表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/86

第3話:盗賊団だろうがなんだろうがかかってこいや!!(2)

 前回のあらすじ。

 めっちゃ気持ち悪い盗賊を恭弥がボコった。


 一日中、熱い鉄を打ち、それでもあの日見た刀を超える武器は出来ず、試行錯誤の連続。

 これ以上できないと、そう諦めた日は数え切れず、それでもまた、諦めきれずに鉄を打つ。

 気付けば八十年、男は長い年月をこの小さな村で鍛冶の仕事に人生を費やしていた。

 もう体は満足に動かない。

 前までは簡単に振れていた剣も、今は重すぎて持ち上げることすら困難だ。

 もう潮時かと、店を閉めようかと考えていたそんなある日、いきなりノックもせず、扉が開かれた。

 そこに立っていたのは白い手拭いを頭に巻いた黒髪の見知らぬ青年。


「あんたがガンツか? ちょっとクソババアぶっ倒すのに武器造りたいんだけど、ここの工房使わせてくんない?」


 その男はあまりにも唐突で自分勝手なクソガキだった。


 ◆ ◆ ◆


 盗賊団ティアフランマの一人、クウィズは思った。

 こんなはずじゃなかった、と。

 ただ宴会用に飯や酒、女を調達するだけの楽な仕事のはずだった。

 気がつけば周りに立っている仲間はおらず、全員が地面でおねんね。

 目の前には鬼と見間違えん程の形相をした男が一人。

 逃げようとした仲間は、その圧倒的なスピードで先回りされ、完遂すること無く倒れた。

 戦いを挑んだ仲間も、その圧倒的な強さに手も足も出ず倒れ、人質を取ろうと子どもに手を伸ばそうとした仲間もいたが、どこからともなく飛来した銀色の杭が手の甲に突き刺さり、最後には他の連中同様倒れてしまった。


「お……俺達は盗賊団ティアフランマだぞ! こんなことしていいと――」

「知るか三下、黙って死ね」


 最後に立っていたクウィズの顔面に拳が迫る。

 抵抗も、避けることも、全てを許さない不可避の拳。

 こんなこと、するんじゃなかった。

 そんな後悔を胸に、クウィズの意識は闇へと誘われた。


「……これで全員か?」


 海原恭弥(かいばら きょうや)は倒れて山になった盗賊達を見てから、退屈そうに欠伸をしていた雷堂修(らいどう しゅう)にきいた。


「そうなんじゃない? 少なくともここにいた奴らはこいつで最後だけど」


 そう言いながら、修は自分よりも体格のいい男をひょいっと投げ、その山の一番上に乗せた。


「遥斗、爺さん達の様子は?」

「今治してもらってる。どう、ソフィアさん?」

「大丈夫とは言えない状況ですね。このおじいさんを含め、怪我人があまりにも多すぎます。そもそも(わたくし)は本職ではないので、この人数を一気に治すことはできません。先に私が倒れる方が早いでしょうね」


 リーシェとその祖父に回復の魔法をかけ続けながら、ソフィアは恭弥と遥斗に向かって声だけで答えた。彼女の額には汗が浮かんでおり、時間的な余裕がないことはありありと伝わってくる。

 そんなソフィアの姿を見て、遥斗は近くの村人に声をかけた。


「リョウさんとシュナさんはどこにいるんです? あの二人がいればここにいる村人達を助けることが出来ると思うんですが」

「それがわからんのじゃ。わしも避難誘導をしてくれとった村長を見たには見たんじゃが、どうやら二人ともここにはおらんようで、もしかするとどこか別の場所で……」


 続きの言葉を村人は飲み込んだが、遥斗には伝わったようで、怒りを噛み締めたような表情を見せた。


「恭弥、多分こいつら隣町のギルドで指名手配されていた盗賊団『ティアフランマ』の連中だ。さっきの変態、手配書の一人だったからな」

「盗賊団か。他にもいんのか?」

「あぁ、確かめっちゃエロい服着たサティス・トゥデスっていう鞭を使う魔物使いの女性と無精髭のおっさんとこいつと同じく筋肉ムキムキの男臭いおっさんと惨殺魔っていう異名がついてた覆面だったかな」

「……ちなみに一応聞いておくが、男共の名前は?」

「僕が覚えてる訳ないじゃん」

「だよな。まぁ、特徴だけわかればいいだろ。てか、盗賊探すにしても相手に女がいるんじゃ遥斗を一人に出来ねぇな。ちょうど六人いるし、三組に分けるか」

(わたくし)はここに残らなければなりません。唯一治療を行える村長がこの場にいない以上、私がこの場を離れては死者を多数出すことになってしまいます」

「わかった。だったら護衛に太一をつけよう」

「本当は僕が残ってソフィアさんを護りたいと言いたいところだけど、太一は村中を歩いて探すには性格的に不向きだからね。僕もそれでいいと思う」

「よし、太一」

「なに〜?」


 恭弥が声をかけると呑気に座りながら寝ていた山川太一(やまかわ たいち)が首を傾げる。


「もしここに敵が来て村人に何かあったら、その時は今日の晩飯抜きだ」

「晩飯……抜き……」


 先程まで呑気に聞いていた太一の表情が、その言葉を聞いた瞬間、絶望を露わにしていた。まるでこの世の終わりだとも言いたげな太一に、恭弥は少し威圧的な声を向ける。


「いいな?」


 冗談ではないぞと言い含めているその問いかけに、太一は何度も首を縦に振り、了解の意を示した。

 恭弥はそんな太一を満足げに見やると、今度は修と政宗の方に顔を向けた。


「俺は遥斗と動く。修、政宗、お前達は俺と反対側を探せ」

「おっけ〜、だったら工房側もらえる? さっきの戦いで消費したぶん補充しときたいし」

「わかった。俺達は奥に向かう。ちょうど村長宅もそっちだしな。って村長で思い出した。おいそこの奴」

「あっはい、なんでしょう」


 ソフィアに腕を治療されデレデレしている十代ぐらいの少年は、恭弥に声をかけられ飛び上がった。


「変な音はしなかったか?」

「変な音ですか。どんな感じの音でしょう?」

「なんというか……甲高いって感じのやつだ」

「そんな音は聞いてませんね」

「そうか。ならいい」

「なにか気がかりでもあんの?」


 少し不安な様子を見せた恭弥に遥斗がつっこむ。

 そんな遥斗に恭弥は答えるかどうか迷いを見せた。


「鳴ってないならいいんだ。まだ無事だってことだからな」

「なんの話かはわかんないけど、まだ無事ってだけで、その人が安全って訳じゃないんじゃない?」

「そうだな。よし、お前ら行くぞ。ステラバルダーナの恩人達に手を出すということがどういうことなのか、馬鹿な盗賊共に教えてやろう」


 恭弥の言葉に否を返す者はなく、各々はそれぞれの役目を果たすべくその足を踏み出した。


 ◆ ◆ ◆


 ガンツの工房への道すがら、修は須賀政宗(すが まさむね)の表情が何故か明るくないことに気付いた。

 いつもであれば、盗賊のような輩に憤慨し、やる気に満ち溢れているというのに、その表情からは一抹の不安が感じ取れた。


「どした〜? なんか元気なくない?」

「いや、すまぬ、なんでもない」


 言葉とは裏腹な陰鬱な表情の政宗。そんな政宗の視線が一瞬刀に向いたのを修は見逃さなかった。


「隙あり!」


 修の手が政宗の刀に伸び、その刀身を露わにさせる。そして、誰が見てもわかるひびがそこにはあった。


「……あの焔龍って技を受けた時?」

「……うむ、幻霧双閃を放った時、嫌な音がしてな。おそらく度重なる負荷に耐えきれなかったのでござろう」

「なるほどね」


 いつもであれば刀に伸びた手を振り払える政宗が拒みもせずに抜かせた理由も同時にわかり、修は冷静な口調で刀を政宗に返した。


「おっさんも刀は専門外だったからこの前も最低限だって言ってたもんな~。それなのにあんなの受け続けたんじゃ流石に保たねぇか」

「刀が無くともあのような輩に遅れは取らぬが、刀を壊してしまった自分が不甲斐ないっ!」

「まぁそう自分を責めなさんなって。とはいえ、俺っちも刀はどがつく素人だし、おっさん以外にそれをどうにか出来る奴いないし、やっぱりおっさんに刀預けて治してもらっている間に盗賊殲滅でいいんじゃない?」

「すまぬ」

「いいっていいって、ほら、言ってたらもう……そこ……」


 修は目の前に広がっていた光景に絶句した。

 燃え盛る炎が、夜の静寂を破る。古びた木造の工房は、情熱的な赤と橙の舞に包まれ、もはやかつての姿を留めていない。火花が空へと舞い上がり、星々と競い合うかのように輝いている。壁は崩れ、屋根は崩落し、かつて工房だったその場所は、今や炎と煙に満ちた戦場と化していた。

 そんな光景に絶句していた修の耳に男達の下卑た笑い声が届く。


「おらおっさん、なに持ってんだよ。それを寄越せっつってんだろうがっ!」


 盗賊の男がドワーフの男性を蹴ると、周囲の男達が笑う。それはあまりにも不愉快な光景で、政宗は刀の柄に手をかけ、そこへ走ろうとした。

 だが、走る直前、刀の柄に別の手が置かれた。


「お前は下がってろ」


 かけられた言葉と修の目を見た政宗は、その口角を吊り上がらせ、道を譲った。

 そして、ゆっくりと修は歩き出す。

 修の歩に音は無い。

 修は何も喋らない。

 だが、その場にいた全員の視線が、いつの間にか釘付けになっていた。

 先程まで下卑た笑い声を発していたその口は何も発すことはなく、先程まで殴る蹴ると自由にしていた体は時が止まったかのように動かない。

 まるでライオンに気付いた鹿が逃げるタイミングを窺うかのように、男達は止まっていた。

 そして、ドスのきいた声が辺りに響く。


「てめぇら、誰の島に手ぇ出したかわかってんのか?」


 その圧倒的な強者を前にして、強がるという選択肢を取ろうとするが、口は荒い呼吸をするだけで喋ろうとしない。

 言葉を間違えたら殺されると、本能が警告していた。


「あっ……」


 声を発しようとした次の瞬間、男の口に釘が撃ち込まれ、男は激痛に悶え地面を転がり始めた。


「誰が口を開いていいっつった?」


 修の手には拳銃型の改造釘付けが握られており、今もその銃口は男達に向けられていた。


「そこは俺っちの工房だ。そこを壊したってことは当然、死ぬ覚悟はあるんだよな?」


 その言葉の節々から滲み出る強者としての覇気が、盗賊達から戦意という名の勇気を奪い去り、結果、盗賊達はなす術無く、雲丹に負けない程の釘を撃ち込まれ、その場を転がるのだった。


 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。

 この小説の作者は基本的にやりたい事をやってみたい性格であるため、今回は出来たら次の日には投稿というアホみたいな事をしています。

 その為、書きだめは無く、次話のアイデアも殆ど無いという実質ノープラン状態。結果、不定期更新となります。

 こんな馬鹿な作者ですが、読者の皆様方には暖かい目で見守っていただけると幸いです。


 最近体調を崩しまくりの鉄火市です。

 どうにか今週は投稿できそうで良かったです。

 修視点はこっからですから。こんな雑魚達で終わらせませんから!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 更新ありがとうございます! ガンツのおっさん、お前、死ぬんか(´;ω;`)ウッ… 死亡フラグっぽい冒頭・・・ 盗賊団ティ?クウ? あ、はい 恭弥たちステラバルダーナが逗留している所に襲撃…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ