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第6話:空腹だろうがなんだろうがかかってこいや!!(1)


 前回のあらすじ。

 解体屋で肉を受け取り、カルファ村へと帰る恭弥、遥斗、政宗の三人。

 しかし、そんな彼らの前にとある一団が現れる。

 彼らは自らを先輩の冒険者だと名乗り、新入りは先輩に貢ぐものだと恭弥達に告げた。

 そんな彼らが辿った末路。

 それは前回のあらすじのみ登場という悲しい結末であった。

 


 一滴の雫が暗く厚い雲よりゆっくりと滴り落ちた。

 その一滴の雫は何を思ってか、眼下にある緑色の床を目指し、ただひたすら真っすぐに落ちていく。

 そして、緑色の床にぶつかるかと思われた瞬間、湿った風がその雫を穴の中へと誘導した。

 だが、それでも雫が止まることはなく、偶然にもその真下を歩いていた青年の頭に激突した。

 一滴の雫だったものは青年の頭に当たったことで分裂し、更に細かな水滴となって、青年の頭に降りかかる。

 そして、その青年はふと上を向いた。

 木々の間に映った曇天の空を見て、青年は呟く。


「雨か……」


 伊佐敷遥斗(いさしき はると)はまだ湿っていない手のひらを上に向けるが、雨は当たらない。

 天気予報が見れないこの世界において、その日の天気は空を観察するしかない。だからこそ、遥斗は朝の空模様を見て、雨が降ることは無いと予想していた。

 だが、その予想は外れ、今にも雨が降ってきそうな模様を空は描いている。


「つくづく不便な世界だな……」


 文字も読めない。ポケットに入れていた携帯電話は圏外でインターネットすら使えない。おまけに日本では当たり前のように使っていたカードやお金ですら、この世界では使えない。

 ことごとく自分の中にある常識が覆されていく中で、この先どうすればいいのかという不安が無い訳ではない。

 だが、そんな不安は一日も経たず、消えていた。

 何故なら彼は一人じゃないからだ。


「おいどうした、遥斗? そんなところでボーっとして……なんか忘れもんか?」

「いや、雨が振りそうかなって思っただけだよ」


 幼少期の頃から仲良くしていた大切な友人である海原恭弥(かいばら きょうや)に対し、遥斗は素直にそう告げる。


「まじかよ。じゃあ急いで帰らないとな……てか、そこ危ないぞ?」

「は?」


 あまりにも危機感を抱けぬ声でそう言われても反応出来るはずがなく、遥斗は何故だろうかと後ろを振り向いた。

 すると、そこには緑色のチーターに似た魔物が今にも遥斗を喰らおうと飛びかかってきていた。

 天気に気を取られてしまい、周囲への警戒を怠ってしまったのだろう。

 魔物は遥斗のその一瞬の隙を見逃さず、丸呑みにせんとばかりに大口を開け、鋭い牙を尖らせた。

 だが、魔物の牙が遥斗に突き立てられることは無かった。

 遥斗が腕で顔を守ろうとした刹那の一瞬、静かな森に刀を引き抜く音が響く。

 そして、緑色のチーターは胴体を真っ二つにされた状態で地面へと落ち、天然の芝生を赤色で染めた。


「大丈夫でござるか?」


 刀についてしまった血を振り払い、刀を鞘に納めた須賀政宗(すが まさむね)は遥斗に向かってそう訊いた。


「ありがとな。でも、今度からはせめて人の側なら峰打ちとかでやってくれ……くそっ……買ったばかりなのに血が……」


 遥斗の服には当初無かったはずの赤い紋様がくっきりと残っており、その表情からは気落ちしているのがありありと伝わった。

 だが、助けてもらった恩がある手前、恨むつもりは無いようで、苛立つ様子は見られなかった。

 そんな遥斗を見て、政宗は快活に笑う。


「ハッハッハ!! それはすまぬでござるな。次からは気をつけるとしよう。それにしても、遥斗殿の天気予報は正確だな。まさか本当に雨が降るとは思わなんだ!!」

「雨は雨でも血の雨ってか?」


 政宗と恭弥は二人して快活に笑い始める。

 そんなくだらないことで笑い合える二人を羨ましいとは思いつつも、自分は絶対こんなジジイみたいな感性は持たないようにしようと心から思った遥斗はその止まっていた足を前へと動かし始めた。


「まったく、そんなくだらないこと言ってないでさっさと行くぞ!」


 首だけで振り返ってそう言うと、遥斗は再びその歩みを早くし始めた。

 そんな遥斗を見て、未だに笑い合う恭弥と政宗は共にその背にわかったと返事をし、目的地であるカルファ村へと再び歩きだした。


 魔物が蔓延るウェルザム大森林の中にはカルファ村へと通じる入口がある。

 王都にある安全な街道からでもカルファ村へと行くことは可能ではあるが、冒険者ギルドから向かうのであれば、まず間違いなくその入口が最短と言えるだろう。

 だが、当然人間を喰らうとされる凶悪な魔物も多く存在する為、危険な行為であることには違いない。

 ただ、彼らに関して言うのであれば、肉食の魔物ですら猫とじゃれ合う程度の障害にしかならないだろう。


「ようやく着いた……」


 カルファ村の入口ゲートの柱に手を当てた遥斗は疲労が溜まったのか大きく息を吐いた。

 傘を差しながら談笑に励む村人達の視線が、傘も差さずに服までびっしょりになっている青年へと向けられるも、すぐにそれは同情を感じさせる憐れんだ者へと向ける視線に変わる。

 だが、彼らだけは遥斗にその視線を向けなかった。


「なんだよ遥斗、この程度で疲れたのか?」

「修行が足らぬからその程度で息を切らすのだ」


 呆れるように遥斗を見る恭弥と政宗がそう告げた瞬間、何かが切れた音がした。


「うっせぇ馬鹿ども! キョウヤとマサムネが雑魚との戦いで物足りなかったからって余計な寄り道したせいで迷ったんだろうが!!」

「無事着いたではござらぬか」

「結果論で話してんじゃねぇよ!! てかこの格好のどこをどう見たら無事って思える訳?」


 恭弥と政宗の二人とは違い、遥斗の服はびっしょりと濡れていた。

 それは、ここまでの道中で雨が降り続けたからなのだが、恭弥と政宗は背負っているリュックが傘代わりとなった為、まったく濡れていなかった。

 そこまで強いものではなかった為、恭弥達と気にせず進んでいたのだが、二十分も歩けば雨の強さも次第に変わっていく訳で、今では傘が欲しくなってくる程の強さになっている。

 最初は雨で血が取れると楽観視していた遥斗も、流石にこの状況では笑えない。

 道中で他の冒険者と出会って親切にも道を教えてもらえたからなんとか辿り着けたものの、遥斗はこの原因となった二人に怒りを抱いていた。

 だが、そんな遥斗の心中を察せられない政宗は、呆れたように遥斗を見た。


「文句を言っておった返り血が取れたのだから良いではないか」

「そういう問題じゃねぇんだよ!!」


 怒鳴る遥斗とさも当然かのように持論を言い放つ政宗の二人をガン無視し、恭弥は大きく口を開けながら欠伸をした。

 そんな恭弥の目にこちらへと駆け寄ってくる人影が見えた。


「キョウヤさ〜ん!」

 

 恭弥の名前を大声で呼びながら駆け寄ってきているのは、傘を差したフューイだった。彼の手元には同じような傘が三本握られており、濡れた地面を大慌てで走ってきている様子だった。


「どうかしたか?」


 側までやってくるとフューイは膝に手をつき、乱れた呼吸を繰り返した。そんなフューイに恭弥は声をかけ、少し間が空いた後、フューイは恭弥に向かって傘を差し出した。


「外を見たら雨が降りはじめていたので困ってるんじゃないかと思って持ってきたんですが……もう手遅れだったみたいですね」


 遥斗を見て苦笑するフューイは、肩に提げていたバッグからタオルを取り出すと、傘と共に遥斗へと手渡した。

 遥斗はそれらを受け取ると、そのびしょ濡れになった髪をタオルで拭き始めた。


「ありがとう、助かったよ」

「いえ、仕事ですので気にしないでください。それよりもそんな濡れた服では風邪をひいてしまいます。着替えも用意しますので急いで宿屋へ戻りましょう」

「そうだね。……あっ、そうそうフューイ君に聞いとかなきゃいけないことがあるんだけどさ」

「はい、なんでしょう?」

「ツインヘッドウルフとかいう魔物の肉って捌ける?」


 遥斗がその質問をした瞬間、フューイは驚いたように目を丸くし、言葉を詰まらせた。


「えっと……ツインヘッドウルフってあのツインヘッドウルフですか?」

「他にも種類があんの?」

「あ……いえ、初心者冒険者と聞いていたもので……」

「よくわかんないけど多分フューイ君が想像しているのと同じだと思うよ?」

「そうなんですね。えっと……すいません。自分は料理とか出来ないんで無理なんですが、多分母なら可能だと思います。父が生きていた頃はよく魔物の肉が料理として食卓に並んだのですが、まさに絶品という他ない美味しさでした!」

「それは良かった。確かにシャルフィーラさんの料理は美味しかったし、これなら晩御飯も期待できそうだね。まぁ、僕としてはシャルフィーラさんさえいただければ、晩御飯なんていらないんだけどね」

「さっ、皆さん帰りますよ〜」


 キメ顔になってまで告げた遥斗の言葉を完全にスルーし、フューイはスタスタと速歩きで宿屋の方へと向かっていく。

 そんなフューイに遥斗は何か言いたげな視線を送ると、遥斗はゆっくりと政宗の方を向いた。


「流石にスルーは酷いと思わない? 僕なりに実の息子である彼と良好な関係を築こうと思っただけなのにさ〜。政宗はどう思うよ?」

「遥斗殿は人肉が食べたいのでござるか? 中々の偏食家でござるな」

「いや、別にそういう意味じゃないんだけど……」

「お前ら馬鹿やってないでさっさと行くぞ」


 フューイの後に続いて前を歩く恭弥にそう言われ、遥斗は未だに納得がいってなさそうな顔で渋々と宿屋の方へと歩き始めた。

 

 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。

 この小説の作者は基本的にやりたい事をやってみたい性格であるため、今回は出来たら次の日には投稿というアホみたいな事をしています。

 その為、書きだめは無く、次話のアイデアも殆ど無いという実質ノープラン状態。結果、不定期更新となります。

 こんな馬鹿な作者ですが、読者の皆様方には暖かい目で見守っていただけると幸いです。

 もし続きが気になるって方がいれば、応援メッセージに「続きまだですか?」とでも送ってください。 

 次回は久々の皆様ご待望の太一君登場回。

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