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第3話:魔人だろうがなんだろうがかかってこいや!!(5)

 前回のあらすじ。

 政宗と修、そして太一が助太刀に来るも、魔人オニキスの力は圧倒的だった。

 そこで恭弥は魔人オニキスとのタイマンに持ち込んだ。

 自分の一撃を跳ね返され、ボロボロになっていく恭弥。しかし、最後の最後に何故か魔人オニキスの防御壁は発動せず、恭弥の一撃が魔人オニキスに届いた。

 いざ反撃というところで、恭弥の意識は闇の中に誘われるのであった。


 自身の反射能力に絶対の自信を持っていたのか、魔人オニキスは暫しの間、放心状態で突っ立っていた。

 どんなに威力の高い攻撃も、完全死角からの不意討ちも、これまで完璧に防いできた絶対的な防御壁。

 その防御壁が、勇者とはいえまだ召喚されたばかりでなんの力も持たない人間によって突破された。

 それが魔人オニキスにとってどれほどショックなことであったか、その目を見れば明らかだった。


「そんな馬鹿な……たかが人間如きにっ……」


 悔しそうに声を漏らす魔人オニキスの目が、騎士団長の手によって支えられた青年へと向けられる。

 まともに立つことすら出来ておらず、今にも倒れてしまいそうなその状態を見て、魔人オニキスは納得したような表情を見せた。


「なるほど。気を失っていたのですか、それで……」


 魔人オニキスの表情に余裕が戻っていき、口角が釣り上がっていく。


「やはり人間は脆い。多少強かろうと所詮は井の中の蛙、上級魔人の私に人間が挑むなんて無謀にも程があります。一発入れられてもその様じゃ、実に無意味な時間でしたね」

「黙れ!!!」


 くつくつと笑いをこらえるように告げる魔人オニキスに、フェンネル・ヴァーリィの怒声が飛んだ。

 先程までとは比べ物にならない威圧感に、魔人オニキスの眉がピクリと動く。


「俺だって単語だけなら多少は魔人の言葉はわかる。お前がキョウヤをバカにしたこともはっきりわかったぞ!!!」

「だったらなんだと言うのです?」


 それはフェンネルも使っているノースランドの大地で一般的に使われている北大陸共用語であった。


「ようやく届いた一撃ですら私にダメージはありません。時間と労力の無駄。おとなしく引き下がっていれば多少の怪我だけで済んでいたものを無駄に何度も何度も攻撃してくるからそうなるのです。私に貴方達を殺すつもりが無いというのを知った時点でおとなしくしていれば良かったというのに。お陰で集合時間も過ぎるし、何も良いことはありませんでした。これを無駄と言わずになんと言うのですか?」

「……そうだな。キョウヤは確かにお前を倒せなかった。最初の方で辞めてればこんな大怪我はせずに済んだかもしれん。だが、キョウヤの行動を無駄だと断言するのは看過できん。キョウヤが全力で作ってくれた時間……無駄かどうかはこれを受けてから決めるがいい!!! アウェイク!! 鎧武装(がいむそう)!!!」


 フェンネルは腰に刺していた聖剣を引き抜き、地面に刺し、高らかに宣言した。

 すると、フェンネルの身体から赤い魔力が迸り、彼の身体を包み込んでいく。

 それは鮮やかに光り輝き、近くにいた須賀政宗(すが まさむね)も思わずその光から目を庇うように腕を出した。

 そして、ようやく光が収まった時、そこには紅色の甲冑騎士の姿があった。


「そこの青年、君もキョウヤの仲間で間違いないか?」


 その質問に、政宗は警戒をあらわにしつつもしっかりと首肯(うなず)いた。

 すると、紅色の甲冑騎士が一瞬にしてその場から消え、気付いた時にはすぐ目の前に立っていた。


「キョウヤを頼む」


 驚く政宗に、フェンネルは肩で支えた海原恭弥(かいばら きょうや)を託し、改めて魔人オニキスの方へと視線を向けた。

 魔人オニキスは攻撃する意志が無いのか、直立不動のまま動く様子を見せない。


「貴殿は拙者達の味方と考えて良いのだな?」


 恭弥を肩で支えた政宗に尋ねられ、フェンネルは政宗に向かって首肯いた。


「うちの部下にサキュラという若い娘がいる。あいつなら全快とはいかずともある程度は回復させることが出来る。もう一人の方も見せてやるといい」

「感謝する」


 頭を深々と下げ、政宗は恭弥を連れてサキュラの元へと向かっていく。その後ろ姿を見送ると、フェンネルは地面に刺していた聖剣を個有能力(ユニークスキル)で手元に引き寄せた。


 恭弥の作りだした時間が無ければ、転移の能力も鎧武装も魔力不足で使えなかった。

 魔人がこんなにも早く海を渡ってくると予測出来なかったとはいえ、失態は失態。


「帰ったら酒の一杯でも奢らせてくれよ、キョウヤ」


 穏やかな表情でその言葉を告げると、フェンネルは力強く地面を蹴った。

 芝生の大地が一瞬で蹴り砕かれ、フェンネルの姿は一瞬にして魔人オニキスの前に現れ、まるで恭弥が殴っていた姿勢を模倣するかのような動きで魔人オニキスを力一杯殴った。

 だが、魔人オニキスの防御壁にスピードは無意味だ。

 フェンネルのパンチは、発生した風圧のみで周囲の木々を根ごと吹き飛ばす一撃だった。

 その威力の一撃を貰えば上級魔人の自分でもただではすまなかっただろうと魔人オニキスの額から冷や汗が流れる。

 だが、そんなことは考えるだけ無意味だと、魔人オニキスの表情に余裕が戻る。


 この一撃も自分には届かない。

 この男は自分の能力の発生条件を完全に理解していないのだと、今の攻撃が鮮明に教えてくれた。

 だから、先程と同じように反射効果が発生する。


(見てくれが変わったところで(わたくし)の能力を突破することはできませんよ)


 これ程の威力を貰えば、この男も尋常では無いダメージを受けるだろうと、魔人オニキスはそう思っていた。いや、それが当然であり必然だった。

 だが、フェンネルはまるでダメージなど受けていないかのように、顔色一つ変えずに次の一撃を躊躇なく打ち込んできた。

 それは一回だけではなく、何度も何度も殴り続ける怒涛の連撃。

 止まることなくフェンネルは殴って殴って殴り続けた。

 魔人オニキスの能力は防御壁のように見えるが、実体では無い。殴ったところで感触すら掴めずに、すぐに吹っ飛んでいく為、殴った当人には壁による反発だとしか思えない。

 言うなれば空気の壁。

 だから、力で割るのは不可能だと、その時まで思っていた。


(……どういうことです?)


 魔人オニキスの目が、徐々にフェンネルの拳が近くなっていくことに気付いた。


(……この手は使いたくは無かったんですがね)


 魔人オニキスは目の前で起きているその不可解な現象を目撃した瞬間、不味いと直感的に感じ、魔力で具現化したテーブルナイフを右手に握り、フェンネルに向かって投げた。

 魔力で造られたテーブルナイフはフェンネルの赤い甲冑をすり抜け、一瞬、フェンネルの動きを止めた。

 それを好機と見た魔人オニキスはその場からの離脱を試みようとした。

 だが、次の瞬間、どこからともなくモンキーレンチが飛来し、魔人オニキスの防御壁が強制発動した。

 魔人オニキスが飛来してきた方向を見れば、頭に巻いた白い手拭いが赤く染まっていっている雷堂修(らいどう しゅう)が辛そうでありながら、してやったりといった表情でこちらを見ていた。


「逃げんじゃねぇよ」


 魔人オニキスが苛立つように歯を軋らせる。

 直後、フェンネルの怒涛のラッシュが再開した。再び魔人オニキスはテーブルナイフを造ろうとするも、時既に遅く、フェンネルの拳が魔人オニキスの防御壁を突破し、そのすかしたイケメン執事の顔を捉えた。


「うらぁあああああ!!」


 赤い篭手に包まれたフェンネルの右拳を防ぐことすら出来ず、魔人オニキスの身体は軽々と吹き飛び、巨大な湖の中央あたりに巨大な水柱を立てた。


 湖面が落ち着くのを見てると、赤い甲冑が解け、フェンネルはその場に膝をついた。

 苦しそうに血を吐き出し、荒い呼吸になっていく。


支援魔法(バフ)が無かったら……先に倒れてたのは俺の方だったか……」


 口元の血を腕で拭い、フェンネルはよろめきながらも立ち上がり、恭弥の容態を聞くべくサキュラ達のいる方へと向かおうと立ち上がった。

 次の瞬間、湖面に再び巨大な水柱が立った。

 フェンネルが驚いたようにそちらを見た。

 そこには全身をびしょびしょに濡らし、怒髪天を衝くという言葉が当てはまりそうなほど怒りをむき出しにした魔人オニキスが湖の上空に浮いていた。


「人間風情が……調子に乗るんじゃない!」


 魔人オニキスが右手を空に向かって挙げる。

 すると、フェンネルとの戦闘中に魔人オニキスが造っていたのと同様のテーブルナイフが、数を数えるのも億劫になりそうな量で出現し、その全ての切っ先がフェンネル達の方へと向けられた。

 それを見た瞬間、フェンネルは力一杯叫んだ。


「回避行動!!!」


 辺り一帯に響いたその声に反応し、政宗と修はそれぞれ武器を構えた。

 そして、それが終わると同時に魔人オニキスが手を下ろした。

 その合図を待っていたかのように、宙に浮いていたテーブルナイフ達は我先にとフェンネルや政宗達に向かって飛んでいった。


「ははっ、量えぐっ」


 そんなことを言いつつも顔に笑みを浮かべて改造釘打機を構えた修は飛来するテーブルナイフに向かって釘を発射した。

 修の放った釘は一寸の狂いもなく的確にテーブルナイフに向かっていく。しかし、修の放った釘達は不思議とテーブルナイフをすり抜け、そのままなんの仕事も出来ずに地面へと落ちていった。


「……うっそ〜ん」


 テーブルナイフに串刺しにされ、修は最後の気力を振り絞ってその言葉を残し、地面へと倒れ伏した。


「修殿!!」


 軽やかにテーブルナイフを避けていた政宗の目に修の倒れた姿が映り、政宗は歯を軋らせた。

 政宗に空中の敵と戦う手段は無い。

 遠くから一方的に攻撃されれば防戦一方になってしまう。

 それがいつも歯痒かった。

 政宗は避けるべく動かしていた足を止め、テーブルナイフをキャッチし、魔人オニキスに向かって投げ返そうとした。

 しかし、テーブルナイフをキャッチしようと掴んだ瞬間、政宗の握っていたテーブルナイフは消えてしまった。

 一瞬何が起こっているのか理解出来なかった政宗は、急激な虚脱感に襲われ、思わず膝をついてしまった。


「受けるのが間違いでござったか……」


 目の前に飛来してくる大量のテーブルナイフ。

 政宗は最後の気力を振り絞ってその全てを打ち落とすべく刀を振るった。

 だが、修の時同様、テーブルナイフ達は政宗の刀をすり抜け、そのまま政宗の胸に飛び込んでいった。


「無念……」


 芝生の張った地面に倒れ伏し、重くなっていく瞼に抗いながらも、政宗はその言葉を残すことしか出来なかった。


 フェンネルは周囲の状況を気配だけで察知していた。


(死んでは……いなさそうだな……)


 自身の部下であるフィルと、恭弥の仲間である修と政宗はテーブルナイフによって意識を失い昏倒。三人とも出血はなく命に別状はないようだが、起き上がる兆しは見られなかった。

 飛んでくるテーブルナイフのスピードは速いものの避けられないというほどでは無い。問題はこのテーブルナイフが物理的な防御を貫通する効果を持ち、受けた瞬間、急激な虚脱感を生じさせることだろう。

 魔人の魔力は人間の常識では計り知れないと言われている以上、未だに作り続けているナイフが尽きるのを待つのは得策では無かった。

 物理防御無効、受ければ意識を失い、数はほぼ無限状態。

 一見理不尽極まりない攻撃のようにも見えたが、フェンネルは違和感を感じていた。

 それは、恭弥、遥斗、サキュラの三人に攻撃が一発も当たっていないのだ。

 恭弥と遥斗に関しては、既に重体で追撃する必要が無いという理由でまだ納得出来るが、意識がしっかりとしているサキュラまでもが無事なのは違和感が残る。

 もちろんサキュラはかなり強固な防御壁(バリア)を展開している。それが全てのテーブルナイフを弾いたのかとも考えたが、とてもそのようには見えなかった。

 サキュラ達三人には何らかの意図で攻撃が向いていない。

 それがフェンネルの導き出した結論だった。


(そういえばキョウヤの最後の一撃もあいつは防ぎきれていなかった。あの表情はどう見ても予想外だった時の反応……)


 違和感が少しずつ解けていき、後少しで何かがわかるような感触。

 後少し、その可能性を導くに足る根拠がほしい。

 しかし、その根拠を探すにはこのいつまでも降り続く雨のようなテーブルナイフが鬱陶しくて仕方無かった。

 個有能力(ユニークスキル)で転移することも考えたが、転移したその先を読まれ即座にテーブルナイフが飛来してくれば、即ゲームオーバーの賭けでしか無い。


(こう視界が悪いと飛んできていない場所もよくわからん。だが、テーブルナイフの量もさっきから増え続けている以上、四の五の言っている場合じゃないか……)


 フェンネルは迫りくるテーブルナイフを避けながら、個有能力(ユニークスキル)である転移の力を発動させようとした。

 次の瞬間、フェンネルの指が止まった。


「……なるほど……避けられる……と思わされていた訳か……」


 フェンネルの背中に刺さった五本のテーブルナイフ、それがフェンネルの力を奪う。

 そして、それは決定的な隙を生んだ。

 今まで避けられていた全てのテーブルナイフが、まるで線を辿るようにフェンネルの元へと向かい、既に避ける気力の無いフェンネルの身体に突き刺さっていった。

 そして、全てのナイフが消えると、フェンネルは膝から崩れ落ち、地面に倒れ伏してしまった。


「団長!!!」


 唯一無事なサキュラが叫ぶ。

 しかし、返事は無い。

 すぐに駆け寄って回復の魔法をかけたかったが、立ち上がろうにも足が竦んで思い通りにはいってくれなかった。

 涙を流し、必死に動けと命令し、そこで初めて気付いた。

 自分の背後に強烈な殺気を出している存在に。

 恐る恐る振り向けば、そこには魔人オニキスが立っていた。


「意識があるのは貴方一人ですが、攻撃すらしてこないのですか?」


 煽られ、怒りが込みあがる。

 だが、それは相手にではなく、なにも出来ないでいる自分にだった。

 大切な仲間がやられ、その仇が目の前にいる。

 それなのに、身体が小刻みに震え、立ち上がる力さえ湧いてこない。

 魔法で攻撃しようにも、口が震えてうまく詠唱が出来ない。


「やはり所詮は人間ですか……」


 呆れたとでも言わんばかりにサキュラを見下した魔人オニキスはへたり込むサキュラの横を歩いて通りすぎ、無防備な背中を向けながらフェンネルの元へと向かっていった。


(わたくし)の能力を力だけで突破したからもう少しやれると思ったのですが、買い被りだったようですね」


 それだけ言い残すと、魔人オニキスは倒れるフェンネルに背中を向けて立ち去ろうとした。

 その時だった。


「敵意……なんだろ? その能力の発動条件……」


 後ろから聞こえてきた声で、魔人オニキスは立ち止まった。

 振り返れば、倒れ伏した状態でありながら意識のあったフェンネルが、ゆっくりとした口調で喋っていた。


「だから……キョウヤの攻撃は入ったんだな……ナイフのやつも……意識が無くなった連中や……怯えきったサキュラには向かわなかった……あれも敵意に反応して追尾する効果があるんだろ?」


 フェンネルの答えを聞いた瞬間、魔人オニキスは不敵に笑い、そしてフェンネルを称賛するかのような拍手を贈った。


「御名答。まさか初見でそこまで見破られるとは、流石は世界最強と名高い騎士団長ですね。……ただ、それがわかったところで何が出来る? 敵意を消す? 怯えながらも向かってくればそこには少なからず敵意が存在する。意識が無い人間を使って無理矢理殴っても、出来て一発。わかったところでどうしようも無いんですよ。私の能力はね。あ、そうそう、これを言っていませんでした。彼ら勇者達に伝言をお願いします。……これから貴方達は多くの冒険をし、多くの試練を受けることになるでしょう。しかし、それらを乗り越え、魔王城へと辿り着いた時、貴方達は最強のパートナーを横につけ、今とは比べ物にならない圧倒的な強さを持っていることだろう。その時を心より楽しみにしている。魔王クリスタ様からの伝言は以上です。それでは皆様、生きていたら、またお会いしましょう」


 魔人オニキスは最後に深々と丁寧にお辞儀すると、空中に浮かび上がり、そのまま魔大陸の方角へと飛んでいくのだった。


 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。

 この小説の作者は基本的にやりたい事をやってみたい性格であるため、今回は出来たら次の日には投稿というアホみたいな事をしています。

 その為、書きだめは無く、次話のアイデアも殆ど無いという実質ノープラン状態。結果、不定期更新となります。

 こんな馬鹿な作者ですが、読者の皆様方には暖かい目で見守っていただけると幸いです。

 もし続きが気になるって方がいれば、応援メッセージに「続きまだですか?」とでも送ってください。 


・引っ越し終わった~

 第二章はもうちょい続くぞい

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