表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/27

陰キャの俺に、ウザ絡みメイドはキツすぎる!

このご時世、日本という国に本物の「メイド」など存在するのだろうか。


そんなもの、ファンタジー世界もしくはメイド喫茶ぐらいにしかいないものだろう。どれだけお金持ちだろうと、家にメイドがいるなんてほとんど聞いたことがないぜ。少なくとも俺は。


まあ、お金持ちの屋敷には、お手伝いさんぐらいならいるものだろう。


だが、お手伝いさんではなく、メイドだ。フリル付きのドレスエプロンを着た、可愛い萌え萌えな女性。ほとんどコスプレだ。家事できるのか、そんな格好で!


そんな、オタク丸出しの大偏見を持っている時点で察してほしい。


俺は根っから、オタクの陰キャ。友達は数えるほど。女子と話した回数は片手で数えたほうが早い。性格は真面目系クズという、どうしようもない人間だ。悲しくなってきた。


さて、春から大学生になり、俺は一人暮らしを始めた。


しかしワケあって……一人暮らしにしては、デカすぎる屋敷に住んでいる。


ーーーー実は、俺の家はそこそこの金持ちである。


というのも、ある日親父が大金を持って帰ってきたのだ。ビックリするだろ、こんなん。


話に聞くと、どうやらお人好しらしい親父は、時々ひょんなことで出会った、孤独なお年寄りの話し相手になっていたそうだ。そして、その方が惜しくも亡くなってしまい、なんと遺産をいただいてしまったのだとか……すごい話もあったもんだ。


そのいただいたお金を無駄にしまいと、半ば慈善事業のような形で格安のマンション経営を始めたところ、これまたうまくいってしまい……あっという間に人生の勝組だ。


おっと、話がそれたな。


そんなわけで金持ちボンボン大学生になってしまったのだが、生来俺という人間ーー田辺晴男(たなべはるお)は、とんでもなーく陰キャだ。

 

「へいへいへーい、ぼっちゃーん朝ですよ!」


そうだ。冒頭でお話したようにな。


こんな風に、朝起こしてくるメイドなんか、陰キャでボッチな俺にいるわけがない。決して。


「ぼっちゃーん!? また一人で夢心地の陰キャ語りしてんのか!」


布団の上から乱暴にケツを蹴られた。


「いっ……何すんだ!?」


飛び起きれば、ベッドの前にいたのは仁王立ちしたメイド服の女だ。


紺色の長い髪の毛が肩まで伸び、その下には大学生の男には刺激的すぎる大きな果実が2つ。


いつ見ても……メイド服からはち切れそうなほどデカイ。


きりっとした眉、クリクリした茶色の瞳、大きな口に白い肌。総合して相当の美人であるが、


「ダメ大学生! 親の金でヌクヌクできるのは今だけだからなあ!」


口が悪い上にウザい。


そう、この女ーー藍島(あいじま)リスは、親父が俺につけてくれたメイドなのだ。いや、頼んだ覚えはマジでない。このデカすぎる屋敷には辟易(へきえき)していたがーー本来、俺は一人が大好きなのだ。誰も、一人が寂しいとは、一言も! 言っていない!


「……う、うるせー」


陰キャの俺にはこれが精いっぱいだ。


「声が小さいぞ陰キャ!」

「お前クビにするぞ……」

「なんの権力もない君に言われても、への河童さ」


大きな胸を組んだ腕で持ち上げながら、鼻で笑われる。


「選ばせてやろう、ハルオくん。朝ごはんは、パンかごはんか!」

「……じゃあ、パン」

「今日はわたしがパンの気分だからパンな」

「聞く意味無かっただろ今の!」


藍島リス。

 

ーーーーこんなの、俺が知ってるメイドじゃない!


情けないことに、それ以上言えない俺は『にらみつける』を使った! しかし、そんな攻撃が効くはずもなく、リスはニコニコしている。


「どーせオタクなぼっちゃんのことだから、アニメのメイドはこんなんじゃなかったとか、お考えでしょ~」


読心術を使うな。


ひとしきり笑ったあと、


「じゃあ準備して待ってますわー!」


と、大声で言って、去っていった。


俺は寝癖のついた頭をボリボリ掻きながら、「うっぜぇ……」と呟くしかできなかった。



☆☆☆



ーーーーリスのことを、俺は何も知らない。


リビングに行き、椅子に座ると出された朝食は、完璧すぎた。


スクランブルエッグはホテルのものと遜色ないほどトロトロだし、バターパンの焼き加減は最高だし、コーヒーは死ぬほど美味い。ともかくメイドとしてのスキルはSSSランクだ。


美味しくて思わず笑みをこぼしながら朝食を食べる俺を、リスはニコニコしながら見ている。……た、食べづらい……。


「リスは食べないのか?」

「ご一緒していいなら、お言葉に甘えよう!」


律儀に俺が食べるのを待っていたのか!?


よくわからん奴だ。まじめなのか不真面目なのか。

少し申し訳ないことをした……と思っていると、


「よいしょ」


リスが俺の前に自分の分の朝食を置いた。


俺の5倍はある量の、パンと卵とデザートだった。


「…………いや、お前、量!?」

「へっへっへ~~~、金ももらえて、ご飯もついてなんだこの仕事~~! 食べなきゃ損でしょ~!」

「ていうかなんだそのデザート! 俺のに無かったぞ!」

「いま剥いたもん、オレンジと桃」

「俺にもよこせよ!」

「ケチ~~~」


口を尖らせて、リスは言った。しぶしぶ半分くれた。


「とんでもないご主人様だ」

「こっちの台詞だ。とんでもないメイドめ」


睨んでいると、ニコニコされる。

なんだか負けた気分になる。


「……そんなに怒る? ごめんごめん」


別に怒ってないけどな。

あ、桃美味しい。


リスはホッとしたのか、またニコニコしながら豪快にパンを食べだした。そんな彼女を見ていると、不思議な気分になる。


先日、一人暮らしを始めた俺に、親父が突然紹介してきたこのメイド……藍島リスのことを、本当に何も知らない。


何歳で、どこからきて、なんで俺のメイドなんかしているのか。


「なあ、ちょっと聞いていいか、リス」


タイミングを逃すと永遠の謎になりそうな気がしたから、聞いてみることにした。リスはパッと顔を上げる。


「……あげないよ?」

「いやいやちがうちがう、あのさ、リス。おまえって、なんで俺のメイドなんかしてんの……? 俺、なんだかんだでお前のこと何も知らないからさ」


変な質問だったか?


リスは小首を傾げた。


しばらくするとニヤーッと八重歯を出して笑った。


「ぼっちゃーん、わたしに興味があるのかあ」

「ち、ちがう、そんなんじゃねえ……! 普通に気になって」

「藍島リス、21歳!」

「……と、歳上なのか」


とても言動が年上に見えない。


「なんでって言われてもなあ。仕事探してたら、ぼっちゃーんのオトンに紹介されただけさ」

「本当にそれだけ?」

「おうよ!」


大きい胸を張って、自慢そうに言った。


「大丈夫~、ぼっちゃーんのオトンの資産なんか狙ってないさ」

「別に怪しんだわけじゃ……」

「ぼっちゃーんの遺産は狙ってるけど」

「俺、殺される!?」


ケラケラ笑う。

からかわれて悔しい。


「ぶふぅ、ごめんって、ぼっちゃーん」

「そのぼっちゃーんってのやめろ」

「ぼっちゃーん!」


あああ! うぜえ!


リスは「やべっ」とつぶやいて、またパンをかじりだした。


「あ、そういえば今日は休日だけどぼっちゃーんはどうされるの? ご予定は? なんかあったら準備ぐらいしてあげちゃうけど」


「……別に予定なんかない。ゲームして寝る…………………な、なんだよその目は!」


うわぁ、陰キャ~とでも言いたそうな冷たい目だった。


俺は逃げるようにそそくさとリビングをあとにしたのだった。



☆☆☆



「ぼっちゃーん非常に可愛いなあ……!」


晴男が去ったあと、リスは一人でニヤニヤしていた。


眺めるスマホには、


晴男の写真がめっちゃ撮られていた。


「いやぁまずい……。偉大なる恩人の息子さんとはいえ、こんなにコロッと好きになっちゃうわたしもまずい…………年下だし……いや、でも、ああ、どうしよう~~~~~~~~」


熱くなった顔をパタパタ仰ぎながら、リスはもう一度密かに叫んだ。


「素直になれない~~~~~~んあ~~~~~~~~!!」



ーーーーこれは、根暗陰キャな男子大学生と、彼にコロッと恋してしまった訳ありメイドの変な日常の物語。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ