第1話:騎士団長だろうがなんだろうがかかってこいや!!(1)
第2章スタートです!!
その日、ノースルードの大地と呼ばれる大陸の極西に位置するファルベレッザ王国の王都では、楽しそうな祭典が開かれていた。
国民達は街道沿いに群がり、等間隔に並ぶ衛兵達を邪魔に思いつつも、今か今かとその時を待ち侘びていた。
国王暗殺未遂事件、隣接する村で連続して起きていた誘拐事件、そして、一週間前に起きた『ステラバルダーナ』と名乗る謎の組織による男爵邸襲撃事件。
そのどれもが、彼のいないこの時期に連続して起きていた。
平和の象徴とも言える彼がこの王都に居たら、それらの事件は起きていなかったかもしれない。
そう思える程、彼という存在はこの国を平和にしていた。
「来たぞ!!」
誰かが叫ぶと、彼らの到着を今か今かと待ち侘びていた多くの民衆がそちらへと向いた。
そこには一糸乱れぬ隊列を組んだ甲冑の騎士団が行進していた。
「ねぇパパ、あの人達だぁれ?」
幼き少年が男性の服の袖を引き、そう聞いた。
そんな自分の息子を見て、男性は説いた。
「彼らはこのファルベレッザ王国が世界に誇る甲冑騎士団、その第一から第三部隊だよ」
「きしだん?」
「そう。彼らはね、魔王という怖〜い存在が永い封印から解かれたから、その魔王が眠る大陸を監視するという大事な任務に出ていたんだ」
「まおう?」
「そう、魔王。その魔王は百年くらい前に突如現れ、異世界から現れし勇者達によって封印された」
「倒されなかったの?」
「強すぎてね。だから、国王様も改めて勇者を召喚し、その勇者様達が成長するまで彼ら甲冑騎士団を監視に当てたって訳さ」
「おいおいお父さん、その説明はちょいと間違えてるぜ」
突然、中肉中背の男性が現れ、彼は親子の会話に水を差した。
だが、その男性は少年の父親の迷惑そうな視線をものともせずに、少年に向かって言葉を続けた。
「何も国王様は監視だけを命じられた訳じゃあない。もしもあの伝説の魔王が、魔大陸と呼ばれるあの大陸に一番近いこの国を攻め入ろうとしてきた時、おそらく俺達国民は何も出来ずに死んじまうだろう。それを未然に防ぐ為に、彼らを配置したんだよ」
「「「サ〜キュラちゃ~ん!!」」」
男性が子どもに教えていると、突然、成人した男達の歓喜の声が上がった。
「どうやらちょうど来たらしいな。見ろ坊主。あの大きな三角帽を被ってにこやかに手を振ってる緑髪のかわい子ちゃんが甲冑騎士団第三部隊、別名魔導部隊隊長のサキュラ・シュテリングスちゃんだ。弱冠十九歳で部隊の隊長を任せられる程の実力者で、その二つ名は『殲滅の魔女』、公式なファンクラブもあるくらいの人気者で、公式発表では二十三歳Fカップ、好きなタイプは支えてくれる人なんだそうだ」
「ねぇねぇパパ〜、Fカップってなーに?」
「お前はまだ知らなくていいことだ」
少年の父親はそう言うと、変な説明をした男性に鋭い視線を向けた。
「悪い悪い。だが実際、広範囲高火力の魔法を連発する魔力量はかなりやべぇ。まさしく天賦の才ってやつだ。本来なら男共から怖がられそうなもんだが、その美貌と優しい性格に多くの男共は虜になってるって訳さ」
「よくわかんないけどすっごい人なんだね!」
「そうだぜ坊主、だが、凄い人はまだまだいるぞ」
「キャ~、フィル様よ〜!!」
今度は女性達の黄色い悲鳴が次々と上がり、男は来たなと呟いた。
「相変わらず女達に人気のようだ。坊主、あれが甲冑騎士団第二部隊、別名、第一特殊部隊を率いる男、フィル・マーフィンだ。その透明度の高いさらさらな青色の髪と女性の目を引く顔立ちで女性人気度はかなり高い。ただ、バカ真面目な性格のせいで悪い噂は一切聞かない今時珍しい色男だ。腰に差したあのレイピアを用い、一対一の戦闘力なら団長に次ぐ実力を持ち、ついた二つ名は『蒼い死神』。あの紅い双眸が向けられたら命は無いと戦場で怖がられているそうだぞ?」
男が説明を終えて少年の方を見ると、少年は青ざめた顔で震えていた。
「おっと悪い悪い、怖がらせちまったな。だが次は怖くねぇぞ。坊主ももしかしたら有名過ぎて知ってるんじゃないか? 甲冑騎士団第一部隊、別名、重装歩兵大隊を率いる隊長、その重厚な装備と人並み外れた筋肉で『王国最強の盾』と呼ばれ、その優しくも献身的な愛妻家の性格で老若男女問わず親しまれる存在、その名もメフィラス・アドマレークさんだ!!」
男の紹介で少年の視線が重厚な装備を纏った巨漢に向けられると、そのシンプルながらも格好良い装備に心を惹かれたのか、少年の瞳が一層煌めいた。
「だが坊主、甲冑騎士団においてこの人を忘れちゃならねぇ。この甲冑騎士団を自由奔放な騎士団長の代わりに支える副団長、腰に差したレイピアと魔法を併用した特殊な戦闘技術でコネだなんだとうるさい騎士達を黙らせた現国王の第三王女。胸が無いから魅力半減とか言う奴はくたばれ! その鋭く凛々しい目付きで睨まれる快感を知れ!! この国が世界に誇る才色兼備の麗女、ソフィア・ベルド・ファルマイベス殿下だー!!」
突然大きな声で名前が呼ばれた為、ソフィアは何事かとその鋭い視線をそちらへと向けるが、いつものかとソフィアは視線を前に戻した。
そんな彼女の横に、後方から颯爽と甲冑の女性騎士が立ち、彼女にのみ聞こえる声で報告を始めた。
そして、女性騎士が報告を済ませると、ソフィアの様相に動揺の色が見えた。
「なっ……それは本当なのですか?」
大声で激昂しそうになるが、現在の状況を思い出したことで、ソフィアはすぐに冷静になった。
そして、ソフィアの言葉に女性騎士は首肯いた。
「まったく……なにを考えているのでしょう……これから陛下に状況説明をしなければならないというのに、まさか抜け出すなんて……。いいですか、謁見の前に必ず見つけ出し、城に連れてこさせなさい」
ソフィアは顔色を一切変えずに嘆くと、報告をした女性騎士に命令を下した。
その命令に首肯くと、女性騎士はソフィアの傍から離れていった。
「……これは帰ったら説教ですね」
周囲の視線がある以上、自身の一挙手一投足が周囲の混乱を招きかねないことをソフィアはよくわかっている。
そのため、彼女は激昂したい気分を押さえつけ、いつもより冷ややかな目で行進を行うのだった。
◆ ◆ ◆
のどかな昼下り、カルファ村にある一件の宿屋で、純真無垢で楽しそうな声が響いていた。
そこにいたのはよく似た顔の見た目十歳程の少年少女。
二人は宿屋の庭で楽しそうにお手玉をして遊んでいるようだった。
「すごいロイドお兄ちゃん! もう三個で出来るの!」
「ヘヘっ、こんなの簡単だよ。ノエル、持ってるお手玉投げ入れてくれよ」
三個のお手玉を巧みに操り、妹であるノエルから称賛の声を受けると、ロイドは調子に乗ったのかそんなことを言い始めた。
だが、ノエルは戸惑ったような声を上げた。
「無理だよ四個なんて……」
「いいから早く」
ノエルは急かされて戸惑うが、先程まで二個でも苦戦していたのに今では三個のお手玉を安定して回せるようになった兄の姿を見て、わかったと首肯いた。
そして、ノエルはゆっくりと手に持っていたお手玉を投げ入れた。
すると、ぎりぎりのところで均衡を保っていたお手玉達は突然の来訪者によって均衡を崩され、焦ったロイドの手によって辺りに散乱してしまった。
「やっぱり四個は無理だったかぁ……修兄は五個でやってたのに……」
「いやいや、やり始めたばかりで三個なら才能ある方なんじゃないか?」
気落ちしていたロイドに優しく声をかけたのは、庭の中央部分にある丸太に座っていた一人の青年、雷堂修だった。
彼は座っていた丸太から立ち上がると二人の足元に散らばったお手玉を拾ってロイドに渡し、ロイドの頭をそのゴツゴツの手で撫でた。
「俺っちなんて初めて親父に教えてもらった時は二個ですら出来なかったんだぜ?」
「本当?」
「マジマジ。だからロイドもノエルも俺っちなんかより絶対上手くなれるって」
その言葉で、ロイドは笑みをこぼした。
それを見た修は満足したのか撫でるのをやめ、再び丸太に座りに戻ろうとした。だが、突然ノエルに服の裾を引っ張られてしまい、修はしゃがまざるをえなかった。
「どうした?」
「ノエルもシュウお兄ちゃんみたいに上手くなれる?」
「なれるさ絶対。俺っちが保証する」
「でもねでもね、ノエルまだロイドお兄ちゃんと違って二個も出来ないんだよ?」
「始めたばかりの頃は皆そんなもんだって。何度もやってって、それで皆上手くなっていくんだよ。だからノエルも、今は全然出来なくても、いつかはきっと上手くいくようになる」
「ねぇねぇ修兄!」
「今度はなんだよ?」
「お手本見せて!!」
「お手本? しゃあねぇなぁ」
唐突に手本を見せてとせがまれるも、修は躊躇うことなく了承し、ロイドから五個のお手玉を受け取った。
そんなタイミングだった。
突然宿屋に通じる扉が開け放たれた。
そこに立っていたのは、修が所属している『ステラバルダーナ』のリーダーを務める海原恭弥という青年だった。
当然のようにその場にいた三人の視線を集めた恭弥の様子が少し焦っているように見えた修は、恭弥に自ら声をかけた。
「恭弥君やっと起きたん? どうしたん? そんなに慌てて」
「おい修、お前ポマード持ってねぇか?」
その質問に、修は首を傾げた。
「ポマードって髪を固めるあれのことだよな? 俺っち使ってないから持ってないよ?」
「だよなぁ……」
修は恭弥が毎日ポマードを使って髪型をセットしているのはよく知っているが、それがどういったものであるかや原材料の類いはまったく知らなかった。
だが、恭弥の様子を見れば、無いと困るのは目に見えて明らかだった。
「まぁ俺っち同様太一君もボウズだし持ってなさそうだけど、案外、遥斗君や政宗君なら持ってんじゃね?」
「遥斗と政宗か……二人はどこにいるって?」
「政宗君なら太一君と一緒に食事処『ガイガン』に飯食いに行ったよ。なんでも『ガイガン』のおやっさんが今日こそ太一君のお腹を満足させてやるって張り切ってるから着いていくんだってさ」
「……太一の異名が大将泣かしって教えてやらなかったのか?」
「なんで俺っちがそんなことを教えてあげなきゃならんの?」
修もチームメンバーの一人である山川太一が、チームに入るまで各地の大食いチャレンジを荒らし回り、大将を泣かせてきたことをよく知っていたが、修はその情報がどういうものであるかをよく知っている。
食事処『ガイガン』の大将はここ一週間、誘拐事件解決のお礼にと格安で食事を出してくれるが、それは気遣う理由にはならない。
太一に好きなだけ食べていいなんて言葉をかければどうなるかなんてわかりきっているが、仲間である太一が幸福になる為ならば、修は赤の他人の未来などどうでもいいと思っていた。
「最悪の場合は政宗が止めるか……」
「優しいねぇ、恭弥君は」
「茶化すな。それで遥斗の方は?」
「この数日ここに帰ってきてないんだから俺っちがわかる訳ないじゃん。てか遥斗君だし、どうせ女のところなんじゃないの? でももしかしたら太一君達と一緒に飯食ってるかもよ?」
「そっか。ありがとうな。ちょっとそっちに当たってみるわ」
「行ってら〜」
食事処『ガイガン』のある通りの方へと走っていく恭弥の背に手を振った修は、今か今かと期待のこもった眼差しを向けてくるロイドとノエルの方に顔を戻した。
「待たせて悪かったな」
「修兄早く早く〜」
「そう急かすなって。それじゃあいくぞ?」
そう言うと、修の手のひらにあった五個のお手玉は、彼の巧みな手捌きで上空へと舞い上がり、一糸乱れぬ輪を作り出した。
そんな修にすごいすごいと双子の兄妹は称賛の拍手を送る。
妹や弟といった兄弟がいない修にとって、それはなんともむず痒く、そして、照れくさいものではあったが、不思議と悪くないなと、そう思えるようになっていた。
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。
この小説の作者は基本的にやりたい事をやってみたい性格であるため、今回は出来たら次の日には投稿というアホみたいな事をしています。
その為、書きだめは無く、次話のアイデアも殆ど無いという実質ノープラン状態。結果、不定期更新となります。
こんな馬鹿な作者ですが、読者の皆様方には暖かい目で見守っていただけると幸いです。
もし続きが気になるって方がいれば、応援メッセージに「続きまだですか?」とでも送ってください。
※正直カルファ村を出ていくルートにするか残るルートにするかは直前まで悩んでましたね。
遅くなって申し訳ない限りです。




