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死の騎士団

 昼食を食べ終えたアレン達は、すぐさま再び出発することとなった。


 カーティス曰く、今乗っている馬車は黒狼騎士団の使用している馬車と性能的には大差ないだろうということではあったが、それでも二日以上遅れてしまっているのだ。

 のんびりしている余裕などはなかった。


「ところで、そういえばアンリエットって皇帝暗殺の主犯として捕まったって話だけど、具体的にはどれぐらいの罪になるの? 助けるって言われても、それによって色々と変わってくると思うんだけど」

「それが……実は僕にもその辺のことは分からないんです。僕が見たのは、姉さんが黒狼騎士団に捕らえられるところだけでしたから。そもそも姉さんが皇帝暗殺の主犯として捕まったというのも、厳密には僕の推測です。彼らがそのために動いていたことを考えれば間違いないとは思うのですけれど……」

「あれ、そうなの?」


 助けを求めるぐらいだから、てっきりその辺のことは分かっているものだとばかり思っていたのだが、そうではなかったらしい。


 だがそうなると、何故助けを求めてきたのか、ということになる。

 捕まるということは確かに一大事ではあるが、罪次第では一年程度で出てくるとか、それ以下の可能性だって有り得るだろう。


 助けるとということは、こちらも相応のリスクを負うことになるが、何よりもリスクを負うこととなるのはアンリエットだ。

 下手をしなくとも帝国内にはいられなくなるだろうことを考えれば、助けない方がいい状況というのだって有り得る。


 もっとも、本当に皇帝暗殺の主犯として捕まったのであれば、その可能性は低いとは思うが――


「……そうですね、確かに助けない方がいい、という可能性はなくもありません」

「って言いながらも、実際には有り得ないって言いたそうな顔してるわよ?」

「はい。そう思ってますから」

「それは何故ですか?」

「姉さんを捕らえたのが、他でもない黒狼騎士団だからです」

「……それの何が問題?」

「そう、ですね……色々と問題はあるのですけれど……やはり一番の問題は、あの騎士団が死の騎士団と呼ばれているから、でしょうか」


 随分と物騒な名前が出てきたが、それはアンリエットから聞いてはいないものであった。

 何故だろうかと首を傾げるも、その理由はすぐに判明する。

 言う必要がなかったからだ。


「彼らは表向き精鋭部隊ということになってはいますけれど、実際にはその構成員は全て死刑囚から成り立っています」

「死刑囚、ですか? それは……精鋭以前に騎士団として成り立たないような気がするんですが……」

「実際成り立ってなかったみたいだものね」

「そう言った言い方をなされるということは、どこかで遭遇を?」

「……ちょっとだけ?」

「そうでしたか……同じ帝国人として謝罪いたします。申し訳ありませんでした。けれど、彼らが特別であって、他の騎士団の方々は素晴らしい方ばかりなのです」


 そう言われても皆が微妙な顔しか出来ないのは、あの男のことを聞いていたということもあるだろうが、何よりも帝国の騎士団ということは敵国の兵でしかないからだろう。

 素晴らしいと言われても、素直に受け取ることは出来ないのだ。


 カーティスもすぐにそのことに気付いたのか、苦笑のようなものを浮かべると、申し訳ありませんと気まずそうに頭を下げた。


「え、っと……そう、黒狼騎士団が騎士団として成り立っているか否かについてですけれど、実はこれは意外と成り立っているんです。そもそも死刑囚の全てが黒狼騎士団に送られるわけではありませんから」

「でも、正直僕が知ってる人物は、騎士団として行動できてるとは見えなかったけど?」

「それは……きっと彼にも何か事情があったのだと思います。それに、元々黒狼騎士団が送られるような任務は、大半の場合最低限の規律さえ守れていればそれで問題はない、といった状況だと聞きます。その、こういった言い方をするのは失礼だとは思いますけれど、皆さんの場合は運が悪かったのではないかと」

「巻き込まれた側としては運が悪かったで済まされるのは納得がいかないのだけれど……でも、直接巻き込まれたわけでもないのだから、あたし達があまり言うのもあれかしらね」

「そうですね……文句を口にする権利があるのは、彼らだけでしょう」

「ともあれ……しかし、彼らが死の騎士団と呼ばれている所以は、彼らが死刑囚だから、だけではありません。むしろどちらかと言えば、ついででしょう」

「……死刑囚なのが、ついで?」

「はい。彼らに与えられる任務は、基本的に死が前提となっているものばかりです。危険だというばかりではなく、失敗した場合、もしくは成功してさえ、死を以て贖わなければならないような、そういった類のものです。一度の任務における死亡率は八割とも九割とも言われ、彼らが精鋭と呼ばれるのも、建前というよりは、そんな任務を乗り越えられる者しか生き残れないからです。それでも、一年以上生き延びる事が出来た者は、今のところ二人しかいないそうですけれど」


 その前には死しかなく、そもそもが死ぬことを前提として作られたのが黒狼騎士団である。

 故に、死の騎士団、ということらしかった。


 そしてアレンがその名を聞いた事がないのは、単純にそこまでの話の全てを聞いていたからだ。

 敢えて仰々しい名を告げる必要はないと、きっとアンリエットがそう考えたからこそ耳にする事がなかったのだろう。


 実際あの時聞く必要があったかと言えば、なかった名である。

 逆に言うならば、カーティスがその名を口に出したのは、この状況ではそうする必要があったからであった。


「そして、彼らが死の騎士団と呼ばれるのには、もう一つ理由があります。それは……彼らが死を届けるからです」

「死を、ですか……?」

「はい。彼らが捕らえた者は、その全てが何らかの形で死を迎えています。死罪となったり……獄中で不自然な死を遂げることとなったり。だからこそ彼らは恐れられてもいるのですけれど……」

「なるほど……だから、詳しいことは分からないけれど、あたし達に助けを求めた、ということなのね」

「……結果は、変わらないから?」


 その通りだと頷くカーティスの姿を眺めながら、アレンは目を少しだけ細めた。


 一応ここまでの話に不自然なところはみられないし、辻褄は合っている。

 幾つか気になるところはあるものの、それは少しずつ確認していけばいいだろう。


 とりあえずは、話を進める意味はありそうだった。


「アンリエットを助ける必要がありそうだっていうのは分かったし、そこに異論はないんだけど、具体的にどうするとかは決めてるの?」

「それが……お恥ずかしいのですけれど、今のところは何も。まずは帝都行き、情報を集めてからと考えてはいるのですけれど……」

「そっか……あ、じゃあ、今のうちに言っておいた方がいいかな? 僕のことは戦力としてはあまり数えない方がいいって。僕のレベルって1だからね」


 そう言った瞬間、お前は一体何を言ってるんだとばかりにリーズ達から半目を向けられるが、嘘は言っていない。

 それに後々のことを考えればあまり派手にやるべきではないし、何があるか分からない以上はなるべくならば手は隠しておくべきでもある。


 無論必要とあらば躊躇うつもりはないたが、色々と不透明な現状、こちらのことはあまり明かすべきではないだろう。


「……なら、あたしのことも戦力とは数えない方がいいって言っておくべきかしらね。森の中ならばそれなりに役立てる自信があるのだけれど、帝都にはさすがにないでしょうし」

「戦力としてならば、わたしもそうなりますね」

「……同じく?」


 言いたいことはありそうだが、異論もなかったのか、リーズ達も次々と同意を示した。

 ノエルはそこそこ戦えるはずだが、森の中を比較対象とすることで上手く誤魔化し、リーズとミレーヌは実際に戦闘能力はあまりないのでやはり嘘を言ってはいない。

 ミレーヌは戦力として数えられないだけで、戦う手段がないわけではないのだが、その辺のことは話す必要がないことだ。


「そう、ですか……いえ、問題ありません。僕も戦うのはからっきしですし、あまり派手なことをするつもりは最初からありませんでしたから。何よりも、手伝ってくれるというだけで心強く、十分です」


 カーティスはそう告げてはきたものの、顔が僅かに固いのは、果たしてどういった理由によるものか。

 考えすぎならば、本当にそれが一番なのだが……さて、どうなることやら。


 相手には気取られぬよう気をつけつつ、そんなことを考えながら、アレンはさらに話を進めていくのであった。

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●TOブックス様より書籍版第五巻が2020年2月10日に発売予定です。
 加筆修正を行い、書き下ろしもありますので、是非お手に取っていただけましたら幸いです。
 また、ニコニコ静画でコミカライズが連載中です。
 コミックの二巻も2020年2月25日に発売予定となっていますので、こちらも是非お手に取っていただけましたら幸いです。

― 新着の感想 ―
[一言] 全員死刑囚なら騎士としての権限なんか与えんと最前線に常駐させておけとw 平時はひたすら魔物討伐させておけとw 折角死んでも年金出す必要ない戦力なんだから酷使酷使酷使 使い潰そうぜ。それが「…
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