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第1話:騎士団長だろうがなんだろうがかかってこいや!!(3)


 前回のあらすじ。

 恭弥と遥斗が王都でポマードのような物を探していると、突然謎の男に喧嘩を売られましたとさ。


 炎のように赤い髪をオールバックにした男の放った言葉に、海原恭弥(かいばら きょうや)伊佐敷遥斗(いさしき はると)は時が止まったかのような反応になってしまう。

 そして、言葉の意味を理解した恭弥の眉が寄った。


「俺の耳が腐っちまったのかもしれねぇんだがよぉ……今、なんて言った?」

「俺と殴りあいしないかって言ったんだよ。そいつを賭けてな」


 悪びれる様子を一切見せずに、赤髪の男は恭弥が持っている『ルシュウの油』を指差した。


「これは俺が先に見つけたんだ。とっとと失せろ」

「こちらもそういう訳にはいかないんだ。長い遠征任務のせいで『ルシュウの油』が切れちゃってね。どうしても欲しいんだよ」

「他の店に行けばいいだろ」

「ここ以外には売ってないんだよ。だからさ、それ、俺にくれない?」


 二人の間に一触即発のピリついた空気が流れる。

 そして、先に動いたのは恭弥だった。

 恭弥は『ルシュウの油』を持っていない左手を握り、赤髪の男を殴ろうとした。だが、その腕が伸び切る前に、遥斗の手が恭弥の腕を掴んだ。


「邪魔すんな遥斗!!!」

「場所を考えろキョウヤ!!!」


 恭弥に負けず劣らずの怒号を放った遥斗に恭弥は怒りの視線を向けるが、一歩も引く気を見せない遥斗を見て、舌打ちをしてから腕を無理矢理離させた。

 恭弥に攻撃の意思が消えたのを見ると、遥斗は赤髪の男を睨んだ。


「あんたもあんただ。何者かは知らないが、これは僕らが先に購入しようとしていた物だ。おとなしく引き下がってもらいたい」

「さっきも言ったろ? そういう訳にはいかないんだって」

「面倒な……」


 遥斗が一歩も引き下がる意思を見せない赤髪の男を鬱陶しく思えてきたそんなタイミングだった。


「あら~、これはいったいなんの騒ぎかしら〜?」

 

 突然奥の方から男性のものと思われる声が聞こえ、その場にいた者達の視線がそちらへと向けられた。

 そこに立っていたのは、オネェ気質の体格が良い男性で、彼は赤髪の男を見ると興奮したような声を上げた。


「あら~、フェンネルちゃんじゃな〜い。遠征は終わったのかしら〜ん」

「ああ、少ししたらまた遠征に行くんだが、その前に遠征で使い切った『ルシュウの油』を補充しにきたんだ。そしたら……」


 赤髪の男の視線が恭弥の握る缶に向けられ、オネェ気質の男性は、なるほどねと呟いた。


「お客さん、悪いんだけどその『ルシュウの油』、フェンネルちゃんに譲ってはくれないかしら?」

「断る」

「そぉ? アタシが一日デートしてあげると言っても?」


 オネェ気質の男性が恭弥に向かって投げキッスをしてきた瞬間、恭弥の表情は真っ青になり、勢いよく首を横に振った。


「困ったわね〜。フェンネルちゃんに暴れられたらアタシの店が壊されかねないし、おとなしく引いてもらいたいのよね〜」

「あの、その『ルシュウの油』ってのは次いつ来るんですか?」


 断固として譲る意思を見せない恭弥を見て困った様相を見せるオネェ店長に、遥斗は伺うように訊く。

 それがきっかけとなり、オネェ店長の目が遥斗に固定された。


「貴方は?」

「こいつの連れです」

「…………」

「……どうかしました?」

「貴方も良い男ねぇん」


 その言葉は本来であれば褒め言葉として受け取っても良いはずなのだが、遥斗はまるで捕食者と相対したかのような悪寒が全身を駆け巡った。


「今度お茶でもいかが?」

「あ……あまりこの国に長居するつもりがないもので……」


 食い気味に近付いてくるオネェ店長から目を背けつつ、遥斗は言葉に詰まりながらも、柔らかに答えた。

 そんな遥斗を見て、恭弥が口を開く。


「それで? 次はいつ来るんだ?」


 タイミングの悪い横槍に一瞬不機嫌な表情を見せるオネェ店長ではあったが、何故かすぐに真面目な表情を見せた。


「悪いけど、その話が聞きたいならちょっとアタシの部屋まで来てもらえないかしら?」

「ここじゃ駄目なのか?」

「他のお客様にご迷惑がかかるじゃなぁい?」


 そこまで言うと、オネェ店長は黙り込んでいた赤髪の男と共に奥の方へと向かっていった。その背中に恭弥もついていこうとしたのだが、何故か遥斗はついてこようとしていなかった。


「来ないのか?」

「……表で待っとくわ」


 遥斗の表情と言葉はすごくわかりやすく、行きたくないんだなという気持ちが全面に現れていた。

 そんな遥斗を恭弥は無理に連れていこうとは思わなかった。


「じゃあちょっと外で待っといてくれ」


 そう言うと、恭弥は女性店員に案内されながら、奥にある事務所へと入っていった。


 ◆ ◆ ◆


 案内された場所は、全体的にピンク色のあまり広くない部屋で、全体的に可愛らしさを表したような小道具で彩られていた。そんな部屋で、体格の良い二人の男性が向き合ってソファーに座っている光景は流石の恭弥も足を踏み入れるのを躊躇うほどだった。


「あら、そんなところで突っ立ってないでそこに座ってちょうだい」

「あ……ああ」


 オネェ店長に促され、恭弥は赤髪の男の隣のソファーに腰を下ろした。すると、急にオネェ店長がキョロキョロと誰かを探すかのように周囲を見始めた。


「どうした?」

「さっきの可愛い子はどうしたのかしら?」

「遥斗なら表で待ってるってさ」

「あら残念。まぁいいわ、今は名前を知れただけで満足するとするわ。じゃあ『ルシュウの油』の入荷についてなんだけどね。本来なら今日中には入ってくる予定だったのよぅ」

「どういうことだ?」

「それがねぇ、御者の話だとこっちに運ぶ最中に巨大な魔物が現れて荷車をまるごと持っていっちゃったそうなのよぉ」

「巨大な魔物が? その御者は危険な森でも通ったのか?」 


 冗談混じりに赤髪の男が告げると、オネェ店長は首を横に振った。

 

「それがねぇ、ウィール平原でその魔物は出たらしいのよん」

「ウィール平原? それってシュドメキア共和国との国境沿いにあるあのウィール平原であってるよな?」


 まったく話が理解できていない恭弥の横で赤髪の男が疑い半分の眼差しで尋ねると、オネェ店長はしっかりと首肯いた。 


「前に何度か行ったがウィール平原(あそこ)は広々とした草っ原が広がっていて、生息する魔物も精々が草食の害が無い奴らばかりだったはずだ。荷車をまるごと持っていけるような魔物が出れば、少なくとも俺の耳に入ってこないのはおかしいな」

「フェンネルちゃんなら何か知ってるかもと思ったんだけど……その様子だと知らなさそうね」

「遠征中だったってのもあるが、まぁ間違いなく最近発生した魔物だろうな」


 何かを悩んでいる様子のフェンネルに、オネェ店長が改まった様子で座り直し、フェンネルに向かって頭を下げた。


「不躾かもしれないけど、品物が届かないとうちも商売が成り立たないの。報酬はもちろんたくさん出すわ。どうか討伐をお願い出来ないかしら」

「そういうのは冒険者ギルドに頼め……と言いたいが、オネール店長にはいつも良くしてもらってるしな。そのよしみで俺が討伐してこよう」

「ありがとう!! 大好きよ!! フェンネルちゃ〜うぇぶしっ!!」


 大興奮のオネェ店長が抱きつこうとしようとしたのを片手一本で止め、フェンネルは横を見た。


「あんたはどうする? 見たところ相当腕が立つんだろ? 暇なら一緒に請けないか?」


 その言葉に、恭弥は即答出来なかった。

 目の前にいる男が、これまで出会った中でも一位二位を争う実力者であることは恭弥自身も気付いていた。

 だが、それと同時にどうにも気に食わなかった。

 初対面での発言とはまた別に、この男には、不思議と()()()()()()と、そう思った。


「もちろん請けるさ。そのついでにてめぇも潰してやるよ」

「上等」


 恭弥の威圧的な発言にフェンネルはにやつくと、立ち上がり、恭弥に向かって手を差し出した。その手を、恭弥は見下されまいと立ち上がって強く掴み返した。


「俺はフェンネル。フェンネル・ヴァーリィだ」

「恭弥だ。海原恭弥、気軽に恭弥と呼んでくれ」


 恭弥が名乗ると、フェンネルは明らかに驚きが表情に出ていた。だが、すぐに何か納得したかのように、なるほど、と呟いた。


 ◆ ◆ ◆


 遥斗がウィンリン商会の外で待っていると、待ち人である恭弥はそれほど時間を経てずに帰ってきた。先程の赤髪の男を連れて。


「おかえり、キョウヤ」

「わりぃ、待たせたな」

「全然。それで話はなんだったの?」

「魔物の討伐を頼まれた」

「魔物? 入荷とかの話をしてきたんじゃないの? ってか、なんでその男も一緒にいる訳?」


 当然の如く疑問の眼差しをフェンネルに向ける遥斗。そんな遥斗にフェンネルは言い放った。


「君も一緒にどうだい?」

「……んん? なにが?」

「なにがも何も、討伐に決まってるじゃないか」

「うん、だからね、まったく話の展開が見えてこないんだよ。なんで入荷云々の話をしていたら魔物の討伐の話になんの?」


 その質問にフェンネルが首を傾げた瞬間、遥斗の額に筋が立った。


「ちょっとあんた、まじで黙っててくれないか? 俺はこいつと少し話してくるから」


 遥斗の苛立ちを察してか、恭弥はフェンネルに対して容赦なく文句を告げ、遥斗に簡易的かつ適当な説明をし始めた。

 だが、遥斗にはそれで充分だった。


「なるほどね。つまりは品物を奪い去っていったそのでかい魔物を片付ける依頼を請けたから行ってくるって話だったのね? それで? いつ出発するんだ?」

「今からだ!」

「は?」


 遥斗は堂々と言い放ったフェンネルに冷めた目を向けると、大きく溜息を吐いた。


「今からって、もうすぐ夕方ですよね。しかも場所もこの辺りって訳じゃないんですから入念な準備が必要な訳で――」

「だが、急いで討伐せねば被害が増えるだろう? 今回は運良く重傷者はいなかったらしいが、次もそうとは限らないんだ。死者が出る可能性もある以上、一刻も早く討伐せねばならない!」

「強情な……そんな見ず知らずの相手が死ぬかもしれないから、僕らには準備不足な状態で行けと? 話にならないな。戦いはまず情報収集からでしょう?」

「お前はフィルみたいなことを言うな〜」

「誰だよフィルって……」


 一歩も引かないフェンネルと遥斗の口論は激化していき、道行く人々の注目を集めていく。

 そのうえ、唯一止めれる立場にいる恭弥も止めるどころか欠伸をし始める次第で、口論は更に激化していった。


「とにかくだ! 今日は無理だ! 僕にも用事があるし、連れも待たせている!! せめて明日以降にしろ!! 帰るぞキョウヤ!」

「悪いがそれは無理だ」

「キョウヤ!?」


 てっきり自分に賛同すると思われた恭弥の急な裏切りは、怒る遥斗の目を丸くさせた。


「これは俺とこいつの勝負だ。俺はここで退けねぇ」


 その恭弥らしい言葉に何も言えなくなった遥斗に、恭弥は更に続けた。


「遥斗、お前は二人と一緒に先帰ってろ」

「先帰ってろって、お前ちゃんとカルファ村まで帰れんのかよ……」

「問題ねぇよ。森ん中適当に歩いてりゃそのうち着くだろ」


 その頼りない返しに文句を言いたくなるが、遥斗は自分の頭を掻きむしり、そして、未だに納得がいってなさそうな顔で、フェンネルに向かって指を差した。


「あんた、うちのリーダーを巻き込んだんだ! 責任持ってうちのリーダーをカルファ村まで送り届けろよ!!」

「ああ、そのくらいなら問題ない」


 その言葉を聞き、遥斗は未だに何かを言いたそうな顔で言葉を飲み込むと、恭弥に向かってぼやくように呟いた。


「くれぐれも僕らの出自の話はするなよ」


 その真意を恭弥は正確に理解出来なかったが、全幅の信頼を置いている遥斗の言葉に、何故と聞き返すような真似はしなかった。


 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。

 この小説の作者は基本的にやりたい事をやってみたい性格であるため、今回は出来たら次の日には投稿というアホみたいな事をしています。

 その為、書きだめは無く、次話のアイデアも殆ど無いという実質ノープラン状態。結果、不定期更新となります。

 こんな馬鹿な作者ですが、読者の皆様方には暖かい目で見守っていただけると幸いです。

 もし続きが気になるって方がいれば、応援メッセージに「続きまだですか?」とでも送ってください。 


 オネェ店長は最初は普通の店長だったんですよね。でも、小太りのおっさん書くよりオネェ店長書く方が筆が進みましてね。

 異世界の事務所なんてどうすればって思ったけど、ピンク色の部屋にしたらもう色々と納得しちゃいまして。

 ……モブなのに濃すぎるよ……

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