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第5話:騎士団全員だろうがなんだろうがかかってこいや!!(4)

 前回のあらすじ。

 恭弥達による脱獄作戦が始まり、まずは一階で待ち構えていたサキュラ配下の騎士達と対峙する。

 サキュラの作戦で遥斗が四面楚歌になるものの、なんとか一階を突破。

 そして、二階にはフィル一人だけが待ち構えており、フィルは政宗に対し、決闘を挑むのだった。 


 甲冑騎士団第二部隊、通称第一特殊部隊の隊長を務めるフィル・マーフィンは地方で名を轟かすマーフィン伯爵家の次男である。

 幼き頃から御伽噺に出てくるような騎士に憧れ、剣を握ることになるが、そこで驚くべき才能を発揮することとなった。

 独特な足捌きで相手を翻弄し、十歳の頃には大人相手にも勝利を積み重ねていき、遂には神童とまで称されていた。

 だが、フィルはその称賛に溺れなかった。

 女性を魅了する顔立ちでありながらも、剣を振り続ける。

 騎士になり、休みをもらっても剣を振り続ける。

 地位を得、酒の席に誘われても剣を振った。

 そんな彼のことをつまらないと思う人間もいるが、フィルは一切気にしなかった。

 それほど彼は剣を愛し、自分の剣術(生き様)に誇りを抱いていた。

 いずれは国王に認められ、騎士団長になるのだと、そう思っていた。

 あの男が現れるまでは……。


 ◆ ◆ ◆


特殊能力(スキル)、『霊装』」


 戦いが始まると同時に、フィルは呟くように告げる。

 その途端、うっすらと靄のようなものが軽装備のフィルを包みこみ始めた。

 目の前で起きた現象を見た須賀政宗(すが まさむね)の目が、大きく見開かれる。


「面妖な……」


 呟き、政宗は普通の居合いの構えを取った。

 未だに棒立ちで勝とうとする意思をまったく見せないフィルに苛ついたからではない。

 早期決着をつけた方が良いと政宗自身の直感が囁いたからだ。

 一撃必殺の奥の手である七天抜刀流の構えは少なからず溜めという工程を必要としており、この場において正しい選択肢ではなかった。

 一瞬で距離を詰め、渾身の居合いを放つ。

 万が一にも殺さないように、当てる寸前で峰の部分に変えた。

 だが、それは杞憂に終わった。

 まるで陽炎でも斬るかのような手応え。

 妙な手応えに驚いていると、先程までフィルだったものは斬ると同時に靄となって消えていく。


「恭弥殿と同じ速さ……否、これは速さというよりも……」

「幻術ってやつですよ」


 陽炎の奥から現れたフィルの打突が政宗の左肩を深々と抉った。

 僅かな動揺の隙をつかれ、もろに受けてしまった政宗は大きく後方に跳んでフィルとの距離を取った。

 痛みの感じる左肩を触れると、不思議と血は流れておらず、それどころか服には破れた跡すら確認出来なかった。


「……刃が付いておらぬのか?」

「ええ、これは訓練用のレイピアで先が丸く殺傷性をかなり抑えたものです。私達の目的はあくまで貴方達を捕まえることですからね」


 にこにことしなやかなレイピアを振り回すフィルを見て、政宗は出しっぱなしとなっていた刀を腰の鞘に収めた。

 武器を収めた政宗を見て勝負を捨てたのかと思ったフィルだったが、すぐに自分の中の勘違いを訂正した。


「参る」


 短い言葉の直後、フィルにはまるで政宗が消えたような錯覚を覚えた。

 直後、フィルの首が胴と離れる光景がその場にいた全員の視界に映った。

 だが、政宗だけがその違和感を察知した。


「くっ……またでござるか!」


 悔しそうな表情を見せる政宗。そんな政宗の胴をフィルの強烈な蹴りが襲い、政宗の身体は廊下の壁に激突した。


「驚きました。今の蹴りを剣で防ぎましたか。あの状況で反応するとは、流石は勇者の一人として選ばれた方ですね。生半可な攻撃では倒せなさそうです」


 政宗は驚いたと言いながらも冷静な表情を一切崩さないフィルを視界に捉えたまま、すくりと立ち上がった。

 刀で咄嗟に防いだとはいえ、威力までは殺しきれなかった為、背中に微かな痛みは感じたが、動くのに不自由が起きる程ではなかった。

 改めて刀を鞘に収めて構えを取った政宗。

 だが、今度は靄がかった軽装備のフィルを前に、動きだそうとはしなかった。


「やはり、あの時とは少し構えが違いますね。一瞬しか見えませんでしたので気の所為かとも思いましたが、威力も異なりますし、どうやら気の所為じゃないようですね。何か使えない理由があるのでしょうか? それとも使わずとも勝てるという傲りでしょうか?」


 フィルの言葉に政宗は何も答えない。

 しかし、その姿を見て、フィルが気を悪くした様子は見せない。


「まぁ、どちらにせよ、全力は出せる時に出すことをお勧めします。後悔しないように、ね!」


 フィルが動きだすと同時に政宗は構えを変えた。

 それは極端に持ち手を下に向ける異様な構えだったが、政宗の表情を見れば、それが意図的なのは明らかだった。


「七天抜刀流、雷天(らいてん)の型、神速迅雷(しんそくじんらい)


 それはまるで雷が天を貫くが如き速さでフィルの身体を真っ二つにぶった切った。

 躊躇うことなき全力の一撃。

 その一撃を放って尚、政宗の表情には苦々しいものがあった。


「神速迅雷でも捉えられぬか……面妖な術でござるな……」


 残像が消えると同時に現れたフィルの姿を見て、政宗は呟く。

 だが、フィルには攻撃しようという意思すら感じられず、ただただ感嘆しているようだった。


「……なるほど……これが貴方の技ですか! あの時とは少し異なるようですが、あれに勝るとも劣らない素晴らしい一撃! もし特殊能力(スキル)を使っていなかったらと思うと、ゾッとしますね!」

「……すきる?」


 政宗が聞き覚えの無いものでも聞いたかのような反応を見せたせいか、フィルの表情が途端に曇った。


「……もしかしてですが、貴方達は特殊能力(スキル)について説明を受けていないのですか?」


 それは目の前にいる政宗に対してだけではなく、少し離れた場所で決闘を見ていた恭弥達にも向けられたようで、フィルは横目で恭弥達の方を見ていた。


特殊能力(スキル)と言ったか? フェンネルの移動するあれは個有能力(ユニークスキル)とか言ってたよな? あれとは違うのか?」

「そこからですか。相変わらずあの団長は適当なんですから……」


 フィルは深々と溜め息を吐き、レイピアを下げた。


「決闘の最中にするものではないと思いますが、貴方達は我々の身勝手で異なる世界から呼んだ身。説明しないは不義理というものですね。いいでしょう。決闘は一時中断です」


 政宗はフィルの言葉に異論を唱えず、構えを解いた。

 それを見たフィルはレイピアを腰の鞘に収め、恭弥達に向かって説明を始めた。


「団長が持つ個有能力(ユニークスキル)は、元来持っている者が少なく、人によって能力が異なります。似たような能力はありますが、同じ能力はありません。そして、特殊能力(スキル)は修練を積んだり、巻物を使ったりすることで誰もが獲得出来る能力という訳です」

「へ〜、なるほどな。さっきから政宗の攻撃がやけに当たらないのもその特殊能力(スキル)ってやつが原因なんだな」

「ええ、その通りです。特殊能力(スキル)『霊装』、自身の周囲に魔力で作られた靄を発生させ、一時的に距離を誤認させる特殊能力(スキル)です。さて、説明は以上です。そろそろ再開といきましょうか」


 フィルが再びレイピアを構えると、フィルの装備に再び靄がかかっていき、フィルの『霊装』が発動したのだと、政宗は理解した。

 能力の説明をしてきた意図までは理解出来なかったが、それがわかったところで相手の強さが変わる訳では無い。

 政宗は冷静な眼差しでフィルの全体を視界に捉える。

 七天抜刀流の『神速迅雷』は目で捉えることすら出来ない神速の抜刀で敵を斬る技。

 元来、避けられることなどありえず、現に避けられた試しなど無い。ただ一度を除いては。


(あの時と違い、神速迅雷を避けられた訳ではござらぬが、神速迅雷では対処できぬ相手でござるか……ならば、あの技を使わねばならぬでござるな)


 フィルは途端に政宗の雰囲気が変わったことを察し、レイピアを握る手に力が入る。

 先程の一撃はフィルの想像を絶していた。

 余裕を見せてはいたが、『霊装』を使っておきながら追撃が出来なくなってしまったことは紛れも無い事実であり、それは自分が臆したことの証明に他ならない。

 本来であれば『霊装』で相手の目を幻影に釘付けにし、死角を突くスタイルがフィルの真骨頂であり、彼が『蒼い死神』と口承される要因となっていた。

 しかし、政宗にはその隙がなかった。

 フィルを見ていながらも、全体を視界に捉える政宗を相手に抜け出すことすら出来ず、『霊装』の効果が切れる前に一撃を繰り出さざるを得なかった。


(不思議です。攻撃を繰り出し、状況だけを見るなら圧倒しているのはこちらだというのに、いつものように勝ちへの道筋が一切見えない。……これが勇者として召喚された者の実力ですか……)


 フィルと政宗の間に静寂が広がる。

 互いに次の一撃が最後になるのだと本能で察していた。

 最初に動いたのは政宗だった。

 

「七天抜刀流……」


 持ち手を下げ、足を横に広げる異様な構え。

 剣を抜くことすら困難であろうその構えを前に、フィルは身構えた。


「晴天の型、晴円烈火(せいえんれっか)


 絶対に目を離すまいと、絶対に見切ってみせると意気込み、フィルは瞬きをすることすらせず、政宗の方を見た。

 フィルと政宗の距離は二メートル前後、気を抜けば斬られる距離。

 だからこそ、その光景は異様だった。

 政宗が、まるでターンでもするかのように回り、フィルに背中を向けた。

 その最中、フィルは政宗が剣を抜いたようには見えなかった。

 現に、政宗は剣を腰の鞘に収めたままだ。

 先程と違い、明らかに隙だらけの背中を見せる政宗に、フィルは声をかけようとして、ようやく異変に気付いた。


(腹の辺りが妙に熱いな……)


 フィルが腹の辺りを触ると、どろっとした液状のものが手にぬめりついてきた。

 そして、フィルはなにかの液体がついた手を確認するべく視線をそちらへと向けた。

 それはフィルの腹から出た血だった。

 そして、腹には横一文字に斬られた赤い線が出来ていた。


「まさか……今の一瞬で斬られたので……す……か」


 どさりとフィルは床に倒れた。

 そのフィルを見下ろす影が一つ。


「加減が出来ぬ技を放ったこと、誠にすまなかった。手当ての者をすぐに呼んでくるゆえ、これにてごめん」


 それだけ言うと、その背中は遠ざかっていった。

 その背中を追う影がいくつか見えたところで、フィルの意識は闇の中へと誘われるのだった。


 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。

 この小説の作者は基本的にやりたい事をやってみたい性格であるため、今回は出来たら次の日には投稿というアホみたいな事をしています。

 その為、書きだめは無く、次話のアイデアも殆ど無いという実質ノープラン状態。結果、不定期更新となります。

 こんな馬鹿な作者ですが、読者の皆様方には暖かい目で見守っていただけると幸いです。

 もし続きが気になるって方がいれば、応援メッセージに「続きまだですか?」とでも送ってください。 


・朝の仕事って大変なんですね。朝早く起きたり、弁当作ったり、個人的にはもうしたくないな〜ってなりましたね。

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