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14 お一人様は癒される

「巫女!」

「巫女様……」


 あまりの緊張にぶっ倒れた私をコリンが抱き上げ、ミトが重ねられた着物を剥いでいく。

 ようやくドレス一枚になったところで、コリンの胸に顔を押し当てられる。


「巫女様!マール!ゆっくり息をして!そんな慌ててはダメだ!背中の私の手がわかりますか?私の手を意識して……ゆっくり、ゆっくりゆっくり……」


 背中をコリンの手がゆっくりとさする。その動きを意識して、そのリズムで吸って、吐いて、吸って、吐いて……


「巫女様」


 ミトが水を持ってきた。コリンに支えられたまま、ゴクリと飲む。


「私……過呼吸起こしてたの?」

「巫女様……お見事でした」

 コリンが珍しく褒めてくれて、顔をあげると涙ぐんでいた。そうか、コリンは儀式の司会で表から全てを見ていたんだった。


 コリンは私をそっと抱き上げ、ソファーに座らせ、ミトが私のドレスの乱れを直してくれていると、バタバタと足音がして、テリー様が戻られた。


「て、テリー様、ケンは、ケンにお咎めは?」

「大丈夫です。今、大神官様が王を見送っておられます。行事を妨げたケンに対する怒りなどなく、今後とも神殿と友好な関係を築いていきたいとおっしゃられました」


「よかった……」

 私は膝に肘をついて両手で顔を覆った。


「テリー様……過去例のない大失態ね。申し訳ありません……」

「巫女様のせいではありません。巫女様が憂いなくお勤めできるよう、抜かりなく準備するのは我々の役目なのです」

 テリー様はゆるゆると首を横に振り、ふう……とため息をついた。


「他に切り抜ける方法……あったのかもしれない……」

「いえ、巫女様の行動が最善でした。あとは我々にお任せください」


 私は頷いてのっそりと立ち上がる。


「化粧落としたいし、早く寝たいから、まだお日様高いけど、泉で祈ってくるわ」




 ◇◇◇




 冬の泉は所々氷が張っている。だが八年もその水にひたれば徐々に身体は慣らされて、冷たい……と思うだけ。

 一気に頭の先まで浸かり、立ち上がれば、何故か私の身体は清められている。化粧もどこにも残っていない。

 そのまま平泳ぎで滝に向かい、平たい石の上で祝詞を唱いあげる。祝詞は20種類ほどあって、八年目選手の私は当然暗記済み。今日は一番短い二十分コースを朗々と奏上し。一礼して、パシャっと背中から、泉に落ちて、浮かぶ。


「疲れた……」

 頭上で枯葉がサラサラと舞う。

「神さま〜!巫女ってただ祈るだけでいいはずだよねえ?、何でこんなにあれこれ起こって、気を使う羽目になるの〜!」


 返事があるとは思っていない。

「あ〜マッサージ行きて〜!」


 私はバシャバシャと寒中水泳して、泉から上がり、奥祭壇でも手短かに祈って、自分の部屋に戻って寝た。





 ◇◇◇




 もにゅ、もにゅ……


 何かが私のお腹の肉を揉みだしている……もにゅ、もにゅ……

 あまりに疲れすぎて、目を開けられないけれど……何かが私の体を這い回って……まさかオバケ?

 いやいやいやいや、ココ、国で一番清浄な場所!で、私、巫女!

 でも…………ええええ?揉み出される場所が増えた!前回神殿全域使って肝試し大会したこと、神がいよいよお怒りになったとか?


 もにゅ、もにゅ、むにょ、むにょ…………

 金縛りよりも怖いよ!


 恐る恐る目を開ける。

 私の腹の横に光る目が4つ!!!


「ぎゃああああああ!!!」

「「うわああああああ!!!」」


「み、巫女さまー!!!」

 灯りを持ったコリンが飛び込んで来た!


「え?」


「巫女様!」

「どったの?巫女様!」


 ベッドに乗り上げ、可愛いお手手で私のお腹を掴んでいる、双子が、コリンの灯りを眩しそうに眺めていた。







「えーーっと、どういうことかな?」

 私の私室は双子とコリンとミトと神官長テリー様でぎゅうぎゅうだ。


「だって、今日俺失敗しちゃったからさ、挽回しようと思って!」

 とケン。

「巫女様、泉で『マッサージしてほしいよー』って言ってたでしょ?だからケンのお詫びに二人で来てモミモミしてたの!」

 とマイ。


「ちょい待ち!マイ、泉について来てたの?」

「うん!」


「コリン!ミト!お前ら何子供に出し抜かれているんだ!」

 テリー様が思わず声を荒げる。


「申し訳ありません!ただ私は悪意に敏感に反応するように訓練されておりまして、この子達の気配を感知することは難しく……」

 と、ミトが濡れた頭を下げる。沐浴中だったようだ。


「いえ、今回は完全に私の失態です。ミトは休憩中で、私がお守りする時間だったんです!おい、ケン、マイ!どうやって巫女様の部屋に入った!」

「天井から!」

「巫女様驚かそうと思って!」


「……うん、巫女さん驚いちゃったなー!もうビックリ!」


 テリー様が頭を抱える。

「外敵ばかり念頭にありましたが……内部に入り込まれると、いかに守りが弱いか、新年早々露見した格好……」


 ミトが恐る恐る手を挙げた。

「あの、さはさりながら、この二人、才能があると思うのです。これだけの美貌がありながら、今日、誰にも気がつかれずにバルコニーに入り込めたことからいって……」

 双子には忍者の才能があるらしい。

「……まあ、二人の希望を聞いて、そっちの才能を伸ばすかどうか、夜が開けてから検討しましょう」


 大人四人は申し合わせたように、はあぁとため息をついた。


「なあ巫女さまあ?」

「なあに、ケン」

「モミモミ、気持ち良かったか?」

 そうだった。ケンは小さな頭で必死に罪滅ぼしを考えて、忍んできたのだった。

「気持ち良かったけど、せっかくなら起きてるときマッサージしてよう」

「だって、起きてる時は、巫女様お仕事と、ルクスのお世話で忙しいんだもん」

 マイが口を尖らせて言う。


  ……そういうことか。優しい子たちだ。

「ケン、マイ、ありがとう!大好き!巫女さんとっても元気になったよ!」

 私は二人を抱き寄せ、ほっぺにキスをした。

「巫女様大好き!」

「お、俺も!」


 二人がギュッと抱きついてきたので、

「テリー様、コリン、ミト、今日はこの美人二人に挟まれて寝ることにします。お騒がせしてごめんね。続きはまた明日にしましょ?」


「え、よろしいのですか?」

 テリー様に聞かれるが、

「うん、なんか人恋しいし、逆にご褒美よ」

 思ったより、かつての友人に会って久々に俗世に触れて、私は衝撃を受けてるのかもしれない。


「二人とも、すぐ寝るんだよ?巫女様を困らせるんじゃないよ?」

 コリンが声をかける。

「「はーい!」」


「案外子供たちの方が、巫女様を良く見ているということか……おやすみなさいませ巫女様。ケンマイ、おやすみ」

テリー様が頭を下げる。


「「「おやすみなさーい!」」」


 三人がそっと部屋を出た。




 ケンが、

「昔お父ちゃんとこうしてひっついて寝てたんだ!」

 と言って私の体に腕を回す。

「私はお母ちゃんとこうして寝てたの」

 とマイも言いながら、足を私の足に絡める。


 私はついぞ両親と寝るなんてことはなかった。

 ああ、でもお姉様と、今日のように寒い夜……


 じわりと涙が浮かぶ。本日私は弱っているのだ。

 寝よう!私は男らしく?両手を伸ばし、二人を腕枕した。三人ともすぐに寝た。


 翌朝、心身ともに疲れは取れていたけれど、私の両腕は当然痺れていた。








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