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推しから溺愛される義妹に転生しました  作者: 和執ユラ
第一部 第四章

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89.入念に準備します(第八話)


「拠点ではリデルの身の安全を確保できるよう、護衛をつけます。選抜は僕がします」


 朝食前の時間、ローレンスはデイヴィッドの執務室のソファーに座って両親と向き合っていた。開口一番のローレンスの言葉に両親はきょとんとする。


「一晩も持たずに陥落したか」


 リデラインが説得に成功したことを察したデイヴィッドは、楽しそうに口にした。

 昨日はなぜリデラインの同行を許したのかとローレンスに散々文句を言われ、しかも言葉の選び方が精神を的確に抉るものだったので、情けないことにデイヴィッドは多大なダメージを受けた。だから、ローレンスが八歳の妹に容易に言いくるめられたということが本当におかしい。リデラインはどのような手段を使ったのか。

 ニヤニヤしているデイヴィッドの視線には反応を見せず、ローレンスは無言でコーヒーを一口飲む。


「君は本当にあの子たちに弱いな」

「父上もでしょう」


 二人に甘いのはローレンスだけが当てはまることではなく、この家の誰もに共通することである。


「護衛は最初からつけるつもりだった。好きにしなさい」

「ありがとうございます」


 許可を得たローレンスは頬を緩めてお礼を告げた。

 リデラインにつける護衛を妥協するつもりはないので、誰を選ぶかはもうほとんど確定しているようなものだ。


「――それで、例の件だが」


 デイヴィッドの顔つきが真面目なものになったので、ローレンスも表情を引き締める。


「このままデリックたちを調査に当てるようだな」

「はい」


 ヘイズ夫妻と、リデラインたちを狙った犯罪組織のリーダーから得た新しい情報は、すでに報告している。デイヴィッドもヘンリエッタも相当驚愕していた。


()の調査もだが、ヘイズ夫妻に関しても、リデラインには話さないという方向だったが……」

「討伐の同行が決定した以上、向こうで傍系の話が耳に入るでしょうから、夫妻については事前に話しておいたほうがいいと思います」


 ヘイズ夫妻はリデラインの実の両親なので、王都でのことが公になるとリデラインの立場に影響が出かねない。そのため表向きは療養という名目で引退させることになるけれど、突然のことなので傍系たちは疑念を抱くはずだ。確認のためにリデラインに夫妻の話を持ちかける可能性は非常に高いと考えられる。それならばあらかじめ伝えておくべきだろう。

 しかし、問題は内容だ。表向きの偽りの発表を告げるか、真実を告げるか。


「ローレンスはどちらがいいと思うか聞かせてくれ」


 デイヴィッドに問われて、ローレンスは視線を伏せて考えた。

 実の両親に会ってみたいかと思わずリデラインに訊いてしまった時、リデラインは迷うことなく会いたいとは思わないと答えた。親だと思っていない、不要だと。

 リデラインは彼らのことを覚えていない。けれど、あんなにもきっぱり断言するほど情がないのは、きっと奥底に嫌な記憶が眠っているからだろう。


「真実を話すほうがいいかもしれません」


 リデラインたちを危険に晒す方法で接触を図っていたこと。ジャレッドも標的となっていた以上、その事実を知れば、リデラインは傷つくのではなく憤慨するだろう。


(それで実の両親への軽蔑をもっと深く大きく抱いてくれればいいなんて、我ながら浅ましいな)


 ローレンスの胸中の自嘲を知る由もなく、デイヴィッドは「わかった」と頷く。ヘンリエッタは不安そうだ。


「大丈夫かしら」

「リデラインなら受け入れることができるだろう」


 森でのテストがあって、デイヴィッドのリデラインを見る目は変わっていた。人見知りで子供らしいけれど、どうやらリデラインは驚くほど達観している部分もあるようだ。それに、周りが想像していないほど度胸も備わっている。


「私から折りをみて話しておこう。討伐直前だと動揺させてしまうかもしれないから早めにな。それまでに調査が終わっていれば、彼についても伝えよう」

「そうですね。それがよろしいかと」


 ということで話がまとまったので、ローレンスは退室した。ローレンスの後に続いて廊下に出たヘンリエッタが、腕を組んでため息を吐く。


「あなたならリデラインの参加を止めてくれることを期待したのだけれど」

「まだ反対なのですか?」

「どちらかと言えばそうね。だって危ないでしょう」


 八歳という年齢や体調もそうだけれど、リデラインは女の子なので、ヘンリエッタとしてはかなり心配なのだろう。


「でも、皆が認めているから、私も受け入れるしかないわ。リデラインの決意も固いようだし」


 もう一度、ヘンリエッタは困ったようにため息を零す。


「何かあっても守ればいいのよね。大事な娘だもの」

「ええ」

「あなたはジャレッドをよろしくね。あの子の成長には欠かせない機会だけれど、無理をさせないようにしてちょうだい」

「はい。承知しています。ではまた朝食の席で」


 ローレンスは話を切り上げて軽く頭を下げ、ヘンリエッタに背を向けた。



  ◇◇◇



 ローレンスが王都に戻ったその日、リデラインは相変わらず空き時間を図書室で過ごしていた。


「さっきまでお兄さまがいたのに……」


 今日はどよんとしていて集中力が欠けている。力が入らない体をだらんとソファーに預け、落ち込んでいる空気をひたすら漂わせていた。

 ローレンスに会えたのにまた会えなくなると、どうしてもこのどんより時間ができてしまう。


「お嬢様」

「なぁに」

「本日の新聞です」

「……新聞?」


 ベティがテーブルに新聞を置いたのを、リデラインは脱力したまま眺める。


「つい先日、ほとんどの魔物の毒に効果があると思われる植物が発見されたそうですよ」


 リデラインはパッと体を起こして新聞に食いついた。確かにそこにはベティが説明したとおりの内容が書かれている。魔物の毒の成分の分解を手助けする効果がある植物だと。

 瞠目したリデラインがベティを見ると、ベティはにこっと笑った。


「魔物の毒についてお調べになっていらしたので、ご参考になればと」

「ありがとうベティ大好き!」

「ありがとうございます。私もお嬢様が大好きです」


 リデラインは期待がこもった目で、真剣に新聞を読み進める。新聞に印刷されている写真の植物は、初めて見るはずなのに見覚えがある気がした。


(たぶん、必要なのはこれだけじゃないと思うけど)


 とても重要なピースだと、リデラインは確信したのだ。


第四章・終

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