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第2話:サイクロプスだろうがなんだろうがかかってこいや!!(3)


 前回のあらすじ。

 恭弥が討伐しにきた魔物は十階建てビルくらいの身長を持つ巨大な魔物、サイクロプスだった。

 A級の冒険者を蚊を潰すが如く意図も容易く屠ってみせた怪物を前にして、恭弥は怯むことなく一人で挑むこととなった。

 しかし、至近距離からの広範囲な蹴りを前に恭弥の小さな身体はあっけなく吹っ飛ぶ。

 フェンネルにもお前じゃ無理だと断言され、そこまでかと思われた時、恭弥の足は一歩前へ出た。

 フェンネルが目で追うのが精一杯のスピードで恭弥は再びサイクロプスの前に飛び出し、目に見えぬ速さの連続パンチを繰り出し、サイクロプスの足に立つことも出来ぬ負担を与えた。

 そして、サイクロプスの体勢の悪い単調な一撃を躱し、振り下ろされた棍棒を足場に恭弥は一瞬の内にサイクロプスの眼前に到達。

 その無防備な瞳に『最強右ストレート』を叩き込むのだった。


「ははっ……これは流石に驚いたな……」


 目の前で起こった現実を前にして、フェンネル・ヴァーリィは驚きを隠すことが出来なかった。

 攻撃力は中の上程度、多少すばしっこくても、所詮はまだなんの力も持たない一般人。勇者として異世界から召喚されたとはいえ海原恭弥(かいばら きょうや)一つ目の巨人(サイクロプス)の相手をするにはまだまだ力不足であると判断していた。

 だが、彼は怒涛の連続攻撃でサイクロプスの足にダメージを蓄積させ、崩れ落ちたところに棍棒を足場に駆け上っていき、サイクロプスの(急所)に重い一撃を叩き込んでみせた。

 ただ、倒しきったとはいえ、恭弥の方にもダメージはあったらしく、地面に降り立った恭弥はまさに満身創痍といった風で、特に左手の甲からはかなりの出血が見て取れた。


「おら、これで文句ねぇんだろ?」

「ああ、素直に感嘆に値するよ。君は強い。少なくとも俺の想定以上にはな。ただ、トドメを刺さないのはいただけないな」


 ズシンと、辺り一帯が揺れた。

 それと同時に勝利で緩んでいた恭弥の表情が冗談だろとでも言いたげな表情に変わり、恭弥はゆっくりと振り返った。

 そこには、未だに血涙が止まらない目を閉じたサイクロプスが巨大な棍棒を振り回しながら立っていた。


「あれでも駄目なのかよ。ったく、タフだな〜。……だったら今度は倍殴りゃあいけんだろ」

「いや、充分だ」

「あ?」

「今度は俺の番だ」


 その言葉がフェンネルの口から放たれると同時に、恭弥は全身が凍りつくような威圧感を彼から感じ取った。

 それはもはや背後にいるサイクロプスなんてどうでもよくなってしまうような威圧感で、恭弥は思わず一歩退いてしまった。

 そして、一歩退いたことで彼の左手にいつの間にか宝剣が握られていることに気付いた。


「キョウヤ、面白い物を見せてくれた君に敬意を評し、俺も本気を少しは見せてあげよう」


 ゆっくりと引き抜かれた宝剣は剣身が光り輝いており、それがただものでは無いことは一目で恭弥にもわかった。


「これが今のキョウヤと俺の差だ」


 フェンネルは陽光にも負けない光を放つ剣を横に振り抜いた。

 それは文字通り空を斬り、恭弥の目を点にさせた。

 だが、次の瞬間、恭弥の背後で何か重い物が落ちるような音がした。

 その音が気になり、恭弥はゆっくりと振り向いた。

 その音の正体など、恭弥は見らずともなんとなくわかっていた。


「ははっ、つえぇな。やっぱ」


 ウィール平原の大地に落ちていたのは、先程まで恭弥が苦戦を強いられていたサイクロプスの首だった。


 ◆ ◆ ◆

 

「なっ!? じゃあ俺がこの世界の人間じゃないって知っていたのかよ!?」


 海原恭弥(かいばら きょうや)の驚く声が辺りに響き渡り、傷の開いた恭弥の左手に包帯を巻いているフェンネル・ヴァーリィは首肯(うなず)いた。


「気付いたのは自己紹介でキョウヤのファーストネームが後ろだということを知った時だな。そういう名乗り方をする国民はイーストルードの大地くらいにしかいないし、陛下からも召喚された者達がそういう特徴を持つって遠征前に聞いてたからな」

「なんだよ。じゃあ遥斗の忠告も無駄だったって訳か」

「へぇ~。なんて忠告されたんだい?」

「俺達の出自について言うなだとよ」

「なるほど。最低限の保証という訳か。ほら、治療は済んだぞ!」

「イッ!? 叩くんじゃねぇよ!」


 怒鳴る恭弥を見て高笑いするフェンネルは、さてと、と言って立ち上がった。


「もうそろそろ暗くなりそうだし引き揚げるか」


 その言葉で恭弥も空を見上げると、空は茜色になりかけていた。


「あのおっさんから頼まれてた店の荷物ってのはいいのかよ?」

「おい、お前絶対店長の前でおっさんて言うなよ。下手すりゃ半殺しにあうからな?」

「いや、流石にそりゃねぇだろ」

「武器無し魔法無し個有能力(ユニークスキル)無しの肉弾戦勝負だけでいうならあの店長は俺と良い勝負するぞ?」

「いややばすぎんだろ。てか、それだったら尚更回収しねぇと駄目じゃねぇか」

「どっかの誰かさんの足が遅くてサイクロプスを探すのに時間をかけてしまったからな。あとは明日でもいいだろ。お前も手伝ってくれんだろ?」

「死んでもやだよ」

「そうかい」


 不貞腐れたように断る恭弥を一笑に付すと、フェンネルは高らかに指を鳴らした。

 次の瞬間、恭弥の座っていたはずの岩が消え、恭弥はそのまま尻餅をついた。だが、尻餅をついた場所はウィール平原の大地などではなく、見覚えのある薄汚い裏路地だった。


「……ったく、相変わらず便利な能力だな」

「だろう?」


 フェンネルは尻餅をついた恭弥に手を伸ばし、恭弥もまたフェンネルの手を掴んで立ち上がる。

 そうして二人は魔物の討伐を終えたことと荷物の捜索は明日にしたことを報告するべく、ウィンリン商会ヘ向かおうとした。

 だが、裏路地を出ようとしたところで急にフェンネルの足が止まった。

 その視線の先には、額に筋を浮かべる女性騎士が一人、腕を組んで立っていた。


「何か言うことはありませんか? フェンネル騎士団長?」


 その冷徹で怒りのこもった声に、フェンネルの顔が真っ青になっていく。

 透明感のある銀色の髪を靡かせ、鋭く尖った眼差しから見える翡翠色の瞳が立ち止まったフェンネルに不審感を抱いた恭弥を睨みつける。


「まさかとは思いますが、そちらの方に転移を見せられた訳ではありませんよね?」

「えっとだな……」

「貴方のその能力は国家機密だと何度もお伝えしたはずですが、まさかお忘れになったとはおっしゃりませんよね?」

「いやソフィア、これには深い訳が……」

「深い訳? 国王陛下への謁見をすっぽかし、あまつさえ国家機密である転移の能力を一般人に見せたんですから、相当深い訳なんでしょうね。この(わたくし)を納得させられるくらいには?」


 フェンネルの額から異常な量の冷や汗が流れ落ちていく様を見て、ソフィアは笑みを繕いながら、何もつけていない右手を上げた。


「団長、避けたり防いだりしないでくださいね?」

「いや待て! お前の細腕で俺を叩けば怪我するのはお前の方だぞ!!」

「大丈夫です。既に何重にも支援魔法(バフ)は張ってありますので(わたくし)が怪我を負うことはありません。という訳で、遠慮なく殴られてくださいね」

「なぁその支援魔法(バフ)って攻撃力増加とかつけて――」


 フェンネルが言い終える前に、フェンネルの頬を腰の入った良いビンタが襲うと、彼の頬は甲高い音を鳴らすのだった。


 ◆ ◆ ◆


「だ~から言ったんじゃん団長〜。勝手に抜け出すのは良くないってさ〜。その頬マジウケる」

「サキュラ、君も淑女ならそんなはしたなく笑うんじゃない」


 三角帽を被った緑髪の美女は、赤く頬の腫れたフェンネルを見て指を差しながら笑った。

 そのはしたない笑みを見て、隣を歩いていた青髪の青年が溜息混じりに注意を促すが、サキュラはうざったそうにするだけで直す素振りは見せなかった。


「まぁ良いではないか。どうせ居たところで大臣共の額の血管が何本か破裂するだけなんだ。むしろ居ない方が大臣共の血管に優しいまであるな」


 わっはっはと高笑いを始めた重装備の大男の言葉に、ソフィアが鋭い眼差しを向ける。


「先代のアドマレークさんがそうやって甘やかすから団長が自由人に成り下がったんですよ。まったく! 前代未聞ですよ。謁見とパレードすっぽかすなんて……猛省してくださいね!」

「わあってるよ。もうしねぇって」

「本当に反省してるんですよね!」

「してるって」


 反省していなさそうな口調でフェンネルが返すものだから再びソフィアの怒声が響く。

 そんな五人のやり取りを見て、夜が近いせいで活性化している森林の魔物達を倒しながら、恭弥は一抹の寂しさを覚えるのだった。


 ファルベレッザ王国の王都に帰ってきた恭弥とフェンネルを待ち構えていたのは、ファルベレッザ王国甲冑騎士団の副団長、ソフィア・ベルド・ファルマイベスだけでは無かった。

 ソフィアによるフェンネルへの制裁(ビンタ)が済んだ後、それが終わるのを待っていたと言わんばかりに、同じく甲冑騎士団に勤めるサキュラ・シュテリングス、フィル・マーフィン、メフィラス・アドマレークという三人の隊長がフェンネルの元へと歩み寄ってきた。

 最初は恭弥も彼らに警戒の色を見せたものの、フェンネルの仲間だとわかると警戒するのを止め、軽く自己紹介を始めた。

 自己紹介も終わり、一応依頼という形で引き受けたのだからと、ウィンリン商会への報告を済ませたものの、何故かそこで解散とはならなかった。


『傷だらけになってしまったキョウヤを無事カルファ村まで送り届ける』


 フェンネルによるその一言に猛反対したのは言わずもがなソフィアではあったが、フェンネルが彼女に耳打ちすると、ソフィアは恭弥をじっと見た後、真剣な表情で了承した。

 その様子に恭弥は不審感を抱いたものの、その内容を問い質すような真似はしなかった。

 他の三人も、最初は何故と思ったようだが、彼の血に染まった左腕の包帯や全身びしょ濡れな状態を見て、色々と納得したようで、現在、こうして恭弥と共にカルファ村へと向かっている最中だった。


「それで? キョウヤっちだっけ? 君はなんでそんな怪我だらけなん?」

「キョウヤっち?」


 距離感が異様に近いサキュラの質問より、恭弥はその呼び方の方に違和感を覚えたようで、不思議そうに首を捻った。

 だが、サキュラは笑顔で更に距離を詰める。


「そうそう、キョウヤって名前だからキョウヤっち。それでそれで? なんでそんなボロボロなの!」

「サイクロプスとかいうやつと戦ったんだよ」

「マジッ!? サイクロプス!? それってあの巨人の魔物のことだよね?」


 目が点になったサキュラは近くを歩いていたフェンネルにその目を向けた。当然、フェンネルは首肯(うなず)いた。


「マジだよ。彼は一人であのサイクロプスと渡り合ったんだ。まるで未来でも見えているんじゃないかと思えるような回避には驚かされたが、それ以上にあのサイクロプスを拳一つで倒してしまう攻撃にも驚かされたな」

「すごいじゃん! 団長が褒めるなんてそんな無いよ!! どうやって倒したん!」

「それがあんま覚えてねぇんだよ」

「覚えてないの?」

「そうなんだよ。なんかフェンネルにムカつくこと言われてさ、頭が真っ白になって……そしたらなんか色々ごちゃごちゃになってたのがいきなりバーンってなってな。頭で考えるより殴った方が速いってなって、とりあえず殴ってたらなんかぶっ倒れてた」


 恭弥の説明にサキュラの表情が理解出来てなさそうな複雑なものになっていた。

 戦いの一部始終を見ていたフェンネルも恭弥の話を聞いて疑問符しか浮かばなかったが、そんなフェンネルの元にメフィラスが歩み寄ってきた。


「サイクロプスが出たというのは本当なのかい?」

「あぁ、ウィール平原にな」

「ウィール平原だと!? あのウィール平原にサイクロプスが出たというのか!?」

「そうだ。一応聖剣で首は斬ったからこれ以上の被害者は出ないと思うが、部隊を編成して周辺の地域を調べた方がいいかもな」

「まだ居ると?」

「居る確信は無いが、あそこはファルベレッザ王国(うち)の輸出入の要だからな。サイクロプスじゃないにしても厄介な魔物が居た場合、ウィンリン商会の二の舞いになる。俺が居る間に片付けておきたい」

「わかった。……それにしても今回のサイクロプス事件、魔王復活と関係あるのだろうか?」

「無関係と断じるには情報が少なすぎ……?」

「どうした?」


 突然、フェンネルの表情が険しくなり、彼は一点を見始めた。

 その先にあるのは一匹の魔物、ツインヘッドウルフの亡骸だった。

 フェンネルが気になったメフィラスもそちらへ視線を向けたが、特別その亡骸に違和感は感じなかった。

 ツインヘッドウルフの肉は筋が多く、硬くてあまり美味と言えたものでは無いが、その革の需要は高い。

 群れで行動するうえに一匹一匹が強く、そのせいで取り難くかなりの値段にはなるが、倒した魔物を冒険者がギルドまで運ばないことは何も珍しいことではない。

 手持ちに余裕が無かったり、その時の状況次第。現に自分達も集めていない。

 だから特段何かを思うことは無かった。だが、フェンネルはその魔物の傍まで歩み寄り、詳しく調べ始めた。


「圧殺か?」


 目に見えてわかる異様に潰された状態でありながら、近くにはツインヘッドウルフを潰したと思われる物が無い。

 戦闘によって出来たにしては外傷がまったくなく、肉食の魔物が多いこの森で食われてすらいないというのはこの魔物が最近人為的に倒された証拠とも言えた。


「どうやら相当な手練のようだ。戦闘の痕跡がまったく無いということは、一瞬にして、なおかつ一発で仕留めたということになるだろうな」

「厄介そうだな。敵では無いといいんだが……」

「団長〜? そんなとこでなにやってんのさ〜。もうカルファ村見えてきたよ〜」


 離れた場所で他三人と一緒にいたサキュラに呼ばれ、フェンネルはスクリとその場から立ち上がった。


「なんにせよまだどちらも憶測にしか過ぎないだろう。まずは調査をよろしく頼む」

「承知した」


 メフィラスが自分に向かって頭を下げたのを見て、フェンネルは亡骸をそのままに、恭弥達の元へと戻っていった。


 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。

 この小説の作者は基本的にやりたい事をやってみたい性格であるため、今回は出来たら次の日には投稿というアホみたいな事をしています。

 その為、書きだめは無く、次話のアイデアも殆ど無いという実質ノープラン状態。結果、不定期更新となります。

 こんな馬鹿な作者ですが、読者の皆様方には暖かい目で見守っていただけると幸いです。

 もし続きが気になるって方がいれば、応援メッセージに「続きまだですか?」とでも送ってください。 


 いやぁ~ワクチンの副反応や延期になってしまった祭りで2週間分の土日が潰れてしまってめっちゃ遅くなってしまいました。面目ない限りです。


 前回のあれだけで巨人が倒せるのか?

 恭弥は恭弥の一撃以上に重い蹴りをもらって立ち上がったのに?

 そんな訳で前回の続きが少し入った訳ですが、そこは我らの騎士団長に少しは頑張ってもらわんとね!


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