すればいいの。

 和美が落ち着きすぎてて、感情に揺さぶられてる自分が子供に思えるよ。


「正直言うとね。私は、鈴菜に紅石を受け取って欲しくなかったんだ。

 確かに夢を叶えてくれるだけの力はある。

 だけど、封印を担う代償は、考えているよりもずっと重いの。

 心の闇なんて、知らない方が良いことばかりだし。

 強すぎる力に寄って来る邪な存在もいる。

 白の女神は、確かに人間の味方で邪神に敵対しているけど、全ての人を救ってくれるわけじゃない。

 正義のための犠牲は仕方が無いって、そんな風に考える存在だよ」


 自分の味方であるはずの仲間にも話を聞かれたくないから、私の家を話し場所に選んだそうだ


「私、これからどうすればいいんだよ」

「あまり力を使わない事だね。

 紅石は、使えば使うほど魂に馴染んで強い力を引き出せるけど、使う側にも影響があるんだ。

 かと言って持っていなければ、今日みたいに力が暴走しちゃう危険があるしね」

 和美は困ったように言った。

「影響あるってどういうことよ。私、そんなの聞いてない」

「……具体的な例だと、それとか分かりやすいかな」

 おもむろにテーブルの上を指さす。

 並んでるのはノートに勉強のお供。別に変わったところはない。

 疑問符を浮かべている私を見て、彼女は玉露入りのカップを手に取った。

「美味しいね。さすが鈴菜のお母さん。緑茶にマグカップって組み合わせも斬新」

「最近、お茶の美味しさに目覚めちゃって……え?」


 紅茶やケーキが嫌いになったわけじゃない。

 友達とクレープとか食べるのも大好きだけど、女神様に出会ってからの私は美味しい和菓子も探すようになった。


「人格を奪われるんじゃないけどね。

 14年の人生経験しかないところに、数十年を濃密に生きた人達の感動や情熱の記憶を知識として追加されちゃうから、どうしても影響あるのよ」


 魂の侵食。そんな言葉が頭を過ぎった。

 石が伝えるのは、過去を生きた戦士達の記憶。

 平凡な女子中学生が背負うには、少しどころではなく荷が勝ちすぎている。

 だけど――。


「もしも私が逃げたとしてどうなるの。邪神が消えるわけじゃないんでしょ」

「私達は、御祓いを続けるよ。今までやって来た事だしね。ちゃちゃっと大元を封印出来るといいんだけどね」

 それが簡単なら、とっくに終わっているよね。


「私、自分が知らないところで和美が死んで、後から結果だけ聞かされるなんて嫌だよ。そんな事になったら、この先、一生笑えなくなる」

「正義感とか、一時的な感情で動いちゃ駄目だよ。必ず後悔する時が来るから」

 即座に否定された。


「そりゃ、和美にとっては2回目だから分かってるかもしれないけどさ、私の人生だよ。

 自分で考えて、自分で決めるよ。

 だからお願い、ちゃんと教えて。未来に何があったのか」

 どんなに考えても答えは一つしかない。

 私は、紅石を受け取った自分を後悔したくないもん。


「あなたは、やっぱりそう答えるんだね……」

 和美は悲しげな顔で、紅石を握った私の手に手を重ねた。


「いいわ、見なさい。前向きな姿勢、戦う意志、正義感。

 それを通した結果どうなったか――夢渡り」


 言葉と共に、私は和美の記憶世界へ引き込まれた。

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