遥斗の日記Ⅰ
僕らは不思議な世界に来てしまった。
ネットで見たような西洋の国々を彷彿とさせる景観に、白い肌に明るい髪質の多いこの国は、ファルベレッザ王国という僕の見知らぬ国だった。
しかも、この国はノースルードの大地と呼ばれる世界一大きな大陸において、極西に位置する国家なんだそうだ。
あまり学に自信がある方では無いが、少なくともこれだけは断言出来た。
この世界は僕らが住んでいた東京の地とは異なる世界であるということに。
きっと僕ら五人はこれから様々な事件に巻き込まれ、その度に首を突っ込んでいくのだろう。
だから僕は日記に記すことにした。
いつの日か日本に帰った時、恭弥を慕って着いてきてくれたあの馬鹿で楽しい連中に、楽しい土産話が出来るように。
初日は散々なものだった。
アパートに狂気を感じる殺害予告を出した京香から逃げるべくアジトに居たら、突然床が発光して気付いたら僕は大きな城の中にいた。
幸運なことにその場には恭弥達もいたんだが、短気で偉そうなおっさんが突然太一を殺すとか言うもんだから、とりあえず連中をボコって飯だけ勝手に食って城を後にした。
そんなこんなで街に出たんだけど、そこは不思議な景観の街だった。
武装した連中が普通に歩いてるし、動物のような不思議な格好をした人も何人か見かけた。
中でも驚いたのは、文字はさっぱり読めないのに彼らの発する言語だけは不思議と理解できたことだ。
とりあえず生活するうえでの資金をどう調達するかが僕らにとっての大きな問題だったが、それはすぐに解決できた。
冒険者という狩りやクエスト等を受注して金を稼ぐ仕事がこの世界にはあり、僕らもそこに登録した。
めっちゃ可愛い子が受付してたんだけど、お茶してくれないかって誘ったら笑顔で断られてしまった。攻略は難航しそうだ。
冒険者になる為には試験というものを受けさせられるそうで、正直面倒としか思わなかったんだが、担当した試験官を恭弥が一発でノックアウトしたり、太一が足首を掴んでぶん回して投げ飛ばしたりしたせいで、彼はほとんど瀕死に近い状態になっていた。
ダメージを負う度にポーションとかいう小瓶に入った変な液体を飲んで回復していたが、僕はなんか老人をリンチしているみたいであんまりやる気が起きなかった。
最終的に狂喜乱舞した修が試験官を一方的に殴り始めた辺りで僕が止めて、試験官は涙ながらに僕らを合格にしてくれた。
そんな訳で早速ウェルザム大森林という場所に行ったんだが、そこで太一が毒に侵されるという事件が起きた。
魔物とかいう怪物が蔓延る未知の森で、僕らはどうすべきか悩んでいたんだが、そんな時に、僕らは双子の兄妹、ロイド君とノエルちゃんに出会った。
医者を呼んでもらうよう頼もうとしたんだけど、そこに二人の兄フューイ君登場。最初は僕らを誘拐犯だと思ったようだけど、丁寧に説明したら毒の効果を消すポーションという薬をくれ、おまけに今夜の宿も提供してくれた。
そんな訳で三人が住む村、カルファ村に到着したのだが、そこで僕は美の女神に出会った。
後光が差したような笑顔を浮かべ、素性の怪しい僕らを優しく歓迎してくれたその人の名はシャルフィーラさんといって、三人の実の母親らしい。
最初に聞いた時は驚いたのだが、三人の子持ちとは思わせないその肌艶や豊満な胸は僕の心臓を貫き、僕の情動を突き動かした。
だが、いいところでうちの頭でっかちが邪魔をしたせいで、結局アピールはうまくいかなかった。
何故かその後はシャルフィーラさんに会わせてもらえないわ食事が乏しいわで散々な一日だった。
異世界に来て二日目の朝、恭弥が村のおっさんに絡まれる事件が起きた。
なんでも村の中で起きている連続誘拐事件の犯人じゃないかと疑われてしまったそうだ。
そのおっさんはなんでも昨日の夜中に自分の大切な一人娘が攫われたそうで、フューイ君が言うには一触即発の状態だったらしい。
だが、うちのリーダーが村人如きに臆することなんてあるはずがなく、逆に威圧してしまう結果となった。
カルファ村を追い出されてしまうんじゃないかと焦りはしたが、幸いなことにフューイ君が僕らの無実を証言してくれたお陰で、疑いは晴れた。……と思っていたんだが、事態はそううまくいかなかった。
今日の夕刻、ロイド君とノエルちゃんが誘拐されてしまった。
僕がバーベキュー用の薪割りをフューイ君に頼んだことで、二人は大好きな兄であるフューイ君の傍、つまり外にいたんだそうだ。
そんなタイミングで事件は起きた。
周囲には人もおらず、いなくなる少し前まで楽しそうにお喋りをしていた。
だから、フューイ君も油断していたのかもしれない。
フューイ君が目を離してしまった僅かな時間で、二人は忽然と姿を消してしまったらしい。
訳のわからない話、聞けば百人が百人冗談だと思うだろう。
でも、確かな事実として、ロイド君とノエルちゃんの二人が見つかることはなかった。
すぐに辺りを捜索すべく村人達を集めたんだが、村人達は僕らが犯人なんじゃないかとか言い始め、僕らに敵意を向けてきた。
言い訳も難しい状況だし、僕は撤退した方がいいとも思ったんだが、恭弥はその場の空気を一瞬で好転的に変えてしまい、怒り狂う村人達を味方にしてしまった。
流石はうちの頼れるリーダーってところだよな。
二人を捜索するということになり、僕は捜索部隊を分けるよう恭弥に提案した。
女性陣で構成された村の中を捜索する部隊と、昨夜の件も考慮して戦える者達で構成された森を捜索する部隊。そして、不審人物を追いかけていった修を追跡する僕らを先頭にした三つの部隊だ。
それぞれリーダーを決め、僕らも王都に向けて出発した。
修が残していった手掛かりを追い、僕らはアルテンラ通りにある屋敷の前で修と合流した。
そして、僕らは強行的に屋敷の中へと入ったんだが、そこにはガラの悪い男達が多種多様な武器を持って待ち構えていた。
見るからに見た目だけの雑魚集団ではあったが、その数はかなりのもので、面倒なことになるのは目に見えて明らかだった。
そして、意外にも屋敷の主であるエルロッド・ディルマーレという名の男爵が、僕らを出迎えてくれた。
彼は一聞けば十も答えるお喋りで、わざわざ子ども達を使った取引のことや、誘拐した理由まで懇切丁寧に教えてくれた。
結局大規模な戦闘になったんだが、こちらの完全な圧勝で戦いは終わった。不思議な能力を使う敵も居たらしいんだが、その辺の詳しいところは本人達に聞いてくれ。
ちなみにこの時恭弥が怪我を負ったが、いつものことなので特筆する必要も無いだろう。
結果的に子ども達も助けられて万々歳なんだが、ここで一つ問題が起きた。
それは僕らの素性だ。
僕らはこの世界に強制的に連れてこられた際、国王相手に一騒動起こしている。
貴族っぽい良い服を着た奴らも中にはいたし、僕らが指名手配されている可能性はかなり高いだろう。
この世界の警察組織がどれほど優秀かは知らないが、用心に越したことは無い。
だから、僕らは自分達を人数不明正体不明の謎の連中として語ってもらうよう村の人達にお願いした。
最初は驚いていた村の人達も、誘拐犯とはいえ貴族を倒した以上、罪に問われかねないと伝えたらあっさり承諾してくれた。
とはいえ、あの馬鹿貴族を放置しておく訳にもいかないので、捕まっていた子ども達に衛兵を呼んで対処してもらうように言い含めておいた。
縛っといたし、今頃は衛兵に捕まっている頃だろう。
そして、カルファ村に帰った僕らは村総出で宴会をした。
恭弥が狩ったでかい狼の肉を使ったバーベキューは大盛り上がり。
今まで我慢し続けてきた太一もここぞとばかりに食らいつくし、村の男連中を三十五人抜きしたところで肉が無くなってしまうというハプニングまで発生してしまった。
あの量なら最低でも一週間は保つと思ったんだが……マジか……。
そんな訳で、僕ら『ステラバルダーナ』の長い一日は幕を閉じた。
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。
この小説の作者は基本的にやりたい事をやってみたい性格であるため、今回は出来たら次の日には投稿というアホみたいな事をしています。
その為、書きだめは無く、次話のアイデアも殆ど無いという実質ノープラン状態。結果、不定期更新となります。
こんな馬鹿な作者ですが、読者の皆様方には暖かい目で見守っていただけると幸いです。
もし続きが気になるって方がいれば、応援メッセージに「続きまだですか?」とでも送ってください。
※今回は第一章の締めとして、遥斗視点の日記を投稿することにしました。
このまま2章ってのも味気ないかなって思ったもので、せっかくなら章の終わり毎に書いていこうかなと思っております。
それと、一応閑話をこの後に1話投稿する予定です。あんまり時間はかからないかと思いますが、2章も気長に待っていただけると幸いです。




