第4話:盗賊団頭領だろうがなんだろうがかかってこいや!!(4)
前回のあらすじ。
恭弥とマルクスの戦い終結!
小雨がしとしと降り続ける中、崖の上に立つ手のひらサイズの小さな少女の瞳は村の全景を捉えていた。霧のような雨粒が視界を柔らかくぼやかし、遠くの黒煙が立ち昇る景色を幽玄なものに変えている。
そんな少女に傘を差す女性が、少女に語りかける。
「どうやら盗賊の仕業のようだね。まさか、うちの村が襲われるとはね」
「……ねぇマーリン、あの子にしげるの技を教えたの?」
エンラが指を差す先には、須賀政宗と雷堂修の姿が見えた。
「私は教えてないよ?」
「でも炎牙を使ってたよ。あれはしげるの技のはずだよ?」
「私はあくまで鎧武装の練習がてら剣の打ち合いをした時にお祖父様の技をいくつか見せただけだよ」
エンラの声音からは微かに怒りの圧を感じ取れたが、マーリンは誤解を解くように弁明した。
「じゃあ見ただけで使えるようになったってこと?」
訝しげな視線を向けてくるエンラにマーリンはそうだねと肯定の意思を見せた。
エンラはマーリンが子どもの頃にしげるから技を見せられて育ったことを知っている。だからこそ、彼女がしげるほどではないにしても、ある程度しげるの技が使えることもよく知っていた。
だが、それは何度も振り、刀という独特な武器を使いこなせるようになったマーリンだからこそ、使えるようになったと思っていた。
「わかってたことだけど、本当にしげると同郷なんだ……」
「あんまり私から離れないでね」
ふよふよと浮かぶエンラが少し離れたのを見て、マーリンは彼女の背中に声をかけた。
「あんまり離れすぎると私のダンジョンのテリトリーから出ちゃうからね。出たらばれちゃうよ?」
「そうだったね……あいつはまだアタシを狙ってると思う?」
「うん。お祖父様から最後にもらった手紙によるとね。……あいつはフェンネルを襲った。まだエンラのことも諦めてないんだよ」
「あいつにはしげる無しじゃ勝てない……でももう、しげるはいない」
「うん……」
マーリンは寂しそうに背を向けたエンラを見つめ、それ以上何も言わなかった。エンラもまた、マーリンの言葉にしない思いを理解し、大きく息を吐いて覚悟を決めたのだった。
◆ ◆ ◆
理解ができなかった。
最後に見たあの諦めたような目が、海原恭弥には、到底理解できなかった。
そして、苛立ちのこもった眼差しで、大の字に倒れるマルクスを見下ろした。
「何故防御しなかった?」
マルクスの口元は赤く染まっていた。それは、恭弥の並々ならぬ渾身の一撃を防御せずに受けた結果に他ならない。
かろうじて意識はあったが、立ち上がるどころか身じろぎ一つ取れるような状態ではなかった。
「俺は……中途半端な人間だった。剣じゃ才能のある連中には勝てないと思って魔法に活路を見出そうとした。それで強くなった自覚はあるが、結局魔法の才能がある連中はあっという間に俺なんか超えやがる。それでも俺は張り合えると思っていたが、サイクロプスという圧倒的な怪物には俺のこれまではまったく通用しなかった。俺が弱いせいで多くの仲間を失って、それでも俺は生き残っちまって……罪悪感で苛まれている時に、いつもであれば聞き逃がせるようなあのボンボンの言葉に苛ついて、当たり散らして殺しちまった。どうなるかなんてわかってただろうにな。……騎士の道を絶たれ、国からも逃げてきた俺の居場所なんてどこにもないのに、流れ流れて、盗賊連中を率いてる。騎士だった俺が、人を殺して、人を悲しませて生きている。……あんちゃんに真っ向から否定されて、俺もあんちゃんみたいに真っ直ぐ生きたかったなって思っちまったんだよ……」
「何勘違いしてるか知らねぇが、俺は真っ直ぐになんて生きてねぇよ。挫折したし、俺のちっぽけな正義感が今まで当然にあった周りの環境を全て壊した。家も、学校も、家族も、そんで夢も全て失って、俺はぶっ壊れちまった。でも、そんな俺を、沼の底から引っ張り上げてくれたバカがいた。何度殴っても、弱いくせに何度も挑みにきやがって、イケてる顔を真っ赤に腫らしてもう一度勝負だと言ってくるバカがいたんだ。……お前が俺を真っ直ぐだと思ったんなら、間違いなくそのバカのお陰だな」
「そっか……そいつは羨ましいな……」
それだけ呟くと、マルクスは目を閉じた。
その表情は負けたというのに何処か満足げで、恭弥はそれを見て、その場から立ち去った。
◆ ◆ ◆
リョウ達の家に向かう最中、恭弥は民家の壁に背を預けて立つ遥斗の姿を見つけた。
「終わった?」
「まぁな。そっちは?」
「問題ないよ。リョウさんが医者だったのもあって、包帯や薬といった道具が揃ってたからね。リョウさんは安静にしてれば命に別状はなさそうだよ。ただ、村全体の被害は相当だね。怪我人多数、死者はもっといるだろうね」
「そうか。俺は今からアルフィー達がいる場所に戻って怪我人をこっちに誘導する。遥斗はもしもの時の為にここでシュナ達を守れ」
「言われなくてもそのつもりだよ」
遥斗の返事を聞き、満足げに笑うと、恭弥は休むことなく、足早に元来た道を戻っていった。
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。
この小説の作者は基本的にやりたい事をやってみたい性格であるため、今回は出来たら次の日には投稿というアホみたいな事をしています。
その為、書きだめは無く、次話のアイデアも殆ど無いという実質ノープラン状態。結果、不定期更新となります。
こんな馬鹿な作者ですが、読者の皆様方には暖かい目で見守っていただけると幸いです。
先日、コロナにかかってぶっ倒れていた鉄火市です。
投稿した次の日にかかるというね。てっきり徹夜のせいでしんどかったのかと思っていたんですが、どうやらコロナの前触れだったっぽいです。
そんな訳で3週間もかかってしまった訳ですが、実は未だに完全快復しておらず、治ったと思っていたら、咳が止まらないわ、体力が回復しないわでしんどい日が続いています。
とりあえず今日投稿しましたが、お待たせしてしまったうえに短くなってしまった理由はそれが原因です。
本当にお待たせしてすみませんでした。




