8 天使はアンドロイドの夢を見る
1月16日(水)
3学期が始まって、1週間。
円城が留学に出て、もう20日以上になる。
部活は人こそ集まっているが、どうもテンションが上がっていない。
文化祭という目標があり、その後も校外のコンクールに出展している二学期と違い、3学期はそもそもイベントが少ない。校内向けの部誌を作る以外は、来年の新入生歓迎準備などが主な活動になるが、時間にまだ余裕がある。
部員たちは、比較的まったりした空気で活動している……誰にもましてバイタリティのある部長が不在、というのも大きい。
「みなさん、こんにちはー」
教室前の壇上で、シャーロットが挨拶を始めた。
◇
職員室を出ようとしたら、どこに行くか聞かれたので、創作部、と答えた。
すると、シャーロットがそのままついてきた。
「わたしも、ジャパンのサブカルチャー大好きです」というのだが、本当かどうか。
先週深夜の一件以来、なんとなく彼女の存在を拒みにくくなっている。
「アニメ、ゲーム、あと、プラモデル。どれも大好きですヨ」
生徒への挨拶を聞いていると、日本のサブカル好きというのもあながち冗談ではないらしい。有名どころのアニメは一通り。SFやファンタジー系のゲームも一通り知っている。
ゲームに強い部員たちが解説してくれたところによると、高度な3D技術などを使った最先端ゲームは、今は米国製が圧倒的に強いのだそうだ。
そういう本場のゲームだけじゃなくて、シャーロットの趣味はずいぶん「オタク」寄り……アメリカ人があえて、低予算で作られている日本のオタク向け作品にまで目を向けているのは、とてもレアなことなのだ、という。
◇
「ミスシャーロット、特に好きなのはどんな分野ですか」
創作部員たちがシャーロットを囲んで、わいのわいのやっている。
生徒の中にあっても、シャーロットは咲き誇るように華やかだ。輝くような存在感……対抗できたとすれば、一人だけだが、あいにく留守中だ。
「ワタシ、萌えも好きですが、ジャパニーズSF、メカニック、ロボット、大好き。サイコーです」
残念だが、女子ばかりのうちの部で、そっちは弱い。
「あんまり大好きで、大学でもロボットとか、AIとかばっかり勉強してまシタ」
身体を機械に置き換えたサイボーグや、人間と見分けの付かないアンドロイド……人と機械の混沌とした世界がシャーロットのどストライクという。
部内では1年生の橘が比較的、親和性が高かった。
彼女は嗜好がボーイッシュな見た目に近い、というか、男子が好むようなメカメカしいものが大好きだ。レジンクラフトでも、大量に歯車などを入れ込んで、スチームパンク風の小物を作りまくっていた。
「ミスシャーロット、大学ではAIとかでどんな研究してたんですか。自律歩行兵器とかですか」
――大学がリアルでそんなものを作ったらまずいだろ。
「うーん。そういうカッコイイのも好きですけど、大学がイヤがるので、研究は可愛いのやってました。友達トカ、ペットトカ、人と仲良しスルを応用した方が、きっと歩行兵器も作りやすいでス」
にこやかに、さらっと恐ろしいことを言う。
橘が好んで描くサイボーグ少女、もしくはアンドロイド少女、といった趣のイラストをシャーロットがじっくり眺めて目を細めている。橘と、二言、三言感想や意見を交わしている。本当にこういう方向が好きらしい。
自分の作品をじっくり見てもらえて、橘はご満悦である。クオリティは全部員で見ても3本の指に入るくらい優れているのだが、どうしても、趣味を共有してくれる部員が少ないので、普段はちょっと寂しそうなのだ。
「……機械で心を作るって、結局、人の心の研究なんです」
橘の作品でも特にインパクトのある一枚――壊れて動きを止めたアンドロイド少女を人間の少女が抱きしめる一枚を見つめながら、シャーロットが呟いた。




