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推しから溺愛される義妹に転生しました  作者: 和執ユラ
第一部 第二章

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31.仲直りしましょう(第七話)


 その後、ローレンスとパーシーからリデラインは絶対安静を言いつけられ、ジャレッドはこっぴどく叱られた。

 両親が帰宅して事情を把握すると、ジャレッドはまたもお説教コースになったそうだ。甘んじて受け入れるべきことだと本人も理解しているので、大人しく聞いていたという。

 外出しているうちに息子が命を落としかけていたのだから、その衝撃と恐怖は大きかったことだろう。ヘンリエッタは泣いてジャレッドを抱きしめたらしい。

 リデラインも両親に叱られたけれど、ジャレッドを助けたことに対するお礼とお褒めの言葉のほうが長かった。ただし、今後はこのような無茶はしないようにとしっかり言い含められた。


 そして二日後。リデラインの体調も安定してきたけれど、まだ万全とは言いがたいその日。ベッドの住人となっているリデラインはクッションを背にベッドに座っており、うさぎりんごを持ってきたローレンスも同じように隣に座っている。

 リデラインのために図書室から部屋まで本を運ぶ役を担ったジャレッドは、ニコニコでリデラインにうさぎりんごを食べさせているローレンスに呆れている。


「ベタベタしすぎじゃねぇか?」

「ジャレッドは嫌がるからね」

「当たり前だろ」


 ベッドの傍らに椅子を置いて腰掛けたジャレッドはため息を吐く。この兄は本当に甘々だ。今まで我慢していたせいなのか、殊更、距離感が近くなっているように感じる。こういう甘やかされは今後もリデラインに引き受けてほしい。

 と考えているのが丸わかりで、リデラインはりんごをもぐもぐと咀嚼しながらジャレッドを見ていた。


(……んん?)


 そして、違和感を覚える。

 じいっと凝視すると、ジャレッドが頬を赤くして狼狽え始めた。


「な、なんだよ?」

「お兄さま、本当に体調に問題はないんですよね?」

「しつこいって。どう見ても元気だろ」


 確かに、不調があるようにはまったく見えない。

 それでも納得できないでいると、ローレンスが真剣な表情でリデラインの耳元に顔を寄せた。


「何か気になるのかい?」

「っ!」


 近い声と吐息にリデラインが肩を跳ねさせて顔を赤くすると、ローレンスが「ん?」と首を傾げる。


(こ、声がよすぎる……!)


 そして、この反応を見るに今のは無自覚っぽい。いつもは狙ってやるような人なのに。

 高鳴る心臓を落ち着かせつつ、リデラインはもう一度ジャレッドに視線を向ける。


「ジャレッドお兄さまの魔力が以前より多い気がします」


 そう告げると、ローレンスとジャレッドは僅かに目を見開いた。


「そうか? 全然わかんねぇ」


 ジャレッドは「気のせいじゃねぇの」と言って自分の体を見下ろす。しかしローレンスはジャレッドを観察して、次第に眉を寄せた。


「確かに、前より少し多いように感じる」


 魔力は成長と共にある程度は増えていくものなので、少し多くなったからといって異変とまでは言えない。けれど、魔力欠乏症になったあとだ。以前と異なる部分には慎重になるべきだろう。


「一時間もすればヘクターが戻る。診てもらおう」


 今日は領都を離れていた侍医が戻ってくる日だ。





「――坊ちゃん。私がいない間にずいぶんと馬鹿なことをしたようで」


 白髪が目立つ男性はリデラインの部屋にやってくると挨拶もそこそこに、笑顔でジャレッドに詰め寄った。ジャレッドは目を逸らす。


「反省してるって」

「そうでないと困りますよ」


 パーシーの師である男性――ヘクターは、公爵家の侍医になって長い。リデラインたちの祖父の友人でもある。付き合いが長く親しいこともあり、リデラインたちには孫に接するような態度だ。

 ヘクターと一緒にパーシー、そしてヘンリエッタもやってきた。デイヴィッドは仕事で邸の外である。


「それで、魔力が増えたと?」

「たぶんだけど」


 ヘクターの問いにはローレンスが答えた。ヘクターは目を凝らして「ふむ」とジャレッドを観察する。


「ひとまず、ソファーに横になってください。精密検査をしましょう」


 ジャレッドはヘクターの指示に従い、ソファーに仰向けに寝転がる。

 わざわざリデラインの部屋でやらなくともジャレッドの部屋でいいのでは、と思ったリデラインだったけれど、まだ万全の状態ではないリデラインを立ち合わせるためにここで診察をするのか、と少し考えて気づいた。ローレンスの配慮だろう。

 一人だけ結果を待つことになり、そわそわしなくて済むのはありがたい。


「では始めますよ。リラックスしてください」

「ああ」


 ヘクターはジャレッドの体の上に手をかざし、魔法を発動させた。魔法陣がジャレッドの体を()()

 この世界での精密検査は魔法で行われる。魔法で体の中を調べるのだ。高度な技術が必要な上級魔法で、誰もができるようなものではない。


 三十秒ほどで検査が終わったようで、ヘクターは魔法を解除した。


「ヘクター?」


 ジャレッドが驚いたように彼の名前を呼ぶ。ヘクターが明らかに動揺した様子を見せているからだ。結果が悪かったのだろうかと、皆に緊張が走る。

 ヘクターは一度深呼吸をして口を開いた。


「ジャレッド様の魔力器官に変化が見られました」

「変化?」


 ジャレッドが聞き返すと、ヘクターは神妙な顔で頷く。


「それは悪い変化ということ?」

「いいえ、逆です」


 ヘンリエッタに訊ねられて首を横に振り、ヘクターは言葉を重ねた。それから自身の弟子に視線を投げる。


「パーシー。魔力測定具を持ってきてくれ」

「えっ、あ、はい」


 パーシーは荷物の中から魔力量、属性を調べるための魔道具を取り出し、ヘクターに渡した。ヘクターはそれをテーブルに置き、体を起こしたジャレッドに声をかける。


「坊ちゃん。お願いします」

「……測定しろってことか?」

「はい」


 ジャレッドは訝しげに眉を寄せたあと、魔道具の水晶玉に触れる。すると少しして、水晶玉は光り始めた。

 まずは青色。そして――それよりも淡い、水色に光ったのだ。


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