表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/86

第5話:騎士団全員だろうがなんだろうがかかってこいや!!(2)

 前回のあらすじ。

 処刑日前日、何故かフューイが牢屋に入れられましたとさ。


 突如としてこの牢屋に入れられた来訪者(フューイ)に、海原恭弥(かいばら きょうや)の目は大きく見開かれた。

 カルファ村で宿屋を経営している母親を手伝っているだけで、咎められることなどなに一つやっていなさそうなイメージだっただけに、その来訪が本当に意外だったのだろう。

 後ろ手を縛られている為、受け身も取れずに転びそうになったフューイを須賀政宗(すが まさむね)がすぐさま受けとめた。


「ちょっと待て!!」


 立ち去ろうとしていた騎士が恭弥の怒声と強く蹴られて響いた鉄格子の音で振り返る。

 そんな騎士の目に映ったのは、魔法で最硬にまで高められた鉄格子の大きく歪んだ姿だった。


「フェンネルを呼べ」


 怒りがひしひしと伝わってくる威圧的な低い声。

 青ざめた騎士は、震える口を必至に動かす。


「だ……団長は、い……忙しいんだ! お前ら如きに構ってる暇は――」


 騎士が言い終える前に二本目の鉄格子が恭弥の蹴りによってひん曲がり、男の情けない声が辺りに響いた。


「いいから呼べ」

「待ってください! 俺はわざと捕まったんです!」


 騎士の方を強く睨みつけ、有無を言わせぬ迫力の恭弥を止めたのは、他ならぬフューイだった。

 恭弥の目がフューイの方へ向けられると、怯えきっていた騎士は一目散に立ち去ってしまった。

 だが、恭弥はそんなことなどどうでもいいかのように、フューイに続きを促した。


「どういうことだ?」

「俺はフェンネルさんの協力者なんです」

「フューイ君が協力者? それはいったいどういう冗談なのかな?」


 伊佐敷遥斗(いさしき はると)の眉がピクリと動き、隠しきれない怒りがこもった声で、遥斗はその質問をした。

 脱獄の幇助は日本でも立派な犯罪であり、それが異世界だからといって無罪という訳にはいかないだろう。

 無関係な一般人を巻き込むならまだしも、異世界に来てなにかと世話になったフューイに犯罪の片棒を担がせるのは、遥斗でも苛立ちを覚えるものだった。


「冗談でもなんでもありません。確かに提案はされましたが、俺は俺の意志で貴方達を助けたいと思ったんです。だから――」

「俺っち達に恩義を感じてやったとかなら寒いからやめてくんないかな?」


 フューイの言葉を遮ったのは、先程まで山川太一(やまかわ たいち)とステーキの件で喧嘩していた雷堂修(らいどう しゅう)だった。

 彼はいつの間にか横になった太一の大きな腹の上に座っており、フューイの方を鋭い眼差しを向けていた。

 

「俺っち達のせいで大好きなお兄ちゃんが犯罪者になったらさ、ロイド君とノエルちゃんに顔向けできないじゃん。だからおとなしく帰んなよ」


 修の言葉が余程刺さったのか、フューイは今にも泣きそうな表情になって押し黙ってしまった。しかし、そんな


「……いや、ここはフューイの手を借りよう」

「恭弥君!?」

「修の言いたいことはわかる。俺だって本当は嫌なんだよ。だが、ここで無意味な言い争いをして、それでなにか解決すんのか?」

「いやっ、そうだけどさ!」

「遥斗、もしフューイやフェンネルの助けを得ずに脱出するとして成功する可能性は?」

「……百パー無理かな。牢屋を抜けれたとしても僕らを止める相手方の戦力がわからないからね。あの魔人のように攻撃をそのまま返すなんてされたりしたら、今の僕らじゃ太刀打ち出来ないだろうね。もし、万が一にもここから出られたとしても、冒険者カードに書かれた名前や顔写真が出回ってお尋ね者になるのは間違い無し。自由な暮らしなんて夢のまた夢だね。……でも、あの男が持つ転移する能力さえあれば話は変わってくるかな」

「だったら簡単な話だ。俺がフューイを脅して利用した悪者になればいいだろ」

「…………恭弥君は後悔しないのかよ?」

「……元はと言えば俺が誰よりも強くて、誰にも負けなければ済んだ話だったんだ。後悔? してない訳ねぇだろうが!! だが、俺はこんなところで死ぬ訳にはいかねぇ! 俺はまだ、この手でぶっ倒したい奴が二人もいるんだからな!! ……それに、フェンネルの野郎が好きでフューイを巻き込むとは思えねぇ。やり方は気に入らねぇが負けた俺達にそれを咎める資格はねぇ」

「そうだね。ここでフューイ君を巻き込んじゃったのは参謀の僕が誰もが納得するような案を出せなかったからだ。シャルフィーラさんにこれ以上迷惑かけられないし、僕はそれでいい。マサムネとタイチは?」

「拙者も異論はござらぬ」

「僕ちんも別になんでもいいよ〜」


 遥斗に続き、政宗と太一が肯定の言葉を返す。しかし、修だけは未だに葛藤しているのか後ろ髪をかいていた。


「あ~っもう! 俺っちもそれでいいよ!! それで! 俺っち達はどうやって外に出るのさ!」


 怒りを抑えきれていない修の声にびくつきつつも、フューイは慌ててズボンのポケットから二つの鍵を取り出した。


「これがタイチさんの鎖の鍵と牢屋の鍵です。これで牢屋からは出れるはずです」


 フューイから渡された鍵を遥斗はまじまじと見始めた。

 それは日本でもよく見られる差し込みタイプの十センチ程の鉄製の鍵だった。


「牢屋に入れられるなら普通は身体検査されるはずじゃないの? もしかして協力者だからされなかったとか?」

「いえ、他の騎士達は脱獄計画のことを知らないそうです。これは身体検査が終わった後に魔法かなんかで入れられたみたいです」

「ふ~ん……でもこの鍵は使えないな~」


 そんなことを言いながら鍵を何故かポケットに突っ込んだ遥斗を見て、フューイは素っ頓狂な声をあげた。


「だってさ、ご丁寧に鍵を開けて出たらそれこそフューイ君が疑われちゃうだろ?」

「そ……そうですけど、それじゃあどうやってこっから出るんですか!!」

「落ち着きなって。僕らは別にこの牢屋から出ること自体はどうとも思ってないんだよ。そもそも鎖なんかでタイチが縛られる訳ないんだよ。なっ、タイチ?」

「ん~なに〜?」


 まるで話をまったく聞いていなかったような呑気な反応の太一に、遥斗は簡潔にこう告げた。


「こっから出るぞ。それ壊せ」

「は~い」


 呑気な返事から一転、太一が腕を開こうと力を入れた。

 当然、鎖はそれを阻むが、それは一時的な効果しかなく、すぐに砕け散った鎖が辺りへと舞った。

 その光景を唖然とした表情で見るフューイ。

 直後、後方で金属がへし折れる音が聞こえ、後ろを振り返ると、そこには鉄格子を何本も蹴りぬく恭弥と修の姿があった。


「なんだフューイ? そんな信じられないものでも見たかのような顔して、なにかあったのか?」

「あはは、太一君が拘束用の鎖ぶっ壊してびっくりしたんじゃない?」

「あ~、それか。確かに初めてだと驚くかもな。あっちだとしょっちゅう捕まってはお腹が減ると自分で拘束具ぶっ壊してたから慣れてたが、初めて見る奴からしたら充分やばいのか」


 笑い合う恭弥と修を見て、貴方達にもですよ、という言葉を飲み込むフューイは、代わりに別の質問をすることにした。


「あの〜。聞いてた話だと拘束具に苦戦してるっていう話じゃ……」

「えっ、盗聴機や監視カメラがあるかもしれないのに牢屋の中で本当のこと言う訳ないじゃん。あの騎士団長がなにかを仕掛けてるのはまるわかりだったからね。油断を誘う為のブラフだよ。ブ・ラ・フ♪」

「えぇ……」


 遥斗が笑い返すと、フューイは困惑したような声を漏らす。

 すると、そんなフューイの横でずっと正座のまま動かなかった政宗がゆっくりと立ち上がった。


「太一殿、そこにある鉄格子を半分にしてもらえるだろうか?」

「いいよ〜」


 いつも通りの呑気な返事をすると、太一はのしのしと歩きだし、鉄格子の一本を掴み容易く引っこ抜いた。

 それだけでもフューイにとっては驚きだったが、太一は直後、その鉄格子をポッキーでも折るかのように真っ二つにし、その内の一本を政宗に投げ渡した。


「ふむ、少し長い気もするが、手刀で戦うより幾分ましでござろうな」


 斬れ味の悪そうな鉄格子を少し不満気な様子で見る政宗。

 そして、突然政宗は腰を落とし、鉄格子で居合いの構えを取った。


「恭弥殿、修殿、少し下がってくれぬか?」


 政宗の並々ならぬ気迫になにかを察したのか、恭弥と修は二人して無言で前を譲った。

 一閃。

 政宗が抜刀し、横に薙ぐと同時に無事だった全ての鉄格子が甲高い音を鳴らして石造りの壁へと激突した。

 その光景を前にして、フューイはもはや言葉すら発せなくなるが、当の本人は不満気な表情だった。


「斬ることすら出来ぬか……急拵えである以上、こればかりは文句を言っても仕方ないでござッッ!!?」

「このバカムネ!! 鉄格子をぶっ飛ばしてどうすんだよ!」


 怒る遥斗の強烈な平手打ちが政宗の頭を襲う。


「この牢屋には物を出し入れすると反応するセンサーがあるんだから恭弥達みたいに折って破壊しろって床に日本語でわざわざ書いといただろうが!」


 そう言った遥斗の指の先にはシミとなった日本語の指示が丁寧に書かれていた。


「そういえばそうでござったな。これは申し訳ござらぬ」


 自分の失態に気付いた政宗が遥斗に謝った直後だった。


『緊急事態発生。緊急事態発生。地下一階の牢屋が破壊され、国家転覆の容疑者五名が逃亡。至急、現場付近の騎士達は拘束へと向かってください』


 機械音じみた女性の声で、その警報は警報音と共に何度も流され、すぐに武装した騎士が集まるのは容易に想像出来た。


「まったく、うちのバカ侍は加減ってものを知らねぇのか」

「いいじゃんいいじゃん、どうせすぐに出るつもりだったんだし、別に問題なくね? ねっ恭弥君」

「そうだな。むしろ鉄格子を壊す手間が省けたんだから許してやれ、遥斗」

「キョウヤがそれで良いって言うなら別にいいけどさ……」

「それでフューイ、俺達はどこに向かえばいいんだ? フェンネルに聞いてんだろ? 外に向かえばいいのか?」


 恭弥からの質問にフューイは我に返り、真剣な眼差しで答えた。


「いえ、目的地は三階にある団長室です。フェンネルさんからのミッションはこうです。道中を阻む騎士達を倒し、俺の元まで辿りつけ。もし駄目なら俺の見込み違いだったということで、おとなしく絞首台にのぼってくれ……だそうです」

「へぇ〜」


 一言一句(たが)わず伝えろと言われて伝えたフューイだったが、恭弥と修の雰囲気が変わったのを見て、やめとけばよかったと強く後悔した。


「流石にそれは俺っち達を舐め過ぎじゃない?」

「ふっ、そうだな。それじゃあいっちょ脱獄計画実行といくとするか!! わかってるなてめぇら、目指すは三階フェンネルの部屋! 道中の連中は死なねぇ程度にぶっ飛ばせ!! 『ステラバルダーナ』の底意地の悪さ、舐めてるバカに痛い目見せてやれ!!! 行くぞ!!」

「よっしゃ~! 久々の血祭りだ〜!」

「おいシュウ、本当にわかっているんだよな? 騎士は殺さないんだぞ? せめて半殺しでとどめておいてくれよ?」

「ねぇねぇ政宗君、今日の晩ご飯ってなにかな?」

「……太一殿、先程昼食を食べたばかりではござらぬか」


 恭弥の発破に四人それぞれが四者四様の返事を返し、先に出ていった恭弥の後に続いて牢屋の外へと出ていってしまった。

 そんな五人の背中を見ながら、俺が来た意味って何だったんだろう、と密かに心の中で思うフューイだった。


 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。

 この小説の作者は基本的にやりたい事をやってみたい性格であるため、今回は出来たら次の日には投稿というアホみたいな事をしています。

 その為、書きだめは無く、次話のアイデアも殆ど無いという実質ノープラン状態。結果、不定期更新となります。

 こんな馬鹿な作者ですが、読者の皆様方には暖かい目で見守っていただけると幸いです。

 感想、高評価を心よりお待ちしております。


・最後の訂正に時間がかかっちゃいました(笑)

 鍵で出るより牢屋壊して脱獄の方がなんか彼らっぽくない?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ