犬耳幼女の奴隷になりまして
会社が倒産したんだと教えてくれたのは、ヤクザな方々だった。
いつものようにヌクヌクと部屋でネトゲに勤しんでいると、突然ヘッドホンを取られ、あっという間に床の上。
一体何事かと顔を上げようとしたら頭頂部を踏まれてしまい、顎を床に強打。
視界に入るのは黒い靴下と俺がほっぽったゴミだけだ。
「姉御、取り押さえました」
「ご苦労」
姉御?
視線だけ動かすと右側から周りと同じ黒い靴下が現れた。
一体俺の聖域に土足……ではないが踏み入ってきたのは何者だというのか。
「こちらが彼の……」
「えーと……うわ酷いわね。無駄に健康的な生活を送っている辺りが特に腹立たしい。……おい」
「へい」
どうやら俺を抑えている足をどかさしてくれたようだ。
とりあえず姉御さんの顔を拝もうとして、
「へぶっ!!」
今度は後頭部を踏み抜かれた。
鼻と口を床に強打した。
その実、血の味がないのはなぜなのか。
絶妙な踏み加減がうん屈辱的で腹立たしいな!
「あぬぉ、あしをどけてはもらえませんくぁねぇ」
「黙れゴミ」
「……ふぁい」
凄みを感じました、まる。
*****
「まあというわけで、お家の方々みーんな逃げちゃいまして。君だけなんだなあ残ってるのが。だから君がお金返してくれる?」
何がというわけなのか。
「あの、復唱させていただいてもよろしいでしょうか」
「許可しましょう」
「あの……えと……その……私の祖父の会社が倒産し、私の親族一同は、就職はおろか高校すらも中退して、健康的なニート生活を約五年間にわたって続けていた私に全てを押し付けて蒸発してしまった。という認識でよろしいでしょうか?!」
「あら。ごくつぶしであることは理解していたのね」
そりゃ、顔を合わせれば苦虫を嚙み潰したような顔を向けてくる姉や妹、嫌悪感をむき出しにした貌で睨みつけてくる兄や弟、部屋から出るたびに涙をこらえて目をそらす母、もはや無駄だと蔑みのこもった視線を時折こちらに向けてくる父。
そんなハートフルな家族と共に生活をしていれば流石に理解するさね。
まあ理解したうえで快適なニート生活を謳歌していたんだけどな!
親の金で食う飯とネトゲの課金アイテムは最高だね!!
「そして姉御さん達は、残った借金を私から回収しにきたヤのつく自由業の方々という認識でよろしいでしょうか!?」
「おおむねその認識で間違ってないわ。あ、でも一つ訂正」
俺の上に乗っていた足に力が込められた。
なんでお怒りー?
耳元で姉御が空気を吸った音がする。
「私たちは、あくまでも極めて真っ当な会社の真っ当な回収業者の中で、返済能力のない対象に派遣されるすこ~しだけ厳しいだけのあくまでも極めて真っ当な回収業者です。理解した?」
「…………はい。理解しました」
つまりヤクザな方々ですね!
「よろしい。じゃ、続けるわね。現時点での元金が……うわ……」
うわってなんだうわって。
そこは元金利息合わせて〇〇万や! みたいに続けてくれよ。
つか今更だけどうちの会社って真っ当な会社じゃなかったのか?
じゃなきゃヤクザな方々がドン引きする借金なんか出来上がらんだろ。
あ、でもこう業績不振で貸してくれる場所がそういうところだけになったって可能性もあるか。
ま、どうでもいいけどな! ……俺の現状に比べれば。
「で? 返せそう?」
「えーとですね。見ての通り完全無血のニートでして。そんなにお金はないんですよ」
親の口座から引き落とされるクレジットカードで今まで過ごしてきたんだぜ。
具体的には約五年。
そんな俺が借金なんぞ返せるものか。
「でしょうね。まあ大丈夫よ。人が一体あれば大概は結構な額になるから」
あ、察し。
つまり俺は臓器が抜かれていくわけか。
ところで一体あるってなんだ。
物か。俺は物か。
「あ、一応言っとくけど、臓器を売ってもまだ足りないからね」
「じゃあ無理じゃん! 俺終わりじゃん!」
相手がヤクザさんという事も気にせず怒鳴り散らす。
「やかましい」
口に足を突っ込まれた。
ちくしょう……。噛みちぎってやろうか……。
……ちょっとく……いい匂いがします姉御。臭くないです姉御。だから睨まないで姉御……ぉぇ。
「君自身は一銭も無い。臓器程度じゃやっぱり足りない。じゃあどうするか」
「もが……」
「そんな君に丁度良いところがあります。よかったね。借金返せるね」
「もんぐぉ?」
「ええ、本当よ。じゃ、行きましょうか」
そんなこんなで俺はあっという間に目隠し、姉御の靴下を突っ込まれその上から猿轡、のち拘束、麻袋の中へ。
つか姉御さんの靴下マジで吐き気が止まらないんだが。
自分で突っ込んでおいて何が『……気持ち悪い』だよ。
そもそも人の口を塞ぐのになんで足を使ったんだって話よ。
……あ、そうか。俺、人として扱われてないのか。
だっていまや運搬物だもの。荷物だもの。
なんか哀しくなってきた。悲くなってきた。
哀しく悲しく荷物のように運搬されること……どんくらいだろうね。
気がついたら俺は。
素っ裸でとある舞台袖に立たされていた。
後ろ手に手錠。
足には重石付きの足輪。
首に下げられるはプラカード。
どっからどう見ても……。
「あの、これって人身売買ってやつでは……」
「そうよ。よかったね。これで借金は返せるね。しかも働き口まで見つかる。なんとも素晴らしい事じゃあない」
「……おれ……鉱山で働かされるんですね」
「あーその可能性もあるにはあるけど……たぶんないかな。君の場合は」
「じゃあ人体実験の被験体?」
「あーそっちのほうが可能性は高いか……なあ。まあでも今日のメンツ的にそれもまあ可能性は低めだと思うわよ」
「あ、わかった! サンドバッグ!」
「そっちの意味合いが強い輩のほうが多いわね今日は」
「人でなし!!!」
「あら、大当たり。このオークションは人間相手じゃないの」
「今からでも逃げるってことは可能ですか?」
「むっりっ!」
このアマ……いつか必ず……。
とりあえず睨みつけてやろうとしたけれど、生来のチッキンな俺は、周りの黒服さんを見るだけですくみあがってしまうわけで。
俺のお袋さんなんか息子にへばりつかんがごとくだ。
子離れしてくれよ。
俺のマッマは離れたぜ。
馬鹿らしい現実逃避をかましていると、ついに俺は黒服さんに引きづられて舞台に上げられた。
「お待たせしました。本日の目玉商品です! 日本人の成人男性。年齢は二〇。栄養バランスの良い食事と適度な運動により身体は健康そのもの。さあ五千万からです!!」
そんな紹介で始まるオークション。
どんな奴に買われるのか。
そんな思いで客席を見渡して……もう一度見渡して……。
「……えー」
人間とは、あまりにも衝撃的な光景を見ると、逆に落ち着くらしい。
最初に手を挙げたのは、蜥蜴だった。
舌なめずりしている。
次に上げたのは蝙蝠の翼を生やした女だった。
舌なめずりしている。
その次はご立派なツノの男……舌なめずりしている、次は猫耳……舌なめずりしている、お次は……スライム……舌なめずりしている?
まあつまりなんだ。
手を挙げて競りに参加している者含め、会場にいる方々のほとんどは、少なくとも地球では見かけた事がない種族?ばかりだった。
まあきっとみんな特殊メイクなはずだ。
スライム? スライム……ね……。はは……。
俺はそれらから目をそらそうとして、そらそうと、そら、そらせねえよ!!!
そんな俺を無視し、さらに続く競り合戦。俺の金額は着々と上がっていき、あっという間に億を超えた。
やがて真ん中くらいに座っていた犬耳の幼女とご立派なツノの男が競り合い始める。
三億……三億五千万……四億……五億……六億……。
よくわからんが……がんばれ幼女よ! 頼む! ツノ男はいやだ!
なんかわからんがそいつに買われたら確実に終わる!! 不幸になる!!!
考えてみるとこのオークションの商品にされている時点で不幸ではあるのか。
いやでもどうせ買われるなら幼女がいい! 幼女なら少しは優しいかもしれない!!
「はい! 八億が出ました! もういませんか!? いませんね!? 締め切りますよ!? ではセレーンさん、八億で落札!!」
カーンッと乾いた響きが会場に浸透する。
「やったぁ!! 人間の奴隷ゲット!!」
そうして叫んだのは犬耳の幼女。
尻尾を振り乱しながら大はしゃぎしている。
飛び上がるたびに黒く長い髪が、横にいる幼女によく似た女性にビシビシ当たっているが、女性は気にせずニコニコしながら……舌なめずりしている。
こうして俺は、犬耳幼女の奴隷になった。




