不自然な場所
何かがあるのは分かるのだが、その肝心の何かが何であるのかが分からない。
現状を言葉にするのであれば、そんなところか。
そしてその思いは、アキラがクロエを見つけたという部屋へとアレン達が辿り着いた瞬間、さらに増すことになった。
何かが見つかった、というわけではない。
その逆で、何もなかったのだ。
そう、アキラが破壊したという床の穴などはそこになく、やはり傷一つ付いていない石造りの床だけが、そこには広がっていたのであった。
「んー……とりあえず、この部屋で間違いないんだよね?」
「ああ、間違いねえ。そもそも、ここまで広い部屋なんてここ以外にはないはずだからな」
「確かに、他の部屋はここまで広くないもんねー。まあだからこそ、隠し部屋なんてものがあったんだろうけど」
「そういえば、ここってオメエらが作ったんですよね? なのに、オメエは隠し部屋を見つけたとか言ってたですが……」
「あー、うん。正確に言えば、アタシ達がやったのって、拠点を作るために穴を掘り進めたのと、材料の運搬、あとはちょっとした加工ってとこなんだよねー。部屋そのものを作るのには関わってないんだ」
「……クロエ達が部屋を作るのを手伝おうとしたら、その辺穴だらけになる」
「まあそうだねー。それが分かってたからこそ、アタシ達は力仕事以外やらなかったわけだし」
そんなことを話しながら、部屋の中を進み、時折床を叩く。
反響する音や感触から考えると、どう見てもただの石だ。
放っておいたら勝手に穴が塞がるような、不思議素材が使われているようには思えない。
そのまま、クロエを見つけたという隠し部屋があったという場所まで歩き――
「――ちょっと下がってろ」
そう言った直後、アキラはその手に聖剣を構えていた。
大上段に振り被っているのを見れば、何をしようとしているのかは明らかだ。
その姿を見てアレンが驚くことがなかったのは、何となくこうなるような気がしていたからである。
他の皆もそうなのか、誰もアキラの行動に口を挟むことなく、少しだけ後ろに下がった。
「アキラ、やりすぎないようにね?」
「分かってんよ。ちょっとだけ床石をぶっ壊すだけだから、な!」
言葉と同時に剣が振り下ろされ、轟音と共に地面が爆ぜた。
床石が粉々に砕かれ、その奥にあったものが明らかとなる。
それは、剥き出しの土だ。
話に聞いていたような隠し部屋など、影も形も存在してはいなかった。
「さっきも似たようなこと聞いたけど、場所に間違いは?」
「さすがに正確な位置まで覚えちゃいねえが、この周辺だったことは間違いないはずだ。少なくとも、かすりもしないってことは有り得ねえよ」
「……つまり、戻った?」
「って考えるのが無難なんでしょうねえ。隠し部屋とは言っても、要するに床の下を掘り進んでただけなんですよね?」
「うん。ある程度まで深く掘り進めたら、その後横に掘り進めていって、最終的には上に向かって掘っていってそのまま外に出るつもりだったんだけどねー……」
「その前にアキラが襲撃してきた、と」
その辺のことは以前にも聞いたので割愛する。
ここで重要なのは、掘っていたはずの穴が消えた、ということだ。
魔物の死体が跡形もなく消え失せ、アキラが壊したはずの地面が元通りになっていたように。
一体何が起こったのかと言えば、ミレーヌが口にした通り、ということなのだろう。
つまりは、元の通りに戻ったのである。
「復元系……ギフト――いや、悪魔の力、か?」
「だろうね。単純な修復だと、魔物の死体が消えてることの説明が付かない。この拠点そのものが復元の対象になってて、傷が付いたりすると、時間経過によって周囲を巻き込んだ復元を起こす、ってところかな?」
簡単に言ってはいるが、かなり高度なものではある。
復元ということは、時間への干渉ということだからだ。
物を直しているのではなく、正常な時にまで時間を巻き戻すことにより、結果的に物が直る。
その仕掛けがこの拠点全体に仕掛けられているのであれば、アレンには出来ない、とは言わないが、やろうと思えば相当消耗してしまうに違いない。
無論、実際にその場面を見たわけではないので、他の何かである可能性もある。
だが状況から考えれば、その可能性が高いのだ。
この手のものは制約が厳しく、生物に対して使用するのは不可能と言われている。
それどころか生物がその場に存在するだけで、時間の巻き戻しは発生しなくなってしまうほどだ。
しかし、死体となった魔物は既に生物ではなく、物である。
だから巻き戻しが起こり、傷と共にその死体は消え失せた。
傷が付く前の時間に、その死体は存在してはいないからだ。
物が移動してきた、とかならばそのままだっただろうが、その時点で死体は魔物という生物だったのである。
生物に対して時間の巻き戻しは不可能であるため、死体が消えるという結果だけが残った、というわけだ。
隠し部屋に関してはもっと単純である。
クロエの話によれば、クロエはちょくちょく隠し部屋に行って少しずつ穴を掘り進めていたという。
そのため時間の巻き戻りが起こる事はなく、クロエがいなくなったので巻き戻った。
それだけのことだ。
ただ、少々気になることはあるものの……まあ、とりあえずはいいだろう。
一つ確かなことは、本当にここにそういった仕掛けがされているというのであれば、悪魔達はよっぽどこの拠点を作り上げるのに力を入れていたということだ。
使い捨てとするような拠点のために、わざわざそんな大層な仕掛けをすることはあるまい。
「ここから攻め入ることで、本気でアドアステラ王国を滅ぼすつもりだったのかもしれねえですね」
「……アキラのお手柄?」
「さてな。悪魔共をしっかり倒せてりゃあそう言えたかもしれねえが、逃がしてるんじゃあな。少なくともオレは胸張ってそう言えねえよ」
「アタシとしては、結果的にとはいえ、助けてくれたってことだけで十分なんだけどねー」
「それにしたって、オレが悪魔共を倒せてりゃお前の仲間達も一緒に救えてたわけだろ? やっぱり全然足りてねえよ」
それは謙虚さから来るものではなく、本心からそう思っているようであった。
さすがは勇者……否、アキラといったところか。
この程度の成果では、満足には程遠い。
そんな言葉が聞こえてくるようで、アレンは苦笑を浮かべた。
「ま、とにかく、色々と改めてしっかり調べてみる必要はありそうだね。これまた最初からそのつもりではあったけど、何かがあるのはほぼ確実だろうし」
「悪魔がいなくなったにも関わらず、復元って現象が起こってるのなら、そのために必要な力がどっかから供給されてるはずですしね。ただの残りカスなら問題はねえんですが……」
「……そうじゃなかったら問題?」
「一旦捨てたように見せかけてここに戻ってくる可能性が高いっつーことだからな。まあそれはそれで望むところだっつーか、手間が省けることではあるんだが」
「ただその場合、皆もここに戻ってくるのかは分からないんだよねー。アタシ達って拠点を作るために連れてこられたわけだし」
「その時は悪魔共から居場所を聞きだしゃいい話だろ? ま、どうなるかはまだ分からないけどよ」
そんなことを話しながら、その場を見渡す。
とりあえずは、ここの調査からか。
最も大きい部屋ということは、相応のことに使う予定だったということだ。
クロエ曰く、ここには色々な物があったという話であるし、アキラの襲撃が突然であった以上は、その全てを退避できなかった可能性もある。
アキラが調べた限りでは、他に隠し部屋のようなものはなかったとのことだが、通常の手段では分からないようなところに隠されているかもしれないのだ。
そしてそういったものを調べる事が出来る人物が、この場には三人いる。
ならば問題はあるまい。
むしろ問題は、本当にそういったものがあるのかどうかだ。
さて、本当に見つかればいいのだけど、などと思いながら目を凝らすと、アレンはその場を見つめるのであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
皆様の応援のおかげで今月の十日に書籍版第二巻が発売となりました。
今回は加筆修正に加え二万字ほどの書下ろしもしていますので、よろしければ手に取っていただけましたら幸いです。
それでは、今後ともよろしくお願い致します。




