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【書籍化】辰巳センセイの文学教室【ネトコン受賞】  作者: 瀬川雅峰
二章 羅生門の時間_2017年4月編
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14 体育祭 お祭り気分とギターの響き【Webのみ】

 6月9日(金) 体育祭当日 朝9時


  よく晴れた。

  生徒が外に椅子を運び出している。


 体育祭は、学校全体を紅白チームに分けて争う。

 体育委員会が紅白は毎年恒例のくじびきで決めた。

 今年は1~3組が白組、4~6組が紅組である。


 夏の暑さが本格的に始まる少し前の季節。

 とはいえ、快晴で朝の9時ともなると気温も上がってきている。タオルと飲料、紅白のはちまきと、各自の椅子をもった生徒が、少し汗ばみながら校庭へぞろぞろと出てくる。

 体育委員は早朝から忙しく準備に走り回っている。


 朝礼台に立って、マイクで生徒の流れに声をかける。トラック外側の向かって左側に白組、右側に紅組の観戦ゾーンがある。

「1年生は、一番奥、この台の正面あたりになるから、急いで移動しなさい!」

 暑くなりそうなので、早め早めの運営で、外にいる時間を少しでも減らさないと危険だ。


  ◇


 午前中の競技はつつがなく終わった。

 お弁当を食べ、全体はほどよくお祭り気分になっている。

 昼休み後半は、お祭り気分を盛り上げる部活対抗リレーがある。


 最初のレースは体育系部活による「かなりガチ」なレースだ。

 毎年やっている恒例行事なので、

「今年は負けねぇ。うちがとる!」

「バスケ部期待してくれよ。今年は福井以外も速いの揃ったから」

「うちが勝ったら今度の練習んとき飲み物1本な」

「どうせなら学食一回賭けようぜ」

……部員同士も仲良くやっている。一部の会話は……聞かなかったフリをしておこう。


 バトンは競技にまつわるものなので、球技系はボールが多い。

 サッカー部は、ドリブルしながら、という話もあったが、体育委員が真面目に話し合った結果、やっぱり危険――そりゃそうだろ――という結論になった。ボールをラグビーのように抱えて走るそうだ。

 陸上部にいたっては、負けたら練習で大変なメニューを課される決まりになっているらしい。部員の目がやけに真剣で、なんか不憫だ。


  ◇


「位置について!」


 生徒指導部の前田先生の大きな声が響く。

 ピストルが空に、パーン、と高く乾いた音を立てた。


 各部のユニフォームを着込み、それぞれのバトン代わりのアイテムをもったランナーが一斉にスタートした。体育系主体のレースに参加しているのは、10チーム。


 勝ち目がないのは覚悟の上で、竹刀をバトンにして道着、袴、防具のフル装備で走り、次のランナーに面や胴打ちを決めて交代にする剣道部。バトンを渡すかわりに走ってきたランナーに投げ技をかけるのが伝統になっている柔道部など、レース中盤からは、かなりお祭り要素が勝ってくる。


 ラグビー部はバトンこそボールだが、最後のゴールは待ち受ける生徒が走者にタックルして一緒に転がるお約束だ。


 勝たねばならない陸上部や、対抗する気満々のサッカー部や野球部、バスケ部は、そうしたお遊び感と無縁のデッドヒートを繰り広げている。ボールを運ぶ関係でどうしても不利なのだが、それでもサッカー部、バスケ部あたりは陸上部に追いすがっている。


 結果、今年は陸上部がリードを守り切って1位でゴール。

 紅白戦のポイントに関係ないお遊び競技なのだが、陸上部員が本気で喜んでいる――顧問からよほど恐ろしい条件を出されていたらしい。チームの団結は大いに強まったようで、それはそれで悪くないのかもしれない。


  ◇


 第二戦、次は文化部中心のレース。勝ちにいくチームは少ないので、いかに目立つかの勝負になる。

 我らが漫イラは、スケッチブックにイラストを描きながら……それをバトン代わりにして、一枚の絵をリレー形式で描きながら走っている……なぜメイド服なのかは顧問の俺もわからないが……当然、速くない。


 このレースの一番目立ちは、軽音楽部だった。

 エレキギターをバトン代わりにして走っている。アンプがないまま、かき鳴らしているので、ほとんど音は聞こえないが、不思議なパフォーマンスになっている。


 ――よくこんな砂ぼこりの中にエレキなんて持ち出したな。

そう思って、傍らで観戦していた1年生――軽音部に入部した男子――に話しかけた。

「部の機材、砂まみれにして平気なの?前田先生、怒んなかった?」

「あれ、横山先輩の私物なんですよ」


「横山の私物?」

 ちょっと驚いた。


「前田先生、砂が入るからグラウンドに機材なんてもってっちゃダメだ、って許可してくれなかったんです。そしたら横山先輩、自分のギター持ってきて 『これならいいだろ』 って」

「それは、たいした気合いだな」

「横山先輩、目立つことには、いつも本気なんで……」


 素肌に革ジャン姿のアンカー、横山が自前のギターを受け取った、と思うと、走り出す様子がない。

 何事かと思うと、おもむろにケーブルを取り出し、ギターとアンプを接続した。アンプをたすきがけにして、背中に背負っている。


 バトンを受け取った場所で、いきなりエレキギターを思い切りかきならず。

 

ぎゃっぎゃっぎゃーん

ぎゃっぎゃっぎゃっぎゃーん


誰でも一度は聞いたことがあるイントロから、ハデなアドリブに移行した。


ぎゃーんぎぎゅぎゃぎゃぎゃぎゃぁぁぁぁぁん

ぎゅぎゅぎゅぃぃぃぃぃん


バッテリー駆動の小型アンプとはいえ、最大出力にすればそれなりに音は出る。

エレキを弾きまくりながら、マイクなしでシャウトしながら走るアンカー横山のインパクトは大したものだった。観客席からも、大きな歓声が上がっている。


「あれはビジュアル系……なのか? なんか、あそこまでいくと、あっぱれだな」

「先輩、いつも元気なんで、男女どっちからも結構人気すよ。前田先生にマジで怒られてもぜんっぜんメゲないし」


――ただの馬鹿なんじゃないか? と言いたくなったが、黙っておいた。



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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱりdeep purple! 昔、兄貴がリッチー・ブラックモアのファンで、あのフレーズは散々聞かされました。 横山くん、渋い選曲だな……
[良い点] おや?このリフは……。 スモーク・オン・ザ・ウォーターですか?
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