陰キャの俺に、ウザ絡みメイドはキツすぎる!
このご時世、日本という国に本物の「メイド」など存在するのだろうか。
そんなもの、ファンタジー世界もしくはメイド喫茶ぐらいにしかいないものだろう。どれだけお金持ちだろうと、家にメイドがいるなんてほとんど聞いたことがないぜ。少なくとも俺は。
まあ、お金持ちの屋敷には、お手伝いさんぐらいならいるものだろう。
だが、お手伝いさんではなく、メイドだ。フリル付きのドレスエプロンを着た、可愛い萌え萌えな女性。ほとんどコスプレだ。家事できるのか、そんな格好で!
そんな、オタク丸出しの大偏見を持っている時点で察してほしい。
俺は根っから、オタクの陰キャ。友達は数えるほど。女子と話した回数は片手で数えたほうが早い。性格は真面目系クズという、どうしようもない人間だ。悲しくなってきた。
さて、春から大学生になり、俺は一人暮らしを始めた。
しかしワケあって……一人暮らしにしては、デカすぎる屋敷に住んでいる。
ーーーー実は、俺の家はそこそこの金持ちである。
というのも、ある日親父が大金を持って帰ってきたのだ。ビックリするだろ、こんなん。
話に聞くと、どうやらお人好しらしい親父は、時々ひょんなことで出会った、孤独なお年寄りの話し相手になっていたそうだ。そして、その方が惜しくも亡くなってしまい、なんと遺産をいただいてしまったのだとか……すごい話もあったもんだ。
そのいただいたお金を無駄にしまいと、半ば慈善事業のような形で格安のマンション経営を始めたところ、これまたうまくいってしまい……あっという間に人生の勝組だ。
おっと、話がそれたな。
そんなわけで金持ちボンボン大学生になってしまったのだが、生来俺という人間ーー田辺晴男は、とんでもなーく陰キャだ。
「へいへいへーい、ぼっちゃーん朝ですよ!」
そうだ。冒頭でお話したようにな。
こんな風に、朝起こしてくるメイドなんか、陰キャでボッチな俺にいるわけがない。決して。
「ぼっちゃーん!? また一人で夢心地の陰キャ語りしてんのか!」
布団の上から乱暴にケツを蹴られた。
「いっ……何すんだ!?」
飛び起きれば、ベッドの前にいたのは仁王立ちしたメイド服の女だ。
紺色の長い髪の毛が肩まで伸び、その下には大学生の男には刺激的すぎる大きな果実が2つ。
いつ見ても……メイド服からはち切れそうなほどデカイ。
きりっとした眉、クリクリした茶色の瞳、大きな口に白い肌。総合して相当の美人であるが、
「ダメ大学生! 親の金でヌクヌクできるのは今だけだからなあ!」
口が悪い上にウザい。
そう、この女ーー藍島リスは、親父が俺につけてくれたメイドなのだ。いや、頼んだ覚えはマジでない。このデカすぎる屋敷には辟易していたがーー本来、俺は一人が大好きなのだ。誰も、一人が寂しいとは、一言も! 言っていない!
「……う、うるせー」
陰キャの俺にはこれが精いっぱいだ。
「声が小さいぞ陰キャ!」
「お前クビにするぞ……」
「なんの権力もない君に言われても、への河童さ」
大きな胸を組んだ腕で持ち上げながら、鼻で笑われる。
「選ばせてやろう、ハルオくん。朝ごはんは、パンかごはんか!」
「……じゃあ、パン」
「今日はわたしがパンの気分だからパンな」
「聞く意味無かっただろ今の!」
藍島リス。
ーーーーこんなの、俺が知ってるメイドじゃない!
情けないことに、それ以上言えない俺は『にらみつける』を使った! しかし、そんな攻撃が効くはずもなく、リスはニコニコしている。
「どーせオタクなぼっちゃんのことだから、アニメのメイドはこんなんじゃなかったとか、お考えでしょ~」
読心術を使うな。
ひとしきり笑ったあと、
「じゃあ準備して待ってますわー!」
と、大声で言って、去っていった。
俺は寝癖のついた頭をボリボリ掻きながら、「うっぜぇ……」と呟くしかできなかった。
☆☆☆
ーーーーリスのことを、俺は何も知らない。
リビングに行き、椅子に座ると出された朝食は、完璧すぎた。
スクランブルエッグはホテルのものと遜色ないほどトロトロだし、バターパンの焼き加減は最高だし、コーヒーは死ぬほど美味い。ともかくメイドとしてのスキルはSSSランクだ。
美味しくて思わず笑みをこぼしながら朝食を食べる俺を、リスはニコニコしながら見ている。……た、食べづらい……。
「リスは食べないのか?」
「ご一緒していいなら、お言葉に甘えよう!」
律儀に俺が食べるのを待っていたのか!?
よくわからん奴だ。まじめなのか不真面目なのか。
少し申し訳ないことをした……と思っていると、
「よいしょ」
リスが俺の前に自分の分の朝食を置いた。
俺の5倍はある量の、パンと卵とデザートだった。
「…………いや、お前、量!?」
「へっへっへ~~~、金ももらえて、ご飯もついてなんだこの仕事~~! 食べなきゃ損でしょ~!」
「ていうかなんだそのデザート! 俺のに無かったぞ!」
「いま剥いたもん、オレンジと桃」
「俺にもよこせよ!」
「ケチ~~~」
口を尖らせて、リスは言った。しぶしぶ半分くれた。
「とんでもないご主人様だ」
「こっちの台詞だ。とんでもないメイドめ」
睨んでいると、ニコニコされる。
なんだか負けた気分になる。
「……そんなに怒る? ごめんごめん」
別に怒ってないけどな。
あ、桃美味しい。
リスはホッとしたのか、またニコニコしながら豪快にパンを食べだした。そんな彼女を見ていると、不思議な気分になる。
先日、一人暮らしを始めた俺に、親父が突然紹介してきたこのメイド……藍島リスのことを、本当に何も知らない。
何歳で、どこからきて、なんで俺のメイドなんかしているのか。
「なあ、ちょっと聞いていいか、リス」
タイミングを逃すと永遠の謎になりそうな気がしたから、聞いてみることにした。リスはパッと顔を上げる。
「……あげないよ?」
「いやいやちがうちがう、あのさ、リス。おまえって、なんで俺のメイドなんかしてんの……? 俺、なんだかんだでお前のこと何も知らないからさ」
変な質問だったか?
リスは小首を傾げた。
しばらくするとニヤーッと八重歯を出して笑った。
「ぼっちゃーん、わたしに興味があるのかあ」
「ち、ちがう、そんなんじゃねえ……! 普通に気になって」
「藍島リス、21歳!」
「……と、歳上なのか」
とても言動が年上に見えない。
「なんでって言われてもなあ。仕事探してたら、ぼっちゃーんのオトンに紹介されただけさ」
「本当にそれだけ?」
「おうよ!」
大きい胸を張って、自慢そうに言った。
「大丈夫~、ぼっちゃーんのオトンの資産なんか狙ってないさ」
「別に怪しんだわけじゃ……」
「ぼっちゃーんの遺産は狙ってるけど」
「俺、殺される!?」
ケラケラ笑う。
からかわれて悔しい。
「ぶふぅ、ごめんって、ぼっちゃーん」
「そのぼっちゃーんってのやめろ」
「ぼっちゃーん!」
あああ! うぜえ!
リスは「やべっ」とつぶやいて、またパンをかじりだした。
「あ、そういえば今日は休日だけどぼっちゃーんはどうされるの? ご予定は? なんかあったら準備ぐらいしてあげちゃうけど」
「……別に予定なんかない。ゲームして寝る…………………な、なんだよその目は!」
うわぁ、陰キャ~とでも言いたそうな冷たい目だった。
俺は逃げるようにそそくさとリビングをあとにしたのだった。
☆☆☆
「ぼっちゃーん非常に可愛いなあ……!」
晴男が去ったあと、リスは一人でニヤニヤしていた。
眺めるスマホには、
晴男の写真がめっちゃ撮られていた。
「いやぁまずい……。偉大なる恩人の息子さんとはいえ、こんなにコロッと好きになっちゃうわたしもまずい…………年下だし……いや、でも、ああ、どうしよう~~~~~~~~」
熱くなった顔をパタパタ仰ぎながら、リスはもう一度密かに叫んだ。
「素直になれない~~~~~~んあ~~~~~~~~!!」
ーーーーこれは、根暗陰キャな男子大学生と、彼にコロッと恋してしまった訳ありメイドの変な日常の物語。




