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15 お一人様はプレゼントをもらう

「……何だコレ?」


 新年の休日が明けるや否や、神殿の大祭壇は大量の荷物で埋め尽くされていた。


「え?一時的に倉庫にでもなったの?ここ?」


「全て巫女へのプレゼントですよ!」

 コリンが叫ぶ!


「え?え?どーして?」

 ここで八年生きてきて、こんなこと初めてだ。


「新年二日の、巫女の顔バレの所為です!」


 顔バレのせい?何故だ?

「あ!ひょっとして、私があんまり貧相だったから太らせなきゃ!っていう善意の使命感?」

「違います!」

「えーとね、じゃあ、時代は年増ラブになってて、若い巫女よりも安定感あってよし!的な?」

「違う!」

「あ、今度こそわかった!おばさん待ったなし巫女をお慰めするために……ガンバ!って意味でしょ!」

「違うわーい!」

 コリンに右フックを入れられて、思わず体を折る……。

「ゴホッゴホ、コリン〜!」

「ほんっとにこの人、自分の影響力わかってないから嫌になるよ……」


 コリンが怖い顔でブツブツ言うから面倒くさいなあと思ってると、同じく面倒くさそうな顔をした大神官様がやってきた。


「おはようございます。カルーア様」

「おはようございます。巫女とコリン。はあ、これは今日はここでの拝礼は無しですねえ。巫女様、これらの贈り物ですが、高価で送り主のわかってるものはこれまで通り返品いたします。で、食料ですが、ナマモノはありがたくいただくとして、それ以外は近隣の慈善団体にお願いして炊き出ししてもらいます」


 私はコクコクと頷く。

「で、大量の子供用品は、うちで必要なものをいただいたのち、やはり国中の孤児院や病院に分けてしまうよう手配いたします。よろしいですか?」


「はい、よろしくお願いします。ところで大量の子供用品って、何?というか何で?」


「ケンです」

「ケンかあ!」


 わかる!わかります!ケンを一度見た以上、着飾りたくなる気持ち!

 実はじっとしてられない、普通の八歳児なんだけどね〜!

 足元に積んである、高価そうなピンクの子供サイズのカーディガンを手に取ると、『天使様へ』と書いてあった。


「まあ政治的な意図が見えなければ、いただいていいのでは?実際子供用品ありがたいし、多分、一過性のものでしょう」


「了解いたしました。巫女様へのお手紙もたくさんきております。検閲させていただき、安全なものは後ほど巫女の部屋へ運ばせますが、危険なものは、こちらで対処しますので」


「危険なものって、カミソリでも入ってた?」

「もっと変態な感じですな」

「「へ、変態って……」」

 大神官様の変態発言に、コリンと二人、絶句する。


「そうそう、こちらをお渡しに参ったのです。これを検閲すれば、私の命が危ない」

 渡された手紙はサジークの印で封緘されていた。デュラン様だ。

「これも変態な感じ、だったりして……」


「ノーコメント」

「ノーコメント」


 げ、まさか、今の発言、ミトが報告しないよね?




 ◇◇◇




 パティオのベンチで手紙を読む。おや?今日は便箋二枚だ。最長記録!

 サジーク語の手紙は新年の挨拶にはじまり、ルクスを誘拐した主犯である現王の政敵をもう少しで追い詰められそうなことや、ルクスの様子を案じる王と王妃の言伝が書かれていた。


『ところで、巫女の顔がバレたらしいな。念のために言っておくが、あと二年で還俗することを不用意に話すな。私の指輪を常に身につけておくように。どんな高官であっても決して二人きりで会ってはならない。例え相手が()()()()()であっても。指輪を決して外さぬように。君は自分の価値がわかっていない』


 情報早すぎる。

 私の価値ねえ。よほどサジークかトリアでアパート経営させたいらしい。


『もうしばらくしたら君とルクスに会いに行く。私が一人の男として君を裏切らないと言ったことを決して忘れるな。鈍い君に一応言っておくがこれは紛れもなくラブレターだ。メモではない。愛を込めて。

  デュラン・トリア』


 コリンが私に手を出すので、ポンと手紙を載せる。デュラン様もわかっているから見られて困ることは書いていない。


「ふーんラブレターらしいですよこれ。かったい文だなあ」

 コリンもサジーク語読めるのか。やっぱりエリートだなあ。

「へえ、この文面硬いの?巫女だからわかんなーい!通常のラブレターってやつ教えてよー!」

 コリンにまた脇腹を攻撃された!神官長に言ってやる!


「トリア姓を名乗ってますね。ご自分が王子であることを記しておきたかったのでしょうか?」

「わからないわ。でも私たちが思い出したのはいいことよ。彼は他国の王族。無礼があってはならないわ」

「王子と結婚したら、マールもプリンセスだな?」

 コリンがニヤッと笑う。


「私の人生設計に王女はないわ。私もデュラン様も、あまりに足元が脆弱過ぎる。将来どうなってるかなんて全く見通せない」


 デュラン様はサジークに飼い殺され、サジークに骨を埋めるのか?それともトリアに戻るのか?

 私は巫女のあと、思い描いたアパートでの配当生活に入れるのか?それともまた政治のコマとして、どこかに放り込まれるのか?


 目の奥が痛み、指の腹でマッサージしながら、ため息をつく。


「神殿は……神官は、巫女が只人になりおばあさんになっても、あなたを敬うよ」

 目を開けるとコリンは思いの外真剣な顔をしていたので、

「ありがとう、コリン」

 素直にお礼を言った。



「巫女様〜コリン〜!」

 稽古あがりの子供たちがミトとともにやってきた。

「いっぱいプレゼントが届いてるって聞いた〜」

「美味しいお菓子がいっぱいあるって聞いた〜」


 私はしゃがんで子供たちと視線を合わせ、

「全部神殿のものではないよ。預かってるものもあるの。でもみんなの分で、今夜はパーティーしようか?」

「パーティー?」

「そう。みんな新年の行事の間、ずっとお部屋から出ずに我慢していたものね」

「ご褒美?」

「そう。ご褒美!」

「やったーあ!」


「じゃあ、巫女さんが夕方のお祈り終わるまでにお勉強とお手伝いと沐浴終わらせておくようにね」

「「「「はーい!」」」」


 俄然元気の出た子供たちは、走り去った。


「はあ、巫女は子供に甘すぎます!こんなんじゃ奉公先で辛いことがあった時耐えられない子供になってしまう!」


 そうなのだろうか?ついミトを見る。

「確かにコリン様のおっしゃることも一理ありますが……でも幼いころの仲間との楽しい思い出があることは、正直羨ましいですね」


 そう言ってミトは寂しそうに笑った。


「うーん、甘やかしすぎは良くないけれど、貴族の子供が手にしている物量と比べれば、大したことないよ?それに甘やかすのは私だけだし……仕事を始めたときに甘えるところがないから辛くなるのであれば、私が神殿の子くらいは生涯私のアパートを訪ねてくれたら甘やかしてあげるよ。それでいいでしょう?」


「はあ、もう、ああ言えばこういう、なんだから……」

 コリンがやれやれと頭を振る。


「あの、巫女様、将来お金を稼いだ暁には、私も巫女様のアパートに入居してもいいですか!」

「お、ミト早速甘えてきたね!いいよいいよ、可愛いミトのためなら一部屋空けとくよ!」

「ちょっと待て!ズルイ!私だって巫女のアパート住みたい!」

「独身男性は神殿に住むって決まってるでしょうが。あ、ミトに結婚してもらえばあ?私のアパート二人で住めるよ?」


「「け、結婚!!!」」

 私をデュラン様の件でからかった罰だ〜!と、思ってニヤリとしたら、二人とも顔赤い?あら?あらら?

 ひょっとして冗談になってない?

 若いっていいわなー!








今週末は続きを投稿しようか、即位の礼らしく明るい激甘新作短編載せようか、悩んでます。

(↑これから暗い展開なんで……)

とりあえず金曜更新予定です。


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